先輩の秘密
連れてこられたのは今は使われていないオフィスビルの一番下、駐車場だった場所だった。余程前から使われていないらしく、ボロボロの冷蔵庫やテレビが不法投棄されていた。そういうものに囲まれてるので秘密基地としては最適かもしれない。
「ごめんね、こんな汚い場所に連れてきちゃって」
「まぁここ一帯はこういう場所が多いですからね……」
彼女はそこらへんにおいてあった比較的きれいな小さい冷蔵庫の上に座った。ボクは特に座りたくもなかったので立ったまま話を聞く。
「さて、君が尾行していたのが事実ならば、知られてはいけない秘密を知られたかもしれないね」
「そ、その、ボクは財布を届けようとして追いかけたわけで、秘密なんて知らないです……」
必死に言い訳する。とても見苦しいだろう。
「でも尾行したことには間違いないね?」
「は、はい……」
彼女に正論を言われてボクは何も言い返せない。
「じゃあ口封じ、が必要かな……」
「え、口封じって……」
彼女が何を言っているのかわからなかった。彼女の秘密なんて知らないのに、勝手に誤解されて口封じされるなんてたまったもんじゃない。
「もし、あなたが私の秘密を誰かにバラしたら、あなたをストーカーとして学校中に広めるわ。それが事実であってもなくても」
「え!?」
予想外だった、彼女がこんな汚い手を使ってくるなんて思いもしなかった。しかもボクは秘密なんて知らないからボクに不利益が被ってしまう。
ストーカーなんて烙印押されたらとてもじゃないけど生きていけない。隅っこという居場所がなくなってしまう。ボクにはそこ以外居場所なんてないのに。
「わかったかしら?」
「は、はい……」
その条件を飲まざるを得なかった。これでボクの生活はいつ崩れてもおかしくない状況に陥ってしまった。最悪だ。ただ財布を届け用としただけなのに。
「……なーんて、冗談だよ」
「……え?」
よくわからなかった。彼女は抑えきれなくなったように笑い出した。
「私がそんな事言うわけないでしょ、うふふ」
「う、嘘ですか、さっきの」
「そうよ。別にあなたをストーカーだなんて思ってないわ」
「そ、そうなんですか。よ、よかった……」
「なんかこういう交渉みたいなことやりたくなっちゃってつい言っちゃった。なかなか面白いリアクションしてくれたね」
よくわからなかった。この人は何を考えているんだろうか。
「それで秘密は見てない……?」
「み、見てません!」
このことについては否定を貫いておかないといけない。でもこんな口先だけで信じてもらえるだろうか?
「まぁ口だけなら何とも言えるからね……」
信じてもらっていなかった。まぁボクがあっちの立場でも信じていないと思って考えてしまう。
「でも別にバレてもいいんだよね」
「え!?」
散々秘密って言葉を連呼していたのにそんな扱いなのか。あんなにコソコソ動いておいていざ吹っ切られてしまうと対応に困ってしまう。
「バレてもいいっていうより打ち明けたいって感じかな」
「打ち明ける……?」
なんか重い話になってきた。打ち明けるってことは彼女の秘密は誰とも共有していないっていう事だろうか。それをボクが全部背負うとなるとさすがに重すぎる。出来ればそんな面倒な事に巻き込まれたくない。ボクの生活に大きく影響してしまう。
「一人じゃ背負いきれなくてね。でもみんなにこの秘密を話しても信じてもらえないだろうし、変な目で見られちゃう」
「はぁ……」
ボクはその秘密の事を知らないからそんな曖昧な反応しか出来ない。
「でも君なら信じてくれそうだし力になってくれそう。根拠はないけど」
「根拠はないんですか……」
それはとんでもない迷惑である。ましてや根拠がないということは適当に決めたと遠まわしに言ってるようなものじゃないか。
それはとんでもない迷惑である。ましてや根拠がないということは適当に決めたと遠まわしに言ってるようなものじゃないか。
「無気力人間、の噂は知ってるかな?」
いきなり話題が転換された。その口ぶりはその事と彼女の秘密が関連づいている、ということを示唆しているようにも思えた。
「噂はいやでも耳に入ってきます。実際に被害者を見たことはありますが詳しいことはよくわかりません」
自分の知っている事を正直に話した。ここでウソをついても何の得にも損にもならない。
「まぁそれだけ知ってれば十分よ」
なんだろう、自分はこの事件について何でも知っているアピールは。そしてなぜか次に彼女が話す言葉が予想出来てしまった。それと同時に厄介な事に巻き込まれたぞ、という後悔にも襲われた。
「私、その事件の真相知ってるんだよね」




