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−第4話 許される性癖と許されない性癖が居るけど、お前は許されない性癖だ!−

突如出現した謎の壁…


呆然とする榛原皐月…


泣き笑いをしながら抱き着いてきたルノエル…


そして、誰よりもこの状況を理解仕切れていない俺が立っていた…



これが、現在の公園の状況。


もとい、俺が直面している状況であった。



「…ナんダヨ、話ガ違うジャねぇカ!!

楽に殺せル相手じャなカッたのカヨッ!?」



俺を仕留め損ねた榛原は、狂ったように困惑の声を上げていた。


まあ、元々狂っているかも知れないが…

俺が殺せなかった事が、信じれなくて仕方がないようだった。



俺は、大分落ち着いては来たが、今だに先程の一部始終が理解できずに座り込んでいた。


そんな俺に、ルノエルは必死に訴えかけているのだが…



「ハルギザン、良ガッダデズーッ!!

ドウドウゴ自分ノヂガラガガグゼイナザッダノデズネ!!」


「あのー、ルノエルさぁ…」


「グズッ…ナンデズガ?」


「涙声で何言ってるか分からないんだが…」



今までにないぐらいの滑舌の悪さである。


今のルノエルなら、きっとオンドゥル星人の仲間入りできるだろう。



「とりあえず、ティッシュやるよ。

ほら、涙と鼻水を何とかするんだ」


「はっ、はひ…」



ルノエルはティッシュで涙を拭いたり、鼻をかんだりした。


あーあ…鼻をかむ勢いが豪快過ぎて、上品さのかけらも無いよ。



鼻をかんだルノエルは、いつもよりも何処か真剣な眼差しだった。


いつもと違う雰囲気に、俺は少し驚いていた。



「悠希様、イゼエル様より与えられし能力がとうとう覚醒したのですね」


「の、能力だって?

一体、どういう…」


「悠希様は、イゼエル様に自分の願いを言って契約をしましたよね?

確か、年下の女の子を彼女にするとか…」


「だぁぁぁあああッ!!

な、な、なんで知ってるんだ!?」


「イゼエル様から、バッチリお聞きしましたゆえ。

今後ともお世話になる悠希様の性癖ぐらいは、知っておいた方が良いと思いまして…」


「クゥウッッッ…!!」



俺の欲望をルノエルに話すなんて…


イゼエルめ、絶対に許さない!!



しかし…ルノエルは、なんていい子なんだ!!


俺の性癖を知っていて、俺から側から離れようとしない!!


この子は人外に分類されるかも知れないが…

最高に俺好みの女の子だ!!



「おイッ、オ前らァ!!

ヨそ見シてんじャねェヨぉォ!!」



先程まで大人しかった榛原が立ち直ったようだ。


獣のような声で、俺達に叫んだ。



「舐めヤがッて…

一度攻撃ヲ防いダぐライで調子ニ乗るンじゃネェゾォォぉォぉぉ!!

俺ノ『刃物乱舞(ブレイド・ダンス)』かラ逃げレるかァァァぁぁぁぁァァァ!!!」



榛原は、また大量のナイフを懐から大量に取り出し、俺達に向かって投げ付けてきた。


さながら、ナイフの雨のようだ。



「うわっ、またかよ!」


「悠希様、さっきみたいに私を守って下さい!」


「はぁ!?

俺は何もしてないぞ!?

ただ何か壁みたいのが…」


「それです!

悠希様の能力は、それなんです!

早くそれ出して下さい!!」


「無茶言うな、まだ殆どの事を理解できてな…うわああいあああああぁぁぁぁっ!!」



気付くと例のナイフの大群が、すぐそこに迫っていた。


くそっ、さっきみたいに壁…出ろ!!


よく分かんないけど、壁よ…出現しろ!!




ドドドドドドドドドッ…




よし、壁が出現したぞ。


これで奴のナイフは無力化…




ヒュッ!




安心したのもつかの間、一つのナイフが俺の頬を掠めた。


なんでだよ、ちゃんと壁があるのに…!



よく見ると、壁はルノエルだけ(・・・・・・)を囲むように出現していた。


俺の能力は、ルノエルを守るだけの能力なのか?


これじゃあ、俺はナイフなんて防げない。



「なんだよ、この能力は!?

大した役に立ちそうもないじゃねぇか!!」


「そんな事ありませんよ、悠希様!

敵の攻撃から、私を守ることが出来ます!!」


「そんな限定的な能力はいらん!」


「えーっ、だってこれが悠希様の欲望を叶える能力(・・・・・・・・)なのでは?」


「はぁ?

大体、契約前にお前の事なんて知らな…」



そう言いかけて、あることを思い出した。


イゼエルと契約した時、俺が言った言葉…自分の欲望を。




『今のところ、俺の望みはただ一つ、年下の女の子を彼女にする事だ。

だから、俺は…年下の女の子を守れる強い男になりたい!

それが俺の欲望だ!!』




あー、今振り返ると結構恥ずかしい事言ってんな。


なんだよ、年下女の子を守れる強い男って…



まあ、これで俺の能力の大方の検討が付いたな。


俺の能力は、年下の女の子に関係する力なのだろう。



しかし、この能力があるとすれば、俺は本当に年下の女の子を守れる強い男になれているのか?


まさか、この壁を出現させるだけの能力なのか!?



これじゃ、年下の女の子を守る事(・・・)は出来ても、守る為に戦う(・・・・・・)事が出来ない…


くそっ、あんまりこの能力使えないじゃねぇか!!



−クズめ、私がそんな貧弱な力だけ(・・)を与えたと誰が言った?−


「!?」



ふと、俺の頭の中でイゼエルの声が響いた。


姿が見えないのに邪神の声が聞こえる…


幻聴を聞くという事は、俺も疲れているんだろうか。



−幻聴ではない、私が貴様の脳に直接語りかけているのだ。

そんな事も分からんのか、流石は下等生物様だ−


「そんな事普通の人間に分かるかぁ!!」


−まあ、今はそういう事にしておいてやろう。

ほら、遠慮無く感謝しろ−


「いや、感謝する要素が微塵も無いだろ!?」


−油断するな、虫けらが。

私に歯向かうのは構わないが、今が戦場であることを忘れるなよ?−


「…!」



イゼエルに指摘されて、その場に伏せたのが正解だった。


先程まで俺の頭に当たる位置に、無数のナイフが飛び交っていた。



「何独リ言言ってルンんだゴらァ!?

ごちャごチゃうるセえ!!」


「フン、お前程は(うるさ)くは無い!キリッ」


「黙レ、コのくソ野郎がぁァぁァァぁぁ!!!」



次の瞬間、俺の視界はこちらに矛先を向けた大量のナイフが出現していた。


怒りのせいか、今までとは覇気が違った。



−何を余計な事をしたんだ、クズ。

自分を危機的状況に追い込むとは、貴様はMか?−


「悪いがイゼエル、俺は元々こういう性分なんだよね。

だから、いつもこういう事には慣れてるのさ。

ちなみに、俺はMではない!」



まあ、年下の女の子は例外ですよ。


用途に応じて様々な趣味に対応する、それが俺クオリティー…



−ほう、威勢の良い虫けらだな。

だが、このままでは貴様は確実に死ぬ。

まあ、わざわざ命取りな事をするクズにはお似合いの結末かも知れないがな−


「そ、それはご勘弁願いたいものだな…

いやいや!!

フツーに死ねないよ!

待てよ、俺は本当にこんな変態に殺されるのか!?

絶対嫌だよ!!」


−フハハ、同族嫌悪か。そんなお前に、取って置きの情報をやろう。

貴様の能力について具体的に説明してやる−


「いや、最初からそれをしてくれよ!!」


「ア゛あ゛あ゛ア゛あ゛ア゛ア゛あ゛アああくソウるせェぇぇぇェぇェェ!!

黙レよ、いイ加減俺を無視スんナアアアぁぁ!!」



榛原は、俺とイゼエルが脳内トークをしている姿に腹がよっぽど立ったのか、すっかりご立腹の様子だ。


まあ、そりゃひたすら独り言を言い続けて、無視をされ続けるのは辛いよね。


うん、分かるよ。



「ああ…悪い。

でも、もう少し待ってくれよ」


「…誰ガっ、待ツかアぁぁアァぁぁあああッ!!!」



あ、フォロー失敗。


むしろ、余計機嫌を損ねてしまったようだ。



榛原の一言で、空中で待機していたナイフがこちらに向かって飛んで来る。


やったね悠希ちゃん!

死亡フラグが増えたよ!



−おい、クズ。

仕方ないから、戦いながら説明するぞ。

まず、ルノエルを盾にしろ−


「はぁ!?

年下の女の子を盾にするなんて紳士として…」


−黙ってやれ、クズからミンチにされるぞ−


「ええい、ルノエル…ゴメン!!」


「えっ、ちょっと、悠希様何を…」



俺は隣に立っていたルノエルを自分の目の前に引っ張り出し、今にも襲い掛かろうとしてくるナイフの盾にした。


…イゼエルに言われたとは言え、凄く心が痛い。



そうこうしている間に、榛原のナイフが俺達の目と鼻の先まで迫って来ていた。



−さあ、今だ!

ルノエルの周りに先程の壁を展開しろ。

壁をイメージするだけだ、簡単だろう?−


「えっ、ちょっと!

いきなり過ぎるだろ!!」


−良いからやれ、ゴミクズ−


「だぁあああ、もう!

壁よ、出現しろ!!」



俺は半分自棄のような状態で、ルノエルを守る壁が出るように叫んだ。


壁をイメージするのに、わざわざ口に出して言う必要もないが、咄嗟に口から出てしまった。




ガキキキンッ!!




間一髪の所で壁が出現し、全てのナイフを弾き返した。


今度の壁は、俺の目の前もちゃんと覆い尽くしている。



「ふぅ、危なかったな…

あれ、ルノエル?

なんでそんなにぐったりしてるんだ?」


「だ、だって悠希様…

な、な、何も教えて下さらない内に、私を盾にするなんて…

とっ、とっても心臓に悪いですぅ…」



そういえば、ルノエルには俺とイゼエルの会話が聞こえていなかったんだな。


脳内での会話だったし、そりゃそうだよな。




「あー、そうだったな。

本当にごめんね!」


「うぅ、別に良いんですぅ…

天使は黙って主人の操り人形にでもなりますからぁ…」



うーん、相当参っていらっしゃるな。


今は壁がガードしてくれてるし、何とか元気付けたいものだ。



「ルノエル、大丈夫だよ!

俺は君を人形扱いなんてしないよ。

むしろ、大事に面倒を見てあげようとも思ってるし!」


「…その結果がこれですか?」


「うっ…」



クライヨー、ルノエルが今までに無いぐらいにクライヨー。


そうか…そんな生半可な言葉じゃ、ルノエルの機嫌も直らないのか。



…だったら、本当の俺の気持ちをぶつけるしかない!


うん、それが最善の手立てだ!!



「あのさ、ルノエル…

君に言わなきゃいけない事がある!」


「な、なんですか…

急に改まったような口調に鳴ってますけど…」


「ルノエル、好きだ!!

今すぐ、俺と結婚しよう!!」


「ええぇぇ〜!!?」


「今は世間的には認められない年齢かも知れない…

だから、18歳まで待ってくれ!

その時は必ず迎えに行くから!!」


「あうあわわわわわわわわ…

そ、そ、そ、そんな…いきなり言われても…」


「この戦いが終わったら、一緒に暮らそう!」


「こ、こ、こ、これ以上余計な死亡フラグ立てないで下さい!!」



ああ、分かっているさ。


どんな勝負も、ただ勝っても面白みが無い、一種のエンターテイメントだよ!


それに、これでルノエル機嫌が紛れたから、結果オーライ!!



「イつまデ、ソこに居ルつもリだァ!?

後ガがラ空きなンだヨォ!!」


「…うわっ!?」



ルノエルとの話に夢中になっている間に、榛原は後に回り込んで来ていた。


咄嗟に頭を伏せたおかげで、斬撃を食らわなかったが、少しでも反応に遅れていたら危なかった。



−調子に乗るからだぞ、クズ。

お前が余計な事を話していなければ、この戦いは貴様の優位になっただろうな−


「し、仕方ないだろ!

部下のメンタルケアは、上司の役目だからな!」


−ククク…

相変わらず、理解出来ない思想だな。

まあ、いい…

仕方がないから、もう一度だけ低俗な貴様の能力の話をしてやろう。

次を聞き逃したら、貴様に勝つ見込みが無いと思え−


「…了解した。

指示を頼む」



さて、ここからの戦いはふざけてもいられないな。


今からネタに走るのは、多少自重するかもだから、ご了承してくれ。


まあ、多分すぐに元通りだと思いますが…


とにかく、ここから俺達のガチバトルが始まる訳であった。







「ほぅ、中々しぶとい人間ですね…」



先刻、榛原皐月と話していた神は、水晶に映る地上の様子を見て唸っていた。


表情こそ落ち着いているが、身振りから苛立っている様子が見て取れた。



「全く、計算外ですね。

ここまで皐月さんが苦戦するとは、これからの計画に支障が出てしまいますねぇ…」


「ああ、全くだ」


「…!!

何者です!?」



突如会話に混ざり込んできた声に、その神は驚きを隠せなかった。


何しろ此処は神の砦(ゴッド・フォート)、どんな侵入者をも許さない、神の絶対なる領域である…はずなのだが。



神の砦(ゴッド・フォート)は、神と神に選ばれた者だけが立ち入る事が許される領域だ。

つまり、とりあえず神であれば(・・・・・・・・・・)何の問題もないのではないか?

殺意の神、アルギスよ」


「何故!?

この神の砦(ゴッド・フォート)は、私の結界が張っている筈だ!」


「簡単さ、あんたのその溢れんばかりの殺意を辿ってきただけだ。

あんたはその殺意を隠すために、他の神よりも不必要なぐらい強い結界を張っていた。

お前のその用心深い所が、むしろ仇になったな」


「クッ…!

よくそこまで推測が出来ましたね…

貴方は一体何者です!?」



その声の主の姿は影のようで、はっきりと容姿が確認出来なかった。


かろうじて確認出来るのは、漆黒のフード付きのローブだけであった。



得体の知れない相手を前にした無いアルギスは、普段にもない荒々しい態度になっていた。


いくら神と言えども、人間と同じく恐怖の感情はある。

ただ、多少の例外は存在するが…



そして、そのアルギスの恐怖する姿を見て、もう一人の神は愉快そうな声で答えた。


神を神として見ていないような、そんな雰囲気を放っていた。



「私はサリヌス。

今からあんたを始末する為に此処に来た」


「サ…サリヌスですと!?

邪神の中でも恐れられる、あの理想の神なのですか!?」



(たちま)ち、アルギスの表情が青ざめていく。


サリヌスは、確実ににアルギスを圧倒しているのは一目瞭然だった。



「殺す前に忠告してやろう。

我が友であるイゼエルの契約者に接触しているのは、貴様の契約者だろう?

そいつを今すぐ退かせた方がいいぞ。

彼の為にも、契約を解除して手放すんだな」


「な、何を馬鹿な事を!?

わたくしの貴重な手足であり、我等の希望である彼を手放すだと!?」


「ほぅ、希望ねぇ…」



サリヌスはその言葉を復唱し、意味ありげに頭を掻いた。


そして、今までに無いぐらい冷たい表情でこう言った。



「邪神が希望だと?

よくもまあ、そんな事が言えたものだな…

その言葉、死して訂正しろ!」


「…!!」



寒気をアルギスは、思わずたじろいでいた。


それと同時に、凍るような殺意が彼を襲った…







「クたばリヤがれェェぇぇぇェェ!!

刃物乱舞(ブレイド・ダンス)』ッっッ!!!」


「『幼女防壁(リトルガール・ディフェンス)』!!」




ガキキキキンッ!!




「サッきカら、チョこマかと!!

いイ加減死ネよ、死ネえェェぇぇェェぇぇ!!!」


「ハッ、簡単に死なねぇよ!!」



あれから決着が付くことも無く、俺と榛原の戦いは今も続いている。


ただ、榛原の猛攻を防ぎ続けて、反撃が出来ないのが現状ではあるが…



「おい、イゼエル!

何だよ、『幼女防壁(リトルガール・ディフェンス)』ってさ!

もっとマシな名前は無いのかよ!?」


−仕方ないだろう、それが貴様の性癖(コンプレックス)から生まれた能力なのだからな。

いくら文句を言われようが、元々そのような名称なのだから仕方有るまい。

せいぜい文句は、自分の性癖に言うんだな−


「あー、畜生!

俺が好きなのは幼女じゃなくて、年下の女の子だっつーの!!」



文句を言いながらも、俺はルノエルとしっかり手を繋いでいる。


こうしないと『幼女防壁(リトルガール・ディフェンス)』が発動しないので、不本意(・・・)ながら繋いでいる。

いつもの俺ならヘラヘラするようなシチュエーションだが…


今回は、そんな事を考えている余裕など無かった。



なにせ、引っ切り無しに榛原のナイフが飛んで来るのだ。


何故だかは分からないが、奴の攻撃の手は一向に弱まる気配を見せない。


息が荒くなってきた俺に、ルノエルが心配そうに声をかけてくる。



「…大丈夫ですか、悠希様?」


「だっ、大丈夫だ、問題ない。

まあ、流石に大分疲れてきたけど…

おいイゼエル、まだアイツに攻撃出来ないのかよ!?」


−急かすな、クズが。

人間なら、もう少し冷静になれんのか。

今、奴の能力の検討を付けている…−



イゼエル曰く、俺にはもう一つの能力(・・・・・・・)があるらしく、その能力を使うには、相手の能力が何かを知る必要があるらしい。


まあ、確かに年下の女の子を物理的に(・・・・)守る事が出来ても、相手を倒さない限り本質的に(・・・・)守ったとは言えないだろうしな。



イゼエルの言いなりになるのは正直腑に落ちないが…

俺には他の手は思い付かないし、とりあえず従うしかなさそうだな。


今はただ、奴の攻撃を防ぐ事だけを考えるとしよう。



「ったく…分かったよ。

その代わり、後で詳しく話してもらうからな!

聞きたい事は、山ほどあるんだからな!!」



例えば、今のこの状況。


欲望を叶える能力がどうとかって言った筈が、どうしたらこんな命を賭した戦いになるんだよ!?



あと他にも、ルノエルの地上での扱いとか、ルノエルに対する俺の権限とか、ルノエルが結婚できるn…etc。


ああ…ここで紹介仕切れないのが、非常に悔やまれる。



−フハハハ、善処するとしよう。

まあ、貴様がこの戦いに敗れさえしなければな−


「縁起でも無い事を言うんじゃねえよ!

まさか、本当は俺に勝たせるつもりは無かったりするのか!?」


−ほう、それも悪くないな…

つまり貴様は、無様(ぶさま)に負けたいと志願しているのか?−


「しねーよ!!」



なんだか墓穴を掘ってしまった気がする。


自分で言うのもなんだが、俺って死亡フラグを立てるのが得意だよね。


そう、俺は死亡フラグ一級建築士と言えよう!



ふと、俺は榛原のナイフが飛んできてない事に気が付いた。


そして、榛原は何かをブツブツ呟きながら、地面ばかりを見ていた。



「よしっ、とうとう奴のナイフも枯渇したみたいだ…

イゼエル、あいつを一発殴って来るぜ!」


−待て、何かがおかしい。

いくら自殺願望があっても、不用意に近付くのは危険だ。

それにまだ奴の能力がはっきりしない…−


「はあ、大丈夫だってのっ!」



この際俺は、イゼエルの能力に頼らない。


どうせ幼女紛いのロクな能力だろうしな、絶対に殴った方がダメージがデカイに決まっている。



俺は一気に榛原との距離を詰め、自分の拳に力を込めた。


俺の拳がが狙うのは、榛原の顔面。


決まれば、逆転の糸口が見えて来るに違いない。



「この腐れナイフ野郎!

これがルノエルを傷付けようとした…制裁だ!!」



俺の拳が榛原の顔面に食い込み、榛原がその場でふらついた。


攻撃が通じ、さらに俺が追撃しようとした…その時だった。



「…『刃物地雷(ブレイド・マイン)』」


「なっ…」



榛原が呟いた一言で、俺はしまったと思った。


さっき攻撃を止めたのは、新たな攻撃の予備動作に過ぎなかった…つまり、俺は榛原の罠にかかったのだ。




ズドドドドッ!!




「ぐぁあああああ!!」



突如として地面から無数のナイフが飛び出し、俺の身体に突き刺さった。


それこそ、ナイフの地雷のようだった。



身体の至る場所が悲鳴を上げている。


筋肉を引き裂かれたりしたような、今まで感じた事のないような痛み…


逃げ出したいけど、逃げれない状態だった…



「はっ、悠希様!!」



ルノエルが、今にも泣きそうな顔で駆け寄って来る。

いつもの俺なら、大丈夫だと伝えて彼女を宥めただろう。


しかし、俺には彼女を励ます力は残っていなかった。



「…クソッ、身体中が痛くて…立てない!

ぐああああっ!!」


「あっ!

悠希様、動いちゃダメです!

そんなに深い傷…」


「んなこと言ったって、このままじゃ…確実に殺されるぞ!

うっ…力が…」


「ああっ!!

そんなに出血していたんですか!?

制服が真っ赤に…」



ルノエルに言われて気が付いたが、綺麗だった制服は、ズタズタで血だらけになっていた。


あーあ、これじゃ使い物になんないよ。



「制服…買い替えないとな。

そうだルノエル、天使の力で制服は直せ…ないのか?」


「ひ、瀕死の状態で何を言ってるんですか!?

早く逃げないと…」


「ソうそウ、俺が殺シちまウゼ?

ギャギャギャギャ!!」


「うわあっ!」



ルノエルのすぐ後ろに、薄笑いを浮かべた榛原が立っていた。


これは…本当に終わったかもな。



「コれで終わリだナ!!

サあ、何か言イ残す事ハ無イか?

特別に聞イてヤるゼ!」


「………ぇ……よ……」


「あアん、何を言っテるか聞コエねェゾ!?」


「お前に…俺は殺されねぇってんだよ!!」


「…!」



とても勝ち目が無い筈なのに、俺はそう叫んでいた。


だが、コイツに殺されるのも癪に障るな。


このイカれた野郎に殺されるぐらいなら…



「おい、ルノエル…

此処で俺を…一思いに殺してくれよ…」


「…っ!

何を言ってるんですか悠希!?

まだ希望を捨てては…」


「もう、無理だよ…

最後に(すが)ったイゼエルからは、もう何の音沙汰も無いし…

きっと、イゼエルも俺を見捨てたんだ…」


「イゼエル様には、まだ考えが有る筈です!

絶望してはダメです!!

魔女かファントムになってしまいますよ!?」


「いや、俺は魔法少女でも無いし、ゲートと呼ばれる人間でも無いから…その点では大丈夫だ」



ああ、ルノエルが珍しくボケたね…


これは今日の晩御飯に、赤飯を炊かないといけないな!



でも、無理か。

多分…というか、確実に俺は死ぬし。


まさか、本当にフラグ回収しちゃうとはなぁ…



「挨拶ハ済んダな!?

そレじゃア、早速死ネええエえエエぇぇェぇェェェぇぇ!!」



頭上で刃物が空気を切る音がする。


俺は、目を(つぶ)って死を覚悟した。



…つかの間の沈黙。


しかし、いつまで経っても、ナイフが俺に突き付けられない。



不思議に思って顔を上げ、俺は息を呑んだ。



あの涙目だったルノエルが、榛原の腕にしがみついていたのだ!


どうやら、俺の頭を目掛けて振り下ろされようとしたナイフを、ルノエルが必死に止めようとしてくれていたようだ。



「や、止めて!

悠希様を殺さないで!!」


「黙れ、クそがキがああアアあ!!

俺の邪魔スんジャねェえャ!!!」


「きゃあああっ!」



榛原に突き飛ばされ、ルノエルは地面にたたき付けられる。


その時、再び榛原に対する怒りが沸いて来た。



「よくも…ルノエルを…!!

あぐぅっ…!」


「ギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!

そンナ身体でヨく言うナぁ!

黙っテ寝転がッテろヨぉ!!」



一度俺を蹴りを入れて、再び榛原がナイフを振り上げた。


クソッ、俺はルノエルを守ってやれないのか!?



−おい、クズ。

ルノエルを守りたいか?−



当たり前だ、俺が守ってやらないと…

ルノエルの面倒は、俺が見ないといけない…

ルノエルを守れるのは、今は俺以外に居ないんだ!!



−お前は本当に、命を賭してルノエルを救う気はあるのか?

その為には、何を犠牲にしても構わないと?−



構わない、何を失おうとも…


俺は、年下の女の子を守ってやらないといけない!!



−そうか、ならば…−




それから、イゼエルは俺にとある言葉(・・・・・)とざっくりとした説明を言い放った。


その直後、俺の全身の細胞が震えるような、鳥肌が立つような…


不思議な感覚に襲われた。


イゼエルは、俺に何か(・・)をしたようだった。

しかし、イゼエルの言葉を遮るようにして、榛原が俺に止めを刺そうとする。



「今度コそ、死ネええエえエエえぇエエぇぇェぇェェェぇぇ!!」




ガシッ…




「ナ…なニィィィぃぃィィいいイイイッッッ!?」



榛原顔が、驚きの色に染まる。


まあ、無理も無いよな。



ナイフが俺の顔に突き刺さる直前に、ナイフが止ったんだからな。


いや、俺が止めた(・・・)からだ。



俺はナイフ刺さる直前に、榛原の手首を掴んでナイフを止めた。


流石に無傷とはいかないが、かすり傷程度で済んでいる。



「いい加減にしろよ、ナイフ野郎…

お前とのお遊びはこれで終わりだ」


「ハっ、今更何ヲ…

ン…!?

馬鹿なァッ!?」



榛原は俺の手を振りほどこうとしたが、俺はそれを許さない。


今までに無い感情と溢れるような力が、身体全体から沸いて来る…




ゴキッ…




「ギャああアああああアアアアア!!

腕がァ、腕ガああァ!!」



あろう事か、俺は榛原の腕の関節を外したか、折ってしまったらしい。


だが、その時の俺は、そんな事など気にも留めなかった。



他人を傷付ける事を気に留めない程、俺は怒っていた。


後に振り返れば自分でも恐ろしいぐらいに、俺は豹変していたのだろう。


イゼエルにあの一言を言われてから…



「今からお前を更正(・・)する。

そのイカれた性癖…誰が許そうとも、俺が許さない!!」



倒れていた俺は一気に起き上がると、榛原の頭に掴み掛かった。


そして、イゼエルに言われた一言を叫んだ。



「『個性反転(キャラクター・リバーシブル)』ッ!!」


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