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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章後編 第三世界アース 学園編
63/103

4:魔女の手口

 一応『最新話』のリンクで来た方ように、更新の履歴を載せておきます。

 1:九月一日 1日午前0時

 2:文化祭特別企画『七不思議イベント』 1日午前8時

 3:七つ目の不思議 1日午後3時

⇒4:魔女の手口 1日午後9時


 三時の更新がどういう訳かうまく行っていなかったようで大変ご迷惑をおかけしました。

 予約投稿していたはずなのになんでだろう……?

「さて、夏休みも明け、いよいよ夕景祭が一カ月後に迫って来た訳だが、それにあたって我々手芸部も『七つ目の不思議』の準備を始めなければならない」


「え? トモヒロ、『七つ目の不思議』って手芸部だけでやるの? かなり大きな規模を改造するって聞いたんだけど……」


「ん? ああ。別にここにいるメンバーだけって訳じゃないよ。うちの『七不思』は基本的に寄せ集めのメンバーだから、中核になるメンバーがここにいる人間だけって話さ」


「一応所属しているメンバーの数だけなら『七不思議イベント』の参加団体の中でもトップに君臨する団体なんだけど、掛け持ちとか部活で忙しい奴とかが多くて、いつもいるメンバーってのが極端に少ないんだ」


「もともと、この団体は『七不思議イベント』に参加したいけど他にもやらなきゃいけないことがある者達の受け皿という意味も見込んで作ったのだよ。当日は手伝えないけど準備期間中は手伝えるって人や、逆に当日はほとんどやることが無くて、準備期間が忙しいって人が自分が動ける時間に参加する形になっているのだ」


 智宏の説明に、正面に座る聖人と、中央の火観子が補足を入れる。

現在智宏達七人は、会議のため、『コ』の字を描く形で机を並べていた。中央に火観子が一人で座り、その右手側にミシオ、智宏、結華が。その対面に愛妃、聖人、鋼樹がそれぞれ座る形になっている。


「まあそんな訳で、作業自体の人員はかなり多く確保できたのだが、その中核になるプラン、どんなお化け屋敷にして、どんな仕掛けを施すのか、それをどういう予定で作っていくかはこちらで決めないといけないんだ。さて、それではその計画を、結華君、発表してくれるかい?」


「「「はぁぁああああああっ!?」」」


 火観子の口から飛び出した思わぬ言葉に、部屋の中にいる男性陣がいっせいに驚愕の声を上げる。だが、その態度に対して火観子はキョトンとした様子でまるで理由を理解できていない。


「いったいどうしたというのだ三人とも。あまり大きな声を上げるな。近所迷惑だぞ」


「いやいやいや、火観子先輩!? まさか一番肝心肝要の計画立案を、まさかこの魔女先輩に任せたって言うんですか!?」


「……無理だ。……終わった」


「そうですよ火観子先輩!! トモやコウの言う通りです!! この先輩、嫌がらせのために計画をまったく立ててこないとか普通にする不信心者ですよ!? この人のおかげで、うちの団体顧問がなかなか決まらなかったじゃないですか!!」


「あれ? そういやナナフシの顧問って結局決まったんだっけ?」


 騒ぎ立てる男性陣三人に対し、ふと愛妃がそんな疑問をぶつけてくる。話についてこれていないミシオや、ことの原因である結華を除いても、この部活の女性陣は事態に対する危機感が薄い。


「ああ、顧問は式観原先生に決まったよ。アイちゃんはわかるかな? 高等部の英語を担当してる先生なんだけど」


「ああ、あのツンデレ先生ね。噂でだけど聞いたことがあるよ」


「つんでれ?」


 愛妃の発言に今度はミシオが疑問符を浮かべる。流石の智宏も、この世界で常識になりつつあるサブカルチャーまでは教え切れていない。智宏がどう説明しいしたものかと一瞬迷いを覚えていると、その隙を突くように魔女が悪意ある言葉を囁いた。


「ツンデレっていうのはねミシオちゃん、自分の気持ちを偽って他人に必要以上に攻撃的な態度で接する、臆病で嘘吐きな人間のことをそう呼ぶのよ」


「ちょっ、なに言ってるんですか!?」


「あらぁ、なんで怒ってるのかしらトモヒロ君? 私何か間違ったこと言ったぁ? まあ、確かに元々の意味とは違うかもしれないけど、今の一般的な認識ってそんな感じじゃなぁい?」


「そうかも知れませんけど解釈が悪意的すぎます!!」


 魔女にそう突っ込みながら、智宏は混乱するミシオに『とりあえず式観原先生の言うことは反対の意味に解釈しておけばいいから』と伝えて会話の脱線を終わらせる。今論ずるべきはサブカルチャー発祥言語の解説ではなく、目前のもっと切実な問題だ。

 そんな智宏の意識を共有していたのだろう。智宏がミシオへのフォローを終えたとたん、聖人が本来の話題へと向けて口火を切った。


「それはともかく、今論ずるべきは文化祭の企画をどうするかでしょう。何をするにしても、まずは根幹になる企画を立てなくてはどうしようもありません」


「そうですよ!! 予定では今日提出の企画に合わせて明後日から実際の作業に入るはずだったんですよ!? 人員もそれに合わせて予定組んでますし、今からでもそう急に企画を考えないと」


 今回の企画は学園としても宣伝のためにかなりの意気込みを持っている。いくら他の団体がうまく行ったとしても、発案者が中心となっている団体がこのていたらくでは申し訳が立たない。


「いやぁねぇ。ちゃんと立ててきたわよ企画なら。無いことを前提に話を進めないで頂戴」


 だが智宏達の叫びに、予想外にも結華はぬけぬけとそう返し、自分の鞄を探り始めた。三人が思わず不信を隠そうとせずにそれに注目すると、当の結華はカバンの中から大量の紙束を取り出して、机の上に叩き置く。


「ぅぇぇぇ、すごい量……。結ねぇ、それって全部見なきゃ駄目か?」


「ええ駄目よ。私が精魂こめて、汗水血をインクに混ぜて書き上げた渾身の最高傑作なんだから。眼を通さないなんてさびしいこと言わないで頂戴」


「さらりと嫌なことを言いやがるなこの人……」


 口ではそうぼやき、同時にこの先輩がまともに仕事をこなしてきたことに驚きながらも、しかし書いて来た以上は目を通さなければと智宏は紙束を受け取り、適当に分配して他のメンバーに回し始める。手元に残った束に片っ端から目を通すと、なるほど結華がかなり入れ込んでこの企画を作り上げたことがうかがえる。


(っていうかなるほど……。自分の企画で他人に悲鳴を上げさせるっていうんで、ノリノリで書いたのか……)


 企画から結華がまともに仕事をしてきた理由を読み取り、智宏は内心で嘆息しながら納得する。

 そういう意味でなら、確かに火観子の人選は正解だろう。客を怯えさせる、怖がらせるといったある種のサディスティックさを求められるお化け屋敷という企画において、この魔女ほどそれに秀でている人間はいない。全体図と一つ一つの仕掛け、人員配置を見比べてみても、常に隙をつき、他の仕掛けを演出に使ったいやらしい手口という点で、この企画はお化け屋敷としては最上の代物だった。

 ただ一つ問題があるとすれば……、


「っていうか魔女先輩。この企画、お化け役意外にもいろんな仕掛けがあるみたいですけど、必要とされる技術が高すぎやしませんか? お化け役の配置は問題ないですけど、それを補うギミックが高校生の文化祭レベルじゃないですよ?」


「確かに。っていうかこの企画、どういう効果の仕掛けを施すかは書かれてるけど、それをどうやって仕掛けるかは書いてないですね。一発限りのギミックならともかく、何人も来るだろう客に繰り返し仕掛けるとなると神懸かって難しいものが多いですし……」


「衣装は……、一応何とかなる。俺が頑張って、それこそ毎日作業すれば、一週間くらいの徹夜でなんとか……」


 智宏、聖人、鋼樹がそれぞれ意見を述べると、結華は腕組みをしてその声に耳を傾ける。この先輩にしては殊勝な態度だなと一瞬だけ思ってしまった智宏だが、しかし次の瞬間にはその考えの甘さを思い知るはめになった。


「はっ、そんなこと私が知ったことではないわ。せいぜいあなた達はこの企画の実現のために悩み、足掻き、苦しみなさい」


「やっぱりか!! やっぱりわざとか!! わざと僕らじゃ実現不可能なプランを立てたのか!!」


「実現不可能なんかじゃないわぁ。一応物理的には可能よ。何をどうしたら実現できるかさっぱりわからないけど――」


「それで可能とかよく言えるなぁ!! っていうか『飛ぶ人魂』程度ならともかく、『人が入ったとたん教室中の机が動く』とか、『チョークや黒板消しが飛び回る』とかはどう考えても不可能だろ!!」


「うっ……、この衣装は難しい……。やはり十日は徹夜しないとだめかも……」


「だぁいじょうぶよぉ。きっとできるわぁ。さあ知恵を絞りなさい。馬車馬のように働きなさい。そして私のために、最凶最恐のお化け屋敷を作りなさい」


「できるかぁあああああっ!!」


「――できると思う」


「……え?」


 智宏の叫びに応えるように放たれたその言葉に、その場にいた全員、特に男性陣の視線がいっせいにその主へと向けられる。

 当の言葉の主であるミシオは、全員の視線に若干尻込みし、反射的に持っていた企画書で顔を隠す。


「シ、シオ、悪いがもう一度いいか? この企画、実現できるのか?」


「う、うん。こっちの企画は材料がそろえば割と簡単に、こっちも仕掛けが作動した後、人が操作すればすぐに戻せるようにできるし、こっちの二つは単体だと無理だけど、二つ組み合わせれば片方の作動でもう片方を元の状態に戻せるから……」


 そう言ってミシオは、他のメンバーの疑問に答えるように次々に仕掛けを考案していく。簡単なものは言葉で説明し、複雑なものは紙に簡単な図をかいて解説する。

 実際にそううまくいくのかは分からない。だが、明らかに経験と知識に裏打ちされ、ほとんど考える間もなく次々と具体案を示し続けるミシオに、智宏はようやくその理由を思い出した。


(……そうか、そう言えばミシオって森の中にツリーハウスぶっ建てたり、森中に罠仕掛けたり普通にしてたな……)


 異世界人で超能力者、さらには【妖属性】の魔力を扱い妖装と呼ばれる力を振るう悪魔憑きと呼ばれる異能まで宿す、ほとんど異常の塊のような存在であるミシオだが、それらの要素をもし仮に省いたとしても、彼女の異常の種は尽きることが無い。むしろそれらよりさらに極まった異常な経験と技能が、彼女には存在しているのだ。

 ハマシマミシオはこの世界において、親代わりの祖父を亡くした後智宏の家に引き取られてこちらに来たことになっている。

 だが実際は、祖父を亡くした後こちらの世界にわたるまでの三年もの間、その祖父の残した遺産を狙う遠縁の親子に命を狙われていた時期があるのだ。

 しかも住んでいた村の人々の生活を人質に取られ、逃げることも許されない状況での行いである。普通なら当時十二そこそこの少女だったミシオに生き延びる術などなかっただろう。

 だが現実にはミシオという少女は、智宏と出会うまでの三年間、この悪条件下をほとんど自分一人の力で生き残っていた。それを成せた理由の一つが、彼女が安全に寝起きするために森に家を建設し、森中に防犯用のトラップを仕掛けられたほどの工作技術なのだ。

 彼女にとって人が近づくことで作動するギミックなど、身につけた技術を使える絶好の舞台といってもいい。


(まあ、幸いミシオも、あの環境で身につけた技術に不快な感情は抱いていないみたいだしな……)


 身につけた事情が事情だったため積極的に使いたがらない可能性も考えたが、仕掛けについて一生懸命に説明するミシオの表情に暗い感情は見受けられない。むしろ自分の腕をふるうチャンスに、どこか生き生きとした雰囲気すら感じられる。


「……あとは、実際に作ってみて、動きの悪いところを調整すればなんとかなると思う」


「すごいな。まさかこんなに簡単に魔女先輩の嫌がらせを形にするとは……。まさに神の采配だ」


「確かに。まあ、予算の方が少し心配だが、幸い今回の企画は学園の宣伝に使うために予算も結構支給されている。この調子なら他の企画にも負けない最高のお化け屋敷ができそうだ!! いやぁ、頼りになる友達ができて私は本当に嬉しいよ」


 室内に巻き起こる称賛の嵐に、ミシオはどんどん顔を赤くして縮こまる。そんなミシオの微笑ましい様子を、智宏はとりあえずミシオが学園に溶け込めたことへの安堵と共に見つめていた。

 ただし、このとき智宏は気付くべきだった。ミシオを期待と称賛の視線で見つめるその中に、なぜか魔女と呼ばれる生徒のものまでが含まれていたその意味を。


「ところで、俺の衣装の問題はどうするんだ……」


「そこは助っ人に何人か送るから、怖がられないように頑張って」


 次回の更新は2日の午前0時になります。

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