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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王TUMN:秋】
121/224

第佰拾捌閑 イエスかキリストかで答えなさい。

「種を取れば……明日にはしぼむ……縮む」

「……?」

 一瞬エメラダが何を言っているのか、何が萎むのか、縮むのか分からなかったが、種を取ると言えば一つしかない、鼻ではなく花のことだろう。

 俺は、鼻の種と言えば鼻くそなのか、いや、鼻くそは“鼻の種”ではなく“鼻のきたねぇ”なのか、とか、そんなエメラダに怒られそうなことを考えながら

「そうなんだ」

 と、答えた。


「……そう」

 その言葉を聞いて立ち上がったのは、俺ではなくラヴだった。

 この『立ち上がる』が、『決起する』的な意味合いならよかったのだがしかし、この『立ち上がる』は文字どおり、ただ椅子から体を浮かしただけだ。


 そして無言のまま彼女は食事の間の先の厨房へ向かい、そこから何やら籐のカゴを持ち出して来たなと思ったら

「んっ」

 それを俺に突きつけた。


「ん?」

「お弁当よ。これ持って、行ってきなさい。ピクニックに」

 クリニックの間違いじゃないだろうか……?


「登ってこいと?」

「そう、のぼってきなさい」

「それは登るなのか? 昇るなのか?」

 なぜ平仮名なんだ。


「それはアンタの返事次第。YESが登るで、NOが昇るよ」

「酷い!」

 拒否権がない!


「ごちゃごちゃ言ってないで、いってきなさいよ」

「また平仮名だ!」

「YESなら行く、NOなら逝くよ」


「アスタロウ……のぼる? いく?」

 エメラダも、平仮名だった。

 俺をじっと見つめる、あおい瞳と、みどりの瞳。


「う……わ、わかったわかったよ。YESだ。登るよ、行くよ」

 まったく、しょうがないな。

 カスタマーサービスならぬアスタマーサービスが、お客様、エメラダと町民のご要望を承りましょう。


「それで全部解決するんだろ?」

 エメラダのお願いの件も、町民の不安の件も。


「そうよ。それにいいこともたくさんあるじゃない。師匠に喜んで貰える……かもしれないし。町の人との関係性をよくできる……かもしれないし。そ、それに、私のおいしいお弁当を食べられる……かもしれないし」

 他の二つはいいとして、お弁当を食べられないという可能性があるのか……。


「ただラヴ、登るのは、行くのはいいとして、少しだけ条件がある」

 条件……? と揃って首を傾げる、ラヴとエメラダ。


「そ、条件。何たって命を賭けるんだからな」

 落ちることに定評のある俺でも、さすがにあの高さから落下すれば、命が欠ける。

 死亡する。脂肪を撒き散らし。

 一溜まりもなく、血溜まりになる。

 まぁ町の人との関係性については、これは償いみたいなものだから置いとくとして、だ。


「その報酬がエメラダに喜んで貰える、ラヴのお弁当が食べられるじゃあ……」

「何? 足りないってわけ?」

 頷く。


「ちょっとね」

 エメラダが喜んでくれる+ラヴのお弁当が食べられる=俺の命

 の式は、まだ成り立たない。

 『(ノットイコール)』じゃなくて『(ニアリーイコール)』かもしれないけど、少し足りない。

 これでは士気も奮い立たない。

 だからそれを満たすための条件。

 ラヴはそれを聞くと何だか微妙な表情になった。

 文句を言いたいが、命がけのところに行かそうとしてる側だからと、抑えているのか。

 それともどんな条件を出されるのかが、不安なのか。


「まぁそんな無茶な条件は出さないよ。何も必要じゃないし、時間もかからない。今ここですぐに、簡単に出来ることだ」

「な、あ、あんた! 何か変なことを考えてるんじゃないでしょうね!?」

 ラヴは顔を赤くして、両手で自分の体を隠すように抱く。


「むっ胸は揉ませないわよ!?」

 何を言い出すかと思えば……変なことを考えているのはお前だラヴ。

 俺はそんなこと、微塵も考えてはいない。

 そんなことをすれば、俺はお前にみじん切りにされてしまうではないか。

 大体何だ? コイツは俺を変態か何かと勘違いしてるのか?

 まったく、失礼なやつだ。


「じゃあいいよ、エメラダに揉ませて貰うから」

「……別にいい」

 と、エメラダ。

 い、いいんですかエメラダさん。


「ほ、ほらみろラヴ。エメラダはこう言ってるぜ? これくらいの度胸がないから、胸もないんじゃないのか?」

「なっ……くっ……」


 ラヴは悔しそうに歯噛みをして数秒、

「わ、分かったわよ揉めばいいじゃない!」

 と、突き出てない胸を、突き出した。


「勘違いしないでよね! ちょ、ちょうど後で胸を揉もうと思ってたから、手間が省けると思って言ってるだけよ!」

 ちょうど後で胸を揉もうと思ってた奴なんて、始めて見た……。

 ラヴは胸を突き出したまま、恨みがましそうに目を鋭く尖らせ、俺を睨む。

 このままではその視線だけでみじん切りにされそうだ。


「う、嘘だよ嘘。そんな条件は出しません」

 真に受けちゃって。

 これは条件じゃなくて、冗談だ。


「知ってた……アスタロウはヘタレ」

 エメラダが、何気に酷いことを呟いている気がした、ささやいている気がした。


「ヘタレのヘタロウ……」

 気のせいではなかった……。

 今度心に効く薬でも処方して貰おうかと、そんなことを思いつつ話を続ける。


「本当の条件はこっち。まずはエメラダ、採ってきた花の種は、来年も俺に育てさせて欲しい」

「分かった……」

 エメラダは迷うことなく、頷く。


「ん、ありがと」

 次にラヴ。


「ラヴは行ってきなさいじゃなくて、行ってらっしゃいって言って」

「なっ…………わ、分かったわよ」

 ラヴは少し迷った後、俯いた。

 そして言う。


「い、行って……、ラッシャイ!」

 な、何だか『ヘイラッシャイ!』みたいになってるけど、まあいいか。


「ん、よしっ! それじゃあいっちょ、行くとしますか!」

 『=俺の命』の計算式が成り立ったところで、士気が奮い立ったところで、椅子から立ち上がる。

 そして、ラヴからお弁当の入った籐のカゴを受け取って、

「行ってきます!」

 俺は食事の間を後にした。



「魔王様、私は? このゲイルめへのお願いは? 脱いだ方がよろしいでしょうか?」

「お前はいいんだよ!」

 せっかくの式も、士気も、そして雰囲気も台無しだ。

 とまれかくまれ、ひとまず、庭に咲いた巨大花の根元を目指す。

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