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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章後編 第三世界アース 学園編
87/103

28:退場する者達の思惑

 一応『最新話』のリンクで来た方ように、更新の履歴を載せておきます。 

 24:欠け時計 5日午後10時

 25:ハイブリット・プラン 6日午前0時

 26:樹形思考 6日午前8時

 27:状況を打開する最強の力 6日正午12時

⇒28:退場する者達の思惑 7日午前0時

 僅か三秒の放電の後、地面へと落下した水晶を見て、智宏は小さく安堵のため息を吐く。

 直後に同じように地面に落ちた【欠け時計(ブランクウォッチ)】を見つけると、智宏自身も屋根から飛び降り、何の躊躇もなく【銃炎弾(ファイア・バレット)】を叩き込んだ。

 機械の部品がバラバラに吹き飛び、核となっていた宝石状の物体が割れて跡形もなく霧散する。

 もったいないと思う気持ちも、手掛かりになるかもという気持ちもあるが、この武器をこのまま残してもし回収でもされたら目も当てられない。万全を期すなら、この武器はこのまま壊しておくべきだろう。


(どうにか、倒せたか……)


 武器の破壊を確認したことで安堵のため息をつき、額の刻印に流す魔力を通常レベルまで引き下げる。

 【樹形思考(ブランチプレディクション)】は理論上最強とも言える【集積演算(スマートブレイン)】のこの運用法だが、しかし莫大な思考を瞬時に行わなければいけないため魔力消費は思った以上に激しい。すでに智宏の体には魔力消費による強烈な倦怠感が襲ってきており、できればこの件を早めに片付けてゆっくりと休息を取りたいところだった。

智宏は警戒しつつも迅速に落下した水晶へと近づき、その様子を確認する。指先などが痙攣しており、見たところ動けないながらも生きてはいるようだが、倒せた以上は手早く拘束してレンド達へと引き渡してしまいたい。

 だが智宏の手が水晶に触れようとしたその瞬間、動けない水晶の体が跡形もなく消失し、その姿を完全にくらました。


「っ!! やっぱり来ていたのか!?」


 飛び退くように昇降口の柱の陰に身を隠し、智宏は再び周囲の気配を探る。

 目の前で起きた現象に、智宏自身覚えがあった。以前イデアで垣間見た、空間移動(テレポート)による空間跳躍。少々タイミングが遅かったのが気にはなるが、智宏自身かなり前からその力の持ち主がこの場に来ている可能性は考えていた。


(何かしてくる気配はない……、やはりこいつの目的は水晶の回収か……?)


 もはや自分の力では追いかけることは不可能と判断し、智宏は思考の矛先を別の人物へと変える。空間移動能力者(テレポーター)の存在を予期していた智宏が自身で何の対策も打たなかったのは、その余裕がないがゆえに仕方なく別の人物にその役目を任せていたからだ。


「さて、あっちはどうなったのか……。あの名前も知らない精神体は」






 思い人が事故にあって死ぬ未来を見た。

 未来を見ることには慣れていたが、流石に人が死ぬ未来が見えたのは初めてで、そのときの水晶は最初その光景の意味がわからず、意味を飲み込んだ瞬間冷静さを失った。

 原因はよくある、そして悲惨な事故だった。事故に巻き込まれた思い人の体は面影すらなく破壊され、なにが起こったかを理解することもなく血と肉でつくられた骸へと変わる、はずだった。

 真っ白な頭で、防がなければと思った。

幸い未来を変えるのは難しくない。自分が動けば未来が変わる。それは幼いころに能力に目覚めた彼女が体験して知って来た絶対の法則であり、現にその時も水晶は思い人を救うことができた。

 ただし、水晶に救われた際に足に軽くない怪我を負って。

 普通なら、死ぬことに比べれば怪我で済んだだけ良かったと思うだろう。実際水晶自身がそう思っていたし、周囲の人間もそう考えると思っていた。

 だが、運ばれた先の病院のベットで、思い人は水晶を罵倒する。


『なんてことをしてくれたんだ』


『俺がいったい何をした』


 思えば考えておくべきだったのだ。その未来を見たのが水晶だけで、ほかの人間に未来が見えない以上、本来ならどうなっていたのかなど当の思い人すら知るはずがない。

 質の悪いことに死の未来を回避したことで本来ならあったはずの事故は片鱗すら見られず、水晶がどれだけ話しても思い人は水晶の見た未来を信じなかった。

 前世からの恋も覚めるような罵倒をされた。

 結局水晶は、救い主ではなく加害者として扱われることになった。

 イデアにおいて、一度でも『悪』のレッテルを張られた能力者のその後は悲惨の一語に尽きる

 法律上は事故として扱われたが、それで水晶が陥った境遇が変わる訳ではない。普段は差別行為への倫理的嫌悪で能力者に寛容な人々も、何か落ち度をもった能力者を見つけると途端にその本性を見せてくる。

 事故から少しして、水晶の家には動物の死骸やゴミが投げ込まれるようになった。家の外壁に口汚い罵りの言葉が落書きされ、脅迫状や電話が毎日のように届くようになった。

 それを行う者達は、皆一様に自身を正義と語ってこう叫ぶ。


『当然の報いだ』


『天罰だ』


『悪いのはお前だ』


『もっと苦しめ』


 そのうち水晶は理解する。彼らの行いは、正義を志しての行いではなく、ただ攻撃衝動を満足させたいだけなのだと。口では正義を語っていても、結局のところ彼らは迫害する対象が欲しいのだと。

 実際彼らの正義は節度がなかった。攻撃できれば良いがゆえに真実など気にしようともしないし、周囲に迷惑がかかっても、それを臆面もなく水晶のせいだと口にする。稀に水晶の味方をするものが現れても、その人間も無理やり悪人に仕立てあげて同じように攻撃を加えていく。

 彼らは結局他者を攻撃する理由が欲しかっただけなのだ。否、理由などなければ作ればいい。相手にしか・・・・・わからないこと(・・・・・・・)を嘘だと断じれば、それだけで相手は立派な悪になる。


 それが、水晶が十八歳の時の冬の話。

一流川水晶が、自分の未来を信じない人間を敵と定めたその瞬間。







 車に乗せられ、走り出すエンジン音で、水晶はかろうじて意識を取り戻した。

 どうやら後部座席に座らせられているらしく、正面では表情のない帽子を目深にかぶった男が、この世界の車を慣れた手つきで運転しているのが見える。


「意識が戻ったのか。やられようの割には随分と早いな」


 ぼやけた思考で渦の言葉を聞き、直後に全ての記憶を取り戻して激情を思い出す。


「なっ、渦、貴様!? あれからどうなった!? 私は!? 主様から頂いた【欠け時計(ブランクウォッチ)】は――」


「生憎だが今は逃亡中だ。下手に騒がないでいただこう。もう判っているのだろう? 貴様は敗北し、貴様の武器は破壊された。あいにくとこちらも邪魔が入っていてな。貴様を回収できたのは全てが終わった後だった」


「破壊、された……?」


 告げられた言葉に呆然とつぶやき、水晶は力なくその身を座席のシートへと沈め込む。

 受け入れ難い事実がじわじわとその胸を侵食し、それが臨界点に達した瞬間、水晶の表情は完全に崩壊した。


「破壊されたというのか……、私の、【欠け時計(ブランクウォッチ)】と、【喪失時計(ブランクタイマー)】が……。主様から頂いた、私の二つの【境界戦術(ハイブリット・プラン)】が……」


「残念ながらそう言うことだ」


「う、あ、ああっ、そんな、そんなぁっ!!」


 屈辱に涙をあふれさせ、怒りに歯をくいしばって水晶はその歯を食いしばる。


「……主様に、主様に何と言い訳すればいいのだ。会わせる顔もない……!! 私は、主様が最も強いと奉ずる必勝戦術を授けられていたというのに!!」


 水晶の心中に、己の敵への呪詛が湧きあがる。もしも自身の体が自由になるのなら、近くにあるものを人も物も関係なくすべて破壊して回りたかった。

 だが今の水晶には指一本動かすことすらままならない。


「くそぉっ!! いつか殺してやる!! 絶対に殺してやる!! あの不届き者め!! 貴様の幸福な未来など、私が絶対に許さない!!」


 涙ながらに喚く水晶に、車を操る渦は何の反応も返さない。

 そして激情に駆られていたがゆえに、水晶は渦に起きた変化に気づかない。

 否、例え注意深く観察していたとしても、その変化にはだれも気付けなかっただろう。実際、当の渦本人も気付いていないのだ。


服の下にある渦の左胸、ちょうど心臓がある位置に、ハートの形をかたどった刻印が刻まれ潜んでいることになど。






「それじゃあエミちゃん、また明日。っていうか、明日も来るんだよな?」


「う、うん。うちの学校は普通に明日もお休みだから」


「そっか。っていうか明日日曜ってことを考えれば明日の方が人来るのかな? だったらお昼のこととかもっと早めに準備しないと……」


「あはは……、それじゃあね」


 昼間人で込み合ってさんざん待たされた昼食のことを思い出し、愛美奈は控えめに笑ってから親友に別れを告げる。

 駅までの道のりはおよそ十分。その間の道は同じように学園祭を訪れた人々によっていっそ狭いくらいに込み合っていた。

 そんな人ゴミの真っただ中で、一人歩くはずの愛美奈は、決して声に出さずにいないはずの誰かに呼びかける。


『今日はごめんね? 私ばっかり楽しんでて、あなたの時間をちっとも作ってあげられなくて』


 本来なら心で思うだけの、返す人間のない自身の中への呼びかけ。

 しかし彼女には左胸に何かが集まる感覚と共に、呼びかけに答えを返す存在がいる。


『そんなこと気にしなくていいのよ。この体は本来あなたのもの。私はあなたの体に住まわせてもらってるだけで十分だわ』


 身の内に響く声は、自身と同じ声質に聞こえながらも、自分とは違い凛とした美しい声。耳に反響するように中から響くその声は、愛美奈を常に見守っていてくれる、もう一人の親友というべき少女の声だった。


『ところで聞きたかったんだけど、もしかして愛妃ちゃんに似てる親友ってもしかしてあたしのこと?』


『うん、そうだよ。カッコいいところとか、少しレミカちゃんに似てるかなって』


『どうなのかしら? まあ、あなたが似てるって言うなら似てるのかもしれないわね』


 天恵(あまえ)()美奈(みな)が自身の中に生まれた精神体、レミカと出会ったのは去年の冬のことだ。

 突然見知らぬ土地でさまよう夢を見て、そんな夢から自室で目覚めたら、気付かぬうちにレミカは自分の中にいた。

 次の日に初めてレミカと出会って始めてそのことを知り、最初こそ自分の中に生まれたレミカの存在に戸惑った愛美奈だが、新しく通う学校にうまくなじめず、恐ろしげな女子生徒のグループにいじめられていた彼女にとって、レミカの存在はすぐにかけがえのないものに変わっていった。

 以来彼女は今日までの十ヶ月ほどの間、常に愛美奈を体の中から支えてくれている。


『それにしても、アイちゃんちっとも変わってなかったな。こんなこと言うと、アイちゃん絶対『それ背が伸びてないってことかぁっ』って怒りそ――』


 心の内で楽しげに語られるその言葉は、しかし唐突に途切れてそのまま沈黙へと変わる。

 先ほどまで楽しげな表情で歩いていた少女の顔は一瞬で変貌し、まるで別人のように鋭い目つきへと変わって隣に追い付いた少年へと向けられる。


「お帰り『私』随分と遅かったのね。もしかして途中から感じてた『私』と同じ感覚に関係があるの?」


「そう言うことよ『私』。あと、『私』が感じていたその感覚は、たぶん魔力って呼ばれてる力に共通した代物よ。よく感じれば微妙に違うわ」


「そうなの? まあ、魔力だか何だか知らないけど、劇の最中に変な感覚をあの娘に叩きつけてくるから困ったわ。あの娘が認識できないようにして、どうにかバレないようにごまかしたけど……、いいえ、言っても時間の無駄ね。『私』同士で愚痴を言い合っても意味がない」


 そう言うと愛美奈と少年は互いの側にある手をわずかに上げてその甲を一瞬だけ触れさせる。

 手が触れあったその瞬間、少年の中にあったレミカの魔力が愛美華の体内へと流れ込み、元から愛美華の体内にあった魔力と混じり合ってその記憶と経験を一つに共有した。

 魔力の抜けた少年がなにごともなかったかのように足早に歩き去り、あとにはゆっくりと歩く愛美華の体が残される。


(まったく、いつかこの娘と同じような連中に会うだろうとは思ってたけど、まさかこんな大ごとになっているなんてね)


 先ほどまで二つに分かれていたレミカの精神も、今は融合して一人のレミカだ。とはいえナンパ男(・・・・)を追い払うために(・・・・・・・・)放出した魔力は、その半分が今も別人の体内にあるため、厳密にはレミカは一人に戻ってはいないということになるわけだが、それでも分かたれていた精神の一部が記憶を伴って帰って来たことには変わりない。


(どちらにしろ、私の存在は同じ刻印使いとか言う存在にばれてしまった。それにこんな連中が派手にどんぱちやり合っているのなら、無関係を貫くのは逆に危険か……)


 一人歩きながら黙りこみ、レミカは慎重に自身の今後を吟味する。

 やろうと思えばいつでも愛美奈から肉体を奪い取れる、肉体を支配する精神としては本来の持ち主より圧倒的に強いレミカであるが、だからと言って自身を生み出した刻印使いである愛美華をないがしろにしているわけではない。

 むしろその逆、自身の何をかけてでも、愛美華の安全を守り切るのだという覚悟がレミカという精神体の根幹をなすものですらあった。

 そしてそのためになら、レミカはどんな手段もいとわない。

 それこそが『笑み(エミナ)』に対する『冷笑(レミカ)』の役割。刻印として生まれた彼女の、揺るぐことない絶対の精神性。


(貴方は私が守るわ愛美華、だからあなたは安心して平穏を謳歌なさい)






『それで? 件の刻印とやらはお前さんの望むものだったのか我が孫よ?』


「ええ。まず間違いないでしょう。あれは間違いなく僕の探していた【万能への鍵(マスターキー)】ですよ。御爺様」


 人の帰り始めた校舎の外れで、一人たたずむその青年は電話の向こうの祖父へとそう答えを返す。

 こちらに来ていた友人と一度分かれて行われたその会話は、しかし帰りゆく人々がすぐ間近に見られる昇降口の正面で行われていた。

 新校舎の壁に体をもたれさせ、平然と行われるその会話はどう見ても人を襲わせた張本人がその結果を話し合っているようには見えない。誰に聞かれてもおかしくないそんな場所での会話は酷く危ういものであるはずだが、実際には本人が小声で会話している上に周囲が騒がしいので誰も聞きとることはできていなかった。どうせ聞こえないのならばわざわざ隠れて怪しまれることもないというのが青年の大胆すぎる考えである。


『それにしても、お前がどれほどその【万能への鍵(マスターキー)】とやらを欲しているのかは知らんし、そもそもその刻印がどんな効力を持っているのかもわからんのだが、それでもせっかくお前が生み出した【境界戦術(ハイブリット・プラン)】を二つも犠牲にするだけの価値があったのか? 話しを聞くだけでも相当に強力で使い勝手のいい戦力だったはずだ。正直こんなところで使い捨てるには惜しいと思うが?』


「ええ、そうなんですよね。それに関してはいくつか計算外があったことを認めましょう。まあ、とはいえ彼女には初めから敗北を知っておいてほしかったというのも事実ですが」


『なに?』


 口ではそう言いながらも、青年の表情にはまるで落胆の表情が見られない。

電話の向こうの男にも声からその様子が伝わったのだろう。聞こえてくる声からは明らかにいぶかしむ色合いが聞き取れた。


「御爺様は先ほど彼女のことを強力で使い勝手のいい戦力と言いましたが、彼女はその性格に少々問題があるんですよ。御爺様も見て知っていると思いますが、彼女は僕に心酔しているがゆえに容赦がなく、暴走しやすい。これからのことを考えると、一度負けておいてくれた方が自制という機能をつけられていいかと思ってたんですよ」


『初めから負けさせるつもりだったのか? そもそもあんな戦術、打ち負かせるかどうかも怪しいのに』


「いえ、それに関しては以前言ったとおりですよ。あの刻印使いの少年が僕の望んだ刻印の持ち主でなければ、そのときは厄介な戦力がいなくなってそれでいい。逆に少年が【喪失時計(ブランクタイマー)】と【欠け時計(ブランクウォッチ)】を打ち破ることができたなら、それは間違いなくその刻印が【万能への鍵(マスターキー)】だということです。そもそも相性の問題として、【欠け時計(ブランクウォッチ)】を破るには水晶の【未来視(ビジョン)】に対抗できるものが必要になって来るんですから」


『だがそれで肝心の武装そのものを失っては元も子もあるまい。予知能力者には変わりはいるし、妖装の力はそいつに持たせればいいが、あの刻印結晶を仕込んだ銃は量産が効かんのだろう?』


「ええ。それだけは実は想定外だった。そもそも敗北させるだけで、そんな結果になる前に渦に回収させるつもりだったのに、渦を封じられたことで全ての予定が狂ってしまった」


『そう言う割には楽しそうではないか』


 言葉とは裏腹に、そう話してなお青年の言葉には後悔の色は見えない。むしろ比べられるものがいたならば、その表情は初めて智宏を見た後と同じ、抑えようとしてなお漏れ出しているような、抑えきれぬ歓喜に彩られていた。


「ええ。楽しいですよ。もっと言えば嬉しいです。ねえ御爺様、僕が探し求めていたのは、なにも【万能への鍵(マスターキー)】だけじゃないんですよ。むしろ自作できる可能性のあった【万能への鍵(マスターキー)】なんかよりも、もっと強烈に探し求めていた刻印があるんです」


「それが見つかったというのか?」


「ええ。何しろ懐かしの(・・・・)初等部(・・・)の学び舎で(・・・・・)見ていましたからね(・・・・・・・・・)。通っていたときは高い坂の上にあってうんざりしていましたけど、この歳になるとなかなかどうして、高い場所から周囲の眺めを見られるというのも悪くない」


 見られていた本人たちは知る由もないが、智宏が過去からの銃撃に襲われる前から、青年は無人の初等部校舎に侵入し、その四階で一部始終を見物していた。否、見ていたのはもっと前、智宏達が最初の魔力を察知するその瞬間に、青年はすでにその現場を目撃していた。

 そしてだからこそ、その現象の正体は一目でわかった。


「あれを見つけられた幸運に比べれば、【境界戦術(ハイブリット・プラン)】の一つや二つ失われても問題ない。元より必要として探し求めていたのではない、そこにあったから組み合わせてしまっただけの産物だ。今回手にしたものを考えれば、十分に釣り合いはとれています」


『かっ、性格悪いのぅ』


「御爺様ほどじゃありませんよ。おっと、人が来ました。詳しいことはまた後ほど」


 青年が電話を切ると、同時にこちらに恐る恐る近づいていた人影が足を止める。

 青年が今さらのように視線を向けると、そこにはメガネをかけたどこかで見たような男子生徒が恐縮したように立っていた。


「あ、あの、海藤和光(かいどうわこう)先輩ですよね? 十年前の生徒会長の」


「そうだけど、君は?」


「し、失礼いたしました。今期副会長の佐藤公平と申します。先輩の偉業はかねがね伺っていまして、ぜひ一度お会いしてみたいと」


「偉業だなんて、君は大げさだな。それにしてもまさか今の生徒が僕のことを知ってたとはね。政治家だった祖父のことなら知ってる人も多いんだが」


 青年、海藤和光がさわやかにそう応じると、元副会長だというその生徒は感激したようにこちらに話を振ってくる。どうやら彼は自分の関わった企画が、尊敬する先輩の目にどう映るかが気になっているらしい。

 興味はなかったので適当に相槌を打っておいた。

 今の和光の視界には、世界を飛び越えた異世界が広がっている。


(さて、意外に準備が省略できそうだし、ならそろそろ次の段階に進むとしようか)





 いくつもの思惑を交錯させ、長い一日が終わりを告げる。終わるはずだった物語は再び動き、新たな舞台へ進みだす。


 更新が遅れて申し訳ありませんでした。

 次回の更新は7日午前8時になります。

 ご意見ご感想、ポイント評価等お待ちしています。

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