第佰伍拾参閑 かくかくしかじか
「勝負だぁぁぁぁ!」
「ほう、勝負とは何やら楽しげじゃの」
「まおーさま、ネネネは今日勝負下着ですのよ」
「一体何をしておるのじゃ?」
「ナニをしていますの?」
不意に後ろから聞こえた、二つの声。
雪を掴んで振り上げた手をそのままに、首だけで後ろを振り返ると、そこにいたのはお騒がせ三姉妹の二人。
ネネネとルージュだった。
「何かはしているけど、ナニはしていない」
「ふむ、見た所によると雪合戦かの」
依然として飛来している雪のたまをかわしながらルージュ。
「それならワシも混ぜろ」
「ネネネも、イキ合戦したいですの」
「いや、これは雪合戦でもイキ合戦でもない」
と言うか、イキ合戦って何だ……?
「それはアレですのよまおーさま。白いベッドの上で男女が交わすアレ。雪合戦で使うタマはキンと冷えた雪だま。しかしイキ合戦で使うのは、キンタ――」
「あーあー分かった、分かったから落ち着いて」
まったくもうまったくもう。
油断も隙もない奴だ。
気を抜けばすぐに下ネタを発しやがる。
「ネネネ、お前もたまにはもっと女の子らしい発言をだな」
まあ何が女の子らしくて、何が女の子らしくないのかは、よく分からないけど。
「ごめんなさいまおーさま、もう一度言ってくださいます? “たま”の部分しか聞き取れなくて」
…………。
「お前は何だ、煩悩の塊だな」
「本能の塊ですの」
あっそう……。
「おい、何でもよいがアスタよ」
ちょんちょんとズボンを引っ張るルージュ。
「ラヴリンは何をあんな必死になって、雪だまを投げ来ておるのじゃ?」
俺を見上げるその顔は、呆れたといった感じだった。
「いやぁそれがかくかくしかじかでな……」
「かくかくしかじか……何を言っとるのかさっぱり分からんのう」
なん……だと……?
「いやだからな――」
こうなった経緯を、簡単に説明する。
「ほう、そうじゃったか。うむうむ……」
ルージュは腕を組みしばらく黙考をした後
「ふむ、よし分かった。いい考えがある、ワシに任せろ」
言って、グッドサインを残し、雪だまの降る中ラヴのいる方に駆けて行った。
「と言うわけで、今から第一回魔王城雪合戦を開始する」
ラヴと何やら話をして戻ってきたルージュは、開口一番そう言った。
「どういうわけだよ……」
「かくかくしかじかじゃ」
かくかくしかじか。
本当だ、分からない……。
「何じゃどうしたアスタ、そのいまいちよく分からんと言ったような顔は」
「いや、そのおとおりだよ。かくかくしかじかじゃ、分かんないんだよ」
いまいちどころか全然。
「やれやれ仕方がないのぉ」
つまりこういうことじゃ、彼女はビシッと俺を指さす。
「確認も取らずにアスタを疑ったラヴリンを許すまじ。斯くなるなる上は。然るべきルールの下。直に決着をつけよ!」
それじゃあ斯々然々じゃなくて、確斯然直になるけどね。
遠からず、近からず。
「それで。そのしかるべきルールってのが、雪合戦と?」
「そのとおり!」
悪戯っぽく笑みをこぼした。
「でも雪合戦なんかわざわざしなくても、直に決着をつけられるけど?」
大体雪合戦をするにしても、大会を開いて全員でしなくとも、俺とラヴだけがすれば十分だし。
「まあ待てアスタよ、それではおぬしが負けてしまうのは明白」
確かにね……。
「それではあまりにも可哀想じゃと、そう思うて公平な場を設けてやったのじゃ」
「なるほどなるほど。で、それは建前として本音は?」
「雪合戦がしたいのじゃ」
素直で大変よろしい。
「ネネネもイキ合戦したいですの」
「ボクもムキ合戦したいのだ!」
「あらワンちゃん。ムキ合戦と言うのもなかなかエロいですわね」
「何がエロいのだ?」
「だって剥き――」
「あー! あー! やめろネネネ!」
綺麗なクゥに、変な知識を吹き込まないで!
「アスタロウ……私もする」
と、どうやら片付けが全て済んだらしいエメラダ。
お前は何だ、オキ合戦か? お仕置き合戦。
「ちょっと魔王、いつまでペチャクチャ喋ってるの! 早く決着をつけるわよ!」
ラヴはラヴで、ネネネのとは違う意味でムキ合戦だしな。
「はいはい。ならまずはチーム分けでも決めようか」
俺には危機合戦か死期合戦でしかなさそうだ……。
良き合戦になってくれればいいけど。
「――コキ合戦と言うのもエロいですし、ツキ合戦と言うのもなかなか。後はクキ合戦やサキ合戦なんかもそれなりにエロいですの」
「ふーん、ボクにはエロは難しいのだ」
「ネ! ネ! ネ!」
今日も読んでくださり、ありがとうございました。




