第佰弐拾壱閑 ゲートオープン!!
「それでカバさん」
よっこらしょと、カバンを背負い直しながらヴァイオレット。
「その本来の目的とは? カバさんは、そんなに大きなカバンを背負って、どこへ?」
「だから言ってるじゃないか、のぼるって。俺はこれを登って、雲の上に行くんだよ」
これ、と、俺は眼前に聳え立つ塔を指さした。
「ほほう、そうでしたか。まあ、お見かけしたときから、何となくそうなんではないかと思ってはいましたが」
「で、ヴァイオレット。君こそ、そんなに大量の荷物を持って、どこへ行くんだ?」
彼女の背中には、俺と同じく大きなカバン。
更に腰には大量のロープなどなどがくくりつけられていて、見ているだけで重たそうだ。
何だろう、城で大規模な盗みでもしようとしているのだろうか。
「う~ん、これこそJACKですかね」
ジャック?
「あ、切り裂きの方じゃありませんよ?」
切り裂きジャックじゃないジャック。
「つまり、豆の木と?」
ジャックと豆の木。
「ええそうです、私も魔王さんと同じで、それを登って、雲の上に行こうと思いまして」
それ、と彼女も俺がしたのと同じように、塔を指さす。
まぁそれは、豆の木じゃなくて、花の茎だけど。
「そしてお宝を強奪してこようかと思いまして」
フヒヒ、と悪そうな笑みを浮かべる彼女。
結局盗みを働きに行くつもりか……。
ふむ、とにかく、目的は違えど、目的地は同じと。
まあ俺も俺で、ヴァイオレットの目的地は、俺と同じなんではないかという予想はしていたのだけど。
ただ、この小人に、個体ならぬ小体に、目の前の巨大な花を登りきれるのかが、はなはだ疑問だ。
「ですよね~、私も正直登れないと思っていたんですよ。ですので、目的地を変更します。私は山に登ります!」
「山?」
「はい。まぁ、山は山でも登るのは魔王さん。いえ、魔王山あなたですが」
ヴァイオレットは言うが早いか、俺の足元まで駆け寄り、そして服の裾をつかんで、素早く俺の体を登っていく。
脚から腰へ。
「よいしょ」
腰から背中へ。
「よいしょよいしょ」
背中から首へ。
「よいしょよいしょよいしょ」
そして最後に頭上へ。
「ふぅ、無事頂上に辿り着きました」
「……」
「魔王山登頂成功です」
言って、俺の頭頂部にカバンを下ろし、腰も下ろす彼女。
「何だよヴァイオレット、お前はそこに座って楽して、後は俺に登らそうってか?」
「はい? 何言ってるんですかバカさんカバさん。私の目的地はあくまでも魔王山の頂ですよ?」
「なら座ってないで早く降りていただきたい、下山していただきたい。登頂は成功したんだろ?」
それなら次にするべきことは、下山だ。
「下山……? あぁあぁ下位隅底目カバ科の魔王山、略して下山ですね」
そんな略し方があってたまるか!
「まぁいいじゃないですか、お願いしますよ魔王さん。いえ、今の状況からすると、お馬さんと言った方がいいですかね?」
そして私はジャックじゃなくて、ジョッキーです、とヴァイオレット。
いやまあ確かに、俺の元の名前は桜満ですけども、桜満さんですけども。
「お馬さんバッカバッカですね」
「お馬さんはパッカパッかだ」
まったく、人のことを山だの馬だのと好き放題言ってくれる。
山を持っているのも、馬の尻尾を持ってるのも、自分の方だろうに。
「やれやれ、分かったよ。それじゃあ落馬しないように、しっかり手綱に掴まっておけよ?」
「わーい! 各馬一斉にスタートでーす!」
かくしてようやく俺とヴァイオレットは、いや、俺は、天高くそびえ立つ塔を登り始めた。




