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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章後編 第三世界アース 学園編
82/103

23:過去VS未来

 一応『最新話』のリンクで来た方ように、更新の履歴を載せておきます。

 19:潜入精神 5日午前0時

 20:敵はハマシマミシオ 5日午前10時 

 21:もう一人の敵 5日正午12時

 22:喪失時計 5日午後5時

⇒23:過去VS未来 5日午後8時

「はい。これにて終了です……」


 未来に消えた弾丸が【未来視(ビジョン)】の視界の中で敵を包囲殲滅したのを見届け、水晶はそう小さくつぶやいて銃口を下げた。


「ああ……、ああ……!! やはり主様は素晴らしい!! 貴方様が私に下さった力があれば、誰も私の未来に追いつけない!! 先ほど別の魔力が現れたときも、貴方様は的確に私に道を示して下さった!! ええ、ええ!! わかっていますとも!! 私の力は主様に近づく害虫どもを駆除するためにあるのです!!」


 主に渡された、まだ熱の残る銃を抱きしめ、水晶は陶酔したようにそう狂信を叫ぶ。

彼女にとって主は、生きる上での絶対的な指針にほかならない。実際、先ほど水晶が唐突な魔力の感知に困惑していた時も、彼女の主は的確に次の行動を指示してくれていた。あの主に従っていくことは、彼女にとって【未来視(ビジョン)】よりも確かな指針なのだ。


「……ああ、そう言えばあの害虫、原型も残さずぶち殺すと決めたのでした」


 唐突にそう思い出し、水晶は死体にした敵の様子を見るべくもう一度その眼に力を込める。瞬き一つで視界が現在のテニスコートから粉塵の舞う未来のそれへと変化し、その粉塵が晴れるとともにハチの巣になって血にまみれた醜い死体が姿を現す。

 はずだった。


「えっ!?」


 だが予想に反してその眼に飛び込んできた未来に、水晶は思わずそんな声を上げる。彼女が見る未来の中では、先ほど四方から弾丸で包囲殲滅したはずの少年が、特に怪我を負った様子もなく粉塵から飛び出して来ていたからだ。


(バカな……!! この蟲の防御魔術では全方位を守ることはできなかったはず……!?)


 驚愕に心中をかき乱されながら、水晶は目を凝らしてその原因を探る。幸い原因はすぐに見つかった。粉塵から飛び出す少年の体には、胸の前でタスキを交差させるような形で帯状の魔方陣が二本展開されていたからだ。よく見れば少年の周囲には球体上に展開された防壁が、多少のひびを入れられながらも少年を守るように存在している。


(あれは……、【包囲装甲(ラッピングアーマー)】……? あんな魔術が使えるなんて情報は無かったはずですが……)


 情報と違う現実にしばし混乱を覚えるが、水晶はその疑問をすぐに振り棄て、視界を現在に戻してから少年の飛び出した場所を取り囲むように銃を乱射する。銃に設定したモードは指定時間固定モード。ヘッドギアによって水晶の観る時間を読み取っていた魔力銃(エーテルガン)が、水晶の見ていた未来とまったく同じ時間にばら撒いた弾丸を解き放つ。

 だが一度未来を見ると、打ち込んだ魔力銃(エーテルガン)の弾丸はすべて少年を包む魔力の壁に阻まれ、その壁にひびを入れただけに留まっていた。


(やはりあの魔術は【包囲装甲(ラッピングアーマー)】ですか……。まあ、事前情報はあのいけすかないロボット男と、この【喪失時計(ブランクタイマー)】の元となった刻印使いの二人だけ、たまたま使わなかった魔術なのか、ここ数カ月で新たに習得したのか……。それともあのロボット男が情報を隠していたのか。もし最後のなら主様への反逆罪で縊り殺してやるのですが……、あれにそんな主様を裏切るような思考回路はないでしょうし)


 努めて冷静にそう思考しながらも、しかし水晶は自分の表情筋がどんどん引きつっていくのを止められない。

しかもそんな爆発寸前とも言えるギリギリの精神状態のところに、間の悪いことに未来にいるはずの少年と視線が合ってしまったからもうダメだった、ついに水晶の怒りは臨界点に達し、顔面に張り付いていた冷徹な仮面にひびが入る。


「なんだその眼は……、余裕のつもりか? それとも反骨精神でも見せたつもりか……?」


 結論から言ってしまえば、実際は智宏が最後の弾丸が出現した場所に視線を向け、それがたまたま現在の水晶の視線と交差してしまったというだけ偶然だった。だが水晶の脳裏には、そのときの智宏の表情が限りなく不快なものへと変換されて刻まれ、限りない怒りをその身の内で掻き立てる。


「ふっざけやがって、なぁぁあああに様のつもりだぁ!! 体を丸めておびえることしかできない下賤なダンゴムシの分際で!! 主様に与えられた武器から逃れるだとぉっ!!」


 再び未来を見据えれば、敵の少年はもはや立ち止まるのは危険と判断したのか、一直線にテニスコートの端の土手と、その向こうに広がる雑木林を目指している。恐らくは遮蔽物の多い場所に逃げ込むことで、弾丸の魔の手から逃れるつもりなのだろう。


「お、の、れ……!! こそこそとゴキブリのように逃げ回ってぇっ!! 逃がすとでも思ってるのかぁっ!! てめぇの駆除はもう決っ定、済みだぁっ!!」


 慇懃な態度などもはや見る影もない。瞳に憎悪をみなぎらせ、鬼のような形相にその表情を変化させた水晶は、未来で逃げ続ける標的を猛烈な勢いで追いかけ始めた。






(術式再起動――【包囲装甲(ラッピングアーマー)】!!)


 両肩から交差する魔法陣に魔力を流し込み、罅だらけの防壁を四散させ、新たな防御魔術で己の周囲を包みこむ。新たに覚えたこの魔術は【岩壁城塞(ロックシェル)】などに比べると強度は弱いが、全方位を防御できる上に動きながら発動でき、さらには新しく防壁を張り直すのも簡単という優れた代物だ。

 走りながら次々と虚空から現われる弾丸を防壁で防ぎ相殺し、ダメージが危険水域に達したと感じるとすかさず防壁を再展開して安全を確保する。そんな強引な強行突破で目指すのは、テニスコートの周囲、土手の上にある雑木林の中だ。この敵を相手に遮蔽物が意味を成すかどうかは微妙だが、そもそも智宏の狙いはそんなものではない。


(っと、やっぱり向こうもそう簡単に逃がしてはくれないか……!!)


 走る智宏を取り囲むように、今度は周囲に大量の魔力の気配が次々に現れる。全方位同時でもなければ、ただの連続射撃とも違う気配のタイミング、恐らくは最初の方の弾丸で防壁を砕き、再展開される前に残りの弾丸でせん滅するつもりだろう。


(だが甘いぞ、予想済みだ!!)


 それに対して智宏は、右肩に魔方陣を展開し、魔術を発動させることで応じる。瞬時に形成された【土人形の鉄腕(ゴーレム・アーム)】の拳を目の前の地面に叩きつけ、さらに術式を追加して上位の魔術を発動させる。


(術式追加――【土神の剛腕(タイタン・クロウ)】!!)


 地面に突き立てられた魔力の腕が、さらなる術式と魔力によって爆発的に膨張する。さらなる巨大化を果たして車ですら鷲掴みにできるほどの大きさになった巨腕は、その術者である智宏の体を、防壁の下の部分を砕きながら瞬く間に安全な空中へと押し上げ、放り出した。

 まるで慌てたかのように新たな魔力が地表で発生するが、地表からの銃撃が発生する前にすでに智宏は巨腕と防壁の魔方陣を消し、新たな術式を背中に展開している。


(術式展開――【空圧砲(エア・バスター)】!!)


 弾丸が放たれたのは、智宏が空中で加速したさらに後だった。その後も数発の弾丸が智宏の通過した場所を通り過ぎるが、そのタイミングは智宏を捕らえるには一瞬も二瞬も遅い。

 もちろん、空中から地面に向けてそんな加速をすれば、智宏とてただでは済まない。このままの勢いで地面に叩きつけられれば、気功術を用いて足から着地したとしても、大怪我は免れない状況だ。

 ただしそれは、地面に叩きつけられればの話である。


(もういっちょっ!! 新術展開――【衝撃緩和風船(エアバック)】!!)


 覚えた際に一度使っただけの魔術は、それでも記憶通り十分な力を発揮した。

 智宏の足元で展開された魔方陣が青色に着色された空気の塊を作り出し、塊が智宏の体を受け止めてその勢いを押し殺す。勢いをほぼ魔術に吸収させた後に魔術を解除すれば、智宏はほぼ足を止めることなく着地と同時にすぐさま走り出すことができた。

 二つの新術、【包囲装甲(ラッピングアーマー)】と【衝撃緩和風船(エアバック)】を智宏が習得したのはつい最近の話だ。その方法は実に単純で、二つの魔術を知るレンドに見せてもらったというだけの話である。

 とはいえもともと智宏は、そんなふうに簡単に戦闘で使える魔術を教えてもらえるなどとは思ってもいなかった。そもそも異世界オズでは、戦闘目的の魔術は教えることそのものが法律で禁止されており、限られた条件を満たさなければ習うことはできないと教えられていたからだ。

 だが、九月に入ってすぐエイソウと話した際に、そこに一つの誤解があったことが判明する。オズにおいて、攻撃・破壊用の魔術は法律で禁止されているが、専守防衛の魔術はそうではないのだ。むしろ護身用の魔術として、警察組織が積極的に広めている節すらあるらしい。防犯といえば『やられる前にやる』しかないアースの人間には少々盲点とも言える常識だった。


「どうした未来視持ち、先手打ってる癖に遅れてるぞ!!」


 背後に向けてそんな届くかどうかもわからない挑発を放ちながら、智宏は額に流れる魔力をさらに増加させた。余裕に見えてもこの先は【包囲装甲(ラッピングアーマー)】を使いにくい森の中、下手に立ち止まれば再びゼロ距離射撃の危険にさらされかねない状態だ。やれることは思いつく限り全てやるつもりでいる。

 まずはその一つ、


地図作成(マッピング)開始……!!)


 茂みを突き破って森に飛び込むなり、智宏は【集積演算(スマートブレイン)】と気功術をフルに使って脳内に周辺の地図を精密に作り上げる。

 中等部から暮村に入った智宏にとって、初等部側の校舎は馴染みのない領域だが、それでもまったく近寄ったことが無いわけではない。以前来たときの記憶から周囲の地形、建物の位置を思い出し、さらには先ほど高所から見た光景、気功術で強化した五感が感じる情報を分析、統合すれば、ある程度逃げるのに適したルートや、自身の位置などを把握することも可能になる。

 そして、そんな思考は同時にもう一つ、重要な副産物も智宏にもたらしていた。


(よし、見つけたぞ足跡!!)


 林の中の湿った地面に残る、明らかについさっき付いたものとみられる足跡を見つけ、智宏は魔力に物を言わせてそちらを解析する思考(ウィンドウ)を脳内に作成する。こんな人の来ない場所につい最近付いた足跡など、それはもう過去に智宏を追ってここを通った敵以外にはありえない。


(だがどういうことだ……? 残っている足跡は一つのみ、しかも畑橋の物とは明らかに違う)


 もしも今追って来ている相手が畑橋と未来視能力者の二人組ならば、当然足跡は二人分残っているはずだ。だというのに残っているのは一人分の足跡のみ、しかもその足跡は畑橋のものより明らかに小さく、歩幅もせまい。


(以前大家さんの部屋で会ったとき、畑橋の靴のサイズは見覚えている。歩幅も畑橋の逃走時の記憶からの算出で間違えようもない。攻撃の様子からまさかとは思っていたが間違いない、こいつは単体で僕を襲撃している……!!)


 一つの可能性から確定事項となった事実に、智宏は新たな思考(ウィンドウ)を脳内にいくつも展開してそれに対応する。相手が一人で、しかもどういう方法か畑橋の刻印を使っているとなれば、するべきことは今までと大きく変わってくる。

 同時に一つの思考で、ある程度敵がどんな存在か判断できた。


(敵は未来視の力を持つイデア人、性別は不明だが靴のサイズと歩幅から見て小柄な男かもしくは女。どういう方法か【失われた時間(ブランクタイム)】とウートガルズ製らしき魔力銃を組み合わせて使用。また、あの場所に呼び出した際に使っただけだが妖装も使用可能。あれ以降使っていないのは未来を変えないためか……? まあ当然だな。妖属性の魔力がどこかで感じられたら、過去の僕は間違いなくこいつに接触できていた……)


 大量の空気を一つの時間に送り出して、再出現時に爆弾とする攻撃法を使ってこなかったのもそれが理由だろう。その方法は確かに威力や範囲が大きく殺傷能力が高いが、反面空気を消し飛ばす際どうしても派手になる。その準備を誰かに見とがめられてしまえば、未来に何らかの影響を及ぼしかねないのだ。

 恐らくこの敵にとって、未来とは自身の行動によって変更可能で、かつ行動によって意図せずとも変わってしまうものなのだろう。ただの罠ではなく、【失われた時間(ブランクタイム)】による時間跳躍で魔力の弾丸を飛ばしてくるというのも、そういう意味なら絶好の方法だ。何しろ放たれた弾丸は実際に獲物に食らいつくまで存在していないのだ。直前まで存在していないものに、大きく未来を損なう力はない。


(でも、逆に言えばこいつが残した痕跡は未来を改編しやすくなる。例えばこの、足跡のように……!!)


 瞬間、それまでひたすら前へと疾走していた智宏が、強く地面を蹴ってその進路を右に変えた。理由は簡単だ。目の前に敵がつけたと思われる足跡が地面にくっきりと刻まれていたからである。


(さあ、ここからは未来と過去の戦いだ。どっちが強いかなんてややこしい戦いを始めようじゃないか……!!)


 次回の更新は5日午後10時になります。

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