第佰玖拾捌閑 修理終了
「魔王! 風呂直ったぜ!」
ベルが修理完了の報告をしに食事の間へとやってきたのは、翌朝。
俺とラヴとエメラダと逸花が、丁度朝食をとり始めた頃だった。
どうやら宣言どおり、今日の午前中には終わらせてくれたらしい。
ちなみにネネネとルージュとクゥはまだ帰ってきていない。
どこで何をしているんだか、エメラダには心配するだけ無駄だと言われたが少し気になる。
「本当!?」
ベルの言葉に一番に反応したのはラヴだった。
「ああ多分! バッチリだ! と思う!」
そんな曖昧な。
それにしても元気だなベルは。
昨日結局食事をとりに来なかったし、一晩中作業音がしていたことを考えると睡眠もしていないのだろう。
なのに疲れている様子はまったくない。
まあ夢中になっているときは、時間や疲労やその他もろもろを忘れてしまう気持ちは分かるけど。
「お疲れ様ベル。とりあえず何か食べろよ。お腹空いただろ?」
「ん? ああ確かにそうだな。すっげえ腹減った、何でだ?」
「昨日昼も夜も何も食べていないからだろ?」
「あー……? ホントだ! 私何も食べてないぞ!」
そのことに気付いたからなのか、彼女のお腹は大きな音を立てた。
「……腹が減っては良い草が採れぬ、と言う」
そう言ってベルにパンを差し出すエメラダ。
そんなことわざ? は初めて聞いた。腹が減っては戦ができぬ、なら知ってるけど。
エルフ独特のものなのだろうか。
「悪いなパツギンねーちゃん、貰うよ」
ベルはパンを受け取り、いただきますを言うとそれを豪快にかじった。
「んんっ、うまいなこのパン」
どうやらお口に合ったらしい。
「そうだ魔王。本当にちゃんと直ったか確認のため、後で一回お湯を使ってみてくれ。私も確認したけど一応な」
「ん、分かった」
何だかテキトーで豪快な雰囲気の彼女だが、そこら辺はしっかりしているらしい。
さすが職人、といったところなのだろうか。プロ意識が感じられる。
「ね、ねえ魔王」
トントンと人差し指でテーブルを叩いてラヴが俺を呼ぶ。
「何?」
「どうせお湯を出すなら、使ってみるだけじゃなくて浸かってみない?」
「湯船に?」
「そう」
「今から?」
「そう」
「俺と?」
「のう」
NOだと!?
「変態のアンタなんかと一緒にお風呂に入るわけがないでしょ!? 何考えてるのよこのヘンタ!」
ヘンタって何だ……変態+アンタか……それとも変態+アスタか。
どちらにせよ、不名誉なあだ名がまた増えたらしい。
「とにかくお湯を溜めましょうよ。ね?」
「うーん。でもさラヴ、まだ昼前だよ? 本格的に使うのは今晩でよくないか?」
一度にあれだけの量のお湯を必要とするのに、日に何度も使うのは何だか気が引ける。
「もう少しだけ我慢しろよ」
「でももう二日もまともに入ってないのよ!?」
「そうだけど……」
そんなに我慢できないのか?
「なあ魔王! 正直なところ、私も一回湯を溜めて欲しいと思ってたんだ」
二つ目のパンを頬張りながら、ベルはそう言った。
「何だ、ベルも風呂に入りたいのか?」
「バッカ違うよ! 確認のために決まってんだろ!? 少量のお湯なら供給されるけど一度に大量のお湯となると供給されない、なんてことがないとは言えないからな」
だから直ったかどうかの確認という意味では、私的には本当はそこまで見たいんだ!
と、彼女。
ああ、なるほど。その辺のこともあって、直ったかどうか曖昧な返事だったのかな?
「ただそこまではさすがに悪いなと思って口には出さなかったんだけど。こうなってきたら話は別だ、私からもお願いする。一度お湯を溜めてみてくれ!」
「そうだなあ」
「まさか、親友の頼みが聞けないいわけないよな? 魔王。あぁん?」
悪いなと思ってたわりには、脅してくるな……。
「分かったよ。そういう事情なら仕方がない。そうしよう」
「マジか! さっすが私の親友だ!」
こっちとしても、ベルが帰った後でやっぱり使えませんでしたってなるのも嫌だし。
「私さっそくスイッチ入れてくるわ!」
嬉しそうにラヴが部屋を飛び出していく。
「私も入ろーっと。いーでしょ? たっくん」
「ん? ああ」
どうせ溜めるんだから、むしろたくさんの人に入ってもらった方がいい。
溜めたはいいが入る人がラヴだけ、なんてもったいなさ過ぎる。
「そうだ、せっかくだしベルも入っていけよ」
風呂の修理でだろう、ところどころ汚れてしまってるようだし。
それに不眠不休で作業して、疲れてもいるだろうし。
「いいのか!?」
「もちろん」
風呂に入って、汚れも疲れも落としてもらおう。
「やったぜ! あんなに大きな風呂に入れるなんて夢みたいだ! まさか夢じゃないだろうな!?」
「夢じゃない、現実だよ」
「本当か? ちょっとぽっぺた叩いてくれ」
「嫌だよ、ベル怒るだろ?」
「はあ!? 魔王は親友の頼みが聞けないって言うのか!?」
…………。
「君は“親友”笠に着て、言いたい放題だな」
「何言ってんだ! 私は親友を傘にしたことはないぞ!? 肩を借りたことはあるがな!」
その肩を貸したせいで俺は昨日とんでもない目に合ったけどな。
まったく。
さて、ついでだし俺も入るか。
今日も読んでくださり、本当にありがとうございました。




