表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王TUMN:秋】
139/224

第佰参拾陸閑 テイクアウト&テイクオフ

 雲の切れ間。

 世界の切れ目とでも言おうか。

 まるで一足先に雪が降り積もったのかと錯覚してしまうような、一面の真っ白な雲海は突如としてそこで終わり。

 そこから一歩先は世界が色を取り戻し、絵の具を適当に塗り重ねたかのような、色とりどりだけどどこか暗い、そんな秋の景色が広がっていた。


 さて。

 ここから下に向かって飛び降りるのである。

 何度も飛び降りてきた、ベテランの飛び降り男であるところの俺でも、経験のない高さだ。

 一軒家の二階や、病院の五階などとは比べ物にならない。

 本当に大丈夫なのだろうか。

 死んだら終わり宣言をされたこともあって、未だに迷っているのだけど……。


 まあ実験では、それなりにスピードを緩めることに成功している。

 ただこの高さでも同じ結果が得られるのかは、全く分からない。

 でも何だったかな、どこでだったか“パラシュートはある程度の高さがないと意味を成さない”って聞いたことがあるような気がするのだけど。

 そうなってくると、むしろこの高さの方がいいのか?

 ……考えを巡らしたところで、答えは見つからないか。


「そうだキューピーちゃん。ロープを取りに家に戻ったとき、お父さんに出会った?」

「ううん、出会ってない。やっぱり他の用事をしてるんだと思う」

「そっか」

 ふむ……キューピーちゃんだけに任せるんじゃなくて、俺も直接頭を下げようと思ってたんだけど。

 そうなると、花を切り倒さないでくれと言うお願いは、キューピーちゃん一人で頼んでもらうしかないな。

 絵を貰い、糸を貰い、手伝ってもらい、運んでもらい、そして頼んでもらう。

 何だかもらってばかりで申し訳ないな……。


 そう思って、自分のズボンのポケットに手を突っ込み

「キューピーちゃん、これでお返しになるかは分からないけど、これ、あげるよ」

 そこから金色の玉、花の種を取り出して、彼女に差し出した。


「これは何? きん? それともかね?」

きんでもかねでもない、たねだよ」

 あの花の種、と、俺は青空で羽根を広げる白い花を見上げ、指さす。


「ほんとに? 貰ってもいいの?」

「うん、色々助けて貰ったせめてものお礼だよ」

 種は二つあるのだ、一つくらいあげてもいいだろう。


「あんなに大きくなることはないと思うけど、それでもきっと綺麗な花が咲くよ」

「ありがとー。大切に育てるよ」

「よろしく。よし、じゃあそろそろ帰るとするよ」

 太陽の高さは、既に自分の目線よりも低い位置になっていた。

 結局ラヴの作ってくれたお弁当を食べることは出来なかったなぁ。

 彼女の言葉の、食べられないかもしれないという可能性が、現実のものとなってしまったわけだ。

 とかそんなことを考えつつ、俺は雲の地面がなくなってしまった景色を、正面に見据える。


「さあ魔王さん、飛び降りる覚悟は出来ましたか?」

 何となく、楽しげな声のヴァイオレット。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……もう少しだ」

「何ですか、まだウジウジのうじ虫なんですか? 早くしないと日が落ちてしまいますよ?」

「分かってるって」

 と言うか、この状況で“落ちる”とか、一番言ってはいけないタイミングだ。


「よし」

 と、覚悟を決めるため、深く息を吸い込もうとしたときだった。


「――――!!」

「――!!」

「――――――――!!」

 俺が決心するのを妨げるかのように、なにやら背中の方で叫び声が聞こえてくる。

 何度も何度も。


「アスタァァァァ!」

「アシュタァァァァ!」

「まおぉぉぉぉさまぁぁぁぁ!」

 振り返ったその先にいたのは言うまでもない。

 満を持して、彼女たちの登場である。


 休憩中だった吸血鬼のルージュ。

 居なかった犬のクゥ。

 そして再び登場のネネネ。

 彼女たちは三人揃って、猛スピードで、こちらに向かって走って来ていた。


「こらぁぁぁぁ!」

「ん……?」

 それと、そんな彼女たちを追いかける男が一人。

 大男、巨大男。

 まあつまり巨人。サイクロプス。

 キューピーちゃんより更に大きい、一つ目の男の巨人。


「キューピーちゃん、あの男の人ってもしかして」

「わたしのパパだよ」

「だよね」

 だと思った。

 花を切り倒すために使うであろう、巨大な斧を持ってるし。


「待たんかぁぁぁぁ!」

 まあでも今は花を切るためじゃなく、三人娘をキルするためにそれを振るっているようだけど……。

 どうやらキューピーちゃんのお父さんがなかなか来なかったのは、あいつらのせいっぽいな。

 あいつら一体何をしたんだ。

 キューピーちゃんのお父さん、ありゃかんかんだぞ。

 顔真っ赤だぞ。赤鬼だ。

 サイクロプスが一つ目の青鬼という俺のイメージが、完全に塗り替えられてしまった。


 と言うか、あれがキューピーちゃんのお父さんで、怒らせたのが彼女たちなのだとするとだ。

 あいつら三人とは、他人のふりをしないと。

 怒らせた奴らの仲間だと思われたら、花を切り倒さないでくれというお願いを、聞き入れて貰えないなんてことになりかねない。

 むしろ積極的に、切り倒されるかもしれない。

 そうなっては困る。


「アスタァァァァ!」

「アシュタァァァァ!」

「まおぉぉぉぉさまぁぁぁぁ!」

 無視だ、無視。

 アスタ?

 アシュタ?

 まおーさま?

 誰だそれ、俺は知らないぞ?


 と言うかお前たちが誰?

 吸血鬼?

 夢魔?

 ケルベロス?

 知らない知らない、俺は知らない。


「アァァァァスゥゥゥゥタァァァァ!」

「アァァァァシュゥゥゥゥタァァァァ!」

「マオォォォォサマァァァァ!」

「はぁ……」

 嘘だよ嘘、冗談だよ冗談。

 たとえどんな理由があったとしても、どんなに不利になったとしても。

 俺はあいつらと他人のふりなんて、できない。

 しない。

 してやらない。

 仕方がない、こうなったら一緒に帰るか。

 いや連れて帰るか、いやいや持って帰るか……。


「なぁヴァイオレット」

「はいはいどうしました魔王さん」

「俺につかまれ! ってセリフは、なかなかいいと思わないか?」

「そうですね。俺の後ろに隠れてろ! と並んで、死ぬまでに言ってみたいセリフランキングに、入れて差し上げてもよいセリフですね」

 ふむふむ、そうだろうそうだろう。

 となったら、うじ虫も、そして無視も終わりだ。

 彼女たちをテイクアウトして、それからテイクオフしよう。


 ようやく飛び降りる決心をし。

 こちらに走ってくる三人娘に向かって、駆け寄る我が子を受け止める父のように手を広げ。

 俺につかまれ!

 言った。

 否。

 言おうと思った。

 がしかし。


「ごふっ――!?」

 彼女たちは言い終わる前どころか、言い始める前に、もとからそのつもりだと言わんばかりに俺に飛び付いた。抱き付いた。

 ルージュは頭に。

 ネネネは胴に。

 クゥは脚に。

 超特急で走ってきた勢いそのままにだ。

 子どもが親に飛んで抱き付いた、なんて可愛いものではない。

 それはもう突進だった。猛突進だった。


 とまあそんな感じで。

 人三人に飛び付かれ。

 美女三人に抱き付かれ。


「がはっ……」

 色んな意味で天に昇りそうになりながら、俺は雲から落ちたのだった。飛び降りたのだった。

 まあ幸いなのは、意識までは落としてしまわなかったということだろう。

 一日にそう何度も気絶なんてしてられるか。

 落ちていく最中さなか、どんどん遠ざかっていくキューピーちゃんに向かって叫ぶ。


「キューピーちゃーん! 色々ありがとー! 花のことは頼んだよー!」

「うーん分かったー! わたしもありがとー! また会おうねー! ばいばーい!」


 こうして俺の空の旅は、無事、幕を――

「とんでもない目に遭ったわい……」

「怖かったのだ……」

「一番の被害者はネネネですの……」

 ゼェゼェハァハァと、肩で息をする三人。

 まだ下ろせそうにないな。

 まずは自分たちが無事に降りないと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ