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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
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第佰閑 フィッシングでフライング

 というわけでのテイク2(ツー)

 退屈を乗り越えて、テイク2。

 釣りポイントをさっきいた場所から少し上流に変えて、釣り勝負再開。


 大きな大きな岩の上に四人で仲良く座り、川に向かって竿を振る。

 しなった竿が、ひらめく糸が、ヒュンッと風を切る音が一回。

 ヒュンッと二回、三回、四回。

 五回、六回、七回、八回……ん? ……九回、十回……。

 おかしい、今釣りをしてるのは俺、ネネネ、ルージュ、クゥの四人のはずだ。

 なら風を切る音は合計で四回のはず。まあ誤差があっても一、二回だろう。

 なのにそれが倍以上の十回も聞こえる。しかも至近距離で。

 おかしい。

 おかしいと言うか嫌な予感しかしない。

 そう思って川の中に落ちた糸から視線を横にやると、案の定、クゥが真剣な顔をして、頭の上に上げた竿を円を描くように振り回していた。


「ち、ちょっとクゥあぁ――あぶ――わっ――」

 俺の頭上スレスレを、針の付いた糸がヒュンッヒュンッと飛び回る。


「ク、クゥ! 危ないって! 何やってるの!」

「大きなお魚さんを釣るのだ! だから糸を遠くに飛ばすのだ!」

「そ、それはいいんだ――おっと――けどね。ちょっと危な――わっと――いんだけど」

 尚も竿を振り回し続けるクゥ。


「おわっと」

 頭上スレスレを飛行していた針が、とうとう俺の顔面と言うか、眼球直撃コースに突入し、咄嗟に頭を下げてかわす。

 魚を釣ってるから言うわけじゃないけど、ぎょっとした。


「……」

 針がやってこないか確認しながら恐る恐る顔を上げ、クゥの方を見てみると、彼女の動きは止まっていた。


「ふぅ……」

 ようやく振り回すのをやめてくれたのか、と思った。けど、様子がおかしい。

 止まっていた、と言うより、止められていた。無理やり止められているように見える。

 そして竿が大きくしなっている。


「アシュタ何か釣れたのだ!」

 立ち上がり竿に力を込めるクゥ。

 様子からしてどうやら何かに針が引っかかってしまったらしい。


「重たいのだ!」

 クゥが竿を立てようと、二、三回竿を上に引っ張る。

 すると隣で座っていたルージュが

「何じゃ? 何か用かアスタ」

 と、俺に言う。


「え? 何ルージュ、ちょっと待って」

 まずはクゥだ。


「クゥお前もちょっと待て、引っ張ったら糸切がれるぞ」

 そう声をかけながら立ち上がり、クゥに近づく。


「ふにににに」

 しかし引っ張るのに夢中で聞こえていないのか、クゥは更に体を仰け反らせて竿に全体重をかける。

 するとルージュが

「こらアスタ、服を引っ張るでない!」

 またそんなことを言う。


「え? ……あ」

 もしかして。


 クゥが引っ張る。

 すると、ルージュが引っ張るなと言う。


 ホームズ顔負けの俺の推理が正しければ、クゥの竿の針が引っかかっているのは……。

 俺は糸をたどって、ルージュの方を振り返る。

 推理は見事的中した。

 針が引っかかってたのはルージュのゴスロリモノクロミニスカドレス。

 の、襟の横。


「おっきな、お魚さん、つ、る、の――」

 後ろで更に力を加えるような掛け声が聞こえ、もう一度クゥの方を振り返ると。

 彼女は尖った鋭い歯を食いしばっていて、体には銀色のオーラのようなものを纏っていた。

 まずい、巨大な蛇をも一発で仕留め、俺とルージュを容易く肩車するような怪力クゥが、本気で引っ張れば、ルージュなんて簡単にフライアウェイだ。止めないと。


「クゥ待て、引っ張ったら――」

 しかし遅かった。


「――だぁぁぁぁ!」

 そんな掛け声とともに、竿を思い切り天高く持ち上げるクゥ。


「な、何じゃ!? わ、うわぁぁぁぁ!」

 そしてクゥのその掛け声とほぼ同時に、後ろでルージュの叫び声。


「ルージュ!」

 再度彼女の、幼女の方を振り向くと、小さなゴスロリ吸血鬼は見事に一本釣りされ、宙に舞っていた。


「ああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ」

「おっきなお魚さん釣ったのだ!」

 クゥは嬉しそうに、軽々しく、ルージュが引っかかった竿を振り回す。


「あ、ちょ、クゥ」

 遊園地のマシンにでも乗っているかのように、クルクルと回りながら叫ぶルージュの声が

「ああああ」

 近づいて大きくなったり。


「ぁぁぁぁ」

 遠のいて小さくなったり。


「ああああ」

 陸地に戻って来たり。


「ぁぁぁぁ」

 川の方に行ったり。

 まさに絶叫マシンだ。


「おーっほっほっほっほ愉快そうですわねババア」

「黙れ年増ああぁぁ!」

「誘拐なのだ!」

 幼女誘拐か!? 竿で釣って連れ去るなんて、何て斬新な誘拐方法なんだ。


「くだらんことを言っとらんでさっさと降ろさんかぁぁああ!」

「おーっほっほっほっほ」

「にゃーっはっはっはっは」

 と、楽しそうに笑うネネネとクゥに

「やぁぁぁぁめぇぇぇぇんかぁぁぁぁ!」

 と、泣き叫ぶルージュ。


「アスタも見とらんで助けてはくれんかのぉぉぉぉ!」

 はっそうだ、見とれてる場合じゃない。


「クゥ、やめるんだ。よく見てみろ、それはお魚さんじゃないルージュさんだ」

 いやよく見てみなくても、ルージュだけど……。


「ルージュさんはお魚さんなのだ?」

「違うよ」

 ルージュはお魚さんじゃないじゃない。お魚じゃなくて、幼子おさなごだ。


「とにかくクゥ、ルージュを降ろしてあげて」

「降ろして上げるのだ?」

「違う」

 降りられたと思ったらまた上げられるなんて、糠喜びもいいとこだ。

 それこそ絶叫マシン、ジェットコースターのようだ。


「降ろして下げて」

「分かったのだ」

 クゥは返事をすると、竿を振り回すのをやめ、ゆっくりとルージュを川に……じゃなく、岩の上に降ろした。

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