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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰陸拾伍閑 ヒカップ! ノンストップ!

 と言うわけで、しゃっくりを止める方法を試すことになったわけだけど。


「方法はいくつかあるけど、どれが効くか分からないから、効くまで一つずつ試していこう。じゃあまずは」

「ひっく、ひっく」

 正面で肩を震わしているクゥを見てると、何だか止めるのはもったいないような気がしてきた。

 今まで気付かなかったと言うか、気にもしなかったけど、しゃっくりをしている姿というのはなかなか可愛い。

 連動して胸も一緒に揺れるせいで、輪をかけて良い。

 と、そんなことを考えていると、横からラヴの殺気が。

 相変わらず胸のことに関しては、察しがいい。


「まずは何なのだ?」

「…………」

「アシュタ?」

 ふむ……仕方がないか。

 一番ポピュラーなのは“驚かせる”なんだろうけど、それはこの状況では無理そうだから。


「まずは、胸を押さえる」

「胸を押さえるのだ?」

「そうだ。よーし、俺が押さえてやろうなー」

 役得役得。

 わきわき。


「魔王」

「ひいっ!?」

 シャリンと音を立てて引き抜かれた剣が、俺の首へと添えられる。


「ど、どうしたのかなラヴさん」

「アンタどさくさに紛れて変なことしようとしてないわよね?」

「してないしてない。俺はただクゥのためを思って、しゃっくりを止める方法を実践しようとしてるだけだよ!?」

「それが胸を押さえる、と?」

「う、うん」

 正確には胸と言うか、胸の少し下。横隔膜のある辺りをだけど。


「他にも方法はあるんでしょ?」

「まあ」

「なら違うやつにしなさい」

「分かりました」

 やれやれ仕方がないな。


「じゃあ、お豆をつまむ」

「魔王っ!」

「な、何かな?」

「やっぱり変なこと考えてるじゃない、この変態が!」

「あう、あう、あう、あう」

 剣の腹の部分で、俺の顎をペチペチと叩くラヴ。


「変なことって、ただお豆をつまむだけじゃないか」

 どこが変なんだ。


「何度も言わないで! この変態!」

 顔を真っ赤にする彼女。

 変態なのはむしろお前の方だろう。

 お前はお豆で一体何を想像したんだ?

 まったく、それはネネネの領分だろうに。

 と言うか、お豆をつまむのは俺じゃなくてクゥなんだけど。

 クゥが、豆を、お箸で、つまむ。

 ああでもこの世界お箸ないから、そもそもこの方法は無理か。


「アシュタ、ひっく、何でもいいけど早くして欲しいのだ」

 困ったように眉根を寄せるクゥちゃん。


「ん、ああ悪い悪い。じゃあ次は」

 次はも何も、まだ一つも試していないが……。


「息を止める」

「息を止めるのだ?」

「そう、大きく息を吸ってー」

 指示されたとおり、クゥは肺に空気を溜め込む。


「そうそう、それで限界まで止める。ああ、途中で吐き出したら失敗しちゃうから、そうならないようにクゥの口は俺が塞いでおいてやろう。口で」

「アンタは息の根を止めた方がいいんじゃないのかしら」

「じょ、冗談だよラヴ」

 もはやいつ首をかき切られても、おかしくない状況である。


「ぷはぁっ」

 しばらくして、呼吸停止の限界に達したクゥは大きく息を吐いた。


「どうだ、止まったか?」

「うーん…………」

 少しの沈黙の後

「ひっく」

 彼女は再び体を揺らし、そんな可愛らしい声を漏らした。


「ダメか」

「……マメなのだ」

 マメではない。


「仕方がない、次の方法を試そう」

 次は。


「じゃあ、ジャンプする」

「キャンプするのだ?」

「残念ながら露営ろえいはしない、跳べと言ってるんだ」

 その場で立ち上がって、ピョンピョンするの。

 教えると、クゥは言われたとおり立ち上がり、尻尾をわっさわっささせながら飛び跳ね始める。

 こ、これは……。


「飛び跳ねるたびに揺れる胸が、露営はしないがエロい! いいぞクゥ! 跳べ跳べ、もっと跳べ!」

「魔王」

 おっと……心の声が思わず漏れてしまった……。


「アンタの首も、跳ばしてあげましょうか?」

「だ、だから冗談だってラヴ、落ち着いてくれよ」

 なんて鋭利な視線だ、人はここまで鋭い目が出来るものなのか。

 もはやその視線だけで、首が跳ばされそうな勢いだ。


「アシュタ、いつまで跳んでればいいのだ!?」

「ああ、もう満足――じゃなくて、もういいんじゃないか。一旦やめてみろよ」

「分かったのだ」

 跳ぶのをやめ、俺の正面に座る彼女。


「どうだ、止まったか?」

「ん~……ひっく」

 しかし残念なことに、しゃっくりは微塵も止まる気配を見せない。


「止まらないのだ」

 三角お耳を折りたたみ、明らかにしょんぼりした様子。


「大丈夫だってクゥ、まだ方法はたくさんある。試してみよう」

「わんなのだ」


 それからもクゥの耳に指を突っ込んでみたり

「うおぉ~クゥの耳の中温か~い」

 クゥの舌を引っ張ってみたり

「うほぉ~クゥの舌生温か~い」

 したのだが、結果的に、どれもしゃっくりを止めるには至らなかった。


「全然止まらないのだぁ」

「止まらないなぁ」

「私的には、しゃっくりよりもまず魔王を止めたいんだけど」

 心に突き刺さる言葉だった。

 ……まあ、確かに少々遊びすぎた感もある。

 これじゃあ止まらなくても仕方がない話だ。


「ひっく、ひっく、どうやったら止まるのだ?」

「う~ん」

 俺がしゃっくりをしたときは、逸花いつかおどろかされてと言うか、おどかされて止めてもらっていたけど。

 あれは逸花がいないと出来ないし。

 俺が知ってて俺が出来ることは、全部やり尽くした……。


「ラヴ、何か知らないか?」

「えーっと、カップ一杯の水を一気に飲む、だっけ?」

「ああ」

 そういえばそんな方法も、聞いたことがあったっけ。

 いや、俺が聞いたことがあるのは、コップの反対側の縁から水を飲むとか何とか、そんなんだったけ?

 こういうのって、おばあちゃんの知恵袋的に各地に点在してて、どれが本当に効くのやら分かったもんじゃないな。


「じゃあまあ、それを試してみよう。はい」

 俺は机の上に置いてあった白いカップに、水差しの水を注ぎクゥに渡した。


「ありがとうなのだ」

「まあ聞いたとおり、その水を一気に飲めばいい。何なら水は俺が飲ましてやろうか? 口で」

「アンタは言葉を飲み込みなさいよ!」

「はがっ!?」

 俺の口の中に、ラヴの剣が突っ込まれる。


「が、や、止めろラヴ! 俺は言葉は飲み込めても剣は飲み込めない!」

 そんな大道芸人みたいな芸当は出来ない。


「言葉も飲み込めてないでしょうが!」

 そんな俺とラヴを尻目に、クゥはカップを傾け水を飲み始めた。

 ゴクリゴクリとノドを鳴らして。


「ぷはぁ」

「ど――」

「ひっく」

「……」

 どうだ止まったか?

 そう問いかける暇もなく、クゥはひっくと鳴くのだった。


「全然止まらないのだ!」

「ん~、ここまでやっても止まらないか」

 アンタと一緒ね。

 と言うラヴの言葉は、放っておくとして。


「こうなってくると、何か重大な病気なんじゃないか?」

 アンタと一緒ね。

 と言うラヴの声は、やっぱり放って……おけるか!


「ちょくちょく傷つけてくるの止めてくれるかなラヴ!」

「傷つけるだなんて人聞きの悪い。私はただ、真実を突き付けただけじゃない」

 その上剣まで突き付けられて、もはや後がない!


「何か文句があるの!?」

「ないよ」

 まああるにはあるんだけど。

 それよりもクゥだ。

今日も読んでくださり、ありがとうございました。

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