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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章前編 第三世界アース 夏休み編
46/103

4:吉田家

「正直に言うと父さんは智宏が常識をわきまえたこちら側の人間だと思っていたのだが……、やはり智宏は母さんと同じ側の人間だったんだね」


 およそ三時間後。智宏はクーラーのきいたダイニングで、どうにか母・吉田芽乃雨(メノウ)の風潮するデマコギーを駆逐し、この七日間の経緯、異世界の事情、レンドやミシオの事情、さらには少し迷ったものの智宏の使えるようになった異能の数々まで説明を終えていた。

途中に昼食としてそうめんをすする時間もあったため、両親がこの異常な説明を聞いた時間はさらに短くなるはずなのだが、それに対して父・吉田宏一(ヒロカズ)が初めて放ったのはそんな言葉だった。

 特に痩せているわけでもないはずのその顔はやつれて見え、分厚いメガネの向こうの瞳は諦めの色を見せている。どうやらかなりショックだった様子だ。


「いや、父さん? 僕自身は別に常識を失ってないよ? ちょっと異世界に行って来てただけで……」


 矛盾という言葉の好例のような言葉を吐き出しながら、智宏はどうにか父親の認識を改めようと必死に思考する。ここで母親と同類扱いを受けるのは非常に心外だ。


「いやぁ、それにしても異世界かぁ。そんな面白い人生を送るんだったら、やっぱりそれに相応しい名前をつけておくべきだったなぁ。なあトモ、やっぱり今からでも名前を――」


「――黙れ。言っとくがあんな付けられただけで人生が終わるような名前、断じてお断りだ」


 自分が生まれたとき、母親がつけようとし、父親が必死でやめさせた名前を思い出し、智宏は寒気を覚える。あんな名前をつけられていたら人生がそのまま黒歴史だ。さぞかし人格もゆがんでいただろう。隣のレンドや、その向こうのミシオが興味を示しているが、絶対に教えたりなどしない。


「にしても魔術ねぇ。まさかこのへんちくりん超能力がそんなことに使えるもんだったとは……」


 そう言うと母親は、先ほど証拠として智宏が使った魔術の魔方陣を自分の手の上に下手くそに描いてみせる。魔方陣のつくり自体はところどころ間違っていたが、それでも描けることには変わりないのだ。


「それにしても、話には聞いていましたが驚きですね。まさかこの世界でマーキングスキルを持っている人間が智宏以外にもいるとは」


「んんー? トモから聞いたの? うちの家系はどういう訳かみんな使えるんだよ。まあ、使い方がわからないから無用の長物だったんだけどさ。むしろ家訓にこの力の有効な使い方を見つけろってのがあるくらいだ。まさかトモがそれを見つけるとは思わなかったどね」


 そう言いながら母親は空中にエセ魔方陣を量産していく。よく見るとその文字は智宏の使う文字より若干薄い。やはり世界を超えたことで、智宏のマーキングスキルは強化されているのかもしれない。


「それにしても異世界とは……。フ、フフフフ」


「あの、親御さんとしては確かに異世界と言われてもすぐには飲み込めないのは分かるのですが……」


「ん? ああ、違いますよ。私は既に異世界の存在を受け入れています。なにしろ先ほど息子やお二人に魔術やら超能力やらを見せてもらいましたからね。まあ、普通は見てもすぐには受け入れられないでしょうが、理不尽なものを受け入れるのには慣れていますので」


「ハァ…………」


「私が心配しているのは単純に家族間での話ですよ。見ていると判ると思いますが、妻はこの通りの非常識ですから。今までは私と息子の常識でようやく相殺していたのですが、これからは私一人で頑張れねばならないのかと思うと……」


「いや、父さん? 僕は別に父さんの敵に回るつもりはないよ?」


 絶望したような眼で乾いた笑いを洩らす父親に、智宏は必死でフォローを図る。だが、どうやら父親の中で智宏への評価が完全に決まってしまっているらしく、一向にこちらの世界へは戻ってこなかった。


「え、えっと、それじゃあ事情は大体飲み込んでいただいたものとしまして、これからのことについてはどうですか?」


「んん? ああ、とりあえずその娘をうちに住まわせるって話ね。それならオッケーよ。むしろ歓迎する。ねぇトモ?」


 言いながら目線だけで「この嫁絶対逃がすな」と伝えてくる母親を睨みながら、それでも話を進めるために頷いておく。嫁云々はともかく、母親のこういう対応に関してはあらかじめ予想済みだ。問題があるとすればむしろ父親の方である。


「簡単に言ってくれるな母さん。女の子一人を犬猫を拾う感覚で住まわされては困る。住まわせるにしてもいくつかはっきりさせておかなければならない問題もあるのだからな」


 案の定、こちらの世界に戻ってきた父親が横槍を入れてくる。この家では昔から母親の滅茶苦茶を止めるのは父親の義務なのだ。最近は智宏も父親に協力していたが、今回はミシオをこの家に住まわせたい人間でそういう意味では父親の敵に回る立場だ。それを考えると先ほどの父親の絶望は正しいかもしれない。


「まず住環境に関しては問題ないだろう。家にはずいぶん前に亡くなった婆さんの使っていた部屋がそのまま余ってるから、そこを掃除すればいい」


「あ、あの、私は別に部屋をいただかなくても、最悪庭の一画でも貸していただければ……」


「は? 庭?」


「ミシオ、頼むから黙っててくれる? その辺の常識は後でみっちりたたき込むから」


 異世界に来てなおホームレスのような思考回路を捨て切れないミシオを黙らせ、智宏は父親に話の続きを促す。父親も少しの間いぶかしむ様子を見せていたが、やがて内心で何らかの納得をしたのか、話を次の段階に進めることにした。


「まあ、次の問題になるこの世界の常識に関しては智宏に任せようか。母さんが関わるとどんな嘘を吹き込まれるか分かったもんじゃなかったけど、この調子なら任せてもいいだろう」


 隣から上がる抗議の声を聞き流しながら冷静に問題を潰していく父親に、智宏は内心で舌を巻く。いきなり行方をくらまして帰ってきた息子が、異世界人を連れてきたというのにこの飲み込みの速さはやはり驚嘆に値する。ここまで常識を捨てずに非常識に対応できるというのはもはや一つの非常識だろう。


「それで、最後に一番切実で無視できない問題がお金だ。人間一人、それも年頃の女の子が暮らしていこうって言うんだ、当然それ相応の費用がかかってくる。異世界のお金はもちろん使えないだろうしね。うちにも蓄えはあるが、だからと言って蔑ろにしていい問題でもない」


「それに関しては我々の方でなんとかできます」


 父親の懸念に対して、そう声を上げたのはじっと様子を見守っていたレンドだった。ミシオには聞かせていないが、この問題に関してはここに来るまでの間に智宏との間で既に答えが出ている。


「彼女は一応我々の保護下にある人物ですので、この世界での生活費や滞在費はこちらで出します。詳しい取り決めなどは後で個別に話し合う必要がありますが、この家以外でも我々の仲間が間借りさせてもらっている家がありますので、そこと同じような取り決めになるのではないかと」


「え、でも、そこまでしてもらうのは……。元の世界でもいろいろお願いしてるし……」


「それにそもそも君たちはどうやってこの世界の現金を手に入れているのかね? あまり褒められた手段で手にしている金ならとても受け取れないのだが」


「えっと、それはですね……」


「大方、この世界での生活の面倒を見る代わりに、イデアでの活動資金をミシオの遺産から借りようって魂胆なんだろ?」


「……え?」


 智宏が何気なく放った一言に、その場にいた者たちが全員驚きに満ちた表情を浮かべる。恐らく驚いている理由は違うだろうに、浮かべている表情が皆同じなのが、智宏には無性におかしく感じられた。


「要するにそういうことなんだろ? おおかたこの世界での活動資金も、どこかの金持ちにでも借りて、返済は正式に国同士で繋がりができたときにその世界の通貨を手に入れて返すってことになってんじゃないか?」


「いや……、確かにそうなんだが……、俺としては教えてもいないのに智宏がその辺の事情を知っていることに驚きなんだが……」


 どうやら見破られると思っていなかったらしいレンドがすでにおなじみとなっている呆れたような目で見てくるが、もはや智宏も気にすることはない。【集積演算(スマートブレイン)】を手に入れてからというもの、こういった目にさらされるのには慣れている。


「もともと、お前らがどうやって活動資金を得ているかは考えてたんだよ。まあ、ほかの候補として貴金属や宝石なんかを持ってきて売るってのも思いつかなかった訳じゃないんだが、前の世界でミシオの受け継ぐ遺産を守ろうとしているのを見てもしかしてと思ってな」


「別にあれはやましい気持ちがあってやってた訳じゃないぞ。まあ、こういう交渉を想定してなかったかと言われたら、してたんだけどさ。それにしたって本当はミシオちゃんが正式に相続できるまで待つつもりだったんだ」


「まあ、そうだろうとは思ってるよ。だからと言って、ただの善意だけでやってた訳じゃなかったとは思ってたけどな。善意だけで行動できるほどお前らまだ暇じゃないだろ?」


 智宏とてレンドからわずかに聞いただけではあるが、どうやら彼ら異世界国交対策室(チーム―クロス・ワールド)という組織は相当人手不足らしい。今朝よったアパートも、彼らが拠点としている建物ではあるらしいのだが、あの時間、既にチームメンバーは全員出払っていて、この世界に滞在しているという異世界人にはまるで会うことができなかった。そんな状態の組織が人助けをするには人情だけではなく、ただでさえ少ない人材を裂くだけの理由が必要だ。


「まあ、金の話に関してはそんなところだろう。で、二人ともどうする? ミシオの方は別に断ったからって言って放り出されたりはしないと思うけど」


 金銭の話にはここで一区切りつけてもいいだろうと考え、智宏は二人に同時に問いかける。問われた二人はそれぞれ悩むようなそぶりを見せたが、すぐに揃って頷き、父親の方が口を開いた。


「まあ、それならいいでしょう。他にも問題が無いわけではありませんが、それは生活するうちに何とかするべきものですし、そもそも母さんが住まわせる気でいる以上、どんな形であれ了承することになっていたでしょうから」


 そう言うと父は、一つだけため息をついたあとミシオに向けて「吉田家へようこそ」と声をかける。

 父親本人も実際に断る気はなかったのだろう。彼が行っていたのは結局のところ引き取る上での懸念事項の対応にすぎない。そういった点ではやはりこの人物は智宏の父親なのだ。とはいえもしかすると智宏の父親であるという以上に、吉田芽乃雨の夫というのが大きかったのかもしれないが。


「おーい、そっちの話は終わった? とりあえず義母さんの部屋をざっと片づけたんだけど」


 そんなことを智宏が考えていると、唐突に背後から当の母親が声をかけてきた。どうやら話している間にいつの間にか席を外していたらしい。その間にミシオの部屋となる部屋を掃除し始めていたあたり、こういった展開はお見通しだったと見える。


「その様子だと終わってるみたいね。それじゃあ早いところ荷物だけ運んじゃおう。足りないものとかあったら買い足さなくちゃいけないだろうし」


 そう言うと母は、手近にあった手提げバック二つを拾い上げて部屋へと向かっていく。慌ててリュックサックと風呂敷包みを拾いその後を追いかけるミシオを見て智宏もその後を追いかけようとし、しかし背後から肩を掴まれてその動きを封じられた。見れば隣でもレンドが父の手によって同じように肩を掴まれている。


「さっきはあの娘の手前言わなかったのだがね……。実はもう一つ、お金の問題よりも遙かに大きな問題が残っている」


 先ほどよりさらに硬い表情をした父親に、智宏は小さく唾を飲み込む。智宏としてもこれから聞かれることはお金の問題よりもさらに大きな問題として予想していたことではあるのだ。


「先ほど話を聞いたとき、彼女が自分の世界を離れた理由は異世界の犯罪者から身を隠すためだと言っていたね?」


「……はい。そうです。我々は複数の世界、いえ、もっと言えば五つすべての世界である程度活動しているらしい犯罪組織と見ています」


「そうか……。ということはこれから先も彼女が狙われる可能性がある、ということかい?」


 そう、それこそがミシオを受け入れる上で最も問題となる事実だ。

 ハマシマミシオは今だ五つの世界を股にかける組織に命を狙われている可能性がある。そんな少女を匿うということはつまり、匿う家族にも一定以上の危険が付きまとうことになるということだ。


「実際のところ、彼女が本当に狙われる可能性というのはどのくらいなのだね? そしてもし狙われた場合、どのように対応するつもりでいる?」


 だが、父親が考えていたのは、巻き込まれる自分たちのことではなく、匿うことになる少女の安全だった。


「狙われる可能性、というのはそこまで高くはないと思います。もちろん居場所が明らかであれば安全とは言えませんが、今回のように別の世界に隠してしまったのをわざわざ探しだして危害を加えるのは、相手にとってもあまり得にはならないのではないかと。彼らの犯罪の証拠は他にもありますし、彼女だけがいなくなったところで彼らにとってはプラスにはなりませんから」


「彼女の安全はこの世界に避難した時点である程度確保されているということか。それでも居場所がばれたりした場合はどうするのかね? または直接襲撃を受けた場合は?」


「そちらに関してはこちらで護衛の態勢を整えるつもりです。とは言ってもこちらも人手が足りない状態なので、場合によっては彼女にこちらの仕事を手伝ってもらう形で我々のメンバーと行動を共にすることで確保することになるかもしれません」


「それにこの家には僕がいる」


 安全対策を話し合う二人に、智宏は強い決意と共にそう言ってのける。ミシオの安全を守ることは、智宏にとっては彼女を家に招こうと考えたときから決意していたことだ。


「異世界に渡ったことで、僕は戦うことのできる力を身につけた。実際、異世界で何度もこの力を使って戦っている。もしもこの家が襲われるようなことがあっても、そのときは僕が何とかして見せる」


 それは、智宏がこの家にミシオを招くと決めたときから、絶対のものとして受け入れていた義務だ。あのような環境に再び身を晒すなど智宏本人もとんでもないと考える話だが、それでもこの覚悟なしでミシオを連れ込んでなどいない。


「……やれやれ、本当は息子にそんな危ないことはしてほしくないのだがね」


「……父さん、でも……、このことは……」


「いや、わかってる。ミシオさんをこの家に招くのはもう決めたことだ。それにね、確かに息子に危ないことをしてほしくないと思ってはいるんだが、それでも、息子がこんなカッコいいこと言ってくれるのは嬉しかったりするんだ。やっぱり僕も母さんの影響を受けているのかもしれないな」


 そう言って微笑む父親に、智宏はこの家にミシオを連れてくるという考えが間違っていなかったことを確信する。自分の家族は間違いなくミシオの家族として相応しいだろうと。


「そう言えば奥さんの方は大丈夫なのですか? 奥さんの方にもこのことは話しておいた方がいいのでは?」


「ああ、それは大丈夫。うちの母さんは滅茶苦茶ではあるけど頭は悪くないから。だからこそたちが悪いんだけど、その程度のことは大体察してるでしょ」


「そうだろうな。あれは分かっていても同じような反応を示す人間だ」


 親子揃って母親の人格を奇人認定し、そろそろ二人の手伝いにでも行こうと考え部屋へと向かうと、部屋の中で二人が荷物をはさんで向かい合っていた。

 だが、ふと気づく。荷物を片づけに向かったはずの母親の手が全く動いておらず、その体面に座るミシオがどこか気まずそうな表情を浮かべていることに。

 と、固まっていた母親がこちらに気付き、ひきつった顔をこちらに向けてきた。


「どうした……? お前が他人にそんな顔をさせられているのは珍しいな」


「ちょっといいか父さん、トモ。私は今から酷く常識的な観点からものを述べるぞ」


「そうか、明日は日曜だが、出かける用事があったら傘を持っていくよう心がけよう。それで、何があった?」


 ある意味息のあった会話を繰り広げる両親をしり目に、智宏は一足先に母親の手元、ミシオの持ってきた荷物を覗き込む。そうしてようやく自分の母をも絶句させた要因が何のかを悟った。


「この娘、普段着と言えるものをほとんど持ってないのよ」


 そう言って広げられた荷物の中身は、どれもあの森では重宝したような代物ばかりだった。

 先ほど中身を見ることになった工具の詰まったリュックサックに始まり、広げられた風呂敷包みの中身は寝袋とハンモック、鍋、漁に使うらしい銛など。他の鞄を開いても同じようなサバイバルツールが出てくるばかりで、衣服を含む生活用品は一番小さなカバンに僅かにしか入っていない。しかも入っている衣服はイデアの学校の制服やジャージ、漁のときに来ていた水着などがほとんどで、真に普段着や私服と言えるものは全くと言ってもいいほど入っていなかった。ここに来るまで制服だったのも、どうやらそれ以外の服を持っていなかったのが理由らしい。


「こりゃあ、服以外の物もいろいろ買って来なくちゃだめね。どっちみち買いに行かなきゃとは思ってたし、今日はこれからこの子の身の回りの品をいろいろ買いに行きましょう」


 数分後、ミシオの持ってきた荷物を確認した母親が下したのは、そんなあまりにも常識的な判断だった。

 思わず父親と二人感涙に噎び泣く。


「母さんが、母さんが当たり前のことを言っている!!」


「いや、智宏? 実の親にその発言はどうなんだ?」


「非常識な人間が一人から一気に三人に……」


「って、こっちは嘆いて泣いてたのかよ……!!」


「とりあえず服関係はひとそろい必要ね。後は食器とかもあった方がいいし、歯ブラシなんかもほしいか……。とりあえず車で行くか」


 智宏達男勢が母親達女性陣の言動に一喜一憂する中、母親は率先してミシオの生活環境を整えるため、買い物プランを練っていく。普段からは想像もつかない姿だったが、この母親はこれで常識的な価値観を持ってはいるのだ。持っていても活用しないというだけで。


「あの、でも、そこまでお世話になるのは……」


「遠慮するなミシオ。というかしないでくれ。お前が自分の力だけで行動しようとすると奇行が目立って仕方が無い」


「んじゃあ、とりあえず私はミシオちゃん連れて買い物行ってくるわ。こういうのは女同士の方がいいしね。父さんとトモはとりあえず押し入れの義母さんの遺品を片づけておいて。家具とかは義母さんの使ってたのでもいいよね?」


「そうだな。といっても押し入れと鏡と机くらいしかないが」


「ああ、でもちょっと待って。僕はこれからレンドを別の場所に連れて行こうと思ってたんだけど」


「別の場所?」


 智宏の発言に対し、他でもなく、連れて行かれるレンドが疑問の声をあげる。そう言えばレンドにこの話を持ちかけていなかったなとも思ったが、できることなら連れていくのは早いほうがいい。他に用事があるならばなおさらだ。


「わかった。それなら遺品の整理はこちらでやっておこう。幸い、量もあまり多いわけではないしな。それで、一体どこに連れていくつもりなんだ?」


「とりあえず母さんの実家だな。さっきも話したけどレンド達はこの世界でのコネを欲しがってるみたいだし」


「けっ、ババァのとこかよ。私よりババァが大事か? まったく息子に裏切られるとは嫌な世の中だよまったく!!」


 話に出てきた実家の話に、母が突然憎まれ口を叩きだす。この程度いつものことなので無視しようかと思ったが、部外者二人がいるため「くだらないことでいつもケンカしてる仲なんだよ」とフォローだけ入れておく。祖母と母親の喧嘩は同族嫌悪と意地の張り合いによって成り立っているため。あまり心配するようなことではない。


「ではまあ、それぞれ仕事にかかるとしよう。……ああ、それと母さん?」


「なんでぃ?」


「くれぐれもおかしな服を買ってきたりしないようにね。ネタやコスプレに走っても智宏と二人で全力で阻むから」


「………………ちっ!」


 父親の指摘に盛大に舌打ちする母親を見て、智宏は改めてこの家族の恐ろしさを思い知る。家族だろうと油断できない。ミシオの常識は常に狙われている状態だった。


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