表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
147/224

第佰肆拾肆閑 本より本物

「で? ルージュはこんな所で何を?」

 まさかあのルージュが、本を読みに来た、何てことはあるまい。


「隠れておるのじゃよ。年増と毛玉と、かくれんぼをしとってな」

 ああ、そう言えばそんなことを言ってたっけ。


「それにしてもあれじゃの、かくれんぼもなかなか疲れる遊びじゃの」

「そうか?」

 探す方はそれなりに動くとしても、隠れる方なんて休憩時間みたいなものだろうに。


「見つからぬように逃げるのは、なかなか骨を折るわい」

「え? 逃げてるの? かくれんぼをしてるんだよな?」

「そうじゃよ?」

「ならどうして逃げてるんだよ」

 俺の記憶が正しければだけど。

 かくれんぼは逃げる遊びじゃなくて、隠れる遊びだったと思うのだけど。


「じゃってのアスタ、相手おにはあの毛玉じゃぞ? 年増ならいざ知らず。あやつは人並みっちゅーか魔人並み外れた嗅覚と聴覚を持っておる。一つ所に留まれば、立ち所に見つかってしまうわい」

 なるほど確かに。

 クゥのあの耳もそして尻尾も、ただの飾りではない。

 人型で、魔物ではなく魔者だったとしても、正真正銘の獣なのだ。

 ルージュはたまに、毛者けもの言っているが。

 とにかくそんなわけで、感度は抜群なのだ。

 感度が抜群とか言うと、何だか語弊があるかもしれないけど。誤解をうむかもしれないけど。

 ただだからと言って遊ぶに当たって、その獣並みのクゥをのけ者にしない辺り、彼女の優しさである。


「ただの毛の癖に、卑怯じゃ」

 ルージュは、ケッ、と駄洒落なのか何なのか、そんな風に悪態をついた。

 相変わらず、中がいいのか悪いのか……。


 そういえば、吸血鬼ルージュの本で思い出したけど。

 吸血鬼と狼が味方として描かれている作品を、いくつか見たことがあるような気がするんだけどな。

 狼は吸血鬼のしもべだとか、そもそも吸血鬼は狼になれるだとか。

 いや、でも、吸血鬼と狼が対立しているお話もあったっけ。

 人狼が吸血鬼を退治する、みたいな。

 そうなってくると、今のルージュとクゥの仲が良いのだか悪いのだか分からない関係は、あながち間違ってもいないのか?


 いやいや、関係に間違いや正解なんてないけど。

 それに作品の吸血鬼と狼が敵であろうと味方であろうと、今の彼女たちには何も関係ないことだし。

 大体クゥは狼じゃなくてケルベロスだったな。

 これもトリとコウモリと同じ、似て非なるもの。

 ……なのか?

 狼も元は大神だとか言われてるし、ケルベロスは悪魔だし。

 神と悪魔で、存在的にはそれなりに近いもののような気がするんだけど。


 とか、そんなことを考えていると、俺のほぼ真正面に見えている、書庫の扉の片方がゆっくりと開く。

 隙間からひょっこりと顔を出したのは、噂をすれば何とやら、クゥだった。


 いや、噂をしたから影が差したと言うより、ピクピク動くあの耳と、ヒクヒク動くあの鼻からして、既にルージュの声を聞きつけたのか、それともルージュの香りを嗅ぎつけたのか、はたまたその両方か。

 まあ何にしろ、クゥがルージュの発見まで漕ぎつけたのは確かだ。

 見つかってしまったなルージュちゃんよ。


「アシュタ! ルージュねーさんは!?」

 クゥは俺に気付くと、その場から大声でそんなことを言う。

 一応書庫なんだから静かにしようとか、そんなマナーは今はいいとして

「え? ルージュならここに」

 言いながら視線を自分の腹の方に向けるも、そこに吸血鬼の姿はなかった。いなかった。


「あれ? ……え?」

 その代わりに、俺の腹が幼女一人分くらいの大きさに、巨大化していた。


「あ……」

 いた。俺の服の中にいた。


「ここにはおらんと言え」

 服の中から、小さな声でルージュは言う。

 やれやれ。


「ここにはいないんじゃないかな」

 ただこんな嘘をついたところで、声や匂いをたどってきたのなら、もうバレバレだろう。


 そう思ったがしかし

「わかったのだ!」

 クゥは俺の言葉を一切疑うことなくそう言って、扉を閉めた。



「……」

「いやはや、あの毛玉は本当に単純じゃのう」

「純粋と言ってくれ」

 クゥが去ったのを確認すると、もぞもぞも服の中から出てくるルージュ。


「ま、そのおかげで見つからずに済んだがの」

「俺はそのおかげで罪悪感でいっぱいだよ」

 あの純粋な生き物に嘘をついてしまうなんて。

 疑われた方が、まだましだ。


「罪悪感のぉ……まあ、泥棒の片棒を担いだみたいなものじゃからの」

「泥棒って、俺は何も盗んでないよ」

「嘘つきは泥棒の始まりと言うじゃろうが」

「そうだけど」

 それは“嘘つき=泥棒”なんじゃなくて、“嘘つき→泥棒”だろう。

 嘘をつくような奴は泥棒もするようになるとか何とか。


「のうアスタ、嘘つきは何を盗むんじゃろうな? 心かの?」

「ル○ンか、とっつぁんか……でもそれはまあ、そうなんじゃないか? 合ってると思うよ」

 “嘘つきは泥棒の始まり”という言葉の意味は、間違っていたとしても。


「ま、何でもいいわい」

 言って、彼女はだらんと俺にもたれかかる。


「そんなことより、これはなかなかよい戦法じゃの」

「服の中に潜るのがか?」

「そうじゃ。体も匂いも隠せる」

「確かにな。でもそれなら、影の中に潜った方がいいんじゃないか?」

「それは反則じゃ。絶対に見つけられん」

 そこら辺は、しっかりルールを守っているらしい。


「ちゅーか、見つけてもらえん……」

 それもそうだ。


「もう逃げ回るのも疲れた。この戦法で、見つかるまでここで休憩じゃ。鬼の居ぬ間にならぬ、犬の居ぬ間に洗濯じゃの」

「鬼でも正解だけどな」

 かくれんぼの鬼なのだから。


「と言うか、それは見つかるまで俺も付き合うということですか?」

「そういうことになるの。何じゃ、ワシに付き合うのは嫌か?」

「いいや、そんなわけないだろ? 最後まで付き合わさせていただくよ。ただ、その代わりと言うわけじゃないけど、見つかるまでルージュの過去の話を聞かせてくれないか?」

「ほう、過去の話を?」

「そう。絵本で知るよりいいかなって。嫌なら、無理にとは言わないけど」

「別に構わんよ」

 彼女は即答した。


「さっきも言ったじゃろう、おぬしらになら、何を知られてもよいと」

 ら。

 ね。


「暇つぶしにもなるじゃろうし。それにアスタの言うとおり、どうせ知るなら、本より本人からの方がよいじゃろうしな」

 そう言うと、彼女は俺が持っていた絵本を手から取り上げ、脇に置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ