用語解説:刻印編 その一
用語解説、まずは刻印です。気が向いたらそのうち他のものについても書こうかと思っています。まあ、どちらかというと執筆が行き詰ったときにやることが多いので、次がいつになるか分からないのですが……。
『そんなもん読みたくねぇ!!』って方がいたらスルーしてください。
【刻印】
魔力を操る術を持たないアース人の中でも、取り込んだ魔力を体内で変換できない特殊な体質の人間がまれに発現する代物で、世界を超えた際に世界の外の魔力を取り込み、その後激しい感情などの影響でその魔力に方向性を与えることで生まれる魔力の変換機構。魔力を発現時の願望に即した性質に変換する機能があり、その効力はかなりでたらめ。その人間の価値観なども密接に影響する関係上様々な属性の魔力が複雑に混じり合っており、魔術当の魔力操作技術をもってしても基本的に複製は不可能である。
智宏曰く『エゴの具現』、畑橋さん曰く『新ルール』。なんだかんだ言って二人とも浸りすぎである。
【刻印使い】
上記の刻印に目覚めたアース人を指す名称。
また、刻印使いは刻印の他にも世界の挟間を通った際取り込んだ魔力によって肉体的な性能がかなり上昇しており、身体能力や五感(ただしこれは感覚によってかなり差があり、一番上がるのは視力と聴力、それに次ぐのが嗅覚と味覚で、触覚に至ってはほとんど上がらない)、魔力の保有量や操作能力、感知能力などが個人差はあれどかなり強化されている。特に魔力関係の能力は上昇値が極端で、操作能力や感知能力はほとんどないと言っていい状態からエデン・オズ人の一般的なレベルまで、保有量に至っては彼らの百倍以上という破格の上昇値を誇る。ポテンシャル“だけ”なら全世界の民族上最高。ただし数が絶対数はかなり少なく、三章終了時点でオズ側が把握しているだけでもたったの五人。未発見の人間を含めても十人もいないのではといわれている。
とまあ、いろいろ設定はあるのだが、早い話が世界を渡ることですごい力を得てしまった王道主人公みたいな人達。なのに実際主人公っぽい立ち回りをしている人がほとんどいない。現在登場している人間のうちまともに主人公っぽいことをしているのは智宏一人。一応二百年前のあの人とか、まだ登場していないあの人などを含めればいないわけじゃないのだが、後は好き放題暴れたり引きこもったり人を消し飛ばしたり操ったりと、まあ惨澹たる有様である。
【集積演算】
使用者:吉田智宏
智宏の脳の機能を込めた魔力の量に応じて強化する刻印。代表的な効果としては完全記憶、高速思考、多重並列思考、肉体完全制御。
刻印は額に幾つもの線とその中心にある正方形という、恐らくはICチップをイメージしたデザインのもの。
他の刻印と同じく魔力によって発動させるものではあるが、発動時に周囲の人間が感じる魔力はかなり希薄で【血属性】による治療を除いた、自身の身体を強化する気功術と同程度。
喧嘩の一つもしたことのなかった智宏に一流戦士並の立ち回りをさせている最大の要因で、恐怖やパニックといった、危機的状況下で人間が陥りやすいマイナス要因を抱えていてもそれに左右されず、さらには高速思考によって一瞬で熟考することが可能なことから、常に最善の判断を下し行動することを可能としている。
また一度知覚したものを寸分たがわず思い出すことのできる性質から、知識がそのまま力となる魔術とは非常に相性がいい。魔方陣とその操作を一度でも知覚してしまえばその魔術をそのまま使えるうえ、思考を分割して複数の術式を同時に操作したり、思考による操作の時間が極端に短縮できることなどが直接的な攻撃力に欠ける智宏を強力な戦力たらしめている。ぶっちゃけオズ人が魔術で勝負を挑んでもまず勝てない。智宏の魔術レパートリーをいたずらに増やした挙句、魔術の早撃ちで圧倒されるのがオチである。
【集積演算――樹形思考】
使用者:吉田智宏
水晶との戦いの中で智宏が見出した、【集積演算】の新たな運用形態。相手がとりうる手段、起きうる状況変化を思い付く限り全て予測して対策を立て、それらを繰り返して頭の中に樹形図状の莫大な未来予測図を生み出すことで、どのタイミングで相手のどういう行動にどう対応すれば勝利へと向かうことができるのかを知覚できる理論上必勝の運用法。ただでさえ【集積演算】で高まった想像力をフルに活用しているため、これを使われると智宏の予想を超えることの方がほぼ不可能で、予測の範疇に留まっているうちはまず勝ちは拾えないという『理論上は』最強の予測戦術となっている。
とはいえこの運用法、効果もでかいが魔力消費もでかく、その上無駄もかなり多い。相手の動きの予測でも腕を一回振るう動作一つ予測するのに腕の角度、重心の掛け方、それ以外の部位の動かし方などで予測を細分化している始末だし、水晶との戦闘中にも『渦による横槍の可能性』だけでならともかく、『横やりに刻印使いが百人襲ってくる可能性』とか、『突然地震が起きて戦闘に支障が出る可能性』、挙句の果てには『敵がまだ二回の変身を残している可能性』みたいな、飛躍しまくったほぼあり得ない可能性まで大真面目に考えていた。本人にしてみれば予想外のあらゆる事態にそなえて対策を練っているのだが、ほかの人間から見れば文字通りの意味で『考えすぎ』である。
【力学崩壊】
使用者:墜城雄也
オチシロの身体能力や身体強度、攻撃力や防御力といったわかりやすい能力を加速度的に上昇させていく刻印。肉体そのものの強度が上がっているため時間と共に攻撃はどんどん効かなくなり、逆に破壊力はどんどん上がっていく。強くなる力に体が耐えられなくなるという事態もなく、使用する魔力量と共に全体の魔力量も時間経過によって増加するため魔力切れにも至らない。そのため事実上無限に肉体を強化することができる。
刻印の位置は右肩でデザインはミサイル。これは過去に堕城自身がカチコミをかける鉄砲玉として使われていたことに由来しており、単純な鉄砲玉より強い存在としてイメージしたのがこれだった。ちなみにどちらも同じように使い捨てられる存在であることに堕城さんは気付いていない。結構単純な思考回路である。
弱点は増加する身体能力に本人のコントロールがついて行けないこと。ある程度までならば慣れや経験でコントロールできるものの、特定の一線を超えるともはや制御は不可能で、軽く力を込めただけで体をほこりのように吹き飛ばし、どんなに狙って力を使おうとしても目的の場所から大きく外れてしまう。刻印の性質上特定のレベルでとどめることもできず、刻印自体が刻印の性能を強化しているため能力の上昇値も時間と共に上昇しており、自身の力の把握はほぼ不可能と言ってもいい。
また、弱点とまでは言えないものの、武器や防具を使用しても使用したものの方が耐えられないという欠点があり、また周囲への影響から味方の援護も受けられない。作中では一応ズボンだけは残ったが、普通の布が彼の激しい暴れっぷりに耐えられるはずもなく、本人が無意識に守っていなければ素っ裸になっていてもおかしくなかった。【極放雷】を受けなかったとしてもいずれは服はボロボロになって消えていったことだろう。
ちなみに【力学崩壊】という名称は智宏が痛烈な皮肉を込めて一方的につけた名前で、これとは別に正式な名称として【天井知らず(エスカレーター)】という呼称がある。
本来ならこの人と刻印はもっと後、それこそもっと工夫の余地のある刻印が出てきた後で、それらとの対称的な単純さを際立たせる形で登場させる予定だったのだが、下手にこいつを他の世界で暴れさせると物語が破綻しかねないためこんな序盤での登場となった。まあ、エデンはこいつが暴れるのには絶好の場所だったのだが、おかげで刻印使いのイメージがもろに力任せである。でも最初の章が刻印使いなしじゃ興ざめだしなぁ……。
【帰巣本能】
使用者:大野翔
使用者である大野が自宅と認識している場所に、どんな場所からでも一瞬で帰宅できる刻印。刻印の位置は異世界に行く際に魔方陣を踏ん付けた右足の裏、刻印のデザインは踏ん付けた転移魔方陣そのままというある意味一番わかりやすい刻印。
自宅と認識した場所なら、たとえ世界を超えても帰りつけるというその特性に目をつけられ、転移魔術よりも簡単に世界間を行き来する手段として、家に押し掛けてきた異世界人たちによってもっぱらオズとアースの間を行ったり来たりさせられている。
とはいえ全くのタダ働きという訳ではなく、それどころかその刻印の性質も相まってオズのレキハに家を一軒用意されるという破格の待遇を受けているのだが、本人がそもそも労働自体を嫌っているためほとんど喜んでいない。オズに用意された家を自宅と認識させるのにも一悶着あり、結局彼の『秘蔵のコレクション』を半ば盗みだす形でオズの家に運びこむことで無理やり自宅化した。まあ、こんな手段で自宅認識ができてしまうあたり彼の彼たる所以である。
【失われた時間】
使用者:畑橋耕介
魔力に触れた対象を指定した時間に送り飛ばす刻印。触れた瞬間に対象が消えてしまうため、傍から見ていると消滅させているようにも見えるが、使用時に決められた時間が経過すると再出現するのがみそ。
時間の指定の仕方は二種類あり、『○分後』という形での指定と、『何月何日何時何分何秒』といった予約的な時間指定の二種類が可能で。三章前編で使っていたのは主に後者である。
触れた瞬間に対象を消してしまえるため、魔術で壁などを作っても壁が消え、腕などで防御しようとしても腕ごと人間が消されてしまう等、基本的に防御がまるで意味をなさない。
加えて手で触れた空気を片っ端から消してしまうことで周囲の空気を未来へと吸い込むことが可能で、これをやられると迂闊に近づくことすら危険を伴うことから、相手から接近戦という手段を完全に奪うことができる。さらには消し飛ばした空気の出現時間をすべて一つのタイミングに合わせることで、唐突に莫大な量の空気を出現させ、それが行き場を求めて拡散することによって爆弾のような効果を生み出すことが可能となるなど、応用の幅がかなり豊富な刻印である。
弱点は、消し飛ばすにあたって対象に自分の手で触らなければならないこと。
攻める分には特に問題にならないこの特性だが、防御に回ると割と不利に働く要因となる。一瞬とはいえ自分の手で攻撃を受け止めなければならないため、物理攻撃ならまだ衝撃の一部を受けるだけで済むが、触れた瞬間全身を駆け巡る電撃などとは非常に相性が悪い。
また、その性質上細かい時間計算が使用者に要求され、自分や他者に使いすぎると、戦闘中という極限条件下でややこしい計算をしなければならないという事態に陥ってしまうのもマイナス要因である。
ちなみに、使い手である畑橋さんが戦闘に関しては完全に素人だったのも大きなマイナス要因であった。もしも戦闘慣れした人間が使い手だったらミシオでは止め切れなかったかもしれない。
……ついでに裏話をもう一つ。実はこの【失われた時間】という刻印、本当の効力は『対象を未来に送り飛ばす』というものではない。実際に起きていることを考えればその効力が間違っているわけではなく、あくまで解釈の問題なのだが、この刻印の本当の効力というのは『一定時間対象を行方不明にする』というものなのである。
もともと畑橋さんが刻印を発現させたきっかけというのが、意に添わずアースで行方不明になってしまったことで会社をクビになり、クビにした上司に対して『ならばあいつも行方不明になってみればいい!!』という憎悪を燃やしたことであり、そこから生まれたのが『一定時間対象を行方不明にする』刻印【失われた時間】だったのである。詰まるところ『対象を未来に送り飛ばす』というのは畑橋さんその他の人たちが【失われた時間】という刻印を好意的に解釈しただけのものなのだが、別にどちらであっても起きる現象については変わらないうえ、『未来に送り飛ばす』の方が効果がわかりやすいため、現状誰も気にしていない。
【レミカ】
使用者(?):天恵愛美奈
異世界に放り出された愛美奈が『助けてくれる他人』と、『他人に頼らない強い自分になること』を同時に願ったことで発現した『魔力に心を持たせる刻印』及びそれによって生まれた人格の名称。魔力自身が意思を持っており、刻印使いである『エミナ』に対して『レミカ』と名乗って彼女を様々な形でサポートしている。
人格的にはレミカの方が強く、その気になれば肉体を乗っ取ってエミナの精神を封じることも、記憶や認識を操作することもお手の物だが、本人であるレミカがエミナを優先しているため彼女を助けるためにしか表には出てこない。
人格的には愛美奈と愛妃の良いとこ取りをしたような性格、と刻印使いである愛美奈からは思われている。まあ愛美奈の聡明さを持ちながらも、愛妃の強さやかっこよさへの憧れを体現する形で生まれているので、彼女の考えもあながち間違いではないのだが、だからと言ってそれだけという訳ではない。
【潜入精神】
使用者:レミカ
【レミカ】という心をもった魔力を、気功術の応用で他人の体に流し込み、その体への潜入・乗っ取りを行う【レミカ】の応用技。これをやられた人間は事実上体内の【レミカ】の支配下に置かれ、肉体を乗っ取られる、記憶・認識を操作される、無自覚に行動の方向性を決められるなど【レミカ】のさじ加減次第でどんな形ででも支配される恐れがある。
魔力消費は極端に少なく、また一度他人の体に乗り移ってからさらに別の人間に移動することも可能。さらには元の愛美奈の体に戻ることで愛美奈の中の【レミカ】と混ざり合い、記憶を共有することも出来てしまうなど、良識を無視すればかなり便利な使用法。ただし愛美華の体内で効果が完結する【レミカ】の刻印と違い、【潜入精神】として使う際は肉体の外に魔力を放出する関係上、どうしても一定範囲の人間に感知されてしまうという弱点もある。
作中では今のところ唯一智宏だけがこの力に抵抗できているが、これは智宏が【集積演算】という刻印の効力によって、脳機能の産物である意識を無理やり強化したことで起きたかなりイレギュラーな事態で、普通の人間ではこの魔力にはまず逆らえない。意識を一度奪われてしまうと、そもそも自意識が凍結されてしまうため、外からの呼びかけや気合・根性の類で肉体を奪還することも不可能である。魔力はそんなに甘くない。
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