第佰玖閑 はぁ……れむの湯
そして夕食後、ティアのお母さん、妖精の女王さんをトイレ……ではなく、風呂に呼び寄せ、口寄せではなく呼び寄せ。
青髪の妖精ちゃんを見送り、今に至る。
居間じゃない。風呂だ。
風呂。
25メートルプールと見間違えるほどの、大きな風呂。
クゥ、ネネネ、俺、ルージュの順に、仲良く……かは分からないけど、湯船の中に並んで座る。湯の中に並んで浸かる。
「あぁ~今日も一日疲れたぁ……」
まだクゥがいなくて、ネネネとルージュだけのときは『嬲る』の逆バージョン『女男女る』だったけど、そこにクゥが加わって、新たにもう一つ女偏が加わって出来た『女女男女』という無茶苦茶な漢字を何と読めばいいのかは、俺には分からない。
何だろうハーレムとでも読むのだろうか『女女男女』
そもそもこれは漢字というより既に四字熟語って感じだ。
ならこの四字熟語の意味は『一夫多妻であること』になるのだろうか。
今日はこんなことばかりを考えているような気がする。
それにしても、一時はどうなることかと、一匹ではどうなることかと思ったけど、本当に助かった。
人にも、人魚にも恩は売っておくものだな。
それにティアを連れて来たことも幸いしたし。
大量の魚を消費するのに、一役買ってくれた。
と言っても、あの小さな体では、ほとんど変わりはしなかったけど。おかわりはしなかったけど。
とにかく、今日は珍しく色々とうまくいってるような気がする。
あの釣り大会、ネネネとルージュとクゥのことを除けば。
「あぁんまおーさま、女の子たちのお風呂を覗くだなんて、エッチですのっ」
「黙れ! 覗くも何も一緒に入ってるんだよ!」
「アシュタ、タッチなのだ」
と、手を伸ばし俺の肩に触れる褐色少女。
「……っ!?」
風呂で鬼ごっこでも始めるのか、鬼ごっこ大会が始まってしまうのか、と思ったけど、そんなことはなかった。
そんなことよりも、大会で思い出したけど……。
「そういえば、釣り大会の結果はどうなったんだ?」
隣に座っている、大会の主催者であるところのルージュに尋ねる。
「釣ったのは俺だけだったよな? ということは俺の勝ちで、俺は俺のもの。今晩は邪魔せずにゆっくりと寝かせて貰――」
「何を言っとるんじゃ? アスタ」
寝ぼけとるのか? それともとぼけとるのか? いや、のぼせとるのか? と彼女は言う。
妖しく微笑みながら。
「え?」
「あの魚はみんなで釣り上げたじゃろう?」
「え!?」
「のう年増」
と、ネネネに振るルージュ。
「ええ、そうですわ。ねぇワンちゃん?」
と、次はクゥに振るネネネ。
「わん! わん? うん? うん! ボクも一緒に釣ったのだ!」
と、最後にしっぽを振るクゥ。
やっぱりいつもどおり、こんなときにだけはしっかりちゃっかっり結託する、二体。更に一匹。
「全員で一匹を引き上げたんじゃ。つまり、引き分けと言うか、全員が勝ちじゃの?」
「な、何言ってるんだはこっちのセリフだ!」
そんな滅茶苦茶な言い分が、通ると思っているのか。
手伝っただけで、イーブンになるだけでなく、全員が勝ちになるだなんて、目茶苦茶すぎるだろう。
「と言うか、全員が勝ちって……てことはつまり俺を含めた全員が、今晩一晩、俺を自由に出来るってことに……?」
「そうじゃ」
「そうですわね」
「そうなのだ」
と、プールでもないのに、25メートルプールみたいなだけであって風呂なのに、シンクロナイズドスイミングのように、見事にシンクロして頷く三人。
「そ、そんなのいつもと同じじゃねぇかよぉ!」
疲れた日くらい、静かに落ち着いて寝させて欲しい。
「何をみっともない声を出しとるんじゃアスタよ」
「認めないぞ!」
「観念してくださいなまおーさま」
「勘弁してくださいよ!」
「みーんなの勝ちなのだ」
「分かち合うんじゃねえ!」
無茶苦茶だ! 寝ぼけてるのも、とぼけてるのも、のぼせてるのも、こいつらだ!
「はーっはっはっはっは!」
「おーっほっほっほっほ!」
「にゃーっはっはっはっは!」
結局、最後はうまくいかないのであった。
「最高だぁぁぁぁ!」




