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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰陸拾玖閑 ヒカップ! ノットストップ!?

 それから雑談することしばらく。


「さあ出来たぞ」

 エメラダのお父さんが、カップ一杯の水と、クゥの病気を治す薬を持って戻って来た。

 薬は百円玉くらいの大きさの、いかにも苦そうな深緑色の草の塊だった。


「これを飲めば吃逆症(きつぎゃくしょう)は治る」

「ありっがとうございますのだ」

 クゥはお礼を言ってそれを受け取り、薬と水の両方を口に含むと、一気に飲み込んだ。

 飲み込んで数分。


「止まったか?」

「止まった……止まったのだ!」

「止まったか!」

「止まったのだ!」


 しかし喜んだのも束の間

「良かったなあ!」

「良かったのっだ!」

「え?」

「ひっく」

 …………。

 クゥの横隔膜は、再び痙攣を始めた。


「あしゅたぁ、ひっく、ボク一生きつぎゃくしょうのままなのだぁ……」

「安心しろクゥ、お前が一生吃逆症でもちゃんと面倒見てやるからな。名前はキツギャクゥに変えるけど」

「やっぱりシャックゥの方が強そうなのだぁ」

「よしよしお前は強い子だ」

 本当に意味が分からないが、俺とクゥは、あつい抱擁をかわす。

 その横でエメラダのお父さんは言う。


「そんなすぐに効くわけがないだろう」

「え?」

「薬が効くのには時間がかかる。飲んですぐ、体内の毒が浄化されるわけじゃない」

 へえ、そうなんだ。

 いや、一般的に、薬の効果は飲んですぐ発揮されるものじゃないことは分かっている。

 そんなことは当たり前だ。

 ただそれは一般的な薬であって、エルフの作った薬は何だか凄そうだから、その限りではないと思っていたけど。

 同じなわけだ。


「まあ言ってるうちに止まるだろう。それまで家にいるといい」

「ハイなのっだ」

「そうだ。晩飯を作るが、食べるか?」

 言って、お父さんは俺に視線を向けた。

 思わず背筋が伸びる。


「……えっと」

 いいのか? 薬まで作ってもらったあげく、晩ご飯までお呼ばれして。

 しかしエメラダのお父さんの作る料理。

 美味そうだ、いや美味いに違いない。

 正直……食べたい。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「分かった」

「ああ、そうだ。良かったらこれ、使ってください」

 俺は、持っていたキャベツとしいたけをお父さんに差し出した。


「これは?」

「今朝、ここに来る前に貰ったんです」

 町で、おじさんに。


「立派だな、使っていいのか?」

「はい」

 いつまでも持っていたら痛んでしまう。

 せっかくエメラダが立派だと言うほどの野菜なのに、美味しいうちに食べないともったいない。


「うむ、ならありがたく使わせてもらおう」

 と言うわけで、晩ご飯は、キャベツとしいたけ、その他エルフの村で採れた野菜をたっぷりと使ったシチュー。

 野菜と薬草のたくさん入った、グリーンシチューとなった。

 グリーンシチューなるものの存在は知っていたけど、初めて食べた。

 これがまた絶品。

 口の中で広がる野菜の濃厚な甘み、そしてそれを引き立てる薬草の香りがたまらない。

 さて。

 問題のクゥのしゃっくりは、食後には止まっていた。

 食後どころか、食事中に止まっていたかもしれない。


「アシュタ、そう言えばしゃっくりしてないのだ」

 とにかく、このとおり、当の本人でさえいつ止まったのか分からないほど、いつの間にか止まっていた。


「本当だ!」

 いつまで経っても、いつまで待っても、あの『ひっく』が聞こえることはない。


「今度こそ本当に良かったな!」

「良かったのだ! これで名前変えなくてすむのだ!」

「いや、だから変えるって言ってるだろう? 通常のクゥで、ツゥ」

「ボクはワンなのだ!」

「ちょっと待てクゥ、それ昨日も言ってたけど、ワンじゃないだろう? それは犬の鳴き声だ」

 散々犬じゃない犬じゃないっていつも言ってるくせに。

 なんなら名前は、ドッグゥにするか?


「と言うか、ケルベロスって何て鳴くんだ?」

「サン! なのだ!」

 ワンでもツーでもなく、サンなの?


「頭が三つだから……」

「いやいやエメラダ、クゥの頭は一つしかないけど?」

 一つでも怪しいレベルだけど。


「三つあるのだ!」

 ほら!

 と、クゥは両手で影絵よろしく犬の形を作り、それを自分の顔の横に並べて『サン! サン!』と鳴き始める。

 バカみたいだ。

 やっぱり頭は、一つでも怪しいレベルだ。

 泣き声は『ワン』でも『サン』でもなく半、『ハン』にするべきだろう。

 でもまあバカみたいだけど、バカみたいに可愛い。


 しばらくはそうやって、治ったことに喜びはしゃいでいた彼女だったが、やがて耳をたらんとさせ、目をとろんとさせ、眠たそうにうつらうつらと舟をこぎ始めた。

 昨日一睡もせず、今日も頑張ってここまで歩いてきたのだ、しかもエメラダを肩車して。

 相当疲れているに、眠たいに違いない。

 まだご飯を食べたばかり。

 食後すぐ寝転ばないと約束したからか、それでも必死に座った体勢を維持しようとするクゥ。


「クゥ、眠たかったら寝ていいぞ。今日は特別だ」

「分かった、のだ」

 ごろんとエメラダの膝を枕に寝転がり、すぐにスヤスヤと寝息を立て始める。

 そんなクゥを見て、エメラダのお父さんは、今晩は家に泊まっていったらどうだと俺に提案してくれた。

 別にクゥくらいなら俺がおんぶして帰れるのだけど、外は既に夜、森の中は真っ暗で危ないとのことだったので、その提案も、お言葉に甘えさせて貰うこととなった。

今日も読んでくださり、本当にありがとうございました。

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