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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章後編 第三世界アース 学園編
61/103

2:文化祭特別企画『七不思議イベント』

 一応『最新話』のリンクで来た方ように、更新の履歴を載せておきます。

 1:九月一日 1日午前0時

⇒2:文化祭特別企画『七不思議イベント』 1日午前8時

「ねぇ、浜島さんは文化祭の参加団体何にするの?」


「え?」


 始業式の後ホームルームを終え、ミシオは予想通りクラスメイト達の質問に答えることになっていた。人数こそどういう訳か(・・・・・・)智宏の予想したものより少なく、代わりに多くのクラスメイトが遠巻きにこちらの様子をうかがっているようだが、それ以外はこれまで智宏の予測通りに進んでいる。

 ただし、智宏が忘れていた文化祭の話に関してはミシオも自身での対応を迫られることとなった。

 最近気づいたが、智宏は一つのことに集中しすぎると他のことを忘れてしまう悪癖があるらしい。

 まあ、それはともかく、話題は文化祭の参加団体である。


「っていうかさ、浜島さんはこの学校の文化祭の制度って知ってる?」


「え、……ああ、うん。期間限定の部活みたいなものだって聞いてる」


 クラスのまとめ役らしい少女の質問に、ミシオは先ほど体育館で智宏から聞いたばかりの情報を思い出して答える。とはいえ、あの後全校集会での発表の間に教えてもらえたのは、この学校の変わっているらしい文化祭のシステムだけだった。

 暮村学園では、文化祭の参加をクラスごとの出し物としては行わない。

 暮村学園における文化祭の出し物というのは、毎年六月ごろに生徒達が立ち上げた企画を申請し、了承されたその団体が規定の人数を集めることで成立する。特定の部活などが恒例行事として参加している例外もあるが、この学園においては大抵の場合、クラスや部活で仲の良いグループが集まって一つの企画を立ち上げる、毎年恒例の企画が存在し、前年度のメンバーが再びその団体を立ち上げて新規メンバーを獲得して発足させる、特定の趣味を持つ人間が企画を立案し、同じ趣味を持つ者を集めて団体を作り上げるなどのパターンが一般的だ。

 そのためかこの学園の文化祭の企画は、真面目な学問系の企画が少なく、趣味や派手さに富んだ物が異常に多い。


「それで、浜島さんはどうする? 浜島さん六月のメンバー獲得競争(せんそう)のときいなかったからまだフリーでしょ?」


「あの、漫画研究会に入りませんか? 漫画の自作なんかは今からだと難しいかもしれませんけど、当日にコスプレする方がもう一人欲しいんです」


「あ、ずるい!! コスプレ要因だったらうちのコスプレ喫茶も人手足りないんだからね!!」


「そりゃ、ちょっとその企画は人を選ぶだろう……。それより焼き鳥の屋台に参加しないか? 当日はそこそこ忙しくなるけど、その分準備に時間がかからないから楽だぜ?」


「アホか。せっかくの文化祭を楽して過ごそうなんてもったいない。やるなら断然ソーラン節だ。普段の練習からして正に青春って感じがするし、当日は校庭でお披露目できるのもいい」


「公演系の団体は今からじゃ参加厳しいだろ。演劇やら合唱やらの部活は夏休み前から練習してるのが普通だし、ソーラン節やバンド系の団体もそれは同じだろう?」


 周囲の生徒達が次々に自分の団体を紹介してくる事態に、対人経験の少ないミシオはしばし困惑する。

 見れば、先ほどまで遠巻きに眺めていたクラスメイトもこちらに近寄ってきて、隙あらば自分の団体にミシオを引き込もうと狙っているようだった。どうやら先ほど出てきた『メンバー獲得競争』という言葉が、一瞬だけ『戦争』という言葉に聞こえたのは聞き間違いではなかったらしい。

 つまり、このままではミシオは遠からずどこかの団体に引き込まれるはめになる。


「あ、あの!! 私もう入りたいところというか、一緒にやりたい人がいるから……」


「え? そうなの? どこの団体? 誰?」


「えっと、団体はわからない。名前はヨシダトモヒロっていうんだけど……」


「えっ、なにそれ男子!? どういう関係!?」


「え? ……遠い親戚、だけど」


 降り注ぐ周囲からの言葉に、ミシオは智宏と決めた設定を使って必死で対応していく。長く人間関係を絶って一人で生活してきたミシオには、これだけの数の人間を一度に相手にするのはなかなか困難だった。


「それにしてもヨシダトモヒロ……ね。どっかで聞いたような名前だな。うちの学年じゃなかったと思うけどどこの学年?」


「えっと、一つ上の高等部二年生。クラスはC組だって言ってた」


「C組の先輩でヨシダ……」


「あ、ねぇそれって、エルフ先輩じゃない? ほら、エルフみたいに耳の尖った」


「ああっ、そっか、吉田智宏ってエルフ先輩の名前だ」


「エ、エルフ?」


 耳の尖ったという言葉で恐らくはトモヒロのことだとはわかったミシオだが、同時に呼ばれるよくわからないあだ名に若干の戸惑いを覚える。すると近くにいた先ほど漫画研究家に誘ってきた女子生徒が、『ほら、あの先輩、ファンタジーに出てくるエルフ見たいな耳してるでしょ』とその理由を教えてくれた。

 どうやらこの世界の創作に、あれと同じような耳をした存在がいるらしい。考えてみれば智宏自身も自分についてエルフという単語を口にしていた気がする。


「にしても、エルフ先輩ってどこの所属なんだ? 俺んところじゃなかったのは確かだけど……」


「たぶん七不思議イベントのメンバーじゃないかな」


「七不思議イベント? さっき全校集会で言ってたの?」


「はい。浜島さんも見ればわかると思うんですけど、今いる校舎って去年完成したばかりの新校舎なんですよ。それ以前はあそこにある旧校舎の方を使っていたんです」


 漫研少女の言葉に、ミシオも智宏から教えられた知識を思い出す。暮村学園の校舎は数年前から建て替えが行われ、去年一部を除いてそれが完成を見ていた。特別教室など一部は工事が後回しになり春ごろまで旧校舎の物を使っていたらしいが、今年度に入ってからは学校としての活動はそのほとんどの機能を新校舎に移している。


「んでね、旧校舎は本来完成と同時に取り壊しが決まってたんだけど、今の生徒会長が取り壊しを少し伸ばして、最後にそれを使った大掛かりなイベントをやろうって企画したの。それがさっき言った『暮村学園七不思議イベント』って訳」


「七不思議イベントは七つのお化け屋敷団体がそれぞれ旧校舎の一画を丸ごと改造して作るイベントなんだ。旧校舎は四階建て。中央塔を中心に中等部校舎と高等部校舎が分かれてるから、それぞれの階と中高等部で校舎を八等分して、内の七フロアを改造するんだ。当日には人気投票なんかもやったりするらしい」


「へぇ……」


 コスプレ少女と焼き鳥男子の説明を聞き、ミシオはわずかに感嘆の声を洩らす。校舎をほとんど丸ごと改造するというその企画は、確かに規模の大きい話だ。普通の文化祭の知識こそ少ないミシオだが、ことそういった作業に関してはある程度一日の長がある。


「えっと、参加団体は……、毎年出てる伝統の『校舎裏の墓場』、『最上階の恐室』、お化け屋敷っていうよりゾンビ屋敷って感じの『死惨無情』と、後は……、一昨年から引き続いてる『呪界』ってのもいたな」


「あとは今年から参戦の、オカルト研究会が中心になってる『魔女の館』と、中等部生が中心になってる『死神の手の上(ハンズ・オブ・デス)』。それから……」


「ああ、あれですよ。『七つ目の不思議』。エルフ先輩の所属って『七つ目の不思議』ですよ」


 次々と団体名らしきものをあげていたソーラン男子とコスプレ少女に、慢研少女が思いついたようにそう言い放つ。話の流れからしてどうやらそれが智宏の所属団体のようだが、その名前が出たときの周囲の反応は微妙なものだった。


「うわぁ、そっか、あそこか……」


「えっと、その『七つ目の不思議』に智宏がいるの?」


「う~ん、まあ、そうなんだけど。ちょっとこの団体って問題ありなのよね」


「問題?」


 いきなり醸し出される不穏な空気に、ミシオがさらに疑問を深めると、再び慢研少女が口を人差指を立てて説明を始めた。


「『七つ目の不思議』は、もともとは生徒会長の火観子先輩が、参加団体を七つにして七不思議イベントを成立するために作った数合わせの団体です。中核になっているのは火観子先輩が所属してる手芸部の部員で、それにあちこちで暇している人達や、掛け持ちで参加したい人たちを火観子先輩が勧誘してお化け屋敷をやれるだけの人数を揃えました」


「要するに『七つ目の不思議』ってのは、火観子先輩が自分の交友関係を中心にしてつくった今年の企画専用の団体って訳なんだが、この火観子先輩の交友関係ってやつが結構曲者でな」


「曲者?」


 焼き鳥男子の言葉にミシオが疑問を返すと、そばにいたコスプレ少女が『まあ、曲者ってのは言いすぎだけどね』と続きを話す。


「火観子先輩ってさ、結構目立つ人と友達になるのよ。まあ、あの先輩誰とでも友達になろうとするから普通の人も結構いるんだけど、目立つ人とか変わった人みたいな目につきやすい人には真っ先に声かけるのね」


「まあ、目立つって言ってもいろいろだけどな。エルフ先輩なんて耳の形が変わってるからって理由で声かけたみたいだし。他にも見た目が変わってるとか、ちょっとした騒ぎに巻き込まれたとか、たいしたことない理由の人も多いんだ」


「ただなぁ、それでもちょっとずれてるって言うか、変な奴がたまにいるんだよ。まあ、あの先輩と付き合ううちに変になるってのもあるんだろうけど、やっぱり類は友を呼ぶって言葉は本当らしくてさ。んで、そういう火観子先輩の変人友達の中に、一人本気でヤバい人がいるわけ」


「ヤバい……?」


「そ。通称『暮村の魔女』。下の学年じゃ、魔女先輩って呼んでるこの学校最大の問題児だよ」


 二人の男子がそう説明したそのとき、人垣の向こう、教室の入り口付近で急にクラスメイトがざわめくのを感じる。

 何かと思い全員がそこに注目すると、そこには先ほど壇上で話しているのを見たばかりの、この学校の生徒会長の姿があった。


「こんにちは、一年生諸君。実はこのクラスに編入生が来たと聞いてぜひともお友達になりたいと思って来たんだが、浜島美潮さんはその娘かな?」






 吉田智宏は以前、ハマシマミシオに対して一つの注意をしたことがある。

 それは学校という場所では常識とも言える注意で、ミシオの住んでいた異世界にすら存在していた、ミシオ自身、そのとき我を忘れるような喜びで注意する余裕が無くなっていなければ、恐らく破らなかっただろう一つの常識的モラルだ。

 すなわち、『廊下は走るな』。

 そんな校則を飛び越えて常識、うっかり破ってしまうものはいても知らない者はまずいないだろうそのルールを、今智宏は全力でぶっちぎっていた。


「う、か、つ、だったぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 自分がうっかり忘れていたことの重大さに頭を抱えながら、智宏は目的の少女を探して校舎内を疾走する。幸い最近できたばかりの新校舎は廊下も広く、開放的で見通しがいい。人にぶつかる可能性はコース選択と事前の注意で限りなく低くできている。背後からそれをとがめる声が何度か聞こえてきた気がしたが、今はそれを気にする余裕すらない。

 そもそもの問題は、智宏がミシオを編入させるにあたって、常識的な学校への対策しかしていなかったことだ。否、それだけでもかなり大変ではあったのだ。

 ハマシマミシオは異世界人である。この学校に入るにあたって付けた浜島美潮という名前だって、元の世界の字をこちらの物に直して付けた半偽名で、ミシオは本来この世界の人間ですらない。彼女の世界である第二世界イデアは、第三世界アースの数十年前の文明レベルという、魔術だの気功術だのといった超常的技術が存在する他の世界と比べれば比較的似通った世界だが、超能力なるこの世界では間違いなく非常識な力が存在し、双方にまたがる常識の壁は間違いなく厚い。

 加えてミシオという少女はその世界でさらに非常識な生活を送っていたという事情もある。そんな人間に学校生活で問題を起こさないだけの常識を仕込もうとすれば、普通の人間は当然のように頭が回らない部分が出てくる。

 もっとも、智宏個人に限定すれば話は変わってくるのだが。


(くそ!! 何が『日常生活でまで【集積演算(スマートブレイン)】を使ってたら人間駄目になる』だ!! 大きなこと言った割に普段の自分自身がダメダメじゃないか!!)


 智宏は異世界に渡ったことで刻印と呼ばれる一つの異能をその身に宿している。世界の外の魔力をその身に取り込み、願いという形を与えることで発現するその能力は、智宏の場合は『自分の脳を強化する』という、思考や状況の想定、そして対策するにはもってこいの能力だった。もしもこの異能を智宏が使っていれば、こんな事態にはならずに済んだかもしれない。


(今度からは重要なことはちゃんと【集積演算(スマートブレイン)】を使って決めよう)


 ひそかにそんな決意を固め、智宏は走りながら思考を切り替える。

 目下のところ、智宏が忘れていた重大事項は三つだ。

 一つ目は今学期行われる文化祭。

 二つ目は生徒会長最上火観子の存在。

 そして三つ目は、前の二つを真に問題たらしめる魔女の存在だ。

 

(あの魔女だけはミシオと接触させる訳にはいかない。何が起きるか分からないし、何をされてもおかしくない……!!)


 そもそも智宏とて文化祭や火観子の存在だけでここまで危機感を感じたりはしない。問題視しているのは、その二つのどちらか、あるいは両方によって魔女とミシオが接触してしまう可能性なのだ。

 魔女と火観子と智宏は文化祭において同じ団体に所属している。これについてはすでに智宏も諦めていることではあるし、元より魔女の存在を知る前に、同じ部活にも所属する形になってしまっていたため手遅れも甚だしいことだ。

 だが、もしもミシオが顔見知りの智宏と同じ団体・部活に入ろうとしたり、火観子が直接ミシオを勧誘にいったりすれば、最悪の可能性は一気に現実のものとなる。

 というかもう成りかけている。

 先ほど智宏がミシオの所属する一年B組を尋ねたところ、そこで聞くことになったのは、もう火観子が訪問してミシオを連れて行ったという知らせだった。

 聞けば、火観子は智宏が訪れる五分ほど前にそのクラスを訪れ、そこでクラスメイト数人とメールアドレスの交換をした上で悠々とミシオを連れて行ったという。訪れる場所でいちいち交友関係を広げているのはあの先輩らしいというべきだが、その対象がミシオになるのは今現在かなり都合が悪かった。


(くそ!! ホームルームさえ長引いてなければ!!)


 内心でどうにもならない過去を振り返りながら、智宏は一目散にミシオが向かったと思われる部室棟に向かう。そこに存在する手芸部の部室が、火観子が『友達』と集まるために作ったたまり場だ。もう既に部室にはついてしまっているかもしれないが、魔女との遭遇、手芸部への入部及び、『七つ目の不思議』への加入さえ防げればまだ取り返しがつく。


(間に、合え……!!)


 部室棟の扉を開き、わずかに残る生徒を避けて廊下を駆け抜ける。


(間に合え……!!)


 階段を目的の三階へと駆け上がる。もう慣れたと思っていた階段の長さが、今ごろになって恨めしい。


(間に合え!!)


 三階の廊下へとたどり着き、一気に手芸部部室の扉へと飛びかかる。いつもは簡単に開いていると思った扉が、今日に限っては妙に煩わしい。

 それでも、扉は智宏を拒むことなく開き、その向こうに目的の少女の姿を見せる。


「あ、トモヒロ……?」


 ただし見えるのはミシオ一人ではない。この部屋にミシオを連れ込んだ一年上の凛々しい顔立ちをした女生徒。生徒会長にして手芸部員。誰とでも仲良くなり友達の質と量を何より自慢する女、最上火観子と、


「あら、久しぶりね吉田君。夏休み中会えなかったから一月半ぶりかしら。ちょうど良かった。今この部と文化祭の『七不思(ナナフシ)』に新しい『お友達(おもちゃ)』が増えたところなの」


 見間違いようのない悪意に満ちた笑みを浮かべる女生徒。火観子と同じく一年上の先輩にして、この学園最大の問題児。腰まで届く漆黒の髪の上に、自分のキャラクターを示すような三角帽をかぶった魔女、三条結華がそこにいた。


 直後、部室棟に一つの悲鳴が響く。まるでこの世の終わりでも見たかのようなその悲鳴は、しかし誰にも救いの手をのばされることなく消えていくこととなった。


 次回の更新は午後三時の予定です。

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