表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
146/224

第佰肆拾参閑 『吸血姫~ヴァンパイア プリンセス~』

「イテテテテ……」

 やれやれラヴに貰ったのが結局スキでもキスでもなくキズとは……。

 頬のキス(マーク)

 ではなく。

 ただのキズあとをさすりながら、両開きの、華美な彫刻と過度な装飾のなされた、やたらめったら巨大な扉を開け書庫へと入る。

 そこは、しんと静かできんと冷たい、初夏とはまったくかけ離れた、雪の降る夜のような空気が広がっていた。


「何度来ても凄い場所だな……」

「まあ、そうね」

 ラヴと二人して上を見上げる。

 見上げたところで天井など見えないのだけど。

 見えるのは闇だけ。

 バカみたいに広い円形の部屋。

 その壁に沿うように、壁を覆うように備え付けられた棚に、びっしりと並べられた本。

 それが果てしなく、どこまでも上へと続いているのである。

 どこまでもどこまでも。


 まったく、この城は一体全体どうなっているというんだ。

 この書庫のことも、そして倉庫のこともそうだけど。

 外から見た城の形と、内部の構造が違いすぎる。


「あれ、どこまで続いてるんだろうな……」

「さぁ、行ってみれば?」

「嫌だよ」

 どれだけ階段を上らないといけないのか、分かったもんじゃない。

 グルグルグルグル、目を回すよ。

 それに上まで行けたとしても、きっとそこにあるのは天井や屋根なんかではなく、やっぱりただの闇だろう。


「にしても書庫……じゃなかった、ここ、料理のレシピまで置いてあるんだな」

 莫大で膨大な種類の本が置いてあるとは聞いていたが、まさかそんな料理のレシピまであるとは。


「そうね。子供向けの絵本や一般的な書籍、そして学術書や歴史的価値のある書物、更には魔道書、あげくの果てには禁書まで。本当に何でもあるわね……」

 まあ全てが本物かどうかは、私は本に詳しくないから分からないけど、とラヴ。


「ってここアンタの城でしょ?」

「……そうだけどね」

 ネバネバですし、多分永遠にネバネバですし。


「そうだ、最近気付いたんだけど。ここの本、今もなお増え続けているのよ。しかも自動的に。何なのここ?」

「さぁ……」

 移動図書館ならぬ、自動図書館ってか?


「さぁって……まったく。で、アンタはどうしてここに来たの? 何か読みたい本でもあるの?」

「いやぁ……」

 特に無いんだよな……ここに来た目的も、そして読みたい本も。

 ただ暇だから付いてきただけだし。


「な、何だったらその本、一緒に探してあげても、良いわよ? 一応種類別に並んではいるけど、これだけの本の中から見つけるのは、大変だろうし」

「……」

「そ、それにアンタはバカだし!」

 バカは余計だバカは。


「うーん」

 読みたい本ねぇ、特にないんだけど……でもせっかくのラヴの気持ちを、無下にするのも嫌だし。


「そうだラヴ、ここには絵本もあるんだよな?」

「ええ、そうね」

「じゃあ、ルージュのことが書いてある絵本もあるかな? ほら、ルージュが初めてこの城にやって来て自己紹介をしたとき、お前、ルージュのこと『子どもの頃読んだ童話の絵本に出てきた』とか言ってただろ?」

 ルージュの過去も少し気になるところだし、丁度良いだろう。

 まあ絵本じゃなくとも、伝承とかにもなってたと言っていたけど。

 伝承が記されたような本なんて難しそうだし……今は絵本で十分だ。


「ああ、あると思うわよ。絵本の棚は……えーっと、あっちね」

 ラヴは辺りを少し見渡すと、迷うことなく歩いていく。



「これね」

 本は、すぐに見つかった。


「『吸血姫~ヴァンパイア プリンセス~』、はい」

 ラヴはそう言いながら本を棚から出すと、俺に手渡した。


「ありがと」

 その本の表紙には、黒いこうもりのようなマントを着た牙の生えた男と、それに襲われそうになって怯えている、綺麗な白いドレスを着た髪の赤い女の子が描かれていた。


「にしてもどうしてそれなの?」

「いや、特に理由はないんだけど」

 ただ、咄嗟に思い浮かんだだけだ。


「まあいいわ。じゃあ私はレシピを見に行ってくるから」

「んー」

 背を向けるラヴに軽く手を上げた後、俺は床にあぐらをかき、そして本を開いた。


「なになに」

 それはどこにでもよくあるような『むかしむかし』から始まる、普通の絵本だった。


「むかしむかしあるところに――」

「ワシがおった」

「うぉっ!?」

 本の下をくぐり突然にゅっと現れたのは、今読んでいる絵本『吸血姫~ヴァンパイア プリンセス~』の主人公であるところの幼女。

 ミニスカモノクロドレスをまとったゴスロリのロリ。

 深紅の髪を腰まで垂らしたロリロリのロリ。

 ルージュだった。


「びっくりさせるなよルージュ」

「どっきりじゃよ」

「なら大成功だ」

 どっこいしょ。

 と、あぐらをかいた俺の脚にすっぽりはまり、小さな背中でもたれかかってくるルージュ。

 彼女の真っ赤な髪が俺の下半身に垂れ下がる様子は、まるで自分が流血をしているかのようだった。


「してアスタ、こんなところに座って、何を読んでおるのじゃ?」

「何をって、知ってたんじゃないのか?」

「ん?」

「いや、だって『ワシがおった』って、今言ってたじゃないか」

 それはつまり自分が出ている物語だと、知っていたということじゃ?


わしがおった?」

「いや鳥はいないから」


「足を折った」

「大変だ! 助けないと!」


「鷲は言った」

「何と!?」


「足を折った」

「聞いたよ!」


「鷲は行った」

「あれ行っちゃったの? 足は?」


「足治った」

「回復力!」


「ああ、ワシがおった、じゃったの」

「何だよそれ、もうええわ」


「「どうも、ありがとうございましたー!」」

 伝説のコンビ、書庫での迷惑ライブだった……。


「そう言えばそんなことを言ったの、鷲がおった、と」

「だから鷲じゃなくてワシだ」

 それともお前は本当に鷲なのか? 鳥なのか? 鳥頭なのか?

 物忘れが激しすぎる、早すぎる。


「ああそうじゃそうじゃ、ワシ、じゃな」

「そ」

 まあ、言葉にすればどちらも同じだけど。


「お前はトリじゃなくてロリだろ」

「ロリじゃの。そしてトリと言うよりは、吸血鬼はモリじゃの」

「モリ?」

「コウモリじゃよ」

 トリとは似て非なるものじゃ。

 と彼女は言う。

 ふむ……そう言えばコウモリは空を飛ぶけど、鳥類じゃなくて哺乳類なのだっけ。

 蝙蝠こうもりも鳥のうち、なんて言葉があるけど、あれはまた違うか。


「それで、結局何の本を読んでおるのじゃ?」

「何だよ、本当に知らなかったのかよ」

 『ワシがおった』って言ったのは、ただのでたらめのでまかせでか。

 ま、何でもいいけどね。


「タイトルは『吸血姫~ヴァンパイア プリンセス~』内容は、知ってるんだろ?」

 多分。


「吸血姫……ああ、知っておるとも。読んだことはないが、嫌と言うほどな」

 しばらく沈黙した後、ルージュは首だけで反り返るように俺を見上げる。

 そして笑った。


「何じゃアスタ、ワシに興味でもあるのかの?」

 その笑顔はロリに出来るようなものではなかった。

 それこそトリが獲物を捕るときのような、鷲が獲物を狩るときのような目つきだった。


「えーっと、ルージュさん」

 怖くなるほどに蠱惑こわく的なその笑みに、俺は困惑する。


「怒ってらっしゃいます?」

「なぜじゃ? なぜそう思う?」

「いやーだってほら、勝手に過去を探るような真似をしてですね」

 ルージュはフンッと鼻を鳴らす。


「そんなことで怒るわけなかろう。おぬしらになら、何を知られても嫌では無いわい」

 ら。

 ね。


「そうではなく、嬉しいのじゃよ。ワシに興味をいだいてくれての」

 何なら興味だけでなく、このまま、ここでワシを抱いてくれてもよいのじゃぞ?

 彼女は言いながら、健全ではなく嫣然えんぜんと、唇を舌でなぞる。


「何とんでもないことを口走ってるんだよ!」

くちばし?」

「まさかお前は本当にロリじゃなくてトリなの?」

「ふっ冗談じゃよ。ワシはロリじゃ。じゃから『抱いて』じゃなくこう言えばいいんじゃろ?」

 相変わらずの首の痛そうな態勢で彼女は言う。


「抱っこしてっ!」

 今度はロリロリな笑顔だった。


「かっ……」

 可愛いぃぃぃぃっ!

 結局どちらにしろ魅力的で魅惑的じゃないか!

 このまま抱きしめて、法律に引っ掛かるようなことをしたい!


「ぬぉぉぉぉ!!」

 っておい……落ち着け、俺……。


「ふぅ……」

 深呼吸深呼吸。

 何だか凄く弄ばれてしまった感があるな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ