第佰捌拾閑 花見酒? No! 花見だけ! 凸
「さて、次は俺だけど。でも逸花、お前に俺の自己紹介必要か?」
「んーいらないかな? たっくんのことは、中も外もぜーんぶ知ってるしねー」
何気に、怖い発言だ。
「あーでも、今のたっくん中身は同じでも、体は違うのか。前は黒髪で黒眼だったのに、今は黒眼は同じだけど、髪の色は焦げ茶になちゃってるし。他の部分も色々違う。あーあ、せっかくたっくんが寝ている間に、頭の先から足の先に至るまでぜーんぶ、長さから太さから何もかもを計測したっていうのに」
ただの、怖い発言だ。
「今の体のことちょっと知りたいな」
「逸花、それは自己紹介なのか?」
自己紹介で、身長や体重なんて普通紹介しないだろう。
もしそんな自己紹介が許されるなら、俺は全員のバストの大きさ紹介を要求する!
「たっくん……私以外の人間のバストのことを考えたら、たっくんのアレ、バスッと切っちゃうよー?」
「ひいっ!?」
駄洒落が怖い!
だからその朗らかな笑顔から、どうしたらそんな言葉が出てくるんだ!?
そしてラヴにウケているだと!?
「なーんてね。まー体のことはいいや。今はどんな名前なのかだけ、とりあえず教えてくれれば」
「あ、ああ。一応魔王アスタで通ってる」
「そっか、今はアスタって名前なんだ」
いやそこは“今も”なんですけど。昔と一切変ってないんですけど。
十八年間アスタという名前で、あなたの隣におりましたけど……。
「さてさて、じゃあ次は私が事故背負う会をする番だね」
言って立ち上がる、橙髪茶眼ツーサイドアップの普乳逸花。
「悪いが逸花、そんな重た気な会を開くのはやめてくれ」
せっかくのお花見なのに。
「間違えましたー、自己紹介」
「じゃあどうぞ」
全員の視線が、逸花一人に集まる。
「私の名前は遊佐逸花。皆みたいに種族的なやつは、特にないよ。まー強いて言うなら、幼馴染ってところかな?」
幼馴染は、既に種族として確立されているのか!?
「強いて言うなら人間だろ?」
「ひどいなーたっくんは。強いて言わなくても人間だよ?」
「あ、ああ、そうだったな」
あ? ああ? そうだったか?
「名前は何て呼んでくれてもいーよ。髪の毛が橙色だから、橙ちゃんとか。本当はとーちゃんと言うより、女だからかーちゃんなんだけどね」
「蚊ーちゃんなのだ?」
「蚊じゃないよ黒ちゃん。どちらかと言うと嫁、嫁だよー。たっくんのね」
もし逸花が蚊だったなら、逸蚊だったなら、本当に恐ろしい。
刺すは刺すでも、彼女は包丁で刺す。
それにしても、確か昔ルージュも、ネネネに蚊と言われたときに同じようなことを言っていたっけ。
やはりルージュと逸花、気が合うのかもしれない。
「まおーさま、嫁とはどう言うことですの?」
プクッと頬を膨らまし、俺に詰め寄るネネネ。
「先程から妻だの何だの、ネネネというものがありながら。そもそも彼女はどこの誰なんですの? きっちり説明してくださいな」
「そうだね。お話しするって言って、結局まだ肝心なことは何も聞けてない。ねーたっくん、私もそろそろ説明して欲しーな。一体この女の子たちは誰なの? 何なの?」
「そ、そうだな。そうしよう。でもそれはご飯を食べながらと言うことでどうだろう。せっかくラヴとエメラダが作ってくれたんだし、温かいうちに食べないと」
それにもう、クゥの空腹が限界を迎えている。お腹が鳴きまくっている。
キューっというキュートな音ではない、それはさながらウシガエルだ。
人間、食べてすぐ寝なくてもウシになるようである。
「そうですわね」
「そうだねー」
と、二人に了承を得たところで。
「じゃあじゃあ」
皆で手を合わせ。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
ようやく、お花見の開始だ。
そして、お話の開始でもある。
俺は事細かに説明をした。
ラヴに、ネネネに、ルージュに、エメラダに、クゥに。
逸花との関係を。彼女が誰なのか、何なのか。
逸花に。
ラヴとの、ネネネとの、ルージュとの、エメラダとの、クゥとの関係を。
彼女たちが誰なのか、何なのか。
質問があれば回答し、疑問があれば解消し。
ほとんど飯を食べることもなく、ひたすら喋った。
そうやって手を休めることなく喋り尽くしたにもかかわらず、話がようやく一段落ついたのは、食事も終わり、更には食後の一服も終わり、更に更に太陽の時間までが終わろうかという頃だった。
日は既に沈みかけていて、空は薄暗く、吹く風は冷たい。
なぜそんなに時間がかかったのかと言えば、それは話の途中途中に挟み込まれる、ネネネとルージュとクゥと逸花の、とてつもなくカオスなボケのせいだろう。
もちろん過去話に花が咲いたというのもあるが、やっぱりどう考えても、バカ共のボケのせいだ。
だから“喋った”と言うより、“駄弁った”の方が適切かもしれない。
まあワイワイ駄弁っているのは非常にお花見ぽかったし、皆何だかんだ楽しそうだったので、俺的には満足だったりする。
そんなこんなでお花見は良好。
お話の結果も、概ね良好と言っていいだろう。
ラヴ達たちは逸花の存在を認めてくれた。
まあ彼女たちからすれば、城に人が増えることについてはもはや慣れっこだろう。
ネネネは何やら騒いでいたけど、それは誰もに見せる、いつもどおりの反応だし。
逸花も逸花で、一応ラヴたちの存在を、彼女たちとの関係を認めてくれたみたいだ。
が、どうなるんだろう。
「そっかー、と言うことはどう言うこと? 私がたっくんを取り戻すには、連れ戻すには、どーすればいーのかな?」
「だから戻らないって――」
「あなたたちを合法的に倒して、そしてたっくんに認められて、たっくんを落とせばいいのかな?」
「逸花俺の話を――」
「崖から」
「崖から!?」
「そーすれば、素直に私の言うことを聞いて、お家に帰ってくれるよね?」
「いや、崖から落ちたらむしろ帰らぬ人になるからね!?」
「んー、誰から倒そう」
逸花は冗談だよーと笑って、ぐるりとラヴ達全員を見渡す。
「お? バトルでもするのかの?」
にわかに喜び出すルージュ。
「そうだねー。でもバトルはバトルでも、だから合法的にだよ? 紅ちゃん。あなたたちを本気で傷つけたら私、たっくんに嫌われちゃうだろうし」
「何じゃ、面白くないのぉ。なら鬼ごっこでもするか?」
「まーそーだね、そういう勝負になってくるね」
合法的なバトルってそういうことなのか?
「ボクもアソブするのだ!」
「とりあえず紅ちゃんと黒ちゃんは、この勝負にはあまり関係なさそうだから後でねー。それと銀ちゃんもラスボス感漂ってるから後にしてー」
一体、何の勝負なんだ……。
「おーほっほっほっほ! ではまずネネネがお相手してあげますの。まおーさまが欲しければ、このネネネを倒してみなさいな」
ああ、そういう勝負なのね。
「桃ちゃんはー……何だかほっといても大丈夫そう……」
「ど、どう言うことですの!?」
「と言うことで、まずは金ちゃんからにしまーす」
「わ、私!?」
まさか自分が指名されると思っていなかったのか、ラヴは驚きを隠せない様子。
「どうして私が? 私を倒さなくとも、欲しければ魔王くらいあげるわよ」
「あげるだなんて。既に自分のものみたいな言い方だねー」
「な、そ、それはちが――」
「さっきの料理、金ちゃんが作ったんでしょー?」
「え? ええ、まあ。師匠が作ったのもあるけど、ほとんどは」
「凄くおいしかったよ」
「あ、ありがとう」
褒められて、顔を朱に染めるラヴ。
料理を褒められるのは、やっぱり嬉しいらしい。
「だから。だからあなたを倒す必要がある」
私と料理勝負をしよーよ、と逸花は言った。
それを聞いて一瞬言葉に詰まった様子のラヴだったが、すぐに心を決めたような顔つきになり、そして望むところよと答えた。
「ラヴ……」
「か、勘違いしないでよ!? これは別にアンタが欲しいからとかじゃなくて、ただ単に料理では負けられないからで――」
「分かってる分かってる」
まあこれで、歪ながらも丸くまとまった。
のかな?
まとまってない。
のかな?
しかし料理バトルねぇ……そう言えば逸花の料理姿、調理姿は、かなり狂気に満ち溢れていたな……。
できる料理は至って普通で、よくあるアニメみたいに凶器になることはないけど。
どうやったらそうなるんだってくらい、血まみれになってキッチンから出てきたときはもう……。
「さあイツカ、早速今日の晩ご飯から勝負よ!」
「金ちゃんはそんなにたっくんが欲しいの?」
「違うっ!」
何にしろ、魔王城が更に騒がしくなることは、間違いなさそうだ。
今日も読んでくださり、ありがとうございました。




