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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰伍拾玖閑 ガメ オヴェー

「でルージュ」

 俺がルージュに声をかけたのとほぼ同時に、青チームの三人が輪になって何やら話し始めた。

 白紙にされた作戦でも立て直しているのか。

 まあ向こうのことはいい。今は他人の心配をしている場合じゃない。


「次はどうするんだ?」

「ワシらも向こうと同じく、大雪だまで対抗じゃ。魔法はもう疲れたでな。それで一気に片付けてしまおう。向こうには、ワシのように大雪だまを無効にする技もあるまい」

「いや、俺にはエメラダに弾き飛ばされる未来しか見えないんだけど」

「さてそれはどうじゃろうか。大雪だまを弾き飛ばすには、それなりの、いや、かなりの力が必要じゃろう。雪だまはどれだけ固めようと、どれだけ大きかろうと所詮は雪だま。弾き飛ばすほどの力を加えれば崩壊する」

 なるほど。

 そして崩壊すれば、埋もれる。


「たとえラヴリンが真っ二つに斬ろうとも」

「埋もれるな」

「うむ」

 もちろんクゥがバカ力で叩き壊しても、それは同じ。

 雪山並みの雪だまをいなそうと思えば、ルージュと同じような魔法を使うしかない。

 でもそれもないと来た。

 つまり。


「この作戦ならいける!」

 生き残れる!

 いや、でも問題が一つ……。


「大雪だまはどうする?」

 エメラダが試合開始直後から今の今までの、全ての時間を費やしてようやく出来た代物だ。

 今から作り始めてどれだけ時間がかかるか。

 あまり時間をかけると、向こうのチームに作戦を、態勢を立て直されてしまう。


「ああ、そのことなら問題ない。ほれ」

「はいまおーさま、大きなおたまたまですの」

 突然のネネネの声に振り返ってみると、俺の背後には、いつの間にか雪山が……いや、雪だまが出来上がっていた。

 エメラダが作ったそれと比べても、遜色のない巨大さだ。


「お前、いつの間に……」

「たまのことならネネネに任せてくださいな、と言ったではないですの」

「そやつの無駄で馬鹿な能力あってこその、この作戦じゃ。それがなければワシも提案しておらん。はっ、文字どおり、年増も“たま”には役に立つ」

 “たまに”の“たま”には、別に玉とか球とか、ボール的な意味合いは含まれてないと思うんだけど……。


「たま……」

 そしてだからまんざらでもない顔をするな、今のもバカにされているんだよネネネ。


「よし、向こうの態勢が整う前にさっさと投げてしまうぞ。アスタこれはおぬしが投げるのじゃ。ちゅーかおぬしにしか投げれん」

「まおーさまっファイトですの!」

「分かった」

 思えば今回は俺、何もしてないしな。

 今回どころか、毎回何もしてないような気がしないでもないけど。

 とにかく、やっと回ってきた見せ場だ。

 やってやろうじゃないか! よしっ!


「よいしっ」

 大きな雪だまをそっと抱え――


「ょとぉぉぉぉっ!」

 ――肩に担ぐ。

 ずしりと肩に感じる重み、足が地面にめり込んだ気さえした。

 俺の力を以てしても、この重量感。

 これなら確実にいける。


「うりゃぁぁぁぁ!」

「決めろアスタ!」

 決めてやる!


「入れろまおーさま!」

「何をだ!」

「ナニですの!」

「よく分からないけど、いっけぇぇぇぇ!」

「イっくぅぅぅぅ!」

 そして大雪だまを、投げ放った。

 さながら、元○玉の様に。


「あなたたちバカチームが、安易にこっちと同じ手に打って出てくることはお見通しよ!」

 三人横一列に並んで立つ彼女たち青チーム。

 その真ん中で、ラヴが剣を構えて不適に笑った。


「誰がバカチームだ!」

 笑っていられるのも今の内だぞ。

 なにも俺達は安易に同じ作戦を使ったわけじゃない。

 勝てる算段があったからこそ使ったんだ。

 その構えた剣で雪を切ろうとも無駄、エメラダが弾き飛ばそうとしても無駄、そして――


「クゥニャ、GOよ!」

「ガウなのだー!」

 ラヴの掛け声で、銀色のオーラを纏って、クゥが一人巨大な雪だまに向かって走り出す。


「ははっ」

 思わず笑いが漏れる。

 ――クゥが叩き壊そうとも、無駄だだ!

 俺の手から離れた大雪だまは、もはや止まらない。

 何をしようとも、後は青チームを飲み込むのみ。


「俺達の! 勝ちだぁぁぁぁ!」

「勝ちじゃ!」

「勝ちですの!」


「キャッチなのだ!」


「「「……?」」」

 俺達赤チームは、三人揃って絶句した。

 大雪だまが、止まった。普通に、止まった。

 銀のオーラを纏ったクゥが、まさかまさか、空中で、俺の投げた大雪だまをキャッチしたのだ。


「そ、そんな……」

 そして彼女はそれを

「キャッチ、アーンド! リリースなのだ!」

 こちらに投げ返した。

 リターンした。リバースした。


「そんなのありかよ!」

 いや、よくよく考えれば、いやいや、よくよく考えなくとも、簡単に予想できたことだ。

 全く、全然、予想外の出来事じゃない。

 ルージュの魔法みたいな予想外がなくとも、この作戦は穴だらけだった。

 やっぱり俺達は、バカチームだ。

 そもそも作戦も俺達が考えたやつじゃないし、向こうが考えたやつの再利用だし。

 リユースもはなはだしいし。


「と言うか、俺の見せ場はもう終わりかよ……」

 ってそんなことを言っている場合じゃない。

 大雪だまは、今にも俺達を潰そうと襲い掛かってきている。


「リュージュ! じゃなくてルージュ!」

 なのにルージュはと言えば、オーラを纏うこともなく、魔法を発動させる素振りを見せない。


「どうした? もう一回あの魔法を」

 『回帰(リグレッション)』だっけか?


「もう魔法は無理じゃ」

「無理って」

「今日は何発も乱発し過ぎたでの。一発放つ程の余力も残っとらん」

 マジですか……。


「ネネネ! たまのことならお前に――」

「無理ですの」

 ですよね……。


「まあじゃが大丈夫じゃアスタよ」

「何かいい案が?」

「案も何も、こちらも毛玉と同じように、あの大雪だまをキャッチすればよいだけじゃ」

 ああ、そうか、それでいいんじゃないか。

 キャッチして、それからもう一度投げるなり何なりすればいいんだ。

 そんなことも思いつかないなんて、どうかしていた。

 どうかしていたと言うか、動転していた。気が動転していて、思いつかなかった。


「おぬしなら可能じゃろう?」

「まあ多分」

 やって出来ない事はないだろう。

 よし、と言うことは、俺の見せ場はまだ終わっていない。


「もう一度、やってやろうじゃないか!」

 足を広げ体にグッと力を入れ、迫り来る雪だまに向かって手を伸ばす。


「きっ――――」

 雪だまに触れた瞬間、ずっしりと、手から腕、腕から胴、胴から足に伝わる重さ。

 クゥが投げた力も加わった分、さっきよりもさらに重たく感じる。

 今度は掛け値なしに、足が地面にめり込んだ。


「ゃっち!」

 それでも何とか持ちこたえ、大雪だまのキャッチに成功した。


「ナイスキャッチじゃ」

「ナイスエッチでしたのまおーさま。ぽっ」

「ネネネ、いつも言ってるけど、誤解を招くような発言をするな」

 球を投げたときのやり取りと今のセリフだけを切り取ると、あたかも俺とネネネがイケナイ行為に及んだみたいじゃないか。

 『よく分からないけど、いっけぇぇぇぇ!』

 『イっくぅぅぅぅ!』

 からの

 『ナイスエッチでしたのまおーさま。ぽっ』

 いや、マジでダメだろこれ……。

 やれやれ。

 まあ何であれ、危機は一旦去った。


 がしかしホッとする暇もなく

「アンタ達が雪だまをキャッチする。それももちろん、当たり前のように予想済みよ。バカチーム」

 聞こえてくるラヴの言葉。


「クゥニャ! その雪だま、叩いて崩壊させてしまいなさい!」

 大雪だまのせいで姿の見えない彼女の言葉は、そんなとてつもなく不吉なものだった。


「了解なのだ!」

 これまた大雪だまのせいで姿は見えないが、クゥの元気な返事が俺の耳に届く。


「ちょ、ちょっと待て!」

 そんなことされたら。

 雪の餌食に……。雪の下敷きに……。


「「「……」」」

 再度やってきた危機に、俺達赤チームは再び揃って絶句した。


「くるくる~!」

 絶句して――


「いぃぃぃぃやぁぁぁぁ!」

「嫌じゃぁぁぁぁ!」

「嫌ですのぉぉぉぉ!」

 ――絶叫した。


「ポンなのだっ!」

 埋もれ……る…………。

今日も読んでいただき、本当にありがとうございました。

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