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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SPRING:春】
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第弐佰閑 本当になおすべきはバスではなくマウスだ

「何だか悪いな全員で」

 風呂を上がりそして昼食を食べた後、そろそろ帰ると言うベルを見送るため、俺達は全員で城の外へとやって来た。

 風呂に入って昼飯を食べた後の外のポカポカ陽気は、かなり眠気を誘う。

「いいや。全員、ベルには助けられたからな。直してくれて本当にありがとう」

 俺に続き、ベルにお礼を言う皆。


「おう! 私も夢を叶えてくれて、ありがとうな!」

 正直まだ夢が叶った実感がないけど! と彼女ははにかんだ。


「心配するな、君の夢は叶ったよ」

「本当か? どうにもさっきから、体がポカポカポワポワするんだけど」

 それは明らかに眠気のせいだろう。


「やっぱり夢なんじゃないのか?」

 この期に及んでまだそれを言うか?


「おい魔王、ちょっとほっぺたを叩いてくれないか?」

「くれないな」

「どうしてだ! 親友のお願いが聞けないって言うのか!?」

「どうしてもこうしてもあるか! そんなことしなくても、親友の言ってることを信じろよ!」

 親友の親と、信じるの信は同じ音なのだから。


「ああ分かった」

 やっとか……。


「それじゃあ魔王、ちょっと歯を食いしばれ」

「は? 歯?」

「いや、やっぱり高いから、腹をくっとしぼれ」

「腹をくっとしぼる? 腹筋に力を入れろってことか?」

 そうだと頷くベル。

 そして俺が言われたとおりに腹筋に力を入れた瞬間


「こぽっ――!?」

 彼女は俺の腹をグーで殴った。


「何を……しやがる……」

「パンチだ!」

「そんなこと聞いてないわ! 俺が言ってるのはどうして殴ったのかってことだ!」

 こんなやり取りを、昨日もしたような気がする。


「ああ? だって今魔王言ったじゃねえか『親友の痛がってるとこを信じろ』って。それってつまり、魔王が殴られて痛がってるかどうかで、夢かそうじゃないかを判断しろって意味だろ?」

 私のために身を挺してくれるなんて、さすが親友だ! ありがとな!

 などと言いつつ、うずくまる俺の肩をポンポンと叩く彼女。


「……。あのなあベル、俺はそんなことは言ってない。それが言ったのは『親友の言ってることを信じろ』だ」

 何だよ『親友の痛がってるとこを信じろ』って。


「嘘をつくな! ハリセンボン飲ませるぞ!?」

「飲ませられないとか言ってなかったか?」

「飲ませられないのは針、千本だ。私が今言ってるのは魚のハリセンボンだ! 今度釣ってきてやる!」

「それはわざわざどうも。ただベル、俺は嘘をついていない」

 俺が言ったのは、紛れもなく『親友の言ってることを信じろ』だ。


「それじゃあ何だ? 私は勘違いで親友を殴ったってことか……」

「そうなる」

「そっか……ごめんね! 許してくれ!」

「……」

 なんてすがすがしい奴なんだ。怒る気も失せる。


「まあ間違いは誰にでもあるからいいよ」

「ありがと! それにあれだな、拳を交わすのも友情を深めるのには大切だしな! 結果オーライだ!」

 オーライじゃないからね!?

 交わってないから! 殴られたの俺だけだから! 

 一方通行だよ!


「反省はしてくれよ……?」

「私の半生に、反省という文字はない!」

 ならこれからのもう半生は、猛反省して生きてくれ。


「まあとにかくこれで、これが現実だって分かっただろ?」

「ああ! 親友(まおう)はちゃんと痛がってた。だからこれは夢じゃない!」

 実際痛みを感じたのは俺であって、ベル本人は痛みを感じてないので、夢か現実かの判断材料足りえるのかどうかはかなり疑問だけど。


「いやぁ、本当に夢が叶ったんだなぁ」

「よかったな」

「おうっ」

 空を見上げた彼女が何を思ったのかは分からないけど、ただその顔は、今日の空のように澄み渡っていた。


「さて、それじゃあそろそろ帰るよ」

「送らなくても大丈夫か?」

 疲れているであろう彼女を一人で山に帰すのは、少し心配なのだけど。


「だいじょーぶい! 途中でちょっと寄りたいとこと、やりたいこともあるしな!」

 まだ活動を続けるつもりなのか、元気だなあ。


「そっか。じゃあ気を付けて帰れよ」

「りょーかい! また何かあったら呼んでくれ。親友の頼みなら何でも作ってやる! もちろん私も慈善事業でやってるわけじゃないから、それなりの対価はもらうけど。親友限定で、高くにしといてやるから!」

「ええ、高くなるの!?」

 親友限定で!?

 それならば、親友をやめるかどうか検討しなければ。


「違った違った、破格だ! 親友限定で、破格にしといてやる!」

「それならまあ、また何か困ったら君を訪ねるよ」

 風呂で暴れる奴らがいるせいで、きっとまた近いうちに風呂が壊れるだろうし。

 それにそういえばヴァイオレットに、小人用の用水路を作ってやらないとなとも思ってたし。


「約束だぞ!? それじゃあ親友、それと皆、バイバイ!」

 風呂とご飯もありがとなー!

 彼女はそう叫びながら、山へと帰っていった。





「いやぁ、元気な奴だったなぁ」

 ネネネとルージュとクゥに、引けをとらない。


「しかしラヴ、早いうちに風呂が直って本当によかったな」

 これで臭いだの何だの、不名誉なあだ名が付けられる心配はもうないだろう。


「ええ、これで後はアンタの首を切り落とせたら、もう思い残すことはないわ」

 鞘から引き抜かれた刀身に跳ね返る日の光が、俺の目を突く。


「は、はははは。お風呂でのこと、まだ怒ってるんですかラヴさん」

「当たり前でしょう? 胸の恨みは大きいのよ」

「胸の膨らみは小さいのにね。っておっと……」

 失言だ。とんでもない失言だ。


「アンタはほんっとうに――(コロ)よ!!」

 剣を振り上げるラヴ。


「ま、待て待てラヴ! そんなに怒ると胸が小さくなるぞ!」

「そんな嘘には騙されないわ!」

「本当だって! 書庫でたまたま見つけた胸の本に書かれてたんだよ!」

 どんな本だ……。


「胸は平静を欠くほど、平坦になるって」

「ほん、とうに?」

 彼女は振り上げた剣をそのままに、半信半疑と言った具合の視線を俺に向ける。


「本当だ」

 嘘だ。そんなわけがないだろう。


「ほら、ラヴってちょっと怒りっぽいところあるだろ? だ、だから胸が成長しないんじゃないのかな?」

「そんな……じゃあこの性格を直せば。魔王、どうすれば直せると思う?」

「そうだな、ベルにでも頼んでみれば?」

 何でも直してくれるらしいから。

 いやまあ彼女には城の中は直せても、人の中までは直せないだろうけど。


「う~ん……ん? でもちょっと待って? ネリッサはいつもキィキィ言ってるのに、胸は大きいじゃない」

「あら愛ちゃん、ネネネのこのホワンホワンの豊満バストがどうかしまして?」 

「確かに……」

 ネネネはいつも平静を欠いているけど胸は平坦ではない。

 平坦ではないどころか、起伏が激しい部類だ。


「それはどういうことなの? 魔王」

「そ、それは……」

 まずいな、まさかこんな間近に絶好の反例があるとは。


「それは?」

「えーっと……」

 なにか良い言い訳は――


「答えられないのね?」

「はい」

 ――思いつかない……。


「ってことはやっぱりアンタの作った嘘なんじゃない! もう許さないわ……」

 振り上げたまま停止していた彼女腕に、再び力が入ったのが分かった。


「お、落ち着くんだラヴ。俺は胸は大きさじゃないと思ってるぞ? 胸はいっぱいならそれでいいと」

「どういうことよ!」

「だからつまり――」

「おっぱいがいっぱいってことですのよね? まおーさま」

「違う! 断じて違う!」

 お前(ネネネ)は何てことを言うんだ!


「俺が言いたいのは、(こころ)がいっぱいに満たされていればって――」

「アンタって奴は……本当に」

「おっおい! 話を――」

「この期に及んでまだ“おっぱい”とは、救い難い変態ね!」

 おっぱいなんて言ってないんですけど!?


「殺っ!」

「首がぁぁぁぁ!」

 次にベルに直してもらう物は、と言うか治してもらう者は、どうやら俺自身らしい。


「ねー金ちゃん。私、今面白い駄洒落を思いついたよ?」

「ぜひ聞かせてイツカ」

「たっくんの首が、(シュ)っと切れる」

「ぷふふふふっイツカ、あなた天才ね」

「ありがとー」

「言ってる場合かぁぁぁぁ!」

今日も読んでくださって、ありがとうございました。

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