第佰捌拾参閑 パ○ティーをやる!
朝。
長い石造りの廊下を、クゥと一緒に、食事の間を目指し歩く。
窓から差し込む春の日差しが気持ちいい。
朝食も、すがすがしい気分でいただけることだろう。
「朝餌~今朝餌~えっさほいさ~」
クゥもご機嫌な様子。
しかしそんな気持ちのよい朝も、食事の間の扉を開けた瞬間に一変した。
目に飛び込んできたのは、大量の料理。
この城に住んでいる七人全員が手をめいいっぱい広げて並んでも、囲えないほど大きなテーブルに、所狭しと並べられたそれ。
「ぉぇっぷ……」
見ただけで空腹が一気に満たされるどころか、吐き気さえしてきた。
「またやってるのか?」
中で椅子に腰掛けていたエメラダにおはようと言った後そう尋ねると、彼女はコクリと頷いた。
「やれやれ」
逸花がこの城にやって来て約一週間。
ラヴと逸花との料理バトルはまだ勝敗が決しておらず、こうして定期的に大会が開催されているのだ。
そのせいで数日に一回、朝昼晩の時間帯のどれかの食事の量が、とんでもないことになる。
夜、百歩譲って昼はまだいいとして、朝からこんな量の料理は食べられないどころか、見るのも辛い。
まあラヴは料理で張り合える相手が出来て、ちょっと嬉しそうだし。
逸花も毎日退屈しないと、何だかんだこの生活を楽しんでいるからその点はいいんだけど。
「エメラダは、どっちの料理の方が美味しいと思う?」
よっこいしょと彼女の正面の椅子に腰掛ける。
「……私」
「ハハハハ」
まあ、実際そうだ。
エメラダの薬草料理は、見た目も鮮やかで、味も爽やかで。
作れる料理と来たら、こってりから料理あっさり料理、パンやデザート、更に飲み物までの全てを網羅している。
そして薬草だから、体にいいとまできた。
「勇者と幼馴染はまだ甘い……」
エメラダには、逸花の名前が“幼馴染”で定着している……。
「これとこれの組み合わせは……あまりよくない」
テーブルの上に置いてある料理を指さすエメラダ。
「これなら……こっちの方がいい」
そんなことまで考えているのか、さすがだ。
そうやってエメラダと雑談をしていると、食事の間の奥の調理場から、ラヴが出てきた。
手には料理の乗った大皿を持って。
「あらアンタ、起きてたの。おはよう」
「おはよう」
う~ん、今の『アンタ』じゃなくて、『アナタ』だったら完璧だったのに。
『あらアナタ、起きてたの。おはよう』
素晴らしい。
う~む、どうにかして『ン』の上の『点』と『ノ』を交差するように引っ付けて『ナ』にして、『アンタ』じゃなくて『アナタ』と言わすことが出来ないだろうか。
「なあラヴ」
「なによ」
「今のセリフ、アンタをアナタに変えて言ってみてくれよ」
「なぜよ」
「まあまあ何でもいいから、ほら」
分かったと頷く彼女。
いつもどおりなら、ラヴが途中まで言いかけて、でも言い切る前に俺の真意に気付き、そして二人で言い合いになる。
はずだったのだがしかし、それは後ろからラヴに着いて出てきた逸花によって阻止された。
「あらあ鉈、起きてたの。おはよー」
「あ鉈って何!? 朝から物騒だよ!」
「あらあ薙刀、起きてたの。おはよー。の方がよかった?」
どっちも同じだよ!
「たっくん、私の前であまりよからぬことを考えると、鉈で起きられなくするよ? 鉈で、足が、なくなった。なーんちゃってね」
ひぃっ……。
逸花は俺の恐怖などよそに、
「それとも、薙刀で、足が、なぐなった。の方が面白かったかなー?」
などと言っている。
「いや、やっぱり最初の方が綺麗だね」
そしてラヴと一緒に大笑い。
逸花のくだらない駄洒落が、ラヴに見事にウケている。
何か、仲いいなぁ……。
「アシュタアシュタ、お腹空いたのだ、いただきますしようなのだ」
と、俺の隣で椅子に腰掛けるクゥ。
「ん、ああ、そうだな」
俺としても、いくら大量の料理を見てお腹いっぱいになったと言えど、実際胃には何も入っていないので、そろそろ何かを口にしたいところだ。
「ラヴに逸花、これ、食べてもいいんだろ?」
「あーもうちょっと待って、たっくん。あと少しで全部並べ終わるから」
「ま、まだあるのか?」
もう皿を置く場所なんて、ないぞ……。
「まだまだあるわよ」
「まだまだあるってラヴ、朝からこんなに食べれる分けないだろう?」
しかも昨日の晩も、それなりの量の料理を食べた。
「料理勝負するのはいいけど、せめて一品対決とかにしてくれよ。お前らこれ……パーティーでもするつもりかよ」
作って貰ってる身としては、あまり言いたくなかった言葉だけど。
俺がそう言うと、逸花の目が…………。
なぜか輝き出していた。
「パーティー……」
「逸花?」
「そーだ、そーだよたっくん! やろう!」
「何を?」
「パーティーを!」
「はぁティー!?」
冗談のツッコミがまさか採用されてしまい、驚きのあまり色々繋がってしまった。
正しくは『はぁ? パーティー!?』
「そ、パーティー。宴会」
「いや、冗談のつもりだったんだけど」
「いーじゃん別に、パーティー自体、冗談みたいなものなんだし」
パーティーが冗談という、その意見には頷きかねるけど。
「ね? やろーよ、楽しそーでしょ? それにそしたら、食事も何だかんだなくなるでしょ?」
「んーまあそうかもしれないけど……」
「ボクもパーティーしたいのだ!」
クゥが両手を挙げてはしゃぎ始める。
「……」
ふと見ると、エメラダも無言で片手を挙げていた。
「ラヴは?」
「わ、私はどっちでも」
「やりたいか?」
「どっちでもいい」
「やりたいか?」
「だからどっちでもいいって言ってるでしょ!」
「じゃあラヴ抜きで――」
「やりたい!」
素直な良い子のラヴちゃんであった。
「よし、じゃあパーティーしますか」
何のパーティーかは、知らないけど……。
「ん、じゃー私と金たんは、残った用意を終わらせるね」
「誰が金たんよ」
「ごめんなさい間違えた、金たま」
「許さない、このイツ……イツ……イチモチュッ!」
「噛んではいるけど、いまいち掛かってないね」
ごちゃごちゃと言い合いをしながら、調理場へと戻っていくラヴと逸花。
さて、となると、ネネネとルージュを呼び戻さないとな。
そう思ったところでタイミングよく、窓の外、庭で駆け回る二人の姿が目に入った。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。




