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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰肆拾伍閑 ブラッドレッド・ボルドー・ルージュの場合 甲

「いかんせんこういう書物には、嘘が書かれていることが多い」

「嘘?」

「うむ、それが故意であろうとなかろうとな」

 まあ本人が書いたわけではないのだから、真実と違うところも出てくるだろう。

 それにたとえ著者が真実の全てを知っていたとしても、やむを得ず書けないことだってあるだろうし。

 多少中身が真実と違うことは、仕方がないのかもしれないな。


「まず表紙からして嘘じゃ」

「は……?」

 それは想定外でした……。


「嘘が書かれておると言うか、嘘が描かれておる」

 ルージュに釣られて、先程まで持っていた絵本の表紙を見る。


「その本の赤毛の女、つまりワシが襲われている場所は、建物の中のように描かれておるの?」

「うん」

 大きな天蓋てんがい付きベッドがあったり、開け放たれた窓にカーテンがはためいていたり、明らかに部屋の中だ。


「じゃが実際にワシが吸血鬼に襲われたのは、外。モリじゃ」

「モリ?」

「うむ。今度はコウモリではないぞ? 森じゃ」

 森の中じゃ。

 と彼女。


「ワシはボルドー王国というそれなりに名の通った国の姫だったのじゃがの。あの頃はとんでもないおてんば娘で、姫らしからぬ行いばかりしておった――」

 今も十分おてんば娘なのだけど……。


「――その日も兄と一緒に城の周りの森で、今のワシと同じく、かくれんぼをしておったのじゃ」

「お兄さんがいたんだな」

 それは、初耳だった。


「うむ。父と母と兄がいて、毎日幸せに暮らしておったよ」

 吸血鬼になるまではの。

 そんなことを、まるで茶化すかのような声音で言うルージュ。

 まったく、この世界の住人と来たらなぜこうも。


「まあそれでじゃ。ワシはそのとき偶然にも、木の茂みに、隠れるに超最適な場所を見つけての。そこに喜んで隠れておった。じゃがの、その場所があまりにもよ過ぎて、兄に全然見つけてもらえんかったのじゃ」

「よくある話だな。それで忘れられて、遊んでた友達が皆帰っちゃうとか」

「はっ、そのとおり。兄は途中で探すのが面倒になって、ワシを放って先に城に帰っておった。そんなこととはいざしらず、いずれ見つけてもらえるじゃろうとワシはひたすら隠れておった」

 兄許すまじ……俺の家族に何たる仕打ちを。


「しかし日が暮れ始めて、さすがにこれはおかしいと気付いての。ワシも城に帰ることにした」

 じゃがその帰り道のことじゃった。

 彼女はわざとらしく芝居がかった低い声を出す。


「帰ることに夢中になったワシは、背後から近づく黒ずくめの男に気付かんかった。ワシはそいつに血を飲まれ気付いたら……吸血鬼になっておった」

「コ○ンか!」

 何だかそれだと、ルージュの体が小さいのは、その黒ずくめの男に薬を飲まされたからみたいじゃないか。


「背後から近づいてきたのが、鬼ではなく兄ならよかったのじゃがの。残念ながら背後からワシを襲ったその黒ずくめの男は、兄ではなく鬼じゃった。吸血鬼じゃった」

 いやいや、襲ってきたその黒ずくめの男が鬼じゃなくて兄だったとしても、それはそれでどうかと思うけど……。


「とまあこうして純血ではない混血の吸血鬼、ルージュちゃんの誕生というわけじゃな!」

 パンパカパ~ンとか一人で言っている。


「おおそうじゃ。ちなみに言っておくが、ワシは純血ではないが、純潔は守っておるぞ? 保っておるぞ?」

「なぜ今それを?」

「いやの、襲われたと言った手前“純血ではない”とか言うと、“純潔ではない”と勘違いするかと思うてな」

 そんな勘違いは微塵も、ミジンコ程もしていない。


「ちなみに姫じゃったからとは言え、まだ年齢が年齢。じゃから結婚もしておらんからの?」

「それもなぜ今?」

「いや、混血も混血で、結婚を連想させるではないか」

 血痕ならまだしも、混血から結婚を連想とか、全然、全く、しないのだけど。


「とりあえず安心せい。ワシはヴァージンじゃし、ヴァージンロードを歩いたこともない。正真正銘のおにゅーじゃ」

「分かった、じゃあそれは安心しておくよ。でもさ、一つ安心できないことがあるんだけど」

「何じゃ?」

「ルージュは吸血鬼に襲われて、血を飲まれて吸血鬼になったって言ったけどさ、お前、俺の血何度も飲んでるよな? 吸ってるよな? それって大丈夫なのか?」

 俺、知らないうちに吸血鬼になってたりして……。


「さぁの知らん」

「さぁのって、知らんって……」

「なるときはなるんじゃろうし、ならんときはならんのではないか?」

 何だよそのロシアンルーレット的な感じ。


「じゃがまあ大丈夫じゃろう。これはワシの勝手な見解じゃがの。ワシは襲われたとき人間じゃった。が、アスタ、おぬしは魔者じゃ。しかも魔王という最上位のな。じゃからおぬしから見て下位の魔者である吸血鬼に襲われたところで、遺伝子などが塗り替わり、吸血鬼に成り変わることはないじゃろう」

「……ふぅん」

 まあ、吸血鬼になってしまったとしても、別にいいような気がしないでもないけど。

 人間から魔王に、魔者になっているじてんで、そこからまた同じ魔者である吸血鬼になってしまったとしても、もう構わないというか、変わらない気がするし。


「でもそれで言うと、お前が昔襲った村人は吸血鬼になっているはずだけど、なってないよな?」

 村人が吸血鬼化したなんて情報、俺はゲイルから聞いた覚えはない。

 あいつの報告漏れという可能性も、十分にあるけど。


「それはどういうことだ?」

「さぁの知らん」

「……これもかよ」

「じゃからこれも、なるときはなるんじゃろうし、ならんときはならんのじゃろう。そしてなったらなったじゃし、ならんかったらならんかったじゃ」

 そんな無責任な……。


「お前はあれだな、おにゅーじゃなくて、おにだな」

 はっはっはっはそのとおり、と彼女は快活に笑う。


「ちゅーか話が逸れたの」

「ん? ああ、大分な」

「戻すとしよう」

 言って、彼女は俺の膝の上で体をくねらせ、座りやすいようポジションを整えると、再び過去の話をし始めた。

今日も読んでくださり、本当にありがとうございました。

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