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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰陸拾肆閑 しゃっくりくりくりくりっくり!

「ひっく……ひっく」

 ケモ耳褐色美少女こと、ケルベロスの、クゥニャ・サー・ベラスがしゃっくりをし始めたのは。

 三月の終わりが近づき、もう直ぐで四月になろうという頃。

 空に浮かぶ三つの月の横に、四つ目の月が薄っすらと見え始めた頃。

 の、夜のことだった。




 いつもの食事の間で、いつものようにコタツを六人で囲み食事を終えた後、皆それぞれがそれぞれに好きなことを始めた。

 窓の外は雨。ザアザアと水が地面を打ちつける音が、耳に届く。

 俺はラヴと雑談をし、ネネネとルージュはどこかに食後の運動もとい喧嘩をしに行き、エメラダは書庫へ本を取りに行き、クゥはその場にごろんと寝転ぶ。

 俺はそんなクゥを見て、ラヴとの会話を一旦中断した。


「おいクゥ、食べて直ぐ寝たらウシさんになっちゃうぞ」

 クゥならぬ、ギュウになっちゃうぞ。

 ケルベロスが、ミノタウロスになっちゃうぞ。


「ムシさんになっちゃうのだ?」

「ムシさんじゃなくて、ウシさんだ」

 ケルベロスが虫になったら、なんだ、ケルベルゼブブとかにでもなるのか。

 俺は嫌だよ、ハエの女の子なんて。


「もーアシュタってば、人がウシさんになるわけがないのだ」

 もう既に『もー』とか言い始めちゃってるんだけど。


「まあいいけど」

 あまりしつこく言っても、どうにもならない。

 と、俺はクゥへの注意を早々に切り上げラヴとの雑談に戻った。


 それからしばらく静かに寝ていたクゥだったが、突然、バッと起き上がる。


「どうしたクゥ?」

「ひっく……ひっく」

 ビックリしたように目を丸くして、肩をビクンビクンと弾ます彼女。


「ひっくりが、とっ、まらないのっだ」

「しゃっくりね」

「ボクはしゃくれてなっいのだ!」

 知ってるよ。

 綺麗に整った、可愛いお顔をしているよ。


「まったく」

 しゃっくり、ねぇ。

 ミノタウロスにはならなくとも、ミオクローヌスにはなったか。

 うん、よし、いいことを思いついた。少し驚かせてやろう。

 俺は腕を組んで、深刻な顔を作って言う。


「だから言っただろうクゥ、ウシさんになるって。それはウシになる前兆だよ」

「ぜんっちょう?」

「そう、百回だ。百回目のしゃっくりと同時に、お前はウシになる!」

「ひっく、ひっく」

「ほーら今ので二回減ったぞ? 今何回だ? あっという間にウシになっちゃぞー」

 するとクゥは涙目でラヴに抱きつく。


「嫌なのだラブねーちゃん。ボク、ウシさんになりたくないのだ!」

「もう魔王、あんまり怖がらせたら可哀想じゃない。大丈夫よクゥニャ、しゃっくりを百回したところで、ウシにはならないわ」

「ほんとっうなのだ?」

「本当よ」

 それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろすクゥ。

 しかし次のラヴの言葉に、ギョッと目を剥いた。


「まあ、しゃっくりを百回したら死ぬとは聞いたことがあるけど」

「嫌なのだアシュタ、ボクまだ死にたくないのだ!」

 クゥは今度は俺に泣き付く。


「お前の方が怖がらせてるよラヴ!」

「どこがよ」

「ウシと死を比べたら、どう考えても死の方が怖いだろ!」

「そうかしら、私は死ぬよりウシになる方が嫌だけど」

 今すぐウシに謝れ! 土下座をしろ!


「ひっく、アシュタそんなこと言ってる場合じゃないのだ! 死にたくないのだ! どうやって止めるのだ!?」

「大丈夫だってクゥ。しゃっくりを百回しても、死にはしない」

 確かに『しゃっくりを百回したら死ぬ』なんてのはよく聞くけど、それはあくまで迷信だ。

 しゃっくりなんて、所詮はただの横隔膜の痙攣けいれんだ。

 重大な病気が原因で起こっているという可能性もあると、聞いたことはあるけど。


「本当なのだ?」

「本当だよ、死にもしないしウシにもならない。俺だって昔百回以上連続でしゃっくりしたけど、ほら、このとおり生きてるし、ウシにもなってないだろ?」

 コクリと頷く彼女。

 まあ厳密には死んでいるけど。

 それはしゃっくりが原因では全くない。


「でもウシさんにはなってないけど、アシュタはウマさんだって前に小人さんが言ってたのだ」

 あのくそ小人ヴァイオレットめ……。


「よく見ろクゥ、俺がウマに見えるか?」

 ウマなのは、アシュタではなく、アシュタロトだ。

 いや、あの悪魔はウマではなくロバだったか。


「見えないのだ」

「だろう? 俺はウマにもなっていない」 

 馬鹿には見えるけどね、とラヴ。

 確かに馬鹿かもしれないけど、馬化ばかはしていない。


「まあとにかく大丈夫だよクゥ。百回しゃっくりをしたところで、どうにもなりはしない」

「分っかったのだ」

 頷きながらも、ピクンと体を跳ね上げる彼女。


「でもアシュタ、ひっく、ボクはしゃっくりを止めたいのだ。しんどいのだ」

 まあ確かに、しゃっくりで死にはしなくとも、ウシにはならずとも、ウツには、憂鬱にはなるな。

 放っておけばそのうち止まるものだけど、それでも止まるまではそれなりに辛い。


「どうやったら止まるのだ?」

「しゃっくりの止め方ねぇ……いくつか知ってはいるけど」

「教えて欲しいのだ」

「う~ん」

 果たして効くのかどうかが疑問だ。


「お願いっなのだ」

「分かった、教えるよ」

 効くかどうかはともかく、とりあえずやってみよう。

 大した手間でもない。


「その代わり、これからは食べて直ぐ寝ないように。約束だぞ?」

「わっかったのだ、役得なのだ」

「約束だ」

今日も読んでくださり、ありがとうございました。

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