第佰陸拾閑 イグルーつくるー
「私たちの勝ちでいいかしら? それともまだやる?」
「もういいよ、俺達の負けだ」
俺は雪の上に座り込みながら、ラヴに向かって降参の意思を込めて手を振った。
負けを認めるしかあるまい。
ルージュの魔法も、大雪だまも無効化され、そして俺達は大雪だまに押し潰された。
これだけでも十分負けなのに、更に相手チームに、雪に埋もれた俺達赤チームは救助、救出されたのだ。
これが負けじゃなければ何が負けなのか。
「ルージュとネネネも、もう負けでいいよな?」
俺の両サイドで同じように座り込む二人にも声をかける。
「ああ、もうええ」
「いいですの」
ルージュは雪合戦が出来たから満足と言った顔だったし、ネネネに至っては、そもそも雪合戦自体どうでもいいと言った様子だった。
「なら私たち青チームの勝ちってことで」
嬉しそうに胸を、ない胸を反らすラヴ。
彼女にとっては勝ち負けが大事だったようで、そもそもなぜ雪合戦をすることになったのか、その起こりと言うか、雪だまをぶつけられた怒りは忘れてしまった感じである。
まあ、それならそれでいいのだけど。
俺としても、疑われはしたけど、実際に討たれた分けではないし。
「しかし、えらい目に合ったのぉ」
「全くだ」
あんな大きな雪だまに押し潰されるなんて。
「ほんと、エロい目に合いましたの」
「それは違う意味で全くだ」
全くエロい目になど合っていない。
「だってまおーさま、あんな大きなたまに押し潰されたんですのよ? ネネネ、たまりませんのぉ」
「……」
これこそ全くだよ、まったくもう。
「さぁ、じゃあ雪合戦はこれで終わり。城に戻りましょう。そろそろ夕飯の仕度もしないといけないし」
と、手を打つラヴ。
「そうだな」
遊んでいると時間が経つのは早いもので、気付けば太陽は傾き、赤みを帯びていた。
「ちょっと待つのじゃラヴリン」
がしかし、城に向かい足を向けるラヴを、ルージュは引きとめた。
「どうしたのよ」
「せっかくじゃから、今日の晩ご飯は、あそこで食べると言うのはどうじゃ?」
ルージュが指さしたのは、俺達が埋まった雪山だった。
「あの雪山をしっかりと固め穴を掘り、かまくらにするのじゃ。そしてそこで飯を食べる。あれだけ大きければ十分じゃろう?」
「まあそれはいいけど。私はご飯の用意があるから、かまくら作りは手伝えないわよ?」
「うむ、それは大丈夫じゃ。それはアスタがやるでの」
「そう、まあそう言うことなら大丈夫ね」
何が大丈夫なのか、俺にはさっぱり分からないんだけど……。
「じゃあ私は夕飯を作っておくから、その間にそっちは、しっかりかまくら作っておいてね」
それだけ言うと、ラヴは足早に城へと帰っていく。
「さて、やるぞアスタ」
「マジでやるのか? 大変だぞ?」
「大丈夫じゃ、もちろんワシも手伝うし、年増と毛玉にも手伝わせる」
それが大丈夫じゃないんだよ……。
お前ら三人揃ったら逆に邪魔になりそうなんだよ。
「おい毛玉! 面白いことをするぞ、こっちへ来い!」
「何なのだー!?」
「さぁまおーさま、たまくら作り、一緒にやりましょう?」
「かまくらだ」
仕方がない、やりますか。
そんなわけで、ラヴ、それとエメラダが夕食の用意をしている間に、俺達四人はかまくら作り。
無造作に積もった雪山を固め、綺麗にドーム状に形を整えていく。
「おいネネネ、どうしてお前は塔を作ってるんだ?」
「え? だってまおーさまがドーム状って」
「お前の言ってるのは何か違うドームだろ」
「ええ、コンドー――」
「あーあーあーあー!!」
なんとか出来た雪のドームに、掘削機ならぬクゥ削機で穴を掘っていく。
「クゥ掘り過ぎだ!」
「取り過ぎなのだ?」
「そう、掘り過ぎの取り過ぎ!」
「まぁまぁアシュタ、大丈夫なのだ」
「大丈夫じゃないよ、貫通してるよ。かまくらにトンネル開通しちゃってるよ!」
なんとか出来た洞窟から、更に縦横にスコップで雪を削り、人間六人が入れるように空間を広げていく。
「おーいルージュ、肩車してやるから、お前このスコップで天井の方の雪削ってくれ」
「眠ってくれ?」
「眠るな。スコップで上を削るの」
「スリープ?」
「スコップ。これで、空間を上に作れ」
「床に就くね?」
「就くな! お前はどれだけ眠りたいんだ!」
「ふぁ~あ、分かったわい削ればええんじゃろ?」
「分かってるんじゃないか、もういいよ」
「「どうも、ありがとうございましたー」」
伝説のコンビ、かまくら内部でのライブ、略してかまくライブだった……。
とか何とか、幾多の障害を乗り越え
「はぁ……出来た……」
ようやくかまくらは完成を向かえた。
「はぁ~疲れたのじゃ~」
「はぁ~疲れたのだ~」
「あぁん、突かれましたのぉ~」
「誰のせいだ!」
と言うか一人おかしいし!
まあとにかく完成。
内部の広さは、目算で十二畳、高さもこれまた目算で四メートルと言った所か。
なかなかのものが出来たんじゃないだろうか。
「ほら三人とも、後もう一踏ん張りだ」
出来たかまくら内部の地面に、畑作業のときに使ったビニールを敷き、更に重ねて倉庫にあった毛布を敷く。
そしてその上に、食事の間で使っているこたつを置けば。
「よし、これでこっちの準備は完了だ」
「魔王!」
かまくら内部の完了とほぼ同時に、ラヴの声。
「ご飯できたから運ぶの手伝ってー! 私と師匠だけじゃ持ちきれないー!」
「分かったー!」
かまくらを出て、城に向かう。
「おっと、そうだ一つ忘れてた」
俺は立ち止まって振り返り
「おーいネネネ、ルージュ、クゥ。倉庫からランプをいくつか取って来ておいてくれないか?」
かまくらの中に向かってそう叫んだ。
「了解じゃ」
「了解ですの」
「了解なのだ」
珍しく素直に返事をしたな。
と感心してみたがしかし、俺が、ラヴとエメラダの作った美味そうな料理の乗った皿を、両手いっぱいに持ちかまくらに戻ってみると
「ふん、またワシの勝ちのようじゃの」
「ルージュねーさん強いのだ」
「キィィィィ、悔しいですの!」
「お前ら、何をやってるんだ?」
「何ってアスタ、見て分からぬか? トランプじゃよ」
彼女たちは三人でこたつに入って、トランプをしていた。
「それは分かってるけど、誰がトランプを持って来いって言ったよ!」
「はて、そう言わんかったか?」
「俺が言ったのはランプだよ、ルージュ!」
いや、別にトランプを持ってくるなとは言わない、言わないけど……。
見る限り、お願いしたはずのランプは一つもない。
一つも持って来ていない。一つも取って来ていない。
「ああ、スリープじゃったか」
「眠ってしまえ!!」
結局、ランプは俺が倉庫に取りに行った。
「よし、これで本当に準備完了だな」
食事も並べた、ランプも置いた。
と言うことで。
「「「「「「いっただっきまーす!!」」」」」」
今日も読んでいただき、ありがとうございました。




