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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章後編 第三世界アース 学園編
77/103

18:侵入した魔力

 一応『最新話』のリンクで来た方ように、更新の履歴を載せておきます。

 14:刻印使い以上 3日午後九時過ぎ

 15:十月四日 4日午前0時

 16:嵐の前の騒動 4日午前七時

 17:直前 4日正午12時

⇒18:侵入した魔力 4日午後10時

「っ!!」


 その瞬間、智宏はミシオと彼女の通念能力(テレパシー)の発展能力、【直通回線(ホットライン)】によって会話を交わしていた。結局智宏が待ち合わせに間に合わず、おちあうまでの間適当に会話を交わしていた最中の出来事である。


『どうしたの、トモヒロ?』


『今、魔力を感じた』


『えっ!?』


 通念能力(テレパシー)越しにミシオが動揺するのを感じながら、智宏は踵を返して魔力の発生源である背後へと走る。まだ【集積演算(スマートブレイン)】は使わない。というより使えない。外に漏れる魔力の気配が圧倒的に少ない【集積演算(スマートブレイン)】だが、これだけ人が多い場所では使った途端に額に刻印が輝いて周囲の人間に見られてしまう。それを隠す方法もないわけではないが、どの道不審に思われることは避けられない。


『シオ、一応聞いておくけど異世界人の知り合いが来るような話とかなかったよな?』


『それは無いよ。レンド達やリンヨウなんかも誘ったけど、みんな忙しくて来られないって言ってたし』


『だよな。となると少なくとも身内って可能性は消えるわけだ』


『敵なの?』


『わからん。それを今から確かめる』


 ミシオにそう告げると同時に、智宏は目的の場所、自身がいる三階の階段付近へとたどり着く。視線を向けて観察するのはそのはるか下、一回昇降口の光景だ。

 最近建てられた新校舎はそういうのが流行りなのか、昇降口の上が吹き抜けになっており、上の階から下が見渡せるようになっている。現に下を見ると一回昇降口付近の人波がつぶさに観察できた。


『……特に何か騒ぎになってるようなことはないな。少なくとも今の魔力は外から見ているだけじゃそうとは判らないようなものだったってことだ』


『そうなると魔術じゃないよね? あれって効果が派手だし、そもそもどこかに魔方陣が現れるから』


『そうだな。……ちょっと待ってろ』


 ミシオに一言そう告げて、智宏は周囲の様子をうかがうと、なるべく目立たないように端によって額を手の平で隠す。頭に僅かに魔力を流して【集積演算(スマートブレイン)】を発動させ、先ほどの魔力の感覚を脳内に再生すると、さらに記憶からその魔力を検索し、以前感じたことのある魔力に同じものが無いかを一秒とかけずにチェックする。


『該当する魔力は無い。ってことはこの魔力と会うのはこれが初めてだ』


『それじゃあ……』


『ああ。こいつは刻印使いだ。気功術の四属性や妖属性の魔力なら記憶に残っているはずだし、魔術を使ったら必ず騒ぎになる。となると残るのは消去法で刻印使いしかありえない。……使用された魔力量は【血属性】による治療に使う魔力量より少し少ないくらいだな。相当燃費のいい刻印なのか、それとも控え目に使ったのかは分からないが』


 派手に魔力を消費する【力学崩壊(バランスブレイカー)】などとは比べるべくもないが、以前出会った畑橋の【失われた時間(ブランクタイム)】などと比べると、この相手は格段に魔力消費量の少ない刻印だ。燃費の良さでは【集積演算(スマートブレイン)】も負けていないが、あれは常に発動させていなければならないためタイプが違う。瞬間的には行使する魔力量では間違いなく過去最少の消費量と言えるだろう。


『だがこいつは一体何をしたんだ? 見たところ何かが起きたようには見えないし、そもそもこいつがどんな目的で魔力を使ったかもわからない』


『私を狙ってきた敵、『第六世界』だと思う?』


『何とも言えんな。もしこいつが刻印使いだとすると、ひょっとするとどちらにも属していない、それこそ大家さんみたいな自力帰還者って可能性もある。何にせよ、まずはこいつの刻印の正体に目星をつけないと』


『レンド達への連絡はどうする?』


 ミシオの質問に、智宏はわずかに迷いを覚える。ミシオを学園に通わせるに当たり、智宏達はレンドに緊急時の連絡先を伝えられている。二人が何か危険な事態に陥ったとき、そこに連絡すれば異世界国交対策室(チーム―クロス・ワールド)から救援部隊が送られてくるというもので、その身を狙われる可能性があるミシオにとって智宏の次に頼るべき存在だ。

 だがだからと言ってあまり不用意に呼んでいいものとも思えない。


『とりあえず今はまだやめておこう。相手の目的が本当に僕らかどうかもわからないし、そもそも刻印の効力が不明じゃ迂闊に手出しもできない。せめてどちらか一つでも突き止めないと……』


 万全を期すならやはり呼んだほうがいいのだろうが、それで安全になるのは智宏達二人だけだ。下手をすれば駆け付けた救援部隊がこの刻印使いの格好の餌食になったり、逆に特に悪意もなかった刻印使いが救援部隊に襲われる展開にもなりかねない。どちらもあくまで可能性の話だが、その可能性を考えてなお連絡できるほど、智宏の神経は太くなかった。

 と、智宏達が現状でできる話し合いをすべて終えたちょうどそのとき。


「っ、また……!!」


 再び発生した魔力の感覚が智宏の身を震わせる。

先ほどと同じ属性と大きさを持つ魔力の波動、たださっきと違ったのは、使う場所を智宏自身が視界に収めていたという点だ。


『……見つけた!!』


 魔力を感じた先に視線を向ければ、そこに魔力を使った張本人がいる。智宏と同じか、あるいは一つ下の学年と思しき一人の少年。私服を着ていることから他校の生徒と思われるその少年に、智宏は見た覚えがあった。


『あいつ、確かさっきお化け屋敷に来た……!!』


 【集積演算(スマートブレイン)】を使わなくても思い出せる、見覚えのあるその立ち姿。智宏自身が受け付けをした上に、気絶こそしなかったものの腰を抜かして一緒にいた少女に運ばれてくるという、男としてかなり情けない姿を晒したその少年は、本日始めて『ナナフシ』で破局したカップルの、その片割れだった。どうやら少年は、声をかけた暮村の女子生徒に対し、肩を叩いたその瞬間に魔力を流し込んだらしい。


『まさか、刻印を人に使ってるのか? でも、だとしたら……』


 決して相手に露見しない形で人に刻印の力を使うという行為に不快感を覚えると同時に、智宏はそれによって生じた結果に疑問を覚える。肩に触れられ、魔力を流し込まれたらしき少女は、しかしなにごともなかったように少年の手を振り払い、少年本人をそつなくあしらって校舎の出入り口へと歩き出したのだ。

 少年自身も、そのことに対して疑問を感じているようには見えない。ただ一緒に来ていたらしき他の少年たちと苦笑いをかわし、次の相手へと興味を移している。


『どういうこと? なんの効果も無い魔力を使ってるの?』


『わからない。何らかの理由で失敗したのか、それとも別の狙いが――!?』


 ミシオとの会話の途中、新たな魔力の感覚が生まれるのを感じ取り、智宏は目を見開いてその発生源を直視する。驚いたことにその魔力が発生したのは少年の元ではない。魔力を発したのは、先ほど少年に肩を叩かれていた少女の方だったのだ。


『どういう、ことだ……?』


 見れば、どうやら少女はよそ見をしている間にぶつかった男性教師に魔力を流し込んだらしい。だが先ほどの少年と同じくどちらもおかしな様子などまるでなく、ただぶつかったことを謝っただけですぐにそれぞれの目的地へと歩き始める。

 智宏の脳裏に、わずかに先ほどの魔力が少女によるものではないかという可能性が浮かぶ。だがその可能性はやはりすぐに智宏自身の記憶のよって否定された。魔力の気配を感じた瞬間、少女は明らかに男性教師に気付いていなかった。だとすればあの少女が自分の意思で刻印を使って男性教師に魔力を流したとは考えにくいし、そもそも一度目の直後に上から昇降口付近を見たとき、あの少女はまだそこにはいなかったのだ。少女がこの空間に入って来たのは智宏が駆け付けた後である。仮に二度目と三度目の魔力が少女によるものと考えることができても、それだと一度目の説明がつかなくなる。


『だとすれば、この刻印……!!』


 一つの可能性に思い当たり、智宏は見失うまいと大急ぎで階段を駆け降りる。智宏の予想が正しければ、追うべきは少年でも少女でもなく、男性教師の方だ。


「やっぱりかっ!」


 階段を降り切った瞬間に起こった四度目の魔力の発動に、智宏の口からその言葉が漏れて出る。発生源は予想通り男性教師、相手ははしゃいで人にぶつかりそうになり、それを男性教師に止められた中等部生らしき少年だった。


『やっぱりこの魔力、人から人に移ってる!!』


 魔力の使用が四度目を迎える段になって、ようやく智宏はその事実にたどり着く。【集積演算(スマートブレイン)】を使っていればもっと早くその事実に気付けていたかもしれないと考えて歯噛みしながら、周囲に人が多く使う訳に行かない状況をもどかしく思う。

 だが、今は貴重な思考回路をそんなことに使っている訳にはいかない。【集積演算(スマートブレイン)】が使えない以上、一度に考えられる案件には限度がある。


『シオ、今どこにいる?』


『今急いでそっちに向かってるところ。あと少しでそっちには追い付けるど――』


『いや、追い付かなくていい。昇降口まで来たらさっきのナンパしてた男に話を聞け。そいつは間違いなく最初の一人(・・・・・)に接触しているはずだ』


 すでに四回に及んでいる魔力の移動だが、もしも刻印使い本人が関わっているとしたら、それは一度目の、あのナンパ少年が相手だったことは間違いない。この魔力が一体どういう効果を持つ物なのかは分からないが、それでもあの少年に話を聞けば本体がどんな人間だったかは分かるはずだ。


『でも、それじゃあトモヒロはどうするの?』


『僕はこのままあの魔力を追ってみる。このまま観察していれば、もしかするとこの魔力が何の目的で放たれた、どんな刻印の産物なのか分かるかも知れない』


『それ、大丈夫なの?』


『何とも言えんな。でも一応ミシオも、いざとなったらレンド達に通念能力(テレパシー)で連絡するつもりでいてくれ』


 智宏の言葉に、通念能力(テレパシー)にミシオが不安を抱くのが感じられる。それはミシオ自身ではなく、智宏に危機が及ぶことを危惧しての不安だった。心配をかけてしまったという感覚に、できれば一人でことを片づけたかったという思いが胸を満たすが、この状況をミシオが知らないことの方が問題だと無理やり割り切った。ミシオもそんな智宏の内心を読み取っているのか何かを言ってくる気配はない。


『行くぞ。ともかくこいつの正体を探るのが先決だ。せめて聖人よろしく、平和的にことが済むのを神にでも祈ろう』


 次回の更新は5日午前0時になります。

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