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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
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第佰参閑 うぉいっ!!

 魚から手を離した。リリースした。リバースした。

 弱々しくも、体をくねらせ泳いでいく魚。


「おお、魚が逃げて行きよったわい」

「おいおい! 逃げて行きよったわい、じゃねえ! ワザとだろ!? 故意だろ!?」

「ふむ、あれは鯉ではないぞアスタよ。それにしても淡水魚の癖して濃いとは、鯉も面白いネーミングじゃのう」

「んなこと言ってる場合か!」

 何てことをしてくれるんだ……ただでさえ魚が釣れないっていうのに……。


「ルージュさん、ボクのお魚さん逃がしちゃったのだ?」

 川に糸を垂らしながら、クゥ。


「逃がしたんじゃないわい。故意でもなければ鯉でもないと言うておるじゃろう。来い来いと呼んでも、逃げて行くのじゃから、仕方ないじゃろう」

 そりゃ鯉じゃないんだから、鯉、鯉と呼んだところで、魚は帰って来ないだろうな。

 と言うかそもそも来い来いと呼んだところで、魚は来ない。

 そんなことで魚がやって来るのなら、俺は、俺達は苦労をしていない。


「なら仕方ないのだ」

「仕方なくないよ!」

 仕方あるよ! 他にも色々やり方はあったよ!


「まぁ落ち着けアスタよ」

「もちつくのだアシュタ!」

 ため息をきたい気分だよ。


「あの魚は、鯉だけに、川に里帰りをしよったんじゃ」

 鯉じゃないんじゃなかったのか……?


「はっはっはっは、とにかく! 心配せんでも、釣り名人のワシが魚ぐらいぱぱっと釣ってやるわい!」

 ビシッ、と腰に手を当て胸をそらすルージュ。

 その言葉が一番心配だ。

 今まで釣れていない奴が、よく言えるよ。


「よっこらせっと」

 そんな掛け声と共に岩の上に座り、再び竿を握った幼女。

 がしかし案の定、それからはいくら経っても魚はまったく釣れなかった。

 幸運を棚の上に上げてしまったのだから、当然かもしれない。

 まあルージュどころか、俺を含めた他のみんなも、たったの一匹でさえ釣れてはいないけど。

 川の中に垂れ下がった糸を、ただ座ってボーっと見つめる俺たち四人。

 釣れた魚は通算一匹。一匹の『一』を縦にして『1』にして、『匹』の右側に持って来てくっつけて、『四』にしたい気分だ。


「はぁ~」

 誰からというわけでもなく、自然にため息が出る。


「はぁ~」

「はぁ~」

「はぁ~」


「「「「はぁ~」」」」

 ハモリ方が、とうとう芸術の域を超えてしまっていた。

 芸術も行き過ぎれば、域過ぎれば、素人にはそれが本当に芸術なのか分からなくなる。


「ババア、あなたって人は、あなたって名人は、いつになったら魚が釣れますの!?」

「じゃから言うとるじゃろうが年増猿、名人にも失敗はあると。おぬしも木から落ちることはあるじゃろう?」

 今度は『猿も木から落ちる』か。

 このことわざも、それって手を滑らしたりして落ちたわけじゃなくて、猿がゆっくり降りるのを面倒くさがって、わざと手を放しただけなんじゃないの? って思うんだよな。

 そうなってくるとこのことわざの意味は、『名人にも失敗はある』じゃなくて『面倒』になるわけだ。

 まあ確かに釣りも大分面倒になってきたから、これもこれで間違いではないのかもしれない。

 『猿も木から落ちるな~(意:面倒だな~)』的な。


「何を言ってますのババア。ネネネはまおーさまの木からは落ちませんのよ」

 猿であることは、認めるんだ……と言うか。


「俺には木なんて生えてない」

「まぁまおーさまったらご冗談を。まおーさまには立派な木が生えていらっしゃるではないですの。しかも木にはたわわに実った果実が二つも」

「はぁ……」

 もう、ツッコむ気さえ起きない。


「まぁ、まおーさまの木が起きないですの!?」

「やめろ!」

 まったくもうまったくもう。



「うにゃ~ボクはもう無理なのだ~」

 とうとう飽きてしまったのか、釣竿をポイと放り投げ、ついでに手足も放り出して、岩の上に寝転ぶクゥ。


「やっぱり手で捕ってくるのだ!」

 彼女はそう言うと、寝転んだまま脚を上げ、それを振り下ろした反動でパッと立ち上がる。


「ちょ、ク――」

 そして止める間もなく、川の中へジャブジャブと入って行ってしまった。


「あぁあぁ、また行っちゃったよ……また入っちゃったよ」

 よくもまあこうも息つく暇なく、落ち着く暇なく次から次へと問題が起こるな。


「まおーさまネネネももう飽きて来てしまいましたの」

「ワシもじゃアスタ、夏なのに飽きが来たわい」

「うん……俺も……」

 どうしよう、このまま、一匹しか釣れないまま帰ることになるんだろうか。

 そうなったらラヴに怒られるかもしれないな……。

 怒られるだけならまだしも、ボコられるかもしれない……。

 いや、いくら雨とムチのラヴでも、(剣で)ツンデレのラヴでも、魚が釣れなかったくらいでそこまで怒るまい。

 そんなに小さな奴じゃない。胸以外は。

 せいぜい『ホント使えない』と言われるくらいだろう。

 まあ、今晩の食事につかえが出るのはちょっと申し訳ないけど。

 仕方ない。

 日も大分傾いて来た、いくらここが暗い重々しい森じゃなくて、明るく軽々しいりだからといって、夜はさすがに見通しが悪くなって、危ない……かもしれない。

 そうとなればもう。


「帰りますかぁ~」

 俺は大きく息を吐きながら、ため息気味にそう提案した。


「そうですわね」

「そうじゃの」

 と、ネネネもルージュも特に反論するわけでもなく、立ち上がり、帰る準備をし始めたので、俺も立ち上がって荷物をまとめる。

 荷物をまとめると言っても、大した荷物もない。

 釣り竿四本に、釣り道具の入った小さなカゴと、魚を入れる用の大きめのカゴが一つずつ。

 だから帰る仕度はすぐに終わった。


「ようし、忘れ物はないの」

 そう言って、俺の手を引き、早々はやばやに、足早に帰ろうとするルージュ。


「いやちょっと待てルージュ、クゥを忘れてる」

 忘れ物ならぬ、忘れ者。

 彼女はまだ川の中だ。


「ふん、あんなお荷物置いていけばよかろう」

「ダメだ、荷物ならなおさら持って帰らないと」

 持ってきたものは、全て持って帰らないといけない。

 マナーは守らないといけない。

 守れなければ、遊びに行けない。行ってはいけない。

 と言うか、クゥに持ってきて貰った俺達の方が、俺とルージュの方が、荷物のような気もしないでもないけど。


「ふん、まあ仕方あるまい。ゴミも、要らなくともきちんと持ち帰らねばいかんからのぉ」

 ルージュはチラッとネネネの方を向く。


「何ですのババア、ネネネがゴミだとでも言いたいんですの!?」

「いいやそんなことはないぞ、ゴミ年増」

「キィィィィ! 言ってるではないですの! 大体、ゴミって言った方がゴミなんですのよ! ゴミババア!」

「はっ? ゴミって言った方がゴミって言った方がゴミなんじゃ! ゴミドシマ!」

「……はぁ」

 そんな小学生並みの、いや、小学生以下の喧嘩をしている二人は放っておいて、置いておいて、放置して。

 川に入っているクゥを呼びに行く。

 呼びに行こうとする。


 がしかし、呼びに行くまでもなく

「見て見てアシュター!」

 と、クゥは川から上がり、こっちに向かって走ってくる。

 手に何かを持って、嬉しそうに。


「変なお魚さん捕まえたのだ!」

 まじか!?

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