−第3話 変人達の、変人達が織り成す、変人達による、変人達変人達の為の、変人戦争が始まりました。−
引き続き此処は、白扇学園の屋上なり。
神様に天使の面倒を見ることになった俺は、そのルノエルという天使と現状報告のような事をし合っていた。
「さて、由々しき事態になったな…」
「いや、そんな大袈裟な…」
「馬鹿な事を言うな!
どうしてお前は、アイツの下部になるなんて言ったんだよ!?」
「いや、アレは向こう勝手に…」
「そんなの相手にするなーッ!」
ルノエルの話を聞いて愕然としていた俺は、あれから少し立ち直って、ルノエルに説教的な事をしていた。
これ以上俺のイメージダウンを防ぐ為にも、これは必要な事なのだ。
許せ、ルノエル…
さて…俺達の会話から分かると思うが、何故か俺は小野木千草の下部という事になっている。
どうしてこうなったか、大体の見当は付くが…あんまり知りたくはない。
「…で、他に何かやらかしたりしてないだろうな?」
「いえ、何もしてないです。
ただ、お腹が空いたので…」
「…空いたので?」
「甘ったるいおにぎりをいただきました!」
「それレーズンおにぎりじゃないか!?」
日下部さん、悪い。
俺と同じ顔をした天使が、レーズンおにぎり食ってたよ。
もしかして、案外イケるのか?
気になってきたから、今度作り方とか聞いてみよう。
食えそうになかったら、小野木の机にでも置いておこう。
「まあ、その件に関しては…
解決してるようなものだから、別に良いか…」
「えーと、よく分かりませんが…
問題は無いんですか?」
「もう、良いんだよ…
レーズン系の食べ物を、常に携帯しないといけなくなったが…」
「よく分かりませんが、本当に大丈夫ですかそれ!?
」
大丈夫じゃない、問題だ。
内心はそうだが、幼zy…
じゃなくて、年下の女の子には心配はかけられない。
まあ、実年齢とかは知らんが…
仮に年がアレでも、合法ロリって事で!キリッ
ちょうど、その時だった
。
屋上の入り口付近で、聞き覚えがある声が聞こえてきた。
「うげっ、悠希!?
じゃなかった…腐れロリコン!?」
「…何故言い直したし」
この言い草から分かるように、女子にして女子好きな凛々愛だった。
そういえば、妹の友利愛ちゃんって、百合じゃないのに友利愛だよね。
なんか、紛らわしいね。
ドゴッ!!
なにこのデジャヴュ。
凛々愛の拳が、俺の目に炸裂した。
「ああ、目が!
目がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「何で大佐っぽく悲鳴上げてんのよ…」
「何気ない日常生活にネタを仕込む…
それが俺クオリティー…」
「ドヤ顔すんな、キモい」
「なにそれ理不尽」
相変わらずの口の悪さである。
そんなんじゃ、彼氏できんぞ。
まあ、彼女が居ない俺は、言える立場じゃないがな。
とまあ、そんな事より、今気になって仕方がない事がある訳で…
「…で?」
「な、何よ?」
「何でお前は、日下部さんを連れているんだ?」
そう、今凛々愛の後ろには、レーズンパンをくわえた日下部さんがいるのだ。
おそらく、あれは俺があげたレーズンパンだろう。
なんとも大事そうに、レーズンをちびちび食べている。
「え?
デート以外に何があるの?」
「いやいや…嘘はいけないぞ、凛々愛さんよ」
「事実よ、ねえ日下部さん?」
「ムフーッ…」
「ほら、言ったでしょ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやん」
ほら、じゃねーよ!!
日下部さん、露骨に嫌そうな顔してるから!
頷いてすらいないし。
「…嫌そうな顔してるぞ」
「はぁ、あんたの目は節穴なの?
よく見なさい、私を見て輝く彼女の瞳を!」
「いや…日下部が見てるのは、お前の手にあるレーズンが大量に入った瓶だろ」
「ええい、うるさいわね!
釣れれば問題なしよ!!」
「開き直るなよ」
とりあえず、凛々愛に何されるか分からないし、このまま日下部さんは放っておけない…
凛々愛から、何とか引き離さないとな。
さて、どうするか…
お、いいこと思い付いた。
「おーい、凛々愛」
「ああん、何よ?」
「此処に、天使にコスプレした女の子が居るぞー」
「ええっ、何処!?」
俺が指差したのは、天使ルノエル。
彼女は、いきなり指を差されて動揺していた。
「ええっ、私ですか!?」
「そう、お前だ!」
「ええっー!?」
ルノエルは、口をぱくぱくさせて、酸欠を起こした金魚のようだった。
動揺するルノエルに、俺は咄嗟に耳打ちした。
「スマンが、しばらく凛々愛の囮になってくれ。
あとで、なんかご褒美やるから」
「えっ、本当ですか?
だったら、頑張ります!」
「ああ、頑張れよ。
自分の貞操が大切ならな…」
「えっ、それってどういう…」
ルノエルが俺に聞き返そうとした時、その女は動き出した。
そう、凛々愛である。
「はぁはぁ…!
可愛い天使ちゃあああああん!!
さあ、私と愛を誓いましょう!!」
「きゃあああああああああ!?」
野生の凛々愛が、血眼で突進してきた!
おおっと、此処でルノエル選手が走り出した!
両者とも、必死であります!
女好きな悪魔から解放された日下部さんは、俺に素朴な疑問をぶつけてきた。
「なあ、立脇。
あいつは誰なんだ?」
「まあ、天使だけど?」
「まさか、レーズンの天使!?
あたしを守る為に来てくれたのか!?」
「いや、流石にねーよ…」
日下部さんのレーズン愛は、図り知れない。
そんな会話をしながら、俺と日下部さんは、逃げ惑う天使と筋金入りの百合女の追いかけっこを見ていた。
頑張れ、ルノエル!
こんなところで、大人の階段を上らない為にも!!
◇
「さあ、これでお前も契約者です。
思う存分、その力を振るうといいでしょう」
「…ああ」
此処は、天界のとある神の砦。
その薄暗い空間の中、神と人間とおぼしき二人組が、向かい合って話していた。
一人は、悠希と同じ白扇学園中等部の制服を着た男子だ。
自分で切ったようなズタズタな短髪で、手には革の手袋をはめていた。
そして、もう一人の神らしき人物は、漆黒のマントに身を包んでいて、口元以外殆ど何も見えない。
丁寧で落ち着いた声とは対照的に、イゼエルとは似て似つかない不気味な雰囲気を醸し出している。
「お前が勝ち残れば、この世界はわたくし達のモノです。
お前が望む理想郷を、我が作り出してあげましょう」
「………それは、本当か?」
「ええ、そうですよ。
これは嘘偽りない約束です。
ほら、契約前に言っていたではありませんか」
「そうか…だったら…」
口数が少なそうなその男子は、神らしき男を見据えて言った。
「オレはカオスな世界を求メルッ!
一日中至る所デ、殺人行為が行わレル…法律も秩序も無イ混沌たる世界ヲッ!!」
「フフフ、本性が出ましたね…
期待していますから、これからよろしくしますよ?」
「ギャギャッ、楽しミしナァ!
邪魔な奴らハ、皆ぶっ殺しテやるからヨォ!!
この平和ボケした世の中ニィ、地獄を再現シテやるゼェッ!!
ギャーッギャギャギャッギャギャッ!!」
狂った男の叫びが、神の根城に響き渡った。
そんな様子を見て、邪悪なる神は、薄笑いを浮かべていた。
◆
色々あったが、いつの間にか放課後になった。
あの後、ルノエルは無事生還してきた。
どうやら、別の人物の姿を借りて逃げ出して来たようだ。
彼女なりの紆余曲折があったのだろう、かなりお疲れの様子だ。
「おっ、よく無事に帰ってきたな。
とりあえず、お疲れ様」
「うぅ…お疲れ様じゃないですよぉ…。
もう見た目が年上の女の人は…信用出来ませぇん…」
「予想以上に大変だったみたいだな…」
「はぁ…誰のせいでこうなったか分かってます?」
君そういう状況に追い込まれたのは私の責任だ。
だが、私は謝らない。
「…なんか今、失礼な事を考えましたか?」
「ナンノコトカナー?」
「…何故変な喋り方になるんですか?」
「イヤイヤ、コレオンドゥル星デハ普通ノ喋リ方ダオ」
「………」
ルノエルは、呆れ顔をして黙ってしまった。
あ、いや、違う!
俺のユーモラスな人格が勝手に!
ちなみに、現在ルノエルは透明になっている。
透明と言っても、俺にはバッチリ見えている。
どうやら、神と契約した人間、神や天使のような天界の住人には見えるらしい。
つまり、他に神と契約した人間には、ルノエルの姿が見えているそうだ。
ルノエルは、重要な判断基準とか言ってたけど…
正直、何処が重要なのかイマイチ分からん。
契約してる人間を見付けても、「へえ、そうですか」で終わると思うんだが…
いや、そんな事など今はどうでもいい。
とりあえず、ルノエルの機嫌を直さないとな。
「えーと、何か食べたい物とかあるか?」
「レーズンおにぎり…」
「!?」
まさか、再びその悍ましい食材の名を聞くことになろうとは…
レーズンおにぎり、恐るべし。
「あー、じゃあ…
仕方ない、日下部に作ってきてもらうか」
「いやったぁ!
またあのレアモノを食べられるなんて…
地上に来てよかったぁ!!」
「いや…うん、ああ、そうか…」
どうして、俺の周りには変人ばっかり居るんだろう。
皆、俺みたいなロリk…ゴホンゴホン。
俺みたいな、普通で真面目な高校生になるつもりはないんだろうか?
それにしても、レーズンおにぎりか…
とても常人が食える代物とは思えないが、そんなに美味しいものなのか?
まさか、日下部さん…
レーズンおにぎりに、変なモノ仕込んでたのか!?
普通の人間には理解出来ないレーズン癖の理解者を増やすために、レーズン中毒になる危ないアレとか…
このままじゃ、レーズンおにぎり中毒者が蔓延するんじゃないか!?
後に、これは『レーズンの侵攻』と呼ばれて…って、そんな展開あってたまるか。
まあ、それは置いて置いて…と。
とにかく、明日までにどうにか日下部さん作ってきて貰わないとな。
あれ?
なんでだろう。
女子に食事を作って欲しいと頼むのに、全然ドキドキしないぞぉ。
おかしいなぁ。
「さて、何はともあれ、日下部さんを探さないとな。
どこ行ったかな?」
「あっ、先に帰ったみたいですよ」
「ズコーッ!!」
まだ帰りのHRから、3分も経ってない。
驚きの帰宅速度。
「仕方ない、凛々愛に聞くか…」
「うげっ…
あの魔物に会いに行くんですか?」
おい、凛々愛。
いつからお前は、天使も恐れる魔物になったんだ?
「いやいや、魔物って何だよ」
「あんなの人間じゃありません!
魔物…いや、魔王です!!」
「な、何をされたんだ…?」
「そんなの言えません!
言ったら、お嫁にいけなくなっちゃう!!」
あれ、ルノエルさん?
その発言、さっきもしてませんでした?
「大丈夫だよ、ルノエル。
仮にお嫁に行けなくても、俺がもらってやるからさ!」
「悠希様、その手には乗らないですよ」
「くそぉ」
思っていたより、ルノエルは強敵だな。
もっと好感度を上げる為に、イベントを起こしていく必要があるな。
ギャルゲー的表現で言うとな。
そんな時、探していた…というか、探さざる得ない人物が登場した。
そう、自分が気に入った女子のメアドを知り尽くしている魔王が…
「悠希、あの天使っ子は何処に行ったの?」
「ぎゃあああ!!」
一応、凛々愛にはルノエルの姿は見えない。
だが、ルノエルの表情は非常に険しい。
分かりやすく嫌われてるなー。
「お前の事を、魔物だか魔王とか行ってたぞ」
「えー、そんなに酷い事してないわよ」
「お前、何したんだよ…」
「私好みに着せk…コーディネートしようとしただけよ!」
「…つまり脱がしたと?」
「か、勘違いするんじゃないわよ!
脱がしたのは、上着だけだからね!!」
「なんでツンデレ風なんだよ」
そりゃ、嫌われるよな。
例え同性でも、脱がされていい気はしないからな…
それは、男子も例外ではないしな。
知らないお兄さんに、服脱がさたら、絶対貞操の危機を感じるな。
歪みねえな…
アーッ!
そんな展開には、絶対になりたくない。
あ、そうだった。
凛々愛に用があるんだったな。
ははは、無駄で長い回想のせいで忘れる所だったよ。
「凛々愛、お前の女性癖を見込んで少し頼みたい事がある」
「失礼ね、能無しの野郎共には魅力を感じないだけよ。
特に、あんたみたいなロリコン野郎は論外ね」
「はぁ、泣けるぜ…」
相変わらずの毒舌である。
そして、否定しきれない自分が悲しい。
男子よ、もっと女性を大切にしょうな。
「…で、頼みって何なのよ?」
「ああ、実はだな…
日下部さんの連絡先を聞きたいと思ってな」
「へぇ、あんたが幼女以外のあんな変わった女子に興味を持つなんてね。
日本が財政破綻する前兆かしら?」
「馬鹿言うな、そんなんじゃねえよ…」
あんな「あたしの体はレーズンで構成されているんだ!」宣言をしている痛い奴を好きになるものか。
どうせなら、ルノエルの方が1000000倍いい。
ルノエルちゃん、マジ天使。
「あらら、悠希君?
照れ隠しがまるで下手ね。
それじゃあ、ツンデレにもなれないわよ」
「ツンデレなんかになりたくなk…じゃなくて、色々と違えよ!
勘違いすんじゃねぇ!!」
「あら、やればツンデレできるじゃない」
「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああう!!」
「うふふ、取り乱しちゃって♪
ツンデレ男子、キモーい♪」
この幼なじみ…なんかキャラが違う!
人は権利的に圧倒的優位に立つと、此処まで変わるのか!?
「まあ、良いわ。
とりあえず、帰りにパフェでも奢りなさい。
それで交渉成立よ」
「クソッ、財布の余裕が無いのに…
凛々愛、覚えてろよ!」
「あら、負け続けるフラグが立ったわね」
満面の笑みを見せる凛々愛に対し、俺は地面にうなだれた。
ここまで凛々愛に追い込まれるとは思わなかった。
今回は、完敗だ…
そんな俺の様子に見兼ねたのか、透明モードのルノエルが俺に近付いてきた。
ああ、なんて優しい子なんだ!
「悠希様、大丈夫ですか?」
「うん、まあ、何とかね…」
「あの…悠希様…」
「…ん?」
「悠希様が例えツンデレ男子でも、私は貴方を嫌いになったりしないから大丈夫ですよ!」
「………」
もう嫌だ、この人達…
どうして俺の周りには、普通の奴が居ないんだろうか。
ため息を付いた俺を余所に、凛々愛は「念願の『アルティメット・ダイナマイト』が食べれるわ!」なんて言いながら、ぐいぐい俺の体を外へ外へと押し出していく。
ちなみに、『ルティメット・ダイナマイト』とは、『メイプル・ルーム』という喫茶店味で売っているパフェで、大きさ共に超弩級なパフェで、値段はなんと三千円である。
俺のSAN値と所持金が擦り減って行くのは、言うまでもないだろう。
◇
「くうぅ…
俺の三千円がぁ…」
「悠希様、マイドンです」
「それを言うなら、ドンマイだろ…
それだと、ストレッチしてるおっさんと一緒に居る変なマスコットだぞ…」
「さすが、悠希様!
凹んでいても、私に出来ないような長くてハイレベルなツッコミを平然とやって除ける!
そこにシビれます!!
憧れますぅ!!」
「ハァ…ツッコミはしないからな」
幼なじみとの、悪夢の帰り道。
割と美形な幼なじみと、透明だけど俺好みの年下の女の子がついて来ている放課後の帰り道だ。
これだけ聞けば、ギャルゲーやってる時は、羨ましい気がしたこのイベントだが…
結論から言わせてもらうと、全然嬉しくない。
いや、むしろこんなイベントは嫌だ。
こんな幼なじみとは、こんなシチュエーションはいらない。
いや、攻略対象に問題が有り過ぎるんだな!
うん、そうに違いない!!
ドォゴッ!!
「ぬぐおっ!!?」
「また失礼な事を考えたでしょ?」
幼なじみからの望まない鉄拳のプレゼントだ。
躊躇無く心臓を狙ってきたから恐ろしい。
こ、これは…言葉に表せない、実に心が折れそうになる衝撃だ。
でも、この衝撃で肋骨が折れない俺って、案外丈夫な身体なのかも知れないな。
思わず調子に乗った俺は、見事に墓穴を掘ってしまった。
「ハ、ハハッ!
お、お前の力は…その程度か!?」
「調子に乗らないっ!」
ギリギリギリ…
「うぎゃぁぁぁぁぁぁああああああっ!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」
「ほーら、このまま体中の関節を外してあげても良いのよ?」
「止めて!
それ以上いけないっ!!」
相変わらず強力な凛々愛の関節技。
現に、今まで二、三回程俺の関節を外した事がある。
俺の数多きトラウマの一つである。
「しょうがないわね。
関節技で外して下さいと土下座したら、外してあげるわ」
「なんか色々と間違えてないか!?」
「うふ、冗談よ♪
それに、このままじゃパフェ食べれないしね」
凛々愛はそう言って、関節技を解いてくれた。
この手の凛々愛の行動は、何処までが冗談で、何処までが本気なのか分からない事が多い。
気分によっては、普通にやり兼ねないのが、奴の恐ろしい所だ。
「あ゛ー、肩の感覚がぁ…」
「直してあげようか?
面倒だから、一回外すけど」
「全力で遠慮させていただきます」
「何だ、つまんないわね…」
何この人、怖い。
人の関節を外すのを、嬉々としているぞ。
「…また馬鹿にしてない?」
「全然シテナイヨ!」
「ふーん…」
超弩級パフェを食べている凛々愛から、ジトッとした視線が俺に降り注がれる。
この状態の細い目、業界用語でジト目という。
間違ってたら、ゴメン。
だが、凛々愛のジト目は魅力を感じないな。
というか、ジト目で興奮するのは、紳士の皆さんだけだな。
俺は興奮しない、年下の女の子は例外かも知れないがな!キリッ
さて、そんな事をしている場合では無かったな。
最初の目的は…ルノエルの為に、日下部さんの連絡先をゲットし、レーズンおにぎりを手に入れる事だ。
身体を張ったルノエルの為に、なんとしてでもゲットしたい。
ルノエルの好感度を上げる為に!
それじゃあ、行動を開始しようではないか。
凛々愛の機嫌を損ねないように、割と自然に聞き出したい所だ。
「あのー、凛々愛さん。
日下部さんの連絡先の方は…」
「ああ、確かそうだったわね。
それにしても…あんた、日下部さんに妙にがっついてるわね」
「いやっ、気のせいだよ…
用がなければであんな奴、話し掛けようとも思わないさ」
「…で、その用って何よ?」
「天使が欲しているモノを手に入れる為さ」
「えっ、あの天使ちゃん!?」
お前こそ、ルノエルに超がっついてるじゃないか。
まあ、いつもこんな感じか。
そのうち、自分の叶わぬ恋の結末を知るだろうな。
当のルノエルは、青ざめた顔でブルブル震えている。
まるで、マナーモードの携帯電話のようだ。
「凛々愛、天使なんて最初から居なかったんだよ…」
「はぁ?
何言ってんのよ?
天使ちゃんの姿は、この目に焼き付いてるわよ」
「それは、お前の幻覚だろうよ。
だから、諦めなよ」
「あっ、諦めないわよ!
天使ちゃんが居る事…証明して、私の物にしてやるんだから!」
「そうかい、多分無駄だろうな」
「そんな態度じゃ、日下部さんの連絡先はあげないわよ」
「すいません、マジ勘弁してください。
全部俺が悪かったです」
「…まあ、良いわ。
なんか白々しいけど、今回は大目にみてあげる。
日下部さんの連絡先は、後であんたのケータイに送っておくわ」
「ありがとう、協力感謝する」
「何よ、急に気持ち悪いわね…」
珍しく真面目にお礼言ったら、ドン引かれる事になるとは…
普段の俺って、そんなにいい加減なのか?
まあ、いいか。
とりあえず、日下部さんの連絡先はゲット出来そうだし。
「やったね、ルノエル!
これで、レーズンおにぎりが食べられるよ!!」
「わーい、伝説の食材を再び口にすることが出来るんですね!」
ルノエルと俺は、その場で小躍りした。
まあ、端から見れば、一人で小躍りしてる怪しい中学生にしか見えないだろうけど。
「ちょっと、悠希…
気になる人の連絡先を手に入れて、嬉しいのは分かるけど…
浮かれすぎじゃない?」
「ああ、悪い悪い。
俺はただ、お前には見えない相手と喜びを共有していたんだ。
一人で変な事してる訳じゃないから、安心しろよ」
「見えない誰かって、まさかエア友達!?
あんた、いつの間にそんな残念な人達の仲間入りを…」
「いや、してないっつーの!!」
言葉足らずで、余計な誤解を生んでしまった。
イヤー、日本語ッテ、難シイデスネ。
とりあえず、早く誤解を解かないとな。
しかし、そんな空気をぶち壊すような出来事が起こった。
「………契約者…発見」
「「「!?」」」
何処からか男の声が聞こえ、俺達は一斉に振り返った。
そこには、ズタズタの長髪をした男子生徒が一人居た。
その男子は、何を考えているか分からないような…何か怪しい雰囲気を醸し出していた。
「なっ、いつからそこに居た!?」
「………少し前だ…。
立脇悠希……お前に用がある…」
「お、俺に何の用だよ?」
「ちょっとネェ…クククク………」
会話が進む内に、その男子の口数が増えていった。
そして、気が付くと…
その男子の目が、死んだ魚のような目になっているのが分かった。
「なっ、何なのこの男子は!?」
「凛々愛、今すぐ逃げるぞ…
多分、コイツはまともじゃない…
ほら、ルノエルも行くぞ!」
「は、はいっ!」
「何言ってんの、馬鹿!
こんな時にまだエア友達と会話するとか、どんだけ余裕こいてんのよ!?」
「だーから、違うって言ってるだろ!」
俺達は言い争いをしながら、その男子に背を向けて走り出した。
後ろから、不気味な笑いが聞こえて来る。
「クククク…逃げロ逃ゲろ………。
タだ殺すノは…面白クなイからナァ…」
◆
「ハァッ、ハァッ、ハァ…
何なのよ、アイツ…」
「さ、さあな…
一つ分かるとすれば、奴の目的は俺という事だろうさ」
「じゃあ、あんたを此処に縛り付けて置いて、その間に私が…」
「薄情者だ、此処に薄情者が居る」
現在の俺達は、逃げてきた場所から少し離れた公園に来ている。
念のために、遊具の中で息を整えている。
今のところは奴が来る気配は無いが、安息には程遠い。
「おい、ルノエル…
アイツが何者か分からないか?」
「うーん、そうですね…」
今、凛々愛に誤解を招かぬように、俺は小さな声でルノエルと会話している。
まあ、独り言を言っている怪しい人のように見えるかも知れないが…
そこは、どうしようもないか。
「あの方は、貴方を契約者と言ってましたよね?
つまり、貴方がイゼエル様と契約した事を知っていると見て間違いないでしょう」
「おお、そうだな…」
「考えられる可能性としては二つ…
一つは、あの方が天界の住人である事。
もう一つは、彼も契約者の一人という事です」
「なるほど…
最初は可愛いだけで、面倒な子だと思ったけど…
こういう時は、お前も役に立つんだね!」
「むぅ…そんな言い方されたら、あんまり嬉しくないですよ」
ルノエルは、不機嫌そうに頬を膨らませている。
いやー、怒った顔も可愛いなぁ!
まあ、そんな事は置いといてと…
ルノエルの言う事が本当なら、奴の目的は何だ?
さっき、確か殺すとか言ってたが…
意味も無く俺を狙うというのは考えにくいし…
「そいつの目的は、分かるか?」
「いいえ、私には全く…」
「そうだ、イゼエルからは何か言われてないか?
俺が契約で得た、その…能力の事に関係あるとか」
「残念ですが…
悠希様の能力についてもまるで知りません。
ただ一つ、言われているのは…」
「…いるのは?」
「いざという時は、悠希様が何とか守ってくれる…と言ってました!」
「ズコーーーッ!!」
俺は、盛大にずっこけた。
役に立つ情報どころか、ルノエルを守る責任を俺になすりつけやがった。
「ちょっと何やってんのよ?
一人でコケるとか、ドジっ子を越えているわよ」
「いや、何でもないから気にすんな…」
「もう、こんな非常時に…」
ドカカカッ!!
凛々愛が呆れた声を上げたその時、俺達が隠れている遊具に何かが突き刺さったような音がした。
外から顔を出して確認すると、無数のナイフが遊具に突き刺さっていたのが見えた。
その時、沈黙は破られた。
「そコかぁァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁあああアアアアアああああッっ!!」
聞いた事が無いような、悍ましい男の声…
だが、その姿は見たことがあった。
…先程現れた男子だったのだ。
「なっ、もしかして見付かったの!?」
「クッ、そうみたいだな!
とりあえず、俺が囮になるから、お前は先に逃げろ!」
「えぇっ!?
本当にそれやる気なの!?」
「ああ…
それに奴と話がしたいからな」
「ちょっと馬鹿じゃないの!?
馬鹿は死なないとか言うけど、下手したら死ぬかも知れないわよ!」
「…ったく、最終的に失礼な奴だな。
俺はもう行くからな!」
「ちょっと悠希!
死んでも悲しまないわよ!?」
「自分で言うのもなんだが、悲しんで欲しいものな!!」
そう言って、俺は遊具から踊り出た。
眼前には、幾つものナイフを構えた男子生徒が立っている。
「ギャッギッギャッ!
逃げナいとは、感心ダナぁ!!
死ヌ覚悟が出来たノかイ!?
コの榛原皐月にヨォ!?」
「いや…死ぬつもりは無い、年下の女の子とイチャイチャするまでな!」
「ギャーッギャッギッギャッ!!
コいツはトんだ変態野郎ダ!
殺シ甲斐がアるゼ!!」
コイツが最初に現れた時は、確かに俺は怯えていたかも知れない…
しかし、今の俺には恐怖というよりも、怒りの感情が沸き上がっていた。
「…許さないぞ、許さないぞ!!
俺の愛を侮辱したな!
絶対に許さないッ!!」
「ギャッギッギャッ、ギャッギッギャーッギャッギャッギッギャッ!!!
今ノお前ニ、何が出来るんダよォ!?」
榛原は、手にしていたナイフを全て俺に向かって投げて来た。
しかも、全て俺の顔面を正確に捕らえている。
「くッ…!!」
俺は咄嗟に、自分の顔を腕で庇った。
次々に、俺の腕にナイフが突き刺さった。
「うがああああああああぁぁぁっ!!」
腕の痛みに、俺は悲鳴を上げていた。
腕には、刺さったままだ。
「このっ…クソがぁぁぁああああ!!」
俺は、腕に刺さったナイフを無造作に抜いた。
痛みと共に、傷口から血が流れ出した。
「畜生ッ…痛ェ!!
なめんなんなよ、榛原ぁ!!!」
俺は痛む腕を振り上げて、榛原に殴りかかった。
しかし、榛原は表情一つ変えない。
「フん、馬ャ鹿め!」
榛原は向かってきた俺の体を、いとも簡単に蹴り飛ばした。
5メートル近く飛ばされ、俺は地面にたたき付けられた。
「ぐぁあああっ!!」
「サあッ、トドめダッっッ!!」
榛原は、制服から大量のナイフを取り出し、どういう原理か全て投げつけた。
大量のナイフが、倒れた俺に向かって飛んで来る。
「危ない、悠希様ぁ!!」
この状況を見ていられなくなったのか、ルノエルが何処からか現れて、俺の前に立ち塞がった。
「馬鹿、何やってるんだよ!?
逃げろ、ルノエル!!」
「嫌ですっ!!
仮にも私のご主人様が傷付く姿を…
私はこれ以上見たくないんです!」
「オイッ、止めろ!
止めてくれ!!
ルノエルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
ガキキキキキンッ!!
ルノエルにナイフが突き刺さると思ったその時、ナイフは何かにぶつかり宙を舞った。
そして、ルノエルは…なんと無傷だ。
「…一体、何が起こったんだ?
何でルノエルは………」
そう言いかけて、俺は目の前の光景に目を疑った。
立ち塞がったルノエルの前に、さらに巨大で透明な壁のようなものが立ち塞がっていたからだ。
「なんだ……これは…?」
無事だったルノエルは、涙目で俺に抱き着いてきた。
しかし、俺は声も出ずに立ちすくんでいた…