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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第三章前編 第三世界アース 夏休み編
43/103

1:帰還

 今月中は更新できないとか言っといて更新しました。いえ、消えてしまったこの章のラストはできていないのですが、一度は完結まで行っているので、伏線の調整などはすることもないかと思いまして。

 まあ、クリスマスですしね。こんなプレゼントいらないとか言われたらそれまでですけど。

 人間というものは人生の中で価値観を劇的に変えられる出来事にしばしば直面する。

 それはときにその人間を成長させるものであったり、それとは逆に人を堕落させるものであるときもある。さらに言えば、それが一度とは限らないし、それどころか、いくつもの些細なことの積み重ねの中から生まれるときもある。

 だが智宏は、そんな中でも自分ほど劇的に価値観が変わってしまった人間も珍しいのではないだろうかと思う。

 ある日突然異世界などと言う現実性を疑う場所に投げ出され、そこで今までとまるで違う生活を強いられる。しかも体に奇妙な変化が生じ、運動能力やら身体能力が上がって未知の異能にまで目覚める。

 よくある(ファンタジー)が、(ファンタジー)のままで終わってくれなかったというだけでも十分に価値観を一変させてしまうというのに、智宏の場合はそれに加えて目覚めた異能が問題だった。

 刻印という智宏の世界(アース)の人間がまれに発現する異能力。世界を渡る際に世界の挟間にある魔力の影響を受けて体質が変化し、体内に取り込んだ魔力がその人間の強い願いに反応して体に刻む願いを叶えるための魔力調合機。

 そして智宏が願ったのはよりのもよって唯一性能の変わっていない頭脳の強化だった。

 記憶力が一度見たものを完全な形で思い出せるほどにまで跳ね上がり、思考能力が増大して正確な判断を瞬時に下せるようになる。複数の思考を同時にしてさらにはそうして出た答えを感情に左右されずに遂行することもできる。

 そんな異能に発現したおかげで智宏は先ほど挙げた体験に加えて、魔術を使う異世界人やら、最強に使えない刻印使いやら、やばそうな超能力者やら、もっとやばい超能力者やらと戦って倒すなどと言う冗談(フィクション)でしか笑えない経験を積む羽目になってしまった。

 智宏自身、別に後悔しているわけではない。「こんな刻印はいらない」などとも思ってはいない。ただ自分が異世界に来る前とは大きく、いっそ原形をとどめていないとすら思うほど変わってしまったような気分にはなっている。

 そして何より驚くべきことは、これだけの変化を智宏に与えた出来事が、たった一週間のうちに起こっているという事実だった。






 視界がブラックアウトし、全身に浮遊感が襲ってくる。覚えのある転移魔術の感覚。一度目を覚えていないため、三度目でありながら経験としては二度目となるその感覚に、智宏はまだ慣れることはできそうになかった。

 智宏が異世界に投げ出されてからちょうど一週間。とは言っても最初に異世界に行った日は午前中まで学校で英語の補習を受けていたし、帰る今はまだ午前中であるため、実質的な時間は六日間と言うことになるかもしれない。

 六泊七日。それが智宏が異世界で過ごすことになった、価値観を根底から変えるにはどうしても短く思える日数だった。


(まったく、たった七日しかたってなかったなんて正直驚きだな。気分的にはほとんど何年もたってるような気がするのに)


 智宏の日常を考えれば好都合とも言える短さだが、どうにも納得いかないものがある。それほど今までの人生の中でも濃密に感じた七日間だった。

 なにしろこの七日間の内で喧嘩もしたことのなかった智宏が、七回以上何かと戦うはめになっているのだ。今でこそ異世界の異能である気功術のおかげで全て治っているが、肩を裂かれたり、全身痣だらけになったり、あげくの果てには顔を中心にあちこちたこ殴りにされたりと怪我の類にも事欠かない。そんな暴力沙汰にあったことも濃密に感じる大きな要因だろう。


(まあ、元の世界に帰ったってもう元には戻らないんだけど)


 たとえ帰ったとしても異世界で得た変化は元には戻らない。智宏達を元の世界帰れるようにしてくれた異世界人たちは智宏の世界(アース)との正式な交流を望んでいる。ならばこの先、異世界は幻想ではなく現実のものとして智宏の前に再び現れるだろう。


(それでも、今は……!!)


 光と共に、智宏は元の世界に帰りついた。






「……は?」


 自分の世界の降り立ち、まず最初に飛び込んできた光景に智宏は困惑を覚える。

 今まで智宏が異世界に渡るにあたって使用した魔方陣は、条件の当てはまる土地に無差別に放りだす一度目のオリジナルは例外とし、特定の場所に設置された魔法陣同士を行き来する形をとっていた。

 それ自体は今回も変わらなかったのだが、問題なのは設置されている場所だ。第一世界エデンでは村の外れにある洞窟の奥深く、第二世界イデアでは町の外れにあるビルの屋上だったのだが、今回はそう言った雰囲気のある場所とは違っていた。

 一言で言うなら六畳一間。白ぽい色の無地の壁紙と、濃い色のカーテン以外なにもない部屋。トイレ、バス、キッチン付き。どう見ても一人暮らしのできそうなマンションの一室が、魔方陣の設置された場所だった。


「いや、まあ人目に付かないって点では確かに間違ってはいないだろうが……」


 それにしてももう少しそれらしい場所はなかったのかと聞きたい。そしてよくもまあこんな部屋に魔方陣を押し込めたなとも。

 見れば、一番大きな魔方陣に繋がる小さな魔方陣が、いくつか玄関へ向かう廊下に飛び出している。どうやら部屋の床を最大限に使って魔方陣を押し込んでいるらしい。なにやらこの場所でなければならない理由をうかがわせる努力が垣間見えた。魔方陣でいっぱいの部屋と言うのもそれはそれで不気味ではあるが。

 などと智宏が呑気に部屋の中を観察していると、


「ひゃっ、トモヒ――!!」


「って、あが!!」


 背後から悲鳴のような声と共に強烈な衝撃が襲って来て、二人揃って床に倒れ込む羽目になった.

同時に背後で強く感じていた魔力の感覚が消失し、異世界と繋がるゲートが閉じる。

 特に異常事態ではない。ただ智宏が転移魔術の出口に立ち尽くしていたため、あとから来たミシオと激突するはめになったというだけの話だ。


「……ごめん。そう言えばこういう事態があるってことを忘れてた」


「……うん」


 智宏の言葉に応じながら、背中に乗る形になったミシオは床に手をついて立ち上がる。智宏自身がかばんを背負っていたため密着度はお世辞にも高いとは言えなかったが、ミシオとしてもあまり長く続けたい態勢ではないだろう。

 ミシオが立ち上がるのを待って智宏も身を起こし振り返る。

 背後に立つのは日本人と変わらない顔立ちに、腰まで伸ばした黒い髪の少女。異世界の物とは言え、この世界でも探せばありそうなデザインのセーラー服に身を包み、背中には大きなリュックサックを、そしてその上に載せるように、さらに巨大な風呂敷包みを背負ったミシオがそこにいた。


(……風呂敷包みとか初めて見たな……)


 リュックサックと風呂敷包み、さらには智宏が申し出て持つことになった二つの手提げかばんはすべてミシオの荷物だ。なぜこれだけの荷物を持ち込むことになったかと問われれば、それはミシオが自身の世界を離れ、今日からこの世界で過ごすからにほかならない。

 ミシオは異世界に行った事情が智宏とは根本から異なる。智宏が異世界に行った原因は、転移する罠のような魔法陣に引っ掛かったことによる偶発的なものだが、ミシオの場合は他人の悪意と殺意を持って囚われ、命の危険すらある実験に巻き込まれたという人為的な理由によるものだ。

 彼女自身の強い生命力と強運が重なってどうにか生き延びた訳だが、それでも事件は解決したわけではない。一部は捕まったものの、世界を股に掛け、組織で活動していると思しきこの犯人たちはいまだその全貌を見せていない。そのため彼らの犯罪の被害者であり、証人でもあるミシオは、一時的に別の世界で身を隠して生活することになったのだ。

 そして、ミシオが選んだのがこの世界、第三世界アース。智宏の生まれ育った世界にして、ミシオの世界とも近い文明を持つ世界だった。


「ところで……、レンドは?」


「そう言えばどこに行ったんだ?」


 そこでようやく智宏はともにこの世界に来たはずのもう一人の人物を思い出す。金髪にメガネ。整った顔立ちに無精ひげを生やした年上の男。そして、智宏と同じ長い耳を持つ異世界人。しかし智宏達よりも先にこの世界に来ているはずのレンドの姿は、部屋を見渡してもどこにも見受けられなかった。


「……あいつ、どこいった?」


「別の世界に行った、とか?」


「いや、それはないと思うが……」


 レンド達が世界を移動するのに使っている魔方陣は、物や人を送る送還陣と、送ったものを受け取る召喚陣のセットで使われる『二対式魔法陣』だ。二つの魔方陣をつなげるような形で転移を行っているのに一人だけ別の世界に送られるなどあり得ない。


「と言うか、普通に考えて部屋の外に出て言ったんじゃないか?」


「一人だけで?」


「まあ、僕らを待ってても良さそうなものだが、なんか用事があったのかも……」


 そう言いながらとりあえず部屋の出口の扉に手をかける。智宏の脳裏には、つい一昨日イデアに着いたとき、着いた途端に姿をくらました人物の存在が浮かんでいたが、今回レンドにそんな理由があるとは思えない。

 と、そんなことを考えながら扉を開けてみると、


「……なんか、誰かが騒いでるな?」


「レンドの声?」


「たぶん」


 扉の向こうに広がる住宅街に、なにやら二人の人物が言い争う声が響いている。そしてその内の片方は、まぎれもなく直前まで話しに出ていたレンドのものだ。どうやらここは建物の二階に当たるらしく、声は足元から聞こえてくる。


「喧嘩?」


「そんな感じでもないようなけど……。とりあえず行ってみようか」


 ミシオと顔を見合わせ、智宏はとりあえず周りを観察しながら廊下を歩き始める。見たところ部屋の数は五つほど。二階建てであることを考えれば建物全体で十の部屋を持つアパートらしい。極端に古いという訳ではなく、むしろ建物としては新しいようで目立った汚れなどが見られない。

 階段を見つけ、下に降りるとだんだんと二人の会話がはっきりと聞こえてくる。智宏は迷った末ミシオともう一度顔を見合わせると、二人揃って顔だけを出して様子をうかがう。すると階段のすぐ近く、一番手前の部屋の前で二人の男が争っていた。


「放したまえよレンド君!! 私はこれから押し入れの中へと旅立つ!! 恐らく一週間は帰らん!!」


「止せって!! 押し入れ国はろくにトイレもないような国だぞ!! 国土も狭いし、野生動物はいたとしてもネズミだけだ!!」


「放っとけ! ネズミなんかいるか!! いたとしてもゴキブリくらいだ!! むしろ国民が一人もいない分気が楽だ!!」


「ではせめてお越しになる際はどうぞわがフラリア国を経由してくださいませ!! わが国ではこの国にはいないリアルメイド達があなたのお越しをお待ちしております!!」


「君はまた私に余計な仕事を押し付ける気かぁあああああああ!!」


 部屋に逃げ込もうとしていた男がレンドの手によってズルズルと引きずりだされる。驚くべきことにレンドはその男に対して【蛇式縛鎖(チェーンロック)】まで使用していた。魔方陣へと吸い込まれる魔術の鎖に引き摺られ、なおも男は抵抗する。


「そもそも君は、この前もリアル魔法少女がいるとか言って私を騙したではないかね!!」


「いただろうが魔法少女!! うちの世界は魔法少女も魔法少年も魔法中年も魔法老婆も選り取り見取りだぞ!!」


「詐、欺、だぁあああああああ!! 変身も呪文もない魔法少女なんて誰が認めるかぁああああ!!」


 内心で「基準はそこかよ」と突っ込みながら智宏は引きずり出された男を観察する。

 伸ばしているというよりも伸びているけど切っていないといった印象のある、目元近くまで伸びた髪型。体は痩せて全体的に青白く、顔つきもどことなく尖って不健康に見える。目つきに至っては無駄に鋭く、しかしその鋭さの中にまったく迫力のようなものが無い。むしろ死んだ目と言うのはこういうものなのではないかとすら思えるような目つきで、全体的に不健康そうな印象を受けた。


「そもそも君は!! どうしてそうまでして私の完全引きこもりライフの邪魔をするのかね!! 私がどれだけ苦労してこの働かなくても生きていける環境を整えたと思っている!?」


「そう言うなって、それでも買い物くらいは行くんだろう? それと同じノリで俺の世界まで言ってきてくれればいいんだからさ」


「どこの世界に買い物気分で異世界に行くバカがいるんだね!! 何を考えているんだそいつは!!」


「俺達は買い物気分で行ける異世界を目指している」


「誰が聞いたかね、そんな目標!!」


「うるせぇぞ大家ぁ!!」


 と、言い争う二人に一つ向こうの部屋から怒号が上がった。扉を蹴破るように開き、鬼のような形相の女性が飛び出してくる。短く刈り込んだ髪に、露出の多い恰好、そしてサンダル履きと、見ようによっては男でも通りそうな格好だが、大きな胸がその誤解を許さない。そんな女性が騒ぎ立てる二人の男を一睨みで黙らせ、ズンズンと二人に歩み寄ると両手でそれぞれの胸倉を掴んで顔を突きつけた。


「さっきから、ギャアスカ、ギャアスカとうるせぇんだよ二人ともぉ。そんなにあたしを起こすのが楽しいかぁ、あぁああああん!? そもそも、今何時だと思ってやがるんだよ、朝の十時だぞ、わかってんのかてめぇらぁ? よい子はとっくに寝る時間だ!!」


「いや、姐さん堂々と何言ってるんですか……」


 ドスの利いた声でレンドともう一人の男を恫喝する女性に、さらに向こうの部屋から現われた人物が突っ込みを入れる。見れば、日焼けした肌とたくましい体つき、そしてスポーツ刈りといういかにも体育会系といった外見の智宏と同年代の少年が、呆れに似た表情で三人に歩み寄っていた。


「っていうか姐さん、夜勤明けで眠いのはわかりましたから、とりあえずここは任せて寝ててくれません? 姐さんが関わると話がややこしくなるんで」


「……チッ、わぁったよ。あたしだって引きこもり大家や異世界ピエロの相手に睡眠時間を持ってかれたくはないしな。その代わり、この二人をバッチリ教育しとけよ(たか)(あき)


「はいはい。分かってますとも」


 孝晃と呼ばれた少年の返事に頷き、姐さんと呼ばれていた女性が部屋に戻る。勢いよく閉められたドアの音によってようやくレンド達は緊張から解放されたのか、へたへたと地面に座り込んだ。


「……ああ、今日こそは志士谷(ししたに)さんに殺されるかと思った」


「私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない……」


「もう終わりましたよ大家さん……」


 どうやら今の女性は志士谷さんと言うらしい。会話を見る限りではどうやらこの会話も日常的に行われているようだ。


(っていうかあの志士谷って人、レンドのことを異世界の人間だと判ってたよな?)


 そういう意味ではあの大家だという男も孝晃と呼ばれていた少年もレンドのことを異世界人だと自然に受け入れている。どうやらこのマンションの住人達はある程度レンド達の事情を知っているらしい。ひょっとすると智宏のように異世界遭難者となった人間もいるのかもしれない。

 そんなことを考えていると、不意に孝晃と呼ばれた少年が智宏達に気がついた。


「あれ……? 見ない顔だけど、その耳……。もしかしてレンドさん達のお仲間かい?」


「え、ああ、まあそんな者です」


 一瞬訂正すべきか迷いながらも、智宏はとりあえず返事を返す。彼が智宏のことをレンドの仲間だと判断したのは、恐らく智宏の長い耳を見てのことだろう。ファンタジーのエルフのような長い耳は、通常の日本人の顔を持つ智宏の唯一の特異点であり、同時にレンド達オズ人の種族的特徴だ。それでも智宏が異世界の関係者であることは間違っていないし、その程度の間違いは後で訂正すればいい。


「とりあえず、なんかいろいろありそうだな。大家さん、とりあえず三人とも大家さんの部屋に上げていいですか?」


「なぜ私の部屋にあげるのかね孝晃君。あげるなら君の部屋にしたまえ。私は知らん!」


「いいですけどそれだとレンドさんの仕事の方はフォローできませんよ?」


「……ぐ、仕方無い。ならば私も君の部屋に行く。それでいいだろう?」


「いやだとは言いませんけど俺の部屋冷房切ってますよ? 大家さん耐えられるんですか?」


「…………好きにしたまえ……」


 こうして智宏達は大家だという青年の部屋にお邪魔することになった。


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