第佰伍拾陸閑 お家は戦地
さて、どうやら彼女たち青チーム、いや、バカとか言われたからこの際アホチームと呼ぼう。
アホチームの作戦は、一番手前でラヴが防御、その後ろからクゥが攻撃、更にその後ろからエメラダがたまを補給。
と、一見するとこういうことらしい。
「……まあいいや、じゃない……まずいや」
ラヴの剣による強固な防御、クゥの強肩による強力な攻撃。
更にそこに、賢明なエメラダによる、懸命な支援。
そもそもその気になれば、エメラダは攻防の全てを一手に担うことも可能だろう。
それにラヴとエメラダのこと、準備時間に何かしらの作戦を立てて来ているのは明白。
完璧じゃないか……誰だアホチームか言ったの!
対する俺達と言えば、誰が攻撃するのか、誰が防御をするのか、そんな作戦以前の話し合いさえしていない。
まさにバカチームだ。
「なぁネネネ、死にたくなければ、少し集中して雪合戦をしない?」
ここはもはやお家ではなく戦地。
ネネネの相手をしながらでは、ネネネに腕を拘束されながらでは、到底生き残れない。
「チューの発注をいたしますの」
「分かった受注するから」
「ブチュー?」
「ブチューする、後でする。だから今は俺の腕を離して、そして雪合戦をしてくれ」
「本当ですの!? 約束ですのよ?」
「ああ約束だ」
「やりましたわ、チューゲッチューですの!!」
「……」
何だか勢いに任せて、とんでもない約束をしてしまったような気がしないでもないけど。
まあ仕方がない、背に腹は代えられない。
「ふむ……少々嫌な予感がするのう……。おい年増にアスタ、早う攻撃せんか。一斉射撃じゃ、今ならまだ間に合うやもしれん」
ようやくネネネに開放されたことにホッとする暇もなく、ルージュの珍しく焦ったような声が俺の耳に届く。
「嫌な予感って、どうしたルージュ」
「エルフっ娘を見てみよ」
促され、ラヴとクゥの更に後ろにいる、エメラダに目をやる。
エメラダはそこでせっせと雪だまを作って――??
「んんっ?」
俺が驚いたのは、彼女の雪だまを作る早さにだとか、作った雪だまの量にだとかではない。
その大きさにだ。
大量の雪だまにではなく、重量級の雪だまに驚いた。
エメラダは勇者とケルベロスの後ろで、済ました顔をしてよいしょよいしょと、まるで“雪だるま”を作るかのごとく雪だまを転がしている。
見るからに重量のありそうな雪だま。
「まさかあんなものを投げようと?」
「そうじゃろうな。一気に畳み掛けるつもりじゃろう。毛玉のバカ力なら、それが可能じゃろうし」
なるほど。相手の再起不能を以て勝敗の決まるこの雪合戦。
たかが雪を固めたたま程度では、たとえ当たったところで大したダメージも与えられず、いつ決着がつくかも分からない。
まあクゥの放つたまならその限りではないんだろうけど。
ただそれも“当たったら”の話だ、どんな凄い威力でも当たらなければ意味がない。
一度に投げられるたまの数はせいぜい二個。無理して四個いけるか? ってところだろう。
視界の開けたこの場所では、避けられてしまう可能性の方が高い。
それならばその力を使って、避けても避けきれない巨大なたまを投げ、まとめて生き埋めにしてしまおうと、そういうわけか。
「あのたまを完成させてはならん、アスタ、エルフっ娘を狙うぞ!」
「了解! やるぞネネネ!」
「ハイですの!」
クゥの攻撃をかわしながら、一斉に雪だまを投げまくる俺、ルージュ、ネネネ。
知恵もなく防御もせずただひたすらに攻撃しているだけなのなら、いっそのことバカチームではなくバーサーカーチームにでもなってやる!
幸い雪だまには困らない。
「うぉぉぉぉ!」
と意気込んだまではよかったが、雪だまはエメラダに到達するどころか
「ふんっ、ここからは一個も通さないわ!」
クゥにさえ届かないままに、ラヴに全て打ち落とされてしまう。
「くそう、雪だまでは埒があかぬ」
悔しそうに歯噛みするルージュ。
遊びに真剣そのものだ。
「と言うかババア、たとえエメラダちゃんに当たったとしても、戦闘不能にすることは不可能ですの」
ネネネも何だかんだ真剣だ。
まあラヴなんて、真剣どころか、本当の剣を、真剣を使っているわけだけど……。
「分かっておる……こうなったら」
ルージュは何だか物凄く悪いことを思いついたかのように、口元を釣り上げた。
「年増、しばらく防御を、時間稼ぎをしておれ」
「それが人にモノを頼むときの態度ですの? まったく、仕方がありませんわね」
言って、俺とルージュの前に立つネネネ。
「え、ネネネ防御とか出来るの?」
「ええ、少しの間なら。コレで」
ヒラヒラと、お尻から伸びた黒い悪魔の尻尾を揺らす。
「まあネネネは愛ちゃんの胸と違って、壁ではなく――」
そしてその尾をムチのようにしならせ
「――お山ですけ、どっ!」
飛んできた雪だまを弾き飛ばした。
「ちょっと! 誰が壁よ!」
ネネネはおほほのほと笑いながら、次々に飛来する雪だまを打ち落としていく。
「やるなぁ」
「ようし、その調子でもうしばらく頑張っておれ」
ふとルージュの方に視線をやると、彼女の体からは炎に似た、赤いオーラのようなものが噴出していた。
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