第佰漆拾玖閑 花見酒? No! 花見だけ! 凹
「じゃあまずはお腹もすいていることだろうし、ご飯を食べるとしようか」
敷いた布の中心に食事の乗った皿を並べ、それを囲むように円になって座る、俺、ラヴ、ネネネ、ルージュ、エメラダ、クゥ、逸花の七人。
しかしクゥ以外誰も料理に手を伸ばそうとしない。
クゥでさえそんな俺達を見て、手を引っ込めた。
誰もまだ、料理を食う気はないらしい。
微妙な空気だ……険悪とまでは決していかないけど。
「……」
まあこんな空気になって当たり前か。
逸花からすれば、知らない人ばかりの中で食事どころの話ではないだろうし。
ラヴ達にしたって、まず逸花誰だよってなってるに違いない。
んー……ここはあれしかないか。
「やっぱりまずは、自己紹介をしよう!」
久しぶりに。
「そうね、そうしましょう」
言って、ラヴが頷く。
逸花を含めた他のみんなも、そうしようと首を縦に振った。
クゥのお腹だけは、不満ありげにグゥと鳴いていたが。
「それじゃあラヴからいってみよう」
俺は金髪碧眼ポニーテールの貧乳ラヴを指さした。
分かったわ、と逸花の方を向く彼女。
「私はラヴ・リ・ブレイブリア。勇者よ」
「ラブリ、ブリブリ……?」
ブリブリって……逸花さん。
「ブ、ブリブリ!?」
まさかラブリー方面以外の間違い方をされるとは、それも何だか汚い感じの間違え方をされるとは夢にも思ってなかったのか、ラヴは固まってしまった。
「ちょっと長くて難しくて覚えられないやー。金ちゃんって呼んでいい?」
「金ちゃん?」
「そ、髪の毛が金色だから。これなら分かりやすいでしょー?」
「そ、そうね……」
しかしそこでネネネが、金玉みたいですのね、といらない口を挟む。
「なっ……」
「そんな悪意はこもってないよ? ただその長い金髪が綺麗だなーって思っただけ。本当に綺麗。切ればいいのに……私が切ってあげよーか?」
ちょっと待ったちょっと待った、話がおかしな方向に進んでる!
「つ、次、ネネネいってみよう!」
危ないので、もう強引に次へと進める。
次は、桃髪桃眼ウェーブセミロングの豊乳ネネネ。
「私はネイドリーム・ネル・ネリッサ、妖精ですのよ」
相変わらず、お尻から生えた悪魔しっぽを隠そうともせずに、妖精と豪語するとは……。
逸花がそれを見逃すとは思えないが。
「幼生。へーその大きさでまだ成体じゃないんだ。てことはあなたは今、オタマみたいなものってことだねー」
「オタマじゃありませんの! アクマですの!」
「あれー? アクマなの? 妖精じゃなくて?」
「ギクリ……」
既に遊ばれてしまっているネネネであった。
「あ、……悪魔妖精ですの」
「ふーん、堕天使みたいなものなのかな?」
「な、何でもいいですの! とにかくネネネはまおーさまにエッチなサービスをする妖精で、まおーさまの妻ですので!」
「そんなにお望みなら、本当に刺身のツマにしてあげるよ?」
またまた話がおかしな方向に進んでる!
「次! 次だルージュ!」
「うむ」
と頷く、紅髪赤眼ストレートロングの幼乳ルージュ。
「ワシはブラッドレッド・ボルドー・ルージュ、吸血鬼じゃ」
「ぶりっとぶりっと……? 何? あなたの名前も、いまいち覚えられないや」
ぶりっとぶりっとって、もはや覚える気がないだろうこいつ……。
と言うか名前うんぬんより、吸血鬼という部分は気にならないのか?
勇者はまだいいとして、ネネネの言った妖精にしたって悪魔にしたって、そんなものがいることに疑問を持ったりは?
まあでも既にこの異世界に順応してる感じがあるしなあ。
魔力とか、出してたし……。
「なら好きなように呼べばよいじゃろう」
「じゃあ赤ちゃん。それでいーい?」
「赤ちゃんのう……しかしそれではワシが赤ちゃんみたいではないか。こう見えてもワシは赤ん坊ではないぞ」
いや、こう見えてもって、どれだけ幼く見えても、赤ちゃんには見えないけど。
「そうですの、この吸血鬼はベビーじゃなくて、ババーですのよ」
「年増は黙っておれ!」
「何ですって!? オタマじゃなくて、せめてオマタと言いなさいな! それかキンタマ!」
それはそれでどうなんだろう。
「桃ちゃんは少し黙っててくれないかなー?」
と、逸花は騒ぐネネネに向かって言った。
「桃ちゃん? それはネネネのことですの?」
「そうだよー? 桃色の髪をしてるから」
「桃と言えばお尻ですわね」
いや、それは違うと思うけどなぁ。
「なかなかいい名前ですの。分かりました、ここはおとなしくしておきますの」
バカだなぁ……。
「それで赤ちゃん、あなたは何と呼ばれるのならいーの?」
「うむ、おぬしの路線で行くとそうじゃな。紅ちゃんとかかの?」
「べビちゃん?」
「むう……ならば紅ちゃんでどうじゃ」
「暮れちゃん?」
「それは言外にワシが年老いておると、高齢者じゃと言いたいのかの? 別に年寄り扱いされても構わんが……うーむ、ならば紅ちゃんでどうじゃ!」
「高ちゃん?」
「それは高齢者と言いたいのか……いいんじゃよ? いいんじゃけどの? ワシ感が足りん」
「じゃーやっぱりあかちゃんにしよう。でも漢字は“赤”じゃなくて“紅”で紅ちゃんにしてあげる」
「ほう、意外と話の分かる奴じゃな。気に入った」
「ありがとー」
握手を交わす、ルージュと逸花。
これはネネネにとって、とてつもなく不利な同盟が結ばれているかもしれない。
「ねえまおーさま、桃もいいですけど、桜もいいと思いません? 桜といえばチェリー……チェリー、ああ、何といい響きですの」
そんなことに、ネネネは気付いていないけど。
「じゃあ次はエメラダだな」
銀髪緑眼外はねショートの隠れ巨乳エメラダ。
「……エスメラルダ・エバー・グリーン、エルフ」
「エバー? 何だかどこかの人型決戦○器みたいな名前だねー。もしかしてあなた、エルフじゃなくてネ○フの人だったりして」
「……?」
そんな逸花の言葉に首を傾げるエメラダ。
そのネタが通じるのは、この世界では俺かルージュ、ギリギリヴァイオレットくらいまでだろう。
そもそも俺以外に通じてはいけないと思うけど。
「名前は、銀ちゃんでいいかなー?」
「……」
何でもいいと言った風に、エメラダは無言で頷く。
「それにしても銀ちゃん。あなたはやっぱり強そうだね。戦うのは一番最後にした方がいーかな?」
なぜこいつは、戦おうとしているんだ……。
「それとも最初かなー?」
「誰とも戦わせない……家族は私が守る」
「ふふっ、やっぱりあなたはネ○フの人みたいだねー」
奇しくもエメラダの言葉が、逸花のネタと少し噛み合っていた。
そして奇しくもといえば“逸花”変換して“何時か”は英語で“エバー”である。
エバーVSエバー、そんな対決は出来れば見たくないものだ。
「えーっとじゃあ、次ぎ行く?」
「いクゥなのだ!」
元気に手を上げた、黒髪銀眼ショートカットの褐色美乳クゥ。
「ボクの名前はクーニャ・サー・ベラス、ケルベロスなのだ!」
「あなたはそのケモノ耳とケモノ尻尾が可愛いねー」
「これはケモノ耳でもケモノ尻尾でもないのだ」
首を振るクゥ。
「これはケロの耳とケロの尻尾なのだ!」
「ケロの?」
「そうなのだ。『ケルベロスの』略して『ケロの』なのだ。ボクはケルベロスなのだ!」
何だ、犬と間違えられる前に、ケルベロスを前面に押し出しているのか。
涙ぐましい努力だ。
「そっかそっか、ケロケロスかー。なんだかカエルさんみたいだねー」
「カエルさんじゃないのだ!」
しかしそんな努力むなしく、犬の次は蛙に間違えられる始末である。
「あ、分かったー! 桃ちゃんがオタマだったから、彼女が成長したらあなたになるんだ」
分かってないよ! ならないよ!
ネネネは成長しても、クゥにはならないよ!
「よく分からないけど、そうかもしれないのだ」
かもしれないの!?
「楽しみだねー」
つまりクゥが二人になるんだろ?
楽しみじゃないよ……。
「それでえーっと、ボクちゃんの名前は何だったっけ?」
「ボクゥちゃんじゃないのだ、クゥちゃんなのだ」
「あだ名は、黒ちゃんでいいかな?」
「クロちゃんじゃないのだ、クゥちゃんなのだ」
「何だかいまいち話が噛み合ってないってことは、オーケーってことだね。よしよし」
話が噛み合ってない=OKとは、相変わらず凄まじい解釈だ。
今日も読んでいただき、本当にありがとうございました。




