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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第二章 第二世界イデア
30/103

8:寸鉄の女王

 ようやく戦闘シーンです。

 見た目とは裏腹に大きな態度をした少年は、いきなり葉鳥に向かって火を放った。


「ギャァアッ!!」


 驚き、あわてて飛び退くと、今自分がいた場所の少し手前に炎の塊が直撃し、地面を粉々に焼き砕く。


「な、な、な……」


 思わぬ反撃に葉鳥がわなわなと震えていると、手と額を光らせた少年が空中に奇妙な図形を描きながら再び言葉を投げかけた。


「さあ、どうする? 僕は優しいから、特別に焦げて喋るか、焦げずにしゃべるかを選ばせてあげるよ?」


 ニコリともせずに本気とも冗談ともつかないセリフを無表情で口にする少年に、葉鳥は恐怖を覚える。だが、それに屈するほど、葉鳥は弱くもなかった。


「なっ、めんなぁ!!」


 叫びと共に、葉鳥は地面に散らばる金属群に意識を飛ばす。それだけで大量の凶器達は宙に浮かび上がり、今度は左右から少年に襲いかかった。


「ふっ!!」


 それに対して少年は、焦ることもなくわずかに息を吹きだしただけで対応した。もう一度地面に魔方陣を展開し、比較的に数の多い左側を先ほどの半透明の岩の壁で防ぎ切る。

 右から来る残りの釘と刃を、前に向かって走ることで回避し、それでもギリギリ直撃コースにいる数本を右手の光る手で叩き落とす。

 結果としてそれは、少年が対応する隙に森へ逃げ込もうとした葉鳥を追いかける形にもなった。


「くそぉっ、聞いてねぇぞ相手が能力者なんて!!」


 仕事の依頼人に怒りを露にしながら、金属群にさらなる意識を飛ばす。

 すると金属達は葉鳥の意志に答え、次々と浮き上がり、少年の頭上から殺到した。


「っ!!」


 上空から響く金属音に、危険を感じた少年が横へと飛び退く。

 すかさず金属群に方向を転換させる。すると、二割ほどの金属が間に合わずに地面に突き刺さったものの、残りは方向を変えて少年に追撃をかけた。


「しつこい!!」


 再び岩壁を作って金属群を弾き飛ばすが、その隙をついて葉鳥は距離をとる。

 距離にしておよそ十五メートル。どちらにとっても不利な距離だった。


「……なんだてめぇ……。火ィ出すだけならともかく、壁作るとか……、いったいなんの能力だ!?」


 相手の使う能力の多さに、葉鳥は疑問の声を上げる。

 通常能力者の持つ能力は一人一能力だ。まれに能力によって多彩な現象を引き起こす能力者も存在するが、そういった人物も実際は適用範囲の広い一つの能力を、応用によって多彩に見せているにすぎない。

 だが、この少年の使った二つの能力は、あまりにもかけ離れていた。炎を使う能力は、レアながら存在する。いきなり壁が現れるというのも空間移動(テレポート)の一種だと思えばかろうじて納得できる。だがそれらを両立するなど通常はありえない。

 二つの能力を使う不気味な相手に、葉鳥の思考は混乱を極めていた。






 一方智宏の方も内心で焦りを抱いていた。


(ふくらはぎはかすめて服が破れただけ、肩甲骨の辺りも同じだな。右太股は……、浅いが斬られているな)


 感覚を頼りに先ほど避け切れなかった(・・・・・・・・)場所を確認していく。合計三か所。どれも不意打ちで斬られた右腕と比べてもとるに足らない傷ばかりだが、避け切れなかったというのは問題だ。


(この現象、サイコキネシスとか、テレキネシスとか、念動力っぽい何かだろう。詳細は……)


 周りで宙を舞っている者たちを見る。相手の操っているものから見れば詳細は明らかだ。


(恐らくは小金属に限られるって条件付きの念動力。正確に金属の種類まで特定されているのかまでは分からないが、ミシオのトラップを考えても金属が少なそうなこんな場所に、わざわざ金属を持ち込んで使っている時点で間違いない)


 思考を加速させて、状況を分析する。この場を切り抜けるだけなら【極放雷(テラボルト)】や【土神の剛腕(タイタン・クロウ)】、【集束爆炎弾(クラスター・ファイア)】といった強力な魔術で相手を吹き飛ばしてしまえばいい。だがそれをやると、危機的状況にいると思しきミシオの居場所が聞きだせなくなってしまう。


(今までの言動からしてこいつは異世界のことについては知らないようだが、ミシオを狙ってるエイガとは関わっている。ならエイガの足取りを追えばミシオにはたどり着けるはずだ。是が非でもこいつからエイガの行先を聞き出さないと!!)


 そこまで考えて、問題は相手の能力に立ち返る。話を聞きだす上で相手の能力は明らかに邪魔だった。


(最大の問題はこの数だ。一つ一つはまともに食らっても大した威力じゃないが、全部食らったらさすがにまずい。さっきからのやり取りで嫌な感じに周りにばらまかれてるし……)


 流石に四方から攻撃されたら魔術を使っても防ぎきれない。【岩壁城塞(ロックシェル)】で防ぐことができるのは一方向からの攻撃のみ、ほかの魔術でもこの数を撃ち落とすのは不可能だ。


(ここから先、下手に【岩壁城塞(ロックシェル)】なんて使おうものならこっちの動きが制限される。なら最悪、食らうの覚悟で捕まえる!!)


「来るんじゃねぇ!!」


 周囲の金属が浮きあがると同時に智宏も動いた。

 気功術を発動させ、素早い動きで迫りくる金属群の間をすり抜ける。


「逃がすかぁ!!」


 だが、今度は葉鳥もそれに合せた。自身もバックステップで距離を稼ぎながら、金属達を急旋回させて智宏を背後から襲撃する。


(スピードは向こうのほうが若干早いか。ならっ!!)


 捕まえる前に追いつかれると判断した智宏は、背中に意識をさし向ける。


(術式展開――【空圧砲(エア・バスター)】!!)


 意識と共に智宏の背中で魔方陣が展開され、そこから急激に空気が噴き出した。

 吹きだした空気は背後に迫っていた金属群を吹き飛ばし、さらには智宏の体をジェット噴射のように加速させる。


「げぇ!?」


 智宏もこの魔術を使うのは初めてだ。魔方陣と発動までの手順は依然見て覚えていたのだが、効果を見ることまではできなかったので使ったことが無かったのだ。

 だがこの世界に来てから効果だけはレンドに聞いていた。それでも実際にうまくいくかは若干の不安があったが、結果は上々だ。相手の反応からしても背後からの攻撃をあんな形で防がれるとは思っていなかったらしい。葉鳥はすでにこちらに背を向けて逃げだしている。

 そしてだからと言って、ここでみすみす逃がすほど智宏の思考は甘くない。


(術式展開――【銃炎弾(ファイア・バレット)】!!)


 相手の動きを止めるべく、足を狙って炎弾を放つ。だが炎弾が着弾する寸前、魔術に気がついた葉鳥は突然その身を宙に浮かし、飛ぶようにして炎弾を回避した。

 脱げて取り残されたサンダルが炎弾を受けて爆散する。


「なに!?」


 足を地面から放し、道路の上を低空飛行する葉鳥に智宏は驚愕の声を上げる。だが、次の瞬間には智宏はその原因を看破した。

 葉鳥手の先、しっかりと握られた巨大なボストンバックが葉鳥の体を引っ張るように飛んでいるのだ。


(中に鉄を仕込んで、いや、隠し持っているのか?)


 飛行の仕組みを看破しながら、智宏は追撃をかけるべく魔方陣を構える。それに対して葉鳥も、飛びながら鞄を胸の前に抱くようにし、その口を最大まで開いた。どうやら中の鉄を逃げきるための推進力として使うのではなく、こちらの攻撃への対応と反撃に使う腹積もりらしい。


「『寸鉄の女王』舐めんなぁ!!」


(術式展開――【回転機関砲(バルカン・ファイア)】!!)


 互いが同時に攻撃を放ち、二人の間でぶつかった鉄と炎弾が爆発する。炎弾の爆発で金属は砕け散り、吹き飛ばされ、しかし炎弾自体も爆発するゆえに葉鳥には届かない。

 だが、この勝負は明らかに智宏が有利だ。能力で飛ぶ葉鳥と、魔術で走る智宏の速度はほぼ同じ。だが、こうして葉鳥が攻撃に鉄を使ってしまえば智宏の方が速度は圧倒的に勝る。

 そして、弾丸の数も智宏の方が勝る。智宏の魔術は魔力が続く限りいくらでも撃ち続けることができるのだから。


「ああああ!! くっそぉ!!」


 悪態をつきながら、大量の鉄を失った葉鳥が地面に足をつける。よろけながらも着地し、そのまま自分の足で走ろうとするが、その速度は先ほどとは比べるべくもない。

 智宏は、魔法陣を構える腕をわずかに逸らし、走る葉鳥のすぐ横に炎弾の一発を着弾させる。


「うぎゃぁあ!!」


 爆風に殴られ、葉鳥の体が横倒しに地面に転がり、その動きを止める。

 すでにかなりの距離を詰めている。背後の金属群も追いつくまでには時間がかかるだろう。追い付いて取り押さえる時間は十分ある。

 そう思ったとき、葉鳥が奇妙なことを始めた。座り込んだまま体制をこちらに向け、右手をこちらに向ける。さらにその手はピストルでも構えるように人差指と親指を立て、人差指をこちらに向けていた。そして、その指の先で何かが浮いている。


(なんだ……?)


 浮いているそれを、智宏は最初釘かと思った。だが良く見るとその釘は、側面にネジのような溝が掘られている。智宏もホームセンターで見たことがあるそれは、ビスと呼ばれる代物だった。

 そしてそれがいきなり回転を始める。


(――!! まずい!!)


 とっさに危険と判断して智宏が真横に飛び退く。

 すると間一髪、他とは比べ物にならない速度で智宏がいた場所を、回転を帯びたビスが通過した。

 ダンッ、という音がして背後の木にビスが突き刺さる。

 背後を確認すると、先ほどのビスのものと思しきネジの頭が木の幹に深々と食い込んで煙を上げていた。どうやら回転によって摩擦熱まで発生していたらしい。


「は、はは、ははははは!!」


 そしてそれを見て葉鳥は笑う。智宏は葉鳥が自身の突破口を見出したことを理解した。


「そうかぁ!! そっか、そっか!! そうだよなぁ、量より威力だよなぁ!! あははははっ、ハァ!!」


 気合いの一声で、葉鳥の持つ鞄から七本のビスが勢いよく飛び出す。ビスは葉鳥の上に滞空すると、その切っ先を智宏に向けて一斉に回転を始めた。

 自身の力をビスに集中しながら、葉鳥は立ち上がる。逃げる過程で髪が乱れ、サンダルは片方脱げて、服も泥だらけになったその姿はしかし、鬼気迫る表情によって本物の山姥のように見えた。


「あんたとエイガの野郎のおかげで服もメイクも台無しだ……」


 切っ先を突きつける木ネジに対抗するため、智宏は全身を緊張させる。どうやら先ほどの一撃は大量に操るのに使っていた力を集中させることで生み出していたようで、ほかの金属は地に落ち、完全に沈黙している。

 だがそれは今安心材料にはならない。今度の攻撃は食らったら先ほどとは比べ物にならないダメージを追ってしまう。先ほどの一撃を考えれば銃を突きつけられているようなものだ。


(なら、術式展開――!!)


「ネジ穴開けて詫びなぁ!!」


(――【岩壁城塞(ロックシェル)】!!)


 瞬間、目の前に現れた壁の向こうで、金属が岩を削る音と火花が散る。だが智宏はそれで安心するようなことはなく、壁の出現と同時に右側に駆けだした。

 予想通り、智宏の進行方向上に、壁の横から攻撃するべく回転したビスが現れる。さらには音からして背後にも一つ、合計で二本のビスが壁のない側面から挟み撃ちにしようとしていた。


「負けるかぁああああ!!」


 気合いとともに目の前の木ネジを、【鉄甲(アイアン・ガント)】によって保護された右手で横殴りに殴りつける。さらには魔力の供給を絶たれて消え始めている壁をつかみ、体を壁の向こうに引っ張る。

 直後、火花を散らして吹き飛んだビスが見当違いの方向に発射され、背後から智宏を襲おうとしたビスが、智宏の二の腕をかすめて地面に着弾した。


「痛っ、そぉおおおおお!!」


 だがまだ終わりではない。相手にはまだ最低でも四本のビスが残っている。


「チィッ!!」


(術式展開――!!)


 葉鳥がビスの照準を変更する前に、智宏は背中に魔方陣を展開し、起動させる。準備は智宏の方が一瞬勝り、葉鳥がビスを打ち出す前に発動させることに成功した。


(――【火炎鳥襲撃(ファイヤーバードストライク)】!!)


「なっ!?」


 智宏の背中から突然飛び出した四羽の炎鳥に、葉鳥は自身の危険を悟る。炎鳥が葉鳥本体を狙っていることを看破すると、とっさにビスの照準を変更して四羽の炎鳥を打ち抜いた。

 智宏の前方四ヶ所で同時に爆発が起きる。


「これでお前を守るものは何もない!!」


「くっ、ああ!!」


 一気に距離を詰め、葉鳥の顔面を掴んで足払いを掛ける。倒れこんだ葉鳥を押さえつけ、手のひらと顔面の僅かな隙間に魔方陣を展開する。


「さっきの火の玉だ。妙な真似をすればこのまま発動する!」


「っ!!」


 脅しと共に五本の指で貫かれる形になっている魔方陣に魔力を込めて輝かせる。すると周囲で地面に金属が当たる音が次々と響いた。流石に観念する気になったらしい。


「わ、悪かったよ。あたしは、ほら、頼まれてここにいただけなんだ。特にあんたに恨みがあるとかじゃ――」


「そんなことはどうでもいい。ミシオはどこだ? エイガはどこに行くと言っていた?」


「も、森の向こうの岩場だよ。村の海沿いからもいける場所さ。ミシオって娘はそこで毎晩海に潜ってるらしいんだ」


「毎晩? 夜に潜ってるのか?」


「あ、ああ。何でも前に栄河たちがちょっかい出したら、暗い時間に潜るようになったらしい。え、栄河も実際にこの時間に潜ってるって知ったのは、さ、最近だって言ってた」


 多少どもってはいるものの、淀みなく発せられるその答えに、智宏は葉鳥が嘘をついていないと判断した。こんなにスラスラと嘘の情報を吐ける人間がいたらそれだけで脅威だ。

 海に潜っているという証言にも裏付けがある。恐らくミシオの家で見た家計簿、その中にあった唯一の収入源である漁に出ているのだろう。夜の海に潜るというのはなかなかに危険ではあるだろうが、狙われている中では闇にまぎれて逃走できる分むしろ安全なのかもしれない。


「な、なあ、あたしはこのまま帰ってもいいかい? あたしも相手が能力者ってのは契約の範囲外なんだ。栄河の野郎はとっちめてやりたいけどそっちはあんたに任せるよ。だからさ――」


「まあ、それはいいけど――」


 瞬間、智宏は葉鳥の上から勢いよく飛びのいた。案の定、直前まで智宏の頭があった位置で釘同士がぶつかり合い、火花を散らす。


「――あんた、ただで帰る気ないだろ?」


「大当たり……」


 見れば、智宏の周囲には既に数十本の金属が浮いており、完全に周囲を包囲されていた。どうやら地面に落としたと見せかけて会話で時間を稼ぎ、闇にまぎれて少しずつ周囲に配置していたらしい。


「生憎と想定外の仕事には法外な報酬をってのがあたしのポリシーなんだ。実は仕事はきっちりやるタイプなんだよ」


 すでに周囲のどこにも逃げ場はない。たとえ魔術でどこかを突破しようとしても周辺全てを吹き飛ばせない以上、残った金属達が智宏を襲うだろう。

 だが、問題ない。葉鳥が大人しく引くとも最初から思っていなかったし、何より、


「……悪いね」


「ああ!?」


「実はもう、あんたが喋れる状態である必要はないんだ!!」


 葉鳥の額で血管が切れる音がし、同時に空を切る音とともに、全ての金属が包囲の中心へと殺到する。数百本にかけていた力を数十本に集中した攻撃は、先ほどのビスほどではないものの人を殺すのに十分な威力を持って中心にいる智宏を葬り去る、はずだった。


「は?」


 だが、目の前に広がる光景に葉鳥はポカンとした表情になる。

 さっきまで少年が一人いただけの場所には、しかし次の瞬間には巨大な半透明の塔がそびえていた。中心の少年を四方から貫き、斬り裂くはずの金属達はすべてその塔に刺さっている。

 そして葉鳥は、その塔の根元の形を見てそれの正体に気が付いた。


「……腕?」


「正解だ!」


 塔に見えた腕の先、遥か上空から聞こえた声に、ようやく葉鳥は上を向く。そこには巨大な腕に肩の部分で繋がり、反対の手の先に魔方陣を展開した智宏の姿があった。


「とりあえずあんたから聞かなきゃならないことは全部聞いた。だから――」


「ま、待って!! やっぱりあたし―――!!」


「――寝てろ!!」


 そう言った瞬間、魔方陣から放たれた雷撃が葉鳥の意識を残さず奪い去った。


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