第弐佰拾参閑 延々と援軍 縦
第弐佰拾参閑 延々と援軍 縦
「遅れて申し訳ありません魔王様」
ゲイルは膝まづいたまま顔を上げる。
「遅れて申し訳ありませんってゲイル、お前何してるんだ? この事態を察して、逃げたんじゃなかったのか?」
「何を仰いますか魔王様、私だって逃げるばかりが能ではありません」
「じゃあ何を?」
「逃げていたのではなく、告げていたのです」
「告げていた?」
「はい、つまり。援軍を呼んでまいりました」
と、俺に手の平を差し出す彼。
その上には、見覚えのあるやつが乗っていた。
清楚な雰囲気の立ち姿に、好奇心旺盛な大きな目。紫髪のポニーテイル。
「ヴァイオレット!?」
「お久しぶりですお馬さん」
「残念だがヴァイオレット、俺に蹄はついてないぞ?」
「それは残念ですね。知能もついていないのに蹄さえついていないとは」
登場早々、失礼なやつだな。
「ところでヴァイオレット、どうしてお前がゲイルとここに?」
「それはあれです、魔王さんがパンチラ、と言うことで」
「もう一つ残念だがヴァイオレット、俺のパンチラに需要はない」
「あれま、それもそうですね、言い直しましょう。魔王さんがピンチだ、と言うことで。この四天王さんから聞きまして。日頃お世話になっているので助けに来たのです!」
そんな風にヴァイオレットと話していると、新たな声が聞こえる。
「うわぁ~ん! 魔王さ~ん!」
頭上からのその声に顔を上げると、べちょっと俺の顔面に何かが張り付いた。
「大丈夫ですかぁ~まだ生きてますかぁ~」
俺の顔が、ジャワーで水浴びでもしたかのようにビショビショになっていく。
「これは……ティアだな」
「はい~ティアですぅ~」
「あ、あのティアちゃん? 俺は大丈夫だから、泣き止んでくれる?」
「本当ですかぁ~」
「本当本当、ほら見て、足ついてるだろ?」
蹄はついていないが。
彼女は俺の顔から離れ、下半身にちゃんと足があるのを確認すると、ようやく泣き止んだ。
「ひっ、ひっく、本当です。よかったです」
「心配してくれてありがとうティア。それで、君も俺を助けに?」
「はい。いつも迷子になったところを助けて貰ってますからっ」
「一人出来たの?」
「いえ、お母さんたちと来ました」
まあそりゃそうか、方向音痴のティアが、住処からここまで一人で来られるわけがない。
ほらと彼女の指さす方向に頭を向けると、そこには、水で出来た絨毯のようなものに乗って宙に浮いている、ティアの母親、妖精の女王の姿が見えた。
俺と視線が合うと、ティアの母親はゆっくり会釈する。
「お久しぶりですティアのお母さん」
「どうも、魔……バカ」
なぜ言い直した、合ってたよ最初ので……。
「魔王が命を落としそうだということで、拾いにやってきました」
「それで何をするつもりですか!」
「問いかけます」
あなたが落としたのはこの金の命ですか? それとも銀の命ですか? それともこの普通の命ですか? ってか?
「やめてください!」
まあそれで、全ての命をもらえて生き返れるのならありがたいが。
「ところでお母さん、後ろの方は?」
水で出来た絨毯の上に乗るのは、彼女だけではなかった。
その後ろに、何名かの人影が見える。
「こちらは人魚の方々です、連れて行って欲しいという要望がありましたので、連れて来ました」
人魚……よく見れば本当だ。人間で言う耳の辺りからは、いかにも人魚ですと言わんばかりに魚のヒレのようなものが生えている。そして何より、下半身は完全に魚だった。
人魚のうちの一人が代表して前に出て、そして頭を下げる。
「私は以前お手紙をお送りした、人魚姫でございます。その節は海の危機を救っていただき、本当にアリが十匹でありがとう。今度は魔王様の危機ということで、微力ながら助けに参りました」
「い、いえ、こちらこそ、お礼としてお魚を貰っておきながら助けにまで来ていただいて、アリが父でありがとうさん」
と言うか人魚姫さん、あなたこんな戦場紛いの場所に乗り込んできていいのですか。
そんなことを言っている間にも、新たな声が聞こえる。
「魔王のおにーちゃーん」
それはまたもや頭上からだった。
徐々に大きくなっていくその声に、次は誰が来てくれたのだろうかと首を上に向けた途端――
「――――っ!?」
突如、地面や空気さえも揺らすほどの、凄まじい音と風が巻き起こる。
ビックリして瞑ってしまっていた目を恐る恐る開けると、辺りには巨大な影が。
その影を辿って行くと、そこにいたのは一軒家程の大きな、人。
一つ目で、前髪をちょんまげのように結った、水色おかっぱ頭の巨大な少女。
影の主は、雲の上で出会った巨人の女の子、キューピーちゃんだった。
「久しぶりだね魔王のお兄ちゃん。生きてる? それとも逝ってる?」
「久しぶりキューピーちゃん、一応生きてるよ」
まあ一応死んでもいるけど。
「そっかよかった。お兄ちゃんに貰ったお花の種、ちゃんと育ってるよ? 最近小さな芽が出たの」
「そうなんだ」
「うん。それでそれをお兄ちゃんに言いに行こうと思ってたら、丁度お兄ちゃんが大変だって聞いて、慌てて駆けつけたの」
「ありがとうキューピーちゃん。助かるよ」
キューピーちゃんはまだ子どもで、そして女の子だ。
ただ彼女は巨人で、子どもと言えど人間の大人でも比較にならないレベルで大きい。
だからたとえ子どもでも、女の子でも、かなりの力になってくれることだろう。
「と言うかキューピーちゃん、君、雲から飛び降りてきたの?」
「うん、そうだよ。この人たちに、減速してもらいながらだけど」
この人たちと言いながら、両肩に交互に視線をやる彼女。
そこには、鳥のような羽の生えた、それでいて人間の女性のような体つきの生き物が四体ずつ、計八体とまっていた。
ハーピーだ、と反応を示したのはネネネとルージュとクゥだった。
ハーピー?
ああ、そういえばベルに風呂を直して貰ってたときだっけ? そのときに意気投合して仲良くなったとか言ってたな。
「あなたたちがハーピーさんですか、話は聞きました、こいつらと仲良くしてくださってありがとうございます」
「こっちそ話は聞いてるよ、魔王」
クククッと揃って笑うハーピーたち。
「内容は、散歩をしているうちに忘れちゃったけどね。いや、三歩あるいているうちにかな? ククッ」
やっぱりハーピーは鳥頭なのだろうか。
「えっちな内容だった気がするんだけど。やっぱり思い出せないね」
ネネネたちは一体何を話したんだ……まったく、ハーピーたちが鳥頭でよかったよ。
「それはさておき魔王、君がドラゴンを退治してくれたおかげで、私たちはいい寝床を手に入れられたからね。まあそのお礼に、助けに来たんだよ」
「そうですか。それはありがとうございます」
俺がそう言うと、彼女たちはまた嬉しそうに揃ってクククッと笑った。
中途半端な区切りでごめんなさい。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。




