第佰捌拾陸閑 最高のパ○ティー
「ちなみにルージュ、お前の誕生日はいつだ?」
「うむ、確か一月じゃったかの」
覚えていないかもしれないと思ったけど、意外とすぐ答えたな。
「一月か、じゃあ俺と一緒じゃないか」
魔王の誕生日は知らないが、桜満の誕生日は一月だ。
「なんと、アスタとお揃いとな!? これは、誕生日でもないのに嬉しい贈り物が降って来たわい!」
ルージュはわざとらしく喜んで、ネネネに勝ち誇った視線を向ける。
さっきクイズで負けた仕返しなのだろう。
それを見たネネネが、キィィィィっと悔しがっていた。
「ずるーい、じゃあ私もたっくんと同じ一月生まれにしよーっと」
「逸花、お前は八月生まれだろう」
「“いち”と“はち”なんて、似たようなものでしょ?」
似ているのは文字にした場合だけであって、実際の暦では半年以上の開きがある。
「と言うかたっくん、私の誕生日覚えててくれたんだねー」
「当たり前だ」
何やらカッコいいセリフになってしまった。
がしかし実際のところは、忘れたら逸花何をされるか分からないから覚えていて当たり前だという、非常に情けないものである。
「じゃあボクもワンコだから一個で、アシュタと同じ一月生まれになるのだ」
「じゃあって何!?」
逸花もそうだったけど。
そんな簡単に自分の誕生日を捻じ曲げないで!
大体いつもクゥ、犬じゃない犬じゃないって騒いでるくせに。
「じゃあネネネも五月生まれをやめて、まおーさまと同じ一月生まれになりますの」
「なりたいと思ってもなれないの!」
「じゃあ私も……アスタロウと同じで」
「エメラダまで!? ファミレスで注文するみたいに誕生日を変えないで!」
「わ、私もよ。だから言ったじゃない、私は四月生まれじゃないって。じ、実は私、一月生まれなのよ」
「ラヴもかよ……」
…………。
どいつもこいつも。
「全員一月生まれって、これじゃあ誰も祝えないじゃないか!」
しかし皆、満足そうな顔をしている。
「よし……分かった、じゃあこうしよう!」
別に生まれ月にこだわる必要はない。
「今から全員の誕生日パーティーを、今年一年分の誕生日パーティーをする」
最初から、こうしていればよかったんだ。
「反対する人は?」
皆一様に、ブルンブルンと首を振る。
「よーし、そうと決まれば早速始めよう」
俺とクゥは朝食をまだ食べていない、正直言ってお腹が空いているのだ。
「ちょっと待って魔王」
しかしそんな俺を止めるラヴ。
「どうした?」
「ケ、ケーキを作りましょう」
「ケーキ?」
「せ、せっかくの誕生日パーティーでしょ? だから、その、ね?」
「あー……」
確かにそうだな……でもこれ以上料理が増えるのはちょっと……。
「え? 誕生日って、ケーキを食べるものなのよね? ち、違った? そう聞いてたんだけど」
そう聞いてたって。まったく。
「そうだな、そうしよう。誕生日パーティーにケーキがないなんて、しまらないからな」
残った料理は、今晩か明日にでも食べればいいだけだし。
「そ、そうよねっ! じゃあ私急いで作るから。師匠も手伝ってください。あとイツカも」
興奮気味に椅子から立ち上がるラヴ。
それに続くエメラダと逸花。
「ちょっと待てラヴ、せっかくだからケーキ作り俺達にも手伝わせてくれよ。出来上がりを待ってるだけっていうのもつまらないし、それにネネネもルージュもクゥも、作ってみたいよな? ケーキ」
「もちろんですの! ケーキ乳頭ですの!」
「チョコケーキならぬ、血ョコケーキを作ってやるわい!」
「つぶすのだー! あー、つぶしちゃダメなのだ、つくるのだー!」
やっぱりやめておこうかな……心配になってきた……。
「じゃあ私達が土台を、素材を作るから、アンタ達は飾り付けをしてちょうだい」
しかしはしゃぎだしたこいつらを、止められるわけはなかった。
ただ心配していた程の大惨事にはならなかった。
皆テンションが上がってはしゃぐせいで、粉をぶち撒け部屋も体も真っ白にはなったけど。
皆テンションが上がってはしゃぐせいで、クリームをぶち撒け部屋も体もベタベタにはなったけど。
皆テンションが上がってはしゃぐせいで、その他色々ぶち撒け部屋も体もドロドロにはなったけど。
出来たケーキは、意外と普通だった。
ちょっと崩れていたりムラがあったりと、不恰好なところはあるが、それもまた手作り感が出ていい。
「よし、それじゃあせーので息を吹きかけるんだぞ?」
出来上がった二つのケーキを、テーブルの上に並べ皆で囲む。
一つは普通のショートケーキ、一つはエメラダ特製薬草の緑ケーキ。
それぞれにロウソクを数本ずつ立て、ルージュに火を灯してもらう。
「準備はいいな? いくぞ? せーのっ」
ふーっと息を吐く音が、部屋に響いた。
しばらくして火が消えるのを確認すると、皆で顔を見合す。
そして弾けるように一斉に叫んだ――
「「「「「「「ハッピーバースデー!!」」」」」」」
ラヴ達にとってこのバースデーパーティーは、今まで生きてきた中で一番のバースデーパーティーとなったことだろう。
まあそれは、希望的観測だけど。
「イツカ、アンタの作ったこの料理なかなか美味しいじゃない。どんな味付けをしたの?」
「それは内緒だよ金ちゃん、私は、敵に塩は送りませーん」
「なるほど、塩ね」
「金ちゃんって、たまーに抜けてるよね。やっぱり金たまだ」
……。
「おい年増、早食い大会でもせんか? 負けた方が勝った方の一日言いなりになるというルールで」
「ふんっ望むところですの! ババアのくせに調子に乗って食べ過ぎて、胃もたれを起こさぬよう気を付けなさいな!」
「はっ、負けてワシの背もたれになってからも、その軽口が叩けるといいのお!」
「ネネネは叩くよりも叩かれたいですの!」
…………。
「犬……ほれ、これ、骨」
「エメラダねーちゃん! 何度も言ってるのだ、ボクは犬じゃないのだ! 骨じゃなくて身が欲しいのだ!」
「身が欲しければ……ここほれワンワン」
「身は欲しいけど、床はほれないのだ。ワンワンじゃなくて、ガンガンなのだ」
……………………。
「ははははっ」
ただ俺にとってこのバースデーパーティーが、今までの人生の中で最高のパーティーだったことは、間違いなかった。




