第佰玖拾閑 明朝に。早朝に。
「ふぅ……」
事態の収拾には、たっぷり数十分を要した。
「まあ分かったよ、交渉しに行くとしよう」
楽しい時間を過ごさせてもらったし、そのお礼に。
いや、何かさっきのアレを楽しいとか言ってしまうと、俺が本当にM野郎みたいだけど……。
と言うかよくよく考えると、風呂が壊れて放っておくわけがない奴が、他にもあと三名いるのだ。
そしてその三名が一番うるさくて、厄介。
風呂を遊び場か何かと勘違いしているあいつらが、ドラム缶風呂ごときでおさまるわけがない。
「にしてもラヴ、どうしてお前はそんなに風呂にこだわるんだ?」
そんなに必死に。
一生のお願いまで使って。
「そ、それは……」
何か嫌なことでも思い出したのか、少し俯くラヴ。
「何かあったのか?」
「む、昔ね、旅をしていたときのことよ。そのときは野宿が当たり前で、当然お風呂なんてなくて。そんな中立ち寄った町で、すれ違う町の人たち皆に鼻をつままれて。出て行く頃には臭者とか言われて……それがショックで」
「……」
あのあだ名はラヴが作ったものではなく、実際に言われたものだったんだ……可哀想に。
「は、はははは、あまり落ち込むなって、そういうこともあるよ」
あるか!?
「よし、まあそういうことなら急ごうか。今日はもう日が落ちたから無理だけど、ドワーフのところには明日の朝早くから行ってみよう」
「ええ」
自嘲するように引きつった笑みを浮かべて彼女は頷いた。
よほどショックだったんだろうな……一応これでも女の子だし。
男の俺だって、臭いとか言われたら結構心に来る。
「えーっとじゃあラヴは一緒に行くとして、逸花、お前はどうする?」
「着いて行くに決まってるでしょー? 私はたっくんの行くところなら、地獄の果てでも着いて行くよ」
地獄の果てって……地の果てくらいにしておけば、まだ可愛いものを。
「血が果てても着いて行くよ?」
なぜわざわざ物騒な言い方をするんだ。
「エメラダはどうする?」
「……私は行かない。行かない方がいい」
行かない方がいい?
「どうして?」
俺としては、エメラダがいてくれるとかなり心強いんだけど。
むしろエメラダだけいてくれれば、来てくれれば、それでいいんだけど。
「エルフとドワーフは、昔から仲が悪い……。私が行くと……交渉してもらえない」
「喧嘩でもしたのか?」
「理由は誰にも分からない……でも昔からそう」
何だそれ……喧嘩して喧嘩して、喧嘩しつくして、喧嘩の理由は忘れたけど、でもまだ喧嘩してるとかいうやつか。
まあ民族間・種族間には、それなりにある話か。
「私の予想では……エルフもドワーフも、最後が“フ”で終わるから」
「それで仲が悪いと? ……それは多分違うと思うよ?」
「なぜ? なぜアスタロウはそう思う……?」
「勘、かな?」
「……勘?」
「そう、ドラム缶」
何ちゃって。
「……?」
「……ま、まあまあ、そういうことなら今回は城で留守番をしておいてくれ」
コクリと頷き、私の出番はここまでと言わんばかりに食事の間から出て行く彼女。
「さ、と言う事で今回は俺達三人で行こう。それでいいな?」
確実に交渉失敗するので、ネネネとルージュとクゥにはバレずに行きたいところだ。
「ほんとーはたっくんと二人きりで行きたかったけど、私はこの世界のことに詳しくないから仕方ないね。まーよ良かったじゃんたっくん、両手に花だよ」
両手に花?
バカを言うな、両手に花火の間違いだろう。
しかも打ち上げ。爆発してくれるなよ……。
「ところでさラヴ、ドワーフがどこにいるかは分かってるんだよな?」
まさか妖精やエルフみたいに、見つけ辛いなんてことは。
「ええ、それは大丈夫。と言うか、アンタも知ってる場所よ」
文字数が少なくて、本当にごめんなさい。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。




