第佰参拾玖閑 ハッピーニューイヤーン
「それにしてもネネネ、お前がここにいるのは珍しいな」
ルージュとクゥが一緒ならまだしも、ラヴと二人でなんて。
「今日はあの二人とは一緒に遊ばないのか?」
と言うかまず、ルージュとクゥがどこにいるのか不明なのだけど。
「いいえ、遊んでますのよ? 三人でかくれんぼをしていますの。今はまおーさまを掴恋慕ですけど」
言って、ネネネは俺の腕をぎゅっと掴む。
それについてはよく分からないけど……。
「かくれんぼ?」
「ええ、ネネネはここに、こたに隠れているんですの」
こたって……とうとう略称まで付け始めたか。
最初はこの異世界にこたつがあることに、彼女たちがこたつに入っているという風景に、多少なりとも違和感を覚えたものだけど、最近ではすっかり馴染んできて、それもなくなってしまった。
「ふうん」
にしても本当に隠れる気はあるのだろうか……。
全身とまでは言わないが、せめて首の辺りまで中に入り込むくらいしろよ。
「かくれんぼね……せっかくいい天気なのに、外では遊んでないんだな」
「いい天気だから、ですのよ」
「……?」
「お日様の熱で霜が溶けて、土がびしょびしょですのよ」
「ああ、そうか、それもそうだな」
そう言えば部活をしてたときも、それで大分苦労したっけ。
朝はまだ凍ってるからいいけど、昼に近づくにつれどんどん土が湿り気を帯びていって、十二時になる頃にはもうグショグショのドロドロで、目も当てられないような状態になるんだよな。
「ええ。ちなみにまおーさまの熱を感じて、ネネネの○もびしょびしょですの」
「あのなあネネネ、少しは自重しろっていつも言ってるだろう?」
まだ朝なんだよ? しかもまだまだ始まったばかりの。
「あら、しっかり伏字にしたではありませんの」
まあ確かに『○』にしてる辺り、努力の影が見えるけど。
「まだ足りない、まだハードだ。ハーフにしてくれ」
「それもそうですわね。『○』もこれで、穴のようで卑猥ですし」
その発想は俺にはなかったけど……。
「もう少しワイルドにしますの」
「それ以上ワイルドにするな、マイルドにしろ」
「冗談ですのよ、おほほのほ」
では改めて、とネネネ。
改めて言い直すほどのことでもないと思うけど。
「いい天気だから、ですのよ」
そこから!?
ま、まあ仕方ない。
「……?」
「お日様の熱のせいで溶けた霜で、土がびしょびしょですのよ」
「アア、ソウカ、ソレモソウダナー」
「ええ。ちなみにまおーさまの熱で、ネネネの下の口もびしょびしょですの」
「全然マイルドになってないよ!」
ワイルドになってると言うか、ワルくなってるよ。
ワルイ度上がってるよ!
「ならもう一度言いなお――」
「さなくていいよ。もういいからおとなしくしてて、ね?」
何度やっても同じか、それ以下になるだけだ。
大体どうして新年早々、早々って言うほど早々でもないかもしれないけど、股の話をするんだ……。
「それはアレですのよまおーさま。せっかく年も明けたことですし、一緒に股も開けておこうかと」
「意味が分からん!」
正月にするのは股開きなんかではなく、鏡開きだ!
「ちなみに、『新年、明けましておめでとうございます』は『ハッピーニューイヤー』ですけど、『お股、開けましておめでとうございます』は『ハッピーニューイヤーン』ですのよ」
相変わらず下ネタ方面には頭の回る奴だ。
やれやれ……。
「開かなくていいの、閉じておいて」
下のお口も、そして上のお口も。
「はーいですの」
「……ふぅ」
「扉は開けるのだっ!」
「――っ!?」
ようやくネネネを無力化できたと思った矢先、そんな声と共に、バンッと食事の間の扉が開かれた。
そこから入ってきたのは元・四天王素早さ担当、ゲイル・サンダークラップ、ではなく。
ケモ耳褐色少女の、クゥことクゥニャ・サー・ベラスだったのは、せめてもの幸いだったが。
「ネネねーちゃんみっけなのだ!」
「あらあら、見つかってしまいましたの。おほほのほ」
「ついでにアシュタも見つけたのだ!」
どうやらこの世界は、俺に落ち着いて朝食を摂らせる気はないらしい。




