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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
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第佰肆閑 あ、お魚! 青魚!?

 と少しばかり喜びそうになってはみたものの、結局は少したりとも喜ぶことは出来なかった。

 クゥが捕ってきたと言うその魚。変な魚。

 変過ぎる……。

 いや、怪物だとかモンスターだとかそういった類の変以前に、生物ではない。

 生物ではないし、聖遺物でもない。


「性異物ですの? まおーさま」

 それはお前だよネネネ、と心の中でツッコみつつ。

「ああん、まおーさまの心の中でまでも、ネネネは突っ込まれてしまいましたのぉ」

 そんな性異物ネネネを無視して、クゥが片手で持っているものを、見る。


 クゥが捕ってきたもの、それはビン。ビンチョウマグロでも何でもない。

 そもそも川に、ビンチョウマグロなんていないんだけども。

 とにかく、ただの透明なビン。つまりゴミ。


「クゥそれはビンだ。食べられないよ」

「ビンが食べられないのは知ってるのだ!」

「そ、そうなのか?」

sawそうなのだseeしーなのだ! こっちを見るのだ! ボクが言ってるのはこっちなのだ」

 と、彼女は、ビンを持っていた方とは逆の手を、俺に差し出した。


「何だそれ?」

「ビンに引っ付いてたのだ」

 その手の中にあったのは、青い色をした……。


「毛玉?」

「ボクは毛玉じゃないのだ!」

「君の事を言っているわけじゃないんだよ、クゥ」

 クゥが毛玉じゃないだけじゃなく、どうやらビンに引っ付いていたというその青い何かも、ただの毛玉じゃなさそうだ。

 クゥの手の中をよく見てみると、それは動いている。

 ゴミでもなければ、聖遺物でもない。生物だ。

 そしてその青い何かは、よくよく見てみれば、いつかどこかで会った、どこかで出会った。

 迷子の泣き虫妖精。青髪の小さな妖精。

 ティア。

 びしょ濡れで、目を回した、ティアだった。


「ティア!」

 俺は慌てて彼女の名を叫んだ。

 『やあティア久しぶり。元気だったかい?』みたいな、軽いノリではいられない。

 だってティアは明らかにぐったりしている。


「クゥ残念だけどそれは、その子はお魚さんじゃない。食べられない」

「おそこなさんなのだ?」

「いや、魚になり損ねた何かとかそういうわけじゃなくて、元から魚じゃないんだよ。と、とにかくその子を俺に貸してくれ」

 食べられないと告げられ、残念そうに三角お耳を傾けているクゥから、ティアを

受け取り、手の平の上に乗せ

「ティアァァァァ!」

 俺はもう一度強く、彼女の名前を叫んだ。

 さながら映画のクライマックスシーンかのように。

 少しやりすぎな感じはあったけど、そうも言ってはいられない。

 そして映画のようにも行ってはくれない。

 映画なら、叫んだりしてみれば目を覚ますんだろうけど、彼女は目を覚まさない。

 どうすればいい……。


「人工呼吸じゃアスタ」

 と、ルージュ。


「なん……だと……」

 いやいやこんな下心満載のリアクションを取っている場合じゃないんだ。

 変態は……じゃなかった、事態は一刻を争う。

 でも俺にも心の準備ってものがある。

 下心の準備は出来ていても、心の準備は出来ていいない。

 こんな小さな体のティアに、こんな大きな体の俺が、どうやって人工呼吸をすればいいんだ……。


 てか、そもそも人工呼吸って何だ?

 頭の中が、パニックでこんがらかってきた。思い出せ、俺。思い出すんだ、俺。

 人工呼吸じんこうこきゅう……人工じんこう……人エひとえ……人エ呼吸ひとえこきゅう……ひとえこきゅう……ひとへこきゅう……人へ呼吸……。

 そうだ、人へ呼吸だ。

 人へ、俺の呼吸を、空気を、酸素を、送り込むんだ。

 よし、思い出したぞ。


 と言うか、元いた世界でも、何回か人工呼吸や心臓マッサージとかのやり方を習ったことがあったじゃないか。

 まさかこんな所でやることになるとは、想像もしてなかったけど。

 とにかく、口を口で完全に覆わなくてはいけないはずだ。

 つまりは『回』こういうこと。

 まあ口を覆うのは簡単だ、なんたってティアの体は小さいんだから、口も小さい。

 これが本当のロリなのかもしれない、“ロ”リなのか“口”リなのかは、分からないけど。

 ただ小さいばかりに、普通にすれば彼女を丸呑みしてしまう形になってしまう。

 それを避けるには、俺の口をなるべく小さく、具体的にはヘタなキスみたいに『ちゅー』と、口を尖らせるしかない。

 少し恥ずかしいけど、そんなことも言ってられない。


 俺は

「ちゅー」

 と、ティアの頭部に口を近づける。

 今俺の顔、端から見れば凄い変な顔になっているだろうとは思うけど、そこには目をつむろう。

 キスのときに目をつむるのは、暗黙の了解だ。


「アシュタ!」

 そんな俺を横から止めるクゥ。


「何だクゥ」

 彼女の方を見ると、褐色の黒犬は目に涙を浮かべていた。

 ますます映画のクライマックスシーンみたいだ。

 俺は『クライマックスシーン』という言葉が、『一番泣ける場面』みたいな意味合いだと勘違いしていたことがあった。

 けど今それは関係のない話だ。


「ずるいのだアシュタ。食べられないって言ったのに食べようとしてるのだ。独り占めはよくないのだ!」

 クゥの涙も、クライマックスシーンの感動的な涙とは、全く関係のない涙だった。


「あ、いや、食べようとしてるわけじゃないんだよ」

 それに、そんなことで泣きそうになられても困る。

 と言うか、止められて思い出したけど、人工呼吸をする前に、確認しないといけないことがあるじゃないか。

 救急車を呼んだり、AEDを持ってきたりするのはこの世界では無理だとしても、気道の確保やら、呼吸の有無やらなんやらの確認はしないと。

 人工呼吸が何なのかを思い出したことにホッとしてしまって、忘れていた。

 いや、ホッとしてしまったから忘れていたんじゃなくて、焦ってたから忘れてたんだけど。

 やっぱり練習でするのと、実際に、本番でするのとでは、勝手が違うな。

 なんて思いながら、ひとまずそれらの確認をしようと、ティアの顔を覗きこむ。

 するとタイミングよく彼女の目がパチッと開き、その目と俺の目がバッチリ合う。


 一瞬間を置いた後、彼女はビックリしたようにひと際大きく目を見開くと

「ティ――うぉ!?」

 声をかけようとした俺の顔に勢いよく水を噴きかけ、吐きかけ

「ケホッケホッ」

 小さくせき込みながらながら、一目散に木の陰へと逃げて行った。



「セミか!」

 おしっこを引っ掛けて逃げていくセミか!

 まったく。マーキングのことといい、今のことといい、今日はよく小便を引っ掛けられる日だな。

 いや、本当のところは一度たりとも、引っ掛けられてはいないんだけど。

 まあ、あんなに可愛い妖精ちゃんの口から出てきた水だから、いいや……グヘヘ。


「これぞ聖水ですのねまおーさま」

「いやいやそこは精水だろう」

 妖精の口から出てきた、水なんだから。

 実際のところは川の水なんだろうから、『清水』と書くべきなんだろうけど。


「精……ポッ」

 ネネネの赤くなるポイントが、『ポッ』っとなるポイント、ポッイントがよく分からない。

 ただやっぱりそんなことは放っておいて、ポイっておいて。

 ティアのことの方が、先だ。

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