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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王TUMN:秋】
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第佰弐拾閑 ヴァイオレットは毒の色 

 そんなことより魔王さん、と、突然打って変わって、真剣な顔つきと真剣な声でヴァイオレット。

 彼女は背負ったカバンを下ろし、地面に膝をつき、手をつき、そしてさらには額までつけ

「キノコの件、改めて、ごめんなさいでした」

 謝った。

 誤って、高級キノコではなく毒キノコを渡してしまったことを。


「いや、もうそのことはいいんだって、十分に、十二分に謝って貰ったし」

 俺に毒キノコを渡してしまったことに気付いた彼女は、わざわざ魔王城までやって来て、俺が目を覚ます前も、目を覚ました後もずっと、こんな風に謝り続けてくれたのだ。

 十分じゅっぷんでもなければ、十二分じゅうにふんでもない。

 何時間、何十時間と謝り続けてくれたのだ。


「それにそもそもわざとじゃなかったんだから。ほらヴァイオレット、顔を上げてくれよ」

「本当にごめんなさい、そしてありがとうございます」

 彼女は、魔王さんは少し見ないうちに大きくなられました、と言いながら、顔を上げ立ち上がった。


「そうか? そんなに大きくなった気はしないけど」

「身長じゃなくて、心の方ですよ。しんではなく、しんです」

 そっちの方が、大きくなってないような気がするのだけど……。


「と言うか、さすがにここまで謝られて許さない奴とか、心が狭すぎ、ケツの穴が小さすぎだろう」

「そうですよねー、さすがに許して然るべきですよねー」

 え……? ま、まぁ確かにそのとおりなんだけど。

 一体何を言い出すんだこの子は。

 叱るべきだろうか。


「あのですね魔王さん、今だから言えますけど、毒キノコを渡したのはわざとです」

「わざとなのかよ!」

 今は一番言っちゃいけない場面なんじゃないかな!?


「言ったじゃないですか、表なしの裏ありだって。あ、でも好意で渡したんですよ?」

「毒キノコを渡す行為のどこにそんなもんがあるって言うんだ?」

 ありがた迷惑過ぎるだろう……。

 これこそ、ありがたいなどという気持ちは、有り難い……。


「いやぁ、だって魔王さんってバカでしょう? だからそれを治してさしあげたいなと思いまして」

「バカ呼ばわりは一旦置いとくとして、なぜそこで毒キノコなんだ!?」

「バカは死なないと治らないって言うじゃないですか? つまり死ねば治るんです!」

「――――っ!?」

 とんでもない発見をしてしまった博士のように、そんなことを言う彼女は、博士のように腕を組み、更に続ける。


「だからこその、毒キノコです。バカにつける薬はないと言われますが、そうなってくると『死』こそが、バカにつける薬ですよねぇ、はい。まぁ、試薬ならぬ、死薬DAETHね」

「言ってる場合か! 災厄だよ! 災薬だよ!」

 たとえ死ん(クスリ)でバカが治ったとしても、死んじゃってたら意味無いよ!

 そんなもの薬でも何でもなくて、ただの死だよ!


「クスリ」

 笑い事じゃない!


「と言うか、それって別に死ねば何でもよかったんだよな!?」

 それなら毒キノコじゃなくても、最悪、建築中のあの場にあった、トンカチででも殴って殺せばそれでよかったんじゃないのか?

 いくら小人サイズの小さなトンカチだと言っても、それなりの殺傷能力はあるだろう。


「さすが魔王さんですね、そこに気付くとは。仰るとおりですよ? ただまあ、毒は薬にもなると言いますしね。だからあえて、毒キノコでの殺害を選びました」

 まったく……本当にとんでもない奴だな……。


「あのさぁヴァイオレット」

「はい」

「俺、お弁当持ってきたんだけどさ。作った人に、おかずに『とびこ』が入ってるって言われたんだよ」

 少し前、人魚の恩返しで大量に手に入れた魚の中にいた、トビウオ。

 その卵の塩漬け、とびこ。


「いや、言われたと思ってたんだよ。でもそれは間違いだったみたいだ」

「はい?」


「今日の俺のお弁当の中に入ってるのは、『とびこ』じゃなくて、『こびと』だったみたいだ」

「わーわーわー! 嘘です嘘です! わざとじゃないですよ! 冗談です! だから私を食べないでください! 過去は変えられませんから!」

「またまたイッツ小人ジョークと?」

「Yes! It's KOBITO joke!」


「「HAHAHA!!」」 

 何だろう、やっぱりこれだけで何でも許せる気になってくるのが、不思議だ。


「いやすみません魔王さん、冗談が過ぎました。これではJOKEじゃなくて、JACKです。切り裂きです」

 確かに自分で自分の傷口を広げたどころか、切り裂いた感があるな……。


「全然構わないよ」

 わざとではないことは知っている。

 それに、わざとだったとしても、あのキノコは『シビレルだけ』と言って、その名のとおり食べれば体がしびれるだけで、致死性の毒は有していなかったらしいし。

 俺が意識を失った原因は、ヴァイオレットじゃなくて神様にあるのだ。


「ですよねー、構わなくて然るべきですよねー」

「……」

 やっぱり叱るべきだろうか。


「ヴァイオレット、もうそのくだりはいいから」

「くだりはいい? では、のぼります?」

「ん? ああそうだな」

 俺はこの花を登らなくてはいけないんだ。

 楽しくなっちゃって、ちょっと道をそれ過ぎた。

 地道も、天道もそれ過ぎた。

 そろそろ、本来の目的に戻らないと。

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