第佰陸拾弐閑 地響きと地雷に満ち溢れた、空母のような……。
「はぁはぁはぁはぁ」
ネネネを連れてかまくらの中に戻ってみると、ラヴが変化していた。
変化。
そう、つまり、変態と化していた。
「あ、あの、ラヴちゃん? 一体何をなさってるんですか?」
彼女はなぜか、己の腕の中で眠る幼女の寝顔を食い入るように見つめ、顔を赤くして息を荒らげている。
端から見れば、まさに変態。
これを変態と呼ばずして、何を変態と呼べばいいのか俺には分からない。
「え、いや、ちょ、これは」
俺の声で我に返ったラヴは、慌てて言い訳をしようとする。
「その、あの、えっと」
でも焦りすぎて、いまいち言葉が出てこないようだ。
「もしかしてお前、そういう趣味が?」
ロリコン、的な。
「は、はあ!? ちがっ、趣味とかじゃなくて!」
「まぁまぁ落ち着けってラヴ。俺は別にお前がロリコンだったとしても、別に軽蔑したりしないから」
「ロリコンってだから違うってば! 変な勘違いをしないで! 私はただ、普通に可愛いなって思って見ていただけよ!」
いや、全然普通ではなかったけどなぁ。
「そう、言うなればあれよ!」
「どれよ」
「ぼ、母性?」
「母性!? 凶暴性の間違いじゃないのか!?」
今にも取って食ってしまいそうな雰囲気だったけど。
「誰が凶暴よ! 慈悲と慈愛に満ち溢れた聖母のような顔をしてたでしょう!?」
「どちらかと言うと、地響きと地雷って感じだったけど」
「どういう意味よ!」
「危険」
本当に危険だった、危ない危ない。
まったくもう、誰もいないからって。
いや、一応中に、クゥとエメラダはいたんだけど。
クゥは眠ってるし、エメラダは本を読むのに夢中でこっちを見向きもしない。
それに聖母って……。
自分で言うことではないし、しかもお前は聖母と言うより空母だろう。
あの平らな感じとか、超似てる。
「誰が危け――」
「うぅぅん」
俺に反論しようとしたラヴだったが、ルージュの小さな唸る声を聞いて、その口をつぐんだ。
「ちょっと黙りなさい魔王、ルージュが起きたらどうするの」
しー、と人差し指を口に当てる。
いや、ラヴの方が叫んでたんですけど……。
「はぁ~やっぱり可愛い」
腕の中で小さく丸くなり、ラヴの胸に、甲板ではなく胸板に、ごそごそと顔をうずめるルージュ。
そんなルージュを見つめるラヴの瞳には、まあ、確かに慈悲と慈愛が宿っているように思う。
やっぱり地響きと地雷、危険値の方が高いけど。
「ルージュって、寝てたらこんなに可愛いのねぇ。起きてたら生意気だけど」
失礼な、起きてても可愛いよ。
「ねえ魔王、アンタいつもこんな可愛いのと一緒に寝ていたわけ?」
ルージュから、俺に目を移すラヴ。
「まあ」
「ずるい」
「ずるいって」
そんなこと言ったって、そいつが勝手に俺の部屋に来ているだけで。
「私も一緒に寝たい」
「一緒に? それってつまり俺とお前も一緒にてるってことか?」
「な、はぁ!? どうしてそうなるわけ?」
「だってそうだろ?」
ルージュは俺と寝ていて、そのルージュと一緒に寝たいということなんだから。
「別に私がアンタの部屋に行かなくても、ルージュを私の部屋に連れてこればいいでしょ!」
「ああそうか」
「そうよ」
誰がアンタみたいな、変態が服を着て歩いているような奴と一緒に寝るもんですか。
と呟く彼女。
「ちょっと待てラヴ」
「何よ」
「変態は服を着ない」
「そうね」
「俺は服を着ている」
「そうね」
「つまり俺は変態じゃない」
「そ? そうね」
「ということは?」
「一緒に寝ても大丈夫?」
「大正解!」
「黙りなさい大変態! アンタと寝るなんて、死んでも嫌よ!」
「酷い!」
まあ正直俺も、ラヴと寝るなんて、死ぬから嫌だけど。
命がいくつあっても足りる気がしない……。
ラヴと一緒に寝るのは、死んでからにしよう。
「とにかく、今日は私にルージュを貸して。ルージュと寝かして」
「分かったよ、好きに連れてってくれて構わない。構わないけど、そいつ寝相悪いから気を付けろよ?」
「大丈夫よ。夜泣きしたってちゃんとあやしてみせるわ」
だからルージュは赤ちゃんじゃないんだって……。
夜泣きなんてしないんだって……。
文字数少なくてごめんなさい。
今日も読んでくださって、ありがとうございました。




