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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰陸拾捌閑 『お父さん』略して『おさ』!?

「ここを通り抜れば……村」

 と、依然としてクゥに肩車をされているエメラダが、崖と崖の間に出来た、細い道を指差した。

 二人並んで歩くのが精一杯の、二人並んで歩いたらいっぱいいっぱいの道だ。


「通り抜けられなければ……無駄」

「いやまあ確かに、通り抜けられなければ無駄足になるけど」

 そんなことあるか!? いくら細いと言っても、人間の大きさなら十分通れる。

 それとも何か、この道には、嘘つきは入れた手が抜けなくなるという“真実の口”の伝説のように、悪い奴は通り抜けられないみたいな仕掛けでもあるのか。


「しかしやっと着いたか」

 いつだったか、ルージュがエルフは見つけ辛いみたいなことを言っていたけど、そりゃそうだ。

 こんな人が近づきたくても近づけない、空も陸も木々に覆われたような森の奥深くに住んでいるのだから。

 一体どのくらい歩いたのか、どのように歩いたのか。

 一人でもう一度来いと言われても、絶対に無理だ。


「アシュっタ、何してるのだ? はやっく行くのだ」

「ああ」

 クゥとエメラダに先導される形で、細い道を行く。

 幸い通り抜けられないなんてことは全然なく、程なくして開けた場所に出た。

 そこは周囲360°、ぐるりと切り立った崖で囲われた、円形の土地だった。

 上を見ると、さっきまでとは違い木々に覆われてはおらず、ぽっかりと青空が見える。


「おお、これがエメラダの村か」

 何だか、冒険したくなってくるような景色だ。


「……違う」

「え!? 違うの!?」

 ならなぜ連れて来たんだ。


「私の、住んでる村……」

 ん? ああ、そう言うことか。

 『エメラダの村』ではなく『エメラダの“住んでる”村』と。

 確かにエメラダの村だと、エメラダの所有物みたいだ。


「私の家は……違う。私の、住んでる家は」

 そこはエメラダの家でいいと思うけど。

 あれ、と彼女は、崖に沿うように張られたいくつものテントの一つ、一番奥の、一際大きなそれを指さした。

 一際大きい、一つだけ大きい。そのテントだけ、周りにあるテントの二倍はある。

 何だ、エメラダはこのエルフの村において、裕福な家庭の子だったりするのだろうか。

 とかそんなことを考えながら、村の真ん中を堂々と突っ切り、彼女の家へと向かう。

 途中、まばらにいる、エメラダと同じような銀色の髪の人達が、こちらを不思議そうに見ていた。

 まあそりゃ自分たちの村に、突然肩車をされた奴が入ってきたら不思議だろう。

 不思議と言うか、不審だろう。


「ただいま……」

「おっじゃましますのだ」

「おじゃまします」

 のれんを押し上げるように布を腕で避けて、テントの中、エメラダの家の中に入る。

 裕福な家庭なら、家の中はさぞ豪華なことだろうと予想していたが、そんなことはなかった。

 言い方が悪いかもしれないけど、普通。いたって普通。

 地面を直接掘って作られた、囲炉裏いろりのようなもの。そのすぐ横に敷いてある、茶色い毛皮の絨毯を除けば。

 後は普通の机、普通の椅子、普通の棚、その他普通の家具。


 そうやって俺が、失礼にも部屋の中をジロジロと観察していると

「誰だ?」

 奥から、人が出てきた。

 男の人だった。

 鍛えられた太く筋肉質な四肢。鋭い目とあごひげの付いた、整った顔。首元で結われた銀色の髪。

 俺はその人を見て“戦士”を思い浮かべた。それもただの戦士ではなく、猛者。

 殺気を向けられているわけでも武器を向けられているわけでもないのに、向かい合うだけで感じる威圧。

 恐怖、いや、これは畏怖か?

 そして思い浮かべたのは戦士じゃなく、自然か。

 エメラダと最初に会話をしたときにも感じた、自然を相手取っているかのようなこの感じ。

 エメラダの場合は“森”だったが、この男の人の場合は“山”だ。


「ああ、エスメラルダか。お帰り」

 低くて重たい声。

 自然を感じ、威厳を感じる。


「アスタロウ……この人が私のお父さん。この村の、エルフ族の(おさ)

「エルフ族の猛者!?」

 やっぱり猛者か。


「違う……長」

 おさ……?


「長って、あの長?」

「アシュタアシュタ、ボック、おさって何か知ってるのだ」

 とクゥ。


「へえ、教えてくれよ」

「お父さん、略して『おさ』なのっだ」

「いやぁ、それは違うと思うよ?」

 たとえそうだとしても、もうそれ、略し過ぎてお父さんの要素ゼロだよね?


「違うのだ? じゃあ、おっさんの略なのだ?」

「どっちでも同じだよ!」

 結局“お”と“さん”の要素しかないよ!

 それならお母さんでもお姉さんでも、『おさ』になるよ。


「ああ、分かったのだ」

 今!? 知ってたんじゃ!?


「お魚の略なのだ」

「それも違うな」

 お魚、略して『おさ』

 それもそれで、お猿さんとかでも出来ちゃうから。

 と言うかもし、お魚の略で“おさ”なのだとしたら、エメラダのお父さん魚ってことになるからね?


「長って言うのはなクゥ――」

「知ってるのだ言わないっで欲しいのだ! おさって言うのはっ、お酒の略なのだ!」

「違うよ!?」

 もはや生き物ですらなくなった!

 確かに酒は百薬の長と言うけど!


「長って言うのはな、簡単に言うと、リーダーってことだ」

「リーダー?」

「そう」

 しかし長か。だから家が大きかったのか。

 お札をたくさん持っているお金持ちだからではなく、長だから。

 と言うかそうなるとエメラダは村長の娘ってことで。

 なら“エメラダの村”って言うのも、あながち間違いじゃないじゃないか。

 いや、別に村は村長のものではないのだろうけど。


「あ、えっと、申し遅れました、僕は魔王です。魔王アスタです」

 俺はそう言って、軽く頭を下げた。


「知っている。バカヤロウだろう」

 バカヤロウって、エメラダみたいに言うなぁ。

 さすがエメラダのお父さん。


「そちらの子は?」

 クゥの方に視線を向けるお父さん。

 するとクゥは俺の方をチラッと見て、俺を真似るように軽く頭を下げた。


「申し開きましたのだ――」

 申し開くな申し開くな。


「――ボクはケルベロスなのだ。ケッルベロッスのクゥなのだ」

「ケルベロス、ね。それにしても何だ、君は面白い病気にかかっているね。いまどき珍しい」

 吃逆症(きつぎゃくしょう)か。

 彼は呟く。

 これこそ、さすがエメラダのお父さんだった。

 体を触ったり心音を聞いたりすることなく、今の短いやり取りだけで、クゥがその病気にかかっていることをズバリ言い当てた。


「その薬を作って欲しくて……帰ってきた」

 とエメラダ。


「私にか? しかしわざわざ帰ってこなくとも、エスメラルダにも作れるだろう?」

「分からない……」

「ふむ……そうか。修行が足りないな」

 修行が足りない。

 エメラダが薬の作り方が分からないと言ったとき、彼女にも分からないことがあるんだなと思ったけど。

 そう言えばエメラダ、修行の身だったか。だから城にいるのだ。

 普段が万能過ぎるだけに、忘れてしまっていたけど。


「分かった作ろう。出来るまでそこら辺でくつろいでなさい、ここまで疲れたろう」

「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」

「よろしっくお願いしますのだ」

「…………」

 お父さんは無言で頷くと、奥へと姿を消した。

今日も読んでくださって、ありがとうございました。

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