第佰玖拾壱閑 出発。出立。
そんなわけで翌朝早く、ドワーフの元へと向かい城を発った俺達。
五月になって日中は暑いと言えるほどの気温の日も多くなってきたが、朝夕はまだ肌寒い。
さて、昨日ラヴが教えてくれたドワーフの住む場所、俺も知っているその場所と言うのは、あの岩山のことだった。
魔王城の下にある町の元村長、現町長である、腰の曲がったおじいさんに頼まれてドラゴン退治に行った、北の岩山。
岩しかなくて灰色で、特に印象のない山だったけど、山頂付近までかなり時間がかかったのは覚えている。
またアレを登らないといけないのかと少し憂鬱な気分になったが、幸いなことに、ドワーフはその山の麓に住んでいるらしい。
正確には麓から山に向かって穴を掘って、山の中で、山の地下で暮らしているらしい。
だから、今回は山に登らなくてもいい。
それならば北の山まではそれなりに距離はあるが、苦のない道のりだし、楽な道のりだし、ドワーフとの交渉を除けば簡単な旅になりそうだ、ラッキー。
だと思っていたのだがしかし。
だがしかしかしかし……。
「おーっほっほっほっほ!」
「はーっはっはっはっは!」
「にゃーはっはっはっは!」
こいつらに、ネネネに、ルージュに、クゥに、見つかってしまった。
ドワーフの元へと行くことが、バレてしまった。
しかも昨日のうちに。
「はぁ……」
まあ考えてみればバレないわけがなかったのだ。
一番最初にラヴが入った時点で風呂は壊れていて、お湯は出なかったのだから。
その後に入った彼女たちのときももちろん、お湯は出ない。
そうなれば当然騒ぎになって、直さなければという話になって、最終的にドワーフのところに行く話しに繋がる。
そしてそんな話になれば、彼女たちが行くと言わないわけがないのだ。
「どうしたんですのまおーさま、ため息なんてついて」
しかしこいつらがもし暴れて交渉に失敗でもしたら大変だ。
だからエメラダに三人の子守をお願いしたのだが、珍しく断られてしまった。
理由を聞くと彼女は、私一人で夢魔と吸血鬼と犬の面倒を見るのは文字どおり面倒臭いと、そんな感じのことを言われた。
今日は一人、ひっそり楽しく、畑の手入れをするらしい。
ここ最近エメラダにはお世話になりっぱなしなので、それ以上は強くお願いできず。
結局俺、ラヴ、ネネネ、ルージュ、クゥ、逸花の六人という大所帯パーティーでドワーフのところへ向かうことになったのだった。
「突くのはネネネのお尻だけにしてくださいな」
ややこしくなりそうだ……何も問題がなければいいけど。
「大体まおーさま、ネネネにバレないわけがないでしょう? ネネネとまおーさまは色んな意味で繋がってるんですもの」
「色んな意味では繋がっていない」
以心伝心以外の意味では、繋がっていない。
「いいえ、以チン伝チンと言う意味でも繋がってますの」
「意味が分からん……」
「教えて差し上げますの。以チン伝チンと言うのは、体に触れなくてもお互いの下半身は繋がっているという意味ですの」
怖いわ!
「ほら今も、まおーさまの下半チンがネネネの下半マンに……」
下半チンって何!? 下半マンって何!?
「あぁんまおーさま、そんなに強く突いちゃダメですのぉ」
「やめろやめろやめろやめろ!」
今突かれてるのはむしろ俺だからね!?
さっきから逸花に、包丁で背中突かれてるからね!?
まったくもうまったくもう。
「あのなネネネ、俺達は遊びに行くわけじゃないんだ。ドワーフのところに、風呂を直してくれるよう交渉に行くんだ。分かってるのか?」
「もちろんですの」
「なら今日はおとなしくしておいてくれ。もし交渉がうまくいかなかったら風呂が直らなくなるんだ。それで周りから臭いとか言われるのはお前も嫌だろ?」
一応女の子なんだから。
「ですがまおーさま、恥部マニアには……間違えましたの。一部マニアには、臭いのはご褒美ですのよ?」
「ああそうかい、ならその一部マニア向けに臭くなれ」
俺はそんな趣味は持ち合わせていないけど。
と言うか、恥部マニアは見過ごしていいものか?
「心配せんでもよいぞ、年増」
そう言ったのは、逸花に肩車をしてもらっているルージュ。
「おぬしはもう十分乳臭いでの」
「ネネネは乳臭くありませんの! 言うならチ○チン臭いと言いなさいな!」
そっちの方が嫌だろう……。
「ふん、どちらにせよ臭いのに変りはあるまい」
「ババアだって血臭いではありませんの!」
いつものようによく分からない口げんかを始めてしまう二人。
「痴女臭いおぬしに言われたくはないわい」
「あなただって幼稚臭いですのよ!」
「それはおぬしじゃろう?」
「何ですって!?」
「お? 何じゃ?」
「落ち着くのだ、ネネねーちゃんにルージュねーちゃん」
そんな二人の間に珍しく仲裁に入ったクゥ。
だったが――
「クサちゃんは黙っててくださいな!」
「臭玉は黙っておれ!」
「あしゅたぁ……」
とばっちりを食らって、即半泣きになっていた。
「ボクは臭くないのだぁ……」
「ああ臭くない臭くない」
クゥはどこでもかしこでもすぐ寝転ぶクセがあって汚れることは多いけど、それ以上に綺麗好きだ。
体も髪も尻尾も、誰よりも丁寧に洗っている。
「ちょっとアンタ達、臭い臭いうっさい! ほら、山が見えてきたからそろそろ静かにしなさい!」
と、クゥに代わって止めに入るラヴ。
「あ、本当だ」
そうこうしているうちに、目的地である山が目視できる範囲まで迫っていた。
相変わらず木一本生えていない、岩だらけの灰色の山だ。
更新遅くなって、申し訳ございません。
読んでくださり、ありがとうございました。




