17:交錯する世界
長いです。
本当は五千から一万字くらいの間に抑えたかったのですが、うまく切れる場所がありませんでした。
「いやぁ、助かったよ。正直出るタイミング逃しちゃって困ってたんだ」
森の中のわずかに開けた場所、それもあちこちにクレーターの空いた地面を歩きながら、レンドはいつも通りの調子でそう言った。
「見てたんなら早めに出て来いよ。こっちは死にそうな目にあってたんだぞ」
「いやぁ、俺とハクレンさんが来たのってトモヒロが刻印に目覚める直前だったんだよね。他のメンバーに関しては村を出たのが俺たちより遅かったのもあって、ここに来たのはついさっきだったし。だからタイミングを逃しちゃって……」
「……そうかい」
レンドと適当な会話を交わしながら智宏は周りを盗み見る。周りにいるレンドを除いた二十五人は全員がそれなりの武装をした物々しい集団だ。敵意のようなものこそ感じないが、一応警戒しない訳にはいかない。
どうやら智宏の予想通り、レンド達は知らされていた以上に異世界についての知識を持っているようだが、それだけで敵と判断する根拠にはならない。だが、だからと言って彼らが何を目的にしているかわからに状態で信用し過ぎるのも危険だ。
智宏は【集積演算】を用いてさらに思考を加速する。まずは彼らの目的をはっきりさせなくてはいけない。
「お前らはここに何しに来たんだ? まさかこんな大勢でピクニックってわけじゃないだろう?」
「俺とハクレンさんは君らを連れ戻しに来たのさ。このレキハの森はデートには向かないからね」
『……デ、デート!?』
『……反応するなよ。今そこは重要じゃないだろう』
デートという言葉に巨大な動揺を伝えてきたミシオに心の中で突っ込む。流石にこの局面で軽口から話題を広げられても反応に困る。
「二人は僕らを連れ戻しに来たってのはいいとするけど、それじゃあ他の人たちは何しに来たのさ? ただの狩りにしては見慣れない人たちが混じってるけど?」
「なあに、狩りは狩りだよ。ただし――」
そのとき、急にレンドの顔が真剣なものに変わった。
「――狩る相手は今君の隣に転がってる犯罪者だけどね」
「……犯罪者、ね」
そう言って今度は近くの地面を盗み見る。そこには先ほど派手に殴って気絶させた二人が転がっていた。たしかに彼らがしていたという所業を考えれば犯罪者というのは認識として妥当なところだろう。
それと同時にもう一つ気付くことがあった。
「……そうか。お前ら、僕達がこいつらの仲間なんじゃないかと疑ってたのか」
「……え?」
智宏の言葉にミシオが驚きの声を上げる。いや、驚いたのはミシオだけではなかった。見なくても分かるほど周囲から驚きの声が聞こえてくる。
「……う、疑ってたって……、どういう、こと?」
「そのままの意味さ。僕らがこいつらのことを疑っていたように、こいつらも僕らのことを疑ってたんだよ。たぶん僕の場合は身体的特徴と住んでいた世界が食い違っていたから。そしてミシオの場合は――」
「――言動や服装、順応性の異常な高さ。その他いろいろな点がただの遭難者とは思えなかったからさ」
智宏の言葉に応じるようにレンドが答える。その口調には呆れとも関心ともつかないような感情が込められていた。
「ただ、誤解を避けるために言わせてもらうと、そこまで真剣に疑っていたわけじゃない。五日ほど前に森にいた人間が一斉に昏倒する事件があって、森の中にこいつらみたいな異世界人がいるんじゃないかって話になってたのさ。異世界で非人道的な行為を行っている奴らがいるって話は前からあったからね。そしたらたまたま常識はずれの異世界遭難者が来たんで、一応警戒して探っていたってわけ」
「……まあ、そうだろうな。真剣に疑ってたんならこんな回りくどいことはせずに、とっととふん縛って取り調べればいい」
そう言いながら智宏は一斉に昏倒する事件とやらについても同時に思考する。実は身近に心当たりがあった。
『……もしかしてミシオか?』
『……うん。五日前ならたぶん。私のテレパシーって人間にしか効かないけど、範囲は結構広いから……』
アルダスの話によれば、彼らの元から逃げだすとき、ミシオは【感覚投影】で自分の感じている痛覚を周りの人間に送りつけることで昏倒させたらしい。レンド達の話は恐らくそのとばっちりだろう。
「……しかし驚きだ。頭のいいやつだとは思ってたけど、見破られるとは思っていなかったよ」
流石のレンドも智宏の刻印の効力にまでは気がついていないらしい。考えてみればミシオに教えたときも声には出さずに通念能力で教えたのだ。眼に見える効果がある訳でもないので推測も難しいだろう。
智宏はとりあえず刻印の効力は隠したまま会話を続けることにした。
「まあ、もともとお前らが世界を行き来してるんじゃないかとは考えてたからな。ならなんで隠してるのかって考えれば答えは限られる。それに、お前僕にカマをかけてただろ?」
「……ばれた?」
「そりゃばれるよ……」
昨日のレンドが振って来た不自然なネタ会話などその最たるものだろう。よく思い出してみれば他にもこちらを観察するような素振りもよく見せていたように思う。
「そもそもお前が『五分』なんて言う時間の単位を使っていたこと自体がおかしかったんだ。いくら言葉が同じでも単位まで同じじゃないことは確認済みなのにな」
『おい、起きろレンド。朝だ!』
『う~、あと5分』
何気なくかわしていたお約束の会話だったが、考えてみれば言葉が同じだからと言って時間の単位まで同じだという保証はどこにもないのだ。現に長さの単位はギーマなどという別の単位が使われていたし、一日や一年のように太陽や気候のようなわかりやすい目安があるわけでもない。
恐らくレンドはそうやってアースの世界の人間にしか通じない言葉をぶつけることで智宏の出身世界の確認をしていたのだろう。思い返せばそれらしい会話がいくつも思い出せる。
「結構苦労したんだぜ。俺たちと他の世界とのつながりを隠すの。智宏の手前、異世界人が現れたり消えたりしたら不自然だから、他の世界からの連絡員が智宏達に見つからないようにしたし、俺が異世界に向かうのも、いなくなってるのに気付かれないように智宏が寝静まった後にこっそりやってたんだ。おかげで今日なんて貫徹だぜ? 正直ばらせてホッとしてるよ」
ため息をつきながらそう語るレンドに、智宏は内心で少し納得する。彼が毎日寝坊していたのは、どうやら本当に睡眠不足で眠かったかららしい。今朝起きたときベットに寝た跡すらなかったのも、本当に寝ていなかったのだ。
と、同時に智宏は一つの事実に気付く。智宏は昨日ミシオを見つけたとき、初めて知らされていない異世界人が他に三人もいることを知らされたわけだが、それもレンド達が意図的に行っていた措置だったかもしれない。全体で何人いるか知らされていなければ、例え連絡のためにこの世界に訪れた人間と鉢合わせしても誤魔化しがきく。恐らくこの四日間の間、智宏の知らないところで知らない異世界人が何人もこの世界を訪れていたのだろう。
そう考えると、もしかしたら智宏だけなら昨日にも真相を知らされて、元の世界に返されていた可能性もある。というのも、智宏は昨日の昼間の時点でこの世界にいる異世界人の人数を知らされているのだ。そのときは目の前にミシオもいたので微妙な線ではあるが、ひょっとすると昨日の時点でレンドは智宏に対して抱いていた疑いを捨てていたのかもしれない。
「……? トモヒロ? どうしたの? だまりこんで」
「え? ああ、いや、そう言えばハクレンさんもうちの世界のことわざを使ったりしてましたけど、あれもカマ掛けですか?」
ミシオに疑問を向けられ、智宏は慌てて先ほどの話題に沿った形で誤魔化しをかける。もし考えが正しければ、ミシオがいなければ智宏はもっと早く元の世界に帰れていたことになる。智宏自身は今更気にするつもりはないが、本人が知って気分が良くなる話でもない。
そんな智宏の内面を知ってか知らずか、ハクレン本人がその疑問に答えた。
「いや、あれは君の前にこの世界に来た人間が使っていたのを真似しているだけだよ。気にいっていてね」
「そうなんですか」
「っていうか、あれはハクレンさんだけじゃないんだよ。今村で流行語になってるんだ」
「働かざる者食うべからずがか?」
「っていうか異世界のもの全般だな。眼に見える形ではあんまり無いけど、それでもこういう言葉なんかは探せば結構あると思うよ。……それにしても、なんか察しが良すぎて拍子抜けするな。こっちは何から話せばいいのか結構悩んでたのに」
「全部が全部分かってるって訳でもないんだけどね。例えばレンド達が何しにこの世界に来てるのか、とかはぜひとも聞いておきたい」
そう言って再び智宏は気を引き締める。いくら何でも彼らが犯罪者を捕まえるだけのために異世界に来たとは思えない。むしろさっきの話から察するにその前に何らかの目的があったように思う。それが何か予想できないわけではないが、できれば本人から聞いておきたい。
「……そうだな」
こちらの意図を察したらしくレンドはゆっくり頷いた。どうやら隠すつもりもないようで智宏は少しほっとする。正直隠さなくてはならないようなことならどうしようかと思っていたところだった。
「いろいろ複雑だし初めから話していこう。その前にそこの二人だけ拘束させてもらっていいかい? なにぶん長い話になりそうだからね」
「わかった」
レンドの申し出に、トモヒロもとりあえず合意した。どの道、この二人をいつまでも手元に置くのは何かと不都合が生じる危険がある。そう考え、やってきた二人の村の戦士に拘束されたままの二人を明け渡した。
引きずるようにしょっ引かれていく二人をしり目に、レンドが再び口を開く。
「事の発端は三年前。俺の故郷、オズのフラリア共和国で妙な転移魔法陣が発見されたことから始まるんだ」
「転移魔法陣? そういえば昨日もちらっと話に出てきたな」
「文字通り、遠く離れた場所に一瞬で移動できる魔術でね。その性質上かなりあちこちで重宝されてる魔方陣なんだけど、違法な物品の密輸やら、犯罪者の密入国やらにもよく使われる魔術なんだ。実際、最初は発見された魔法陣はそう言った違法使用の魔方陣だと思われてた」
「違ったのか?」
「いや、無許可で設置されてたから、違法には違いないんだが、使われてた文字なんかが見たことのないものが多い上に、あちこちから同じ魔方陣が大量に発見されるんで結構な問題になったんだ。んで、調べてみたらその魔方陣が同じ世界の別の都市ではなく、異世界のレキハに繋がってるってことがわかったのさ」
それを聞いて、智宏は内心少し驚く。どうやら異世界にわたる技術は彼らが公に研究して確立したものではないらしい。
「発見された世界は全部で五つ。今俺たちがいる世界、第一世界エデン。超能力者の存在する世界、第二世界イデア。トモヒロがいた世界、第三世界アース。最も高い機械文明を持つ世界、第四世界ウートガルズ。そして俺のいた魔術の世界、第五世界オズだ」
「ウートガルズ……。五つもあったのか」
「ああ。ついでに聞いておきたいんだけど、ミシオちゃんの出身世界はもしかしてイデアかい? 能力者がいる世界の?」
「……はい」
レンドの質問にミシオは割とすぐに答えた。どうやら最初よりも警戒心を解き始めているらしい。
「っていうか気がついてたのか。僕らが別々の世界の出身だって」
「ああ、可能性って意味でなら最初にミシオちゃんを見つけたときにね。あのときは智宏の手前言わなかったけど、外見的特徴である程度見分けはつけられるんだよ。見ての通りエデンとオズは特徴が他の三つの世界の人間と違うし、ウートガルズは種族的特徴はイデアやアースと変わらないけど、レキハの住人のほとんどが白人なのさ。だから消去法的に智宏と同じアース人か、外見の良く似たイデア人の二択だったんだよ」
「最初から違う世界出身の可能性を考えてたって訳だ」
「そう言うこと。まあどっちの出身かは今朝の段階までわからなかったんだけど、二回も触れた後で態度を変えられたらさすがにね」
どうやらミシオの能力についても多少察しているらしい。ミシオも何となく申し訳なさそうに俯いている。
「まあいいや。話の続きをしよう。さっきも言ったように発見された世界は五つ。そしてその世界全てで同じ転移魔法陣が発見された」
「……やっぱりそうか」
思えば智宏がこの世界に来る直前、足元で何かが光っており、それを認識した直後に意識を失った。今思いだすとその光は魔方陣のものに酷似していたように思える。
「この転移魔術において重要なポイントは二つ。一つは転移先が条件指定だってことだ」
「条件指定?」
「特定の条件を満たした土地に転移するってことさ。具体的にはレキハという地名、土地の魔力の流れ、そして使用言語」
「……使用、言語?」
「……それって、もしかして!」
「そう。俺達が今使ってる言語のことさ。別に俺達は君達に分かる言語を話していた訳じゃない。最初から同じ言語を使う土地同士が繋がってるんだよ。それぞれの世界で呼び名が違うから、俺たちは混乱を避けるためにレキハ語なんて呼んでるけどね。だから正確にはこの魔方陣は異世界に行く魔方陣じゃなくて、世界に限らずレキハ語を使うレキハという都市に行く魔方陣であるとも言えるんだ」
この世界に来てからずっと抱いていた疑問のそれが答えだった。だがそうなると新たに疑問が生まれる。
「そんな偶然あり得るのか? 都市の名前だけならともかく、使用言語まで同じなんて、それこそどんな確率になるか分かったもんじゃないぞ?」
「さあな。最初から同じ条件があると知って条件を指定したのか、本当にただの偶然なのかはわからない。ひょっとすると本当は世界が星の数ほど有って、条件を満たせたのが五つだけだったって可能性もある」
「確かに……」
たとえどんなに小さな確立だったとしても、百の内の一パーセントと五百の内の一パーセントでは出てくる数も変わってくる。天文学的な可能性と考えるよりもそちらのほうが正解に近いかもしれない。
「まあ、でも、そんなことよりも重要なポイントだったのがそれらの世界を繋ぐ魔法陣そのものが勝手に増える構造になっていたことだ」
「かっ……!」
「勝手に増える!?」
あまりの話に二人揃って驚きを露わにする。今までの話を聞いていて誰かが転移魔法というものを乱用しているのは予測していたが、勝手に増えるというのは予想外だ。
「より正確に言うなら、構造って言うより構造的欠陥って言った方が良いかも知れないな。転移魔法で世界を超える方法を分かりやすく説明すると、世界の壁みたいなものに穴をあけて世界の外に出て、その後別の世界の壁にも穴をあけてその中に入るって感じなんだ。ところがこの後が問題でね。厄介なことにこの時開けた穴がふさがらないまま残ってしまうんだよ」
「……うわ」
その意味を理解して思わず絶句する。それが本当なら異世界に人が行く度にその世界の外に出る穴が増えていくことになる。それは智宏のように何かの偶然で異世界に渡っても同様だ。むしろ偶然が次の偶然の火種になっているとも言える。
「まあ、正確に言うと出口となった場所に入口と同じ魔方陣が刻まれて、それがそのままその場所に残ってしまうんだけどね。それでも異世界行きの落とし穴があちこちに出来ていくって構造にはなるのさ」
「あれは落とし穴だったのか……。って待て。昨日僕が最初に見つかった場所ってのに案内してもらったけど、それらしいものは見つからなかったぞ? それとも本当は別の場所だったのか?」
「いや、それは単純な話、もうこっちで処理しちゃった後だったんだよ。あんなもんあちこちにあったら危なくてしょうがないからね。他の生き物は勘が鋭いせいか近づいてこないみたいだけど、それでも異世界にいきなり竜猿人が現れたりしたら危ないだろう」
「そりゃそうだ」
確かにあんな生き物がいきなり町中に現れでもしたら、それこそパニック映画のような大参事になる。体がそこまで大きくないのがせめてもの救いだが、それでも襲われる人間が出かねない。
そんなことを考えていると、今度は隣でミシオが口を開いた。
「だったら、いきなり町の大通りに、異世界人が現れるってこともあるの?」
「それはないな。発見された魔法陣にはさっき言った到着場所の条件指定の他に、実際に出る場所の条件もある程度指定されているから」
「実際に出る場所の条件って言うと、『安全な場所』とかか?」
「まあそこまで抽象的なものじゃないけどそんな感じだ。具体的に言うと人気のない場所で地上ってのが条件だよ。まあおかげでこっちも魔方陣の発見が遅れて落とし穴の埋め直しが進まないんだが……」
「たしかに……」
考えてみれば智宏が魔法陣に引っ掛かったのは人気のない場所だった。つまり人通りの多いところを通っていれば異世界に来ることはなかったわけだ。
そう考えると、智宏はあの日近道しようなどと考えた自分が恨めしく思えた。『急がば回れ』とはよく言ったものだ。近道するつもりが、四日たった今でもいまだに家に帰りつけなくなっているのだから。
「それじゃあ最後に俺たちについて。結論から言えば俺たちはフラリア共和国から派遣された、異世界の調査及び異世界との正式な国交を結ぶための運動を行う大統領直轄機関だ。正式名称は異世界国交対策室。まあ、俺たちは通称のチーム―クロス・ワールドって方を使ってるがね」
「……え? それって?」
「つまりお前らは異世界から正式に派遣されたエージェントってことか?」
ミシオに助け船を出しながら智宏も言われたことを吟味する。智宏の仮説でもレンドが「本国」と呼ぶ場所と連絡を取り合っているという情報から、属する組織は国レベルなのではないかと予想していた。だからこそ彼らが何の目的で来ているかが重要だったのだ。
「異世界の発見はすぐに政府やそのトップの大統領まで伝わり、しかしすぐに極秘事項として扱われた。理由は異世界の実情が分からない状態で国民や世界にその情報を公開することは大きな混乱を生む可能性があったから。まあ、他にも思惑はあるんだが、まずは政府でしっかりと調査をして、その後に公開しようってことでまずは各世界の調査が行われることになった」
「ずいぶん慎重なんだな」
「そりゃあ慎重にもなるさ。何しろ相手は異世界だ。未知の危険もあるだろうし、異世界人がいる以上、付き合い方を誤れば世界間での衝突もあり得る。何よりいきなり異世界を発見しましたなんて言ったら国民から変になったと思われるしな」
「……たしかに」
もし、一国のトップがいきなり異世界を発見しましたなどと言い出したら、下手をすればその座を追われてしまう。たとえそう思われなかったとしても社会は多いに混乱する。
「しかしながら異世界に送った調査員の報告や、保護した異世界人からもたらされた情報によって、異世界にも俺たちと同じような人間が住み、まったく違う文明を築きながらも、俺たちと同じような社会を形成していることがわかった。そしてそのことで政府は異世界に大きな可能性を見出した。すなわち『異世界の技術や文化は我が国にさらなる発展をもたらすのではないか』とね」
「……さらなる、発展?」
「ああ。特にイデア、アース、ウートガルズの科学文明はとんでもなく魅力的だった。魔術文明とは全く違う物質に依存した文明で、一部では魔術ではできないことを易々とやってのける。しかも逆に魔術でなければできないこともあるっていうのも魅力だ。お互いに自分にはない技術を持っている。もしも魔術製品を売り科学製品を買うという形での世界間貿易が実現すれば、技術的にも経済的にも想像もつかないような途方もない利益を生むことになる」
「……それは分かる気がする」
もともと貿易というものは自国にないものを他の国から買うという性質上大きな利益を生むものだ。必然的に珍しい品や貴重な品、高い技術の産物や自国の気候では取れない農産物。そう言った品々はどれも必然的に価値が高くなり、やりようによっては安く買って高く売ることもできる。
ただの貿易でさえそうなのだ。ましてやそれが全く文明形態の違う異世界ともなればなおさらだ。品物だけではない。この世界で見た気功術、魔術、果てはミシオの超能力ですら、別世界に行くだけでその価値はとんでもないレベルまで跳ね上がる。
「じゃあ、さっき言ってた異世界と国交を結ぶって言うのは……」
「そう。国交を結ぶことで世界間貿易を実現させたいのさ。現にこの世界のレキハ村はすでに俺たちの世界のフラリア共和国と国交を結んで技術や人材の交換が始まっている」
「……ひょっとしてダインさんはそのための人材なのか?」
智宏の中に浮かび上がるのは朝方のリンファとの会話だ。会話の中で出てきたダインという男性が作る品々はこの世界でも人気が高いという。案の定レンドは簡単に頷いた。
「昨日話したオズの人間の内、ダインさんは技術交換の一環で派遣された技術者なんだ。まあ、本業は別にあるんだけど……、それはいいや。あともう一人、俺たちのリーダーだって伝えたゴードンさん。彼も重要な役割を持ってこの世界に来ている」
「……役、割?」
「ああ、ゴードンさんはこの世界に駐留する外交大使なのさ。それも結構ベテランのな。あいにくの人手不足でいくつもの役を一人でこなしてるけど、立場的にはこの世界での俺たちの上司にあたる」
智宏は納得すると同時にレンドやブラインの役割についても多少の想像ができた。特にブラインは軍人であるという情報も考えるとゴードンの護衛役という線が強い。人数が少ないのが若干気にはなったが、考えてみればこの村は百人ほどしか人がいないのだ。ならば少人数だけでも十分に回せるかもしれない。
それと同時に別のことにも気づく。この世界に来てから何となく感じていた違和感の正体だ。
「さっき人材の交換って言ってたよな。ってことはもしかしてこの村に僕らと同じ年代の人間がいないのはそのせいか?」
「……え? どういう、こと……?」
今朝がた村の様子を見ていて気になったのがそれだった。いや、それ以前からいつ気付いていても良かったのかもしれない。今朝見たときに限らず、智宏はこの世界に来てから人々のなかに自分と同じ年代の少年少女を一人も見かけていないのだ。見かけた若者は大抵二十代といった様子だったし、少年少女と言える年代は大体十代前半に偏っている。あの村にはこの世界における成人年齢の十五歳から、大体の目測で十八歳くらいまでの世代がスッポリ抜け落ちているのだ。
「……おいおいそこにも気づいてたのかよ。確かにその通り。半年くらい前から村の若い世代、具体的に言えば十五歳から十八歳までの成人したての若いのが二十名ほど他の世界へ留学も兼ねて出払ってる。何しろこの世界は他の世界に比べて文明や価値観がかなり離れてるからな。本格的に他の世界と交渉するにはその辺の知識を身につけなきゃまずいだろうって訳だ」
「他の世界と交渉?」
「ああ。俺たちの最終目標はすべての異世界との国交樹立。そしてそのための手段として五世界同時会談を目指している。うちの世界のことだけを考えるなら四つの世界とそれぞれ交渉するだけでいいが、下手に異世界同士の関係がこじれると、それによる争いに巻き込まれかねないからな。だったら、すべての世界を一か所に集めて共通、対等な関係性の世界間体制を築き上げたい、ってのが政府の意向なのさ」
「そのためなら他の世界にも手を貸すと?」
「ああ。うちの世界じゃあ既に、弱みや無知に付け込むような外交は国際社会が認めないからな。できるだけフェアな関係を築かなくちゃいけないんだよ」
歴史上たびたび行われてきた不平等条約の押し付けや、植民地支配のような一方的な国際関係を積極的に避けようということらしい。それが本当ならかなり国際感覚が進んだ世界だ。争いを不利益として考えている。
「ひょっとして、だからこそあの二人を捕まえに来たのか?」
そう言いながら地面に転がるアルダスとウンベルトを指差すと、レンドはすぐに頷いた。
「そいつらは異世界の存在を知っちまった犯罪者でね、俺達としても異世界人に対する不当な人権侵害やら、武力行為やらを黙って見過ごすわけにもいかないし、国としてもそういった非人道的な行為に走って異世界人に対する認識を悪くされたり、争いの火種をばらまかれるのは非常に都合が悪いんだ。だからこそ俺らはそいつらの摘発に全力を挙げている。今日だって本当ならこの森を捜索して、見つかりしだいこいつらの仲間を摘発する予定だったんだ」
そう言ってレンドは先ほど引き渡した二人を見た。そこにはブラインの持っていた手錠で拘束し直された二人が村の若者によって見張られている。
ただ見張っている若者たちがちらちらこちらを覗っているのが若干気になった。先ほどから基本的にレンドが説明を担当しているため、他の人たちは周辺の警戒や二人の見張りを行う形になっているのだが、やはりこちらが気になるらしくさっきから良く視線を感じる。智宏としては、できれば見張りに集中してほしいところだ。
「……私たちはこれから、どうなるの?」
彼らの様子を見ていて不安を思い出したのか、ミシオがそんな質問をする。智宏とて流石にあの二人と同じ扱いを受けるとは思っていないが、この後どうするのかは聞かなければならないと思っていた。自分たちがちゃんと自分の世界に帰れるのかもわからないのではさすがに不安だ。
「安心していいよ。君たちは村に帰ったらすぐにでも元の世界に送るつもりだ。元から帰る方法の存在を教えずにここに留めていたのが例外だったんだしね。ただ、元の世界に帰した後こちらの人間から協力を要請するかもしれないけどね」
「……協、力?」
「内容としてはそれぞれの世界での常識や文化文明のレクチャー、人によっては有力者への橋渡しなんかだね」
「橋渡し?」
「俺たちが異世界との国交樹立を目指してるってのはさっき言ったけど、これが結構大変でね。何しろ政府関係施設に押し掛けて『我々は異世界人だ。国交を樹立して貿易しよう』なんて言っても病院に送られてしまう」
「まあ、確かに」
「だから、その世界の有力者に異世界の存在を浸透させて行って、少しずつ異世界の存在を認めさせたり、国へ橋渡しを頼んだりしてるのさ。そのためにはまず、その世界の人間の橋渡しが必要なんだよ」
「……なるほど」
かなり地道な作業だが無難ではある。異世界人だと証明するなら目の前で魔術を使うという手が最も手っ取り早いが、それを大勢の人々がすぐに信じられるとも限らない。あまり急激に異世界の存在をアピールし過ぎると混乱や騒動にもつながりかねない。もともと慎重に事を運んでいる彼らには、それは避けたい問題なのだろう。
「まあ、俺たちが教えられることって言ったらこれくらいかな……」
「……ん? ちょっとまて」
レンドの言葉に思わず待ったをかける。智宏としてはまだ一番重要なことを聞いていない。
「この【刻印】って言うのは何なんだ?」
額に浮かぶ刻印を指差しながら質問する。一応智宏も【集積演算】で加速した思考で予測は立てていたが、自分の願ったことが叶う形の力であることや、他にも同じような刻印を持つ者がいたであろうこと、そして願いをかなえる形であることなどから性質が人によって異なるであろうことなどのことしか分からなかった。
「なんだ? その辺は一番分かってると思ってたんだがな。【刻印】ってのは異世界に渡ったアースの人間にたまに発現する能力の一種で、異世界に移動して最初に強く願ったことが叶ったような能力に目覚めるって代物だ」
「それは分かるんだが、どういう理屈なんだ? 身体能力なんかも上がってるんだけど……?」
「理屈としては、世界から世界に渡るときに必然的に通ることになる世界の外側、最近の調べでそこに広がってると言われている高濃度の魔力の海が原因なんだ」
いきなり話に『世界の外』などと言う単語が出てきたことに、智宏はわずかに困惑する。だが、先ほどの世界移動の話を思い出せば、むしろそういった物もあるだろうと思いなおした。
「この魔力ってのは何者にも影響されていない、そしてそれゆえに影響されやすい【全属性】の魔力でね。そしてそれゆえ、人間が入り込むとその人間の体の魔力を取り込む動きに影響されて、魔力が流れ込んでしまうことがあるんだ。この動き自体は呼吸と同じで生物が無意識にやっているものなんだが、そのとき流れ込んだ魔力の影響をもろに受けたアース人、中でも影響を受けやすい体質の持ち主が刻印使いになることがある」
「影響を受けやすい体質?」
「ああ。詳しく調べたわけじゃないが、どうもこの【刻印使い】になるアース人ってのが、前に話した体内の魔力変換ができない人間なんだ」
「どういうことだ?」
人間が体内に取り込んだ魔力を自身の中で使いやすい属性に変化させているというのは昨日聞いている。だが、それができないということがなぜ繋がってくるのだろうか。
「前にも教えたと思うんだけど、人間の体ってのは魔力を人体に取り込んだ時に体質に合わせてその属性を変換している。その変換が正常に行われている人間なら、さっき言った世界の外側に入ってその魔力が流れ込んでも、その魔力が普通にその人間の属性に変換されて、魔力が回復するくらいの影響しかないんだ。ここまではいいか?」
「大丈夫だ」
「じゃあここからはお前らの場合な。さっきも言ったように刻印使いになる人間ってのは魔力の属性を体の中で変換できない。これは、アース人の中でもごく稀に見られる体質なんだが、そういう体質の人間の体に【全属性】の魔力が入り込むと、その影響をもろに受けることになる」
「影響?」
「体内に侵入した魔力がさまざまな形で効果を発揮するのさ。気功術で身体能力が上がるのと同じ理屈で身体能力が上がるし、さらには気功術でも強化できない魔力の保有量やら、体内での魔力操作能力やらまでが上昇したりする。効果が永続的で、強化のバリエーションが豊富な気功術を思いきりかけられたと思えばいい」
「……具体的にどれくらい強化されるんだ?」
「身体能力その他は元の倍くらい。でも魔力量に至ってはオズ人の百倍以上は確認できているな。魔力が体内に入り込むとき、その人間の魔力の器みたいなものが強化されるんだけど、強化されて広がった分の容量を埋めようとさらに魔力が流れ込んで、それによってさらに器の容量が拡大するって事態になるから」
「……うわぁ」
自分の体が予想以上に変化していることにげんなりとする。特に弱っているわけでもないので喜ぶべきかもしれないが、イメージが放射能を浴びて生まれた怪獣とかぶってしまってどうにも喜べない。
「じゃあ気功術が使えるようになったのもその影響の一部なのか?」
「まあそうだな。それについても諸説あるが、有力なのはアース人がもともと持っていた微弱な魔力操作力が強化されたんじゃないかって説だ。魔力感覚もまた同様」
「しかもそれに加えてこの【刻印】、か……。この【刻印】ってのはどういう理屈なんだ?」
「さっきも言ったけど、【全属性】の魔力ってのは特定の方向性を持たないゆえに、他の物に影響されやすい。特に感情のようなものに反応する性質があるってのはかなり前から提唱されている学説でな。些細な量なら特に問題はないんだが、そんな魔力が体内に大量にある状態で強い感情をその体の主が抱いたりすると、魔力はもろに影響を受ける」
そう言われて、智宏は先ほど刻印に発現した時のことを思い出す。確かにあのときは、人生の中でも一・二を争うほど激しい感情を持っていたと言いきれる。
「それじゃあ、願いがかなうって言うよりも感情の問題なのか?」
「いや、そうじゃない。たとえ強い感情をいだいていても、その感情に具体的なイメージが伴っていないから、魔力は刻印にはならないんだ。願いと言う具体性を持ったイメージに引きずられて、その欲求をかなえるべく魔力が体の中に作り上げるある種の回路。それが【刻印使い】の【刻印】なんだよ。体に直接魔方陣が作られるって言ってもいいかな」
「……なるほど。副作用みたいなものはないのか?」
できるだけ軽く言って、一番気になっていたことを訪ねてみる。せっかく刻印のおかげで助かったのに、それによって生まれた副作用で死んでしまったのでは流石にあんまりだ。
「今のところ健康上の問題は報告されていない。もっとも今までこちらが確認できている【刻印使い】は三人しかいないから何とも言えないけどね。後は能力自体の副作用だけど、これも意外に少ない。副作用を望む人間がいないからじゃないかって話もあるけど、これはただの推測だな」
「……そうか」
レンドの答えにとりあえず安心し、ひとまず【集積演算】を止めることにする。聞くべきものはあらかた聞くことができたし、いい加減効果のわからない異能をチラつかすのも、相手にとっては不安要素だろう。後で効果を教えておくべきかもしれない。
どうやらこの【集積演算】は魔力を消費するものらしく、今も智宏の体からは魔力が抜け続けている。まだまだ余裕はたっぷりとあるが、流石にこのまま使い続けるといつ魔力が枯渇してしまうか分からない。昨日聞いた話では魔力が枯渇すると倦怠感を感じるらしいので、いい加減止めなければまずいだろう。幸い自分の体を動かすのと同じ感覚で止められるだろうという確信はあるので、感覚に従って止めることにし、
だが、直後に響いた声によって、再び高速の思考を余儀なくされた。
『話は終わったかい弱者どもぉ?』
どこからともなくスピーカー越しのような音質の、しかし間違いなく悪意に満ちた声が響く。
声の発生源はその場にいた全員がすぐに気が付いた。先ほど捕まえたばかりの二人組。その内既に起き上がっているアルダスがその発生源だった。ただし、アルダス本人が喋っているわけではない。
「っ!! 貴様ァ!!」
すぐに真実に気が付いたブラインがアルダスに近づき、隠し持っていた小さな物体を取り上げる。見慣れない形ではあったがそれが何かはすぐに察しがついた。
魔力を用いた通信機だ。
『どぉでもいいけどよう、捕虜の持ち物ってのはすぐに確認するべきなんじゃないのぉ? おかげでさっきからの会話は筒抜けだったぜぇ? こっちの人間がそっちに捕まっちゃってるってのもさぁ、丸わかりだぜぇ?』
「っ!」
それを聞いて周りにいた村の若者たちが動揺する。原因は明らかだ。監視を任されていた村の若者たちが通信機の存在に気が付かなかったのだ。恐らくこの世界には通信機という概念すらなかったのだろう。
異世界の人間との認識のずれから起きる単純なミス。この一団の指揮をとっているらしきブラインが異世界人との認識の齟齬を理解しきれていなかったのだ。
「……なるほど確かに失態だな。これでお前たちは俺たちをあざ笑いながらまんまと逃げきる訳か」
言いながらブラインの表情にも苦いものが浮かぶ。だが、彼の考えはすぐに裏切られることになった。
『逃げるぅ? 青っ白い研究班の連中ならともかく、何でこの俺がお前らみたいな弱い奴から逃げなくちゃいけないんだよぉ?こっちは通信機のおかげでそっちの場所までわかってるんだぜぇ?』
「……なに?」
通信機の向こうのから響く声に対してブラインは怪訝な表情を作る。普通であればここは引くべきところだ。いくらアルダスとウンベルトを捕まえているとはいえ、二人は恐らく末端の人員。重要な情報などほとんど持ってはいないだろう。
相手は通信機が発信機の役割でもはたしているのか、どうやらこちらの場所は分かっているようだが、本来追う立場であるこちらはまだ相手の位置を判っていないのだ。引いてしまえば余計な手がかりも残すことはないし、この期に及んで戦うメリットなどどこにもない。
だが、この相手はそんな計算をあっさりと裏切って見せる。
『そんじゃあ、だらしなくも捕まっちまった弱者どもの尻拭いをしに、張り切って行きますかぁ! すぐ行くから、それまで先に行かせたプレゼントの相手でもして待ってろぉ!!』
凶暴ながらも楽しそうな叫びと共に通信機が切られる。それと入れ替わるように狂ったような笑いが響いてきた。通信機を奪われ、地面に転がるアルダスだ。
「……クッハハハハハァッ! ハァッハッハッハハァ!! ざまあみろぉ! これでお前らはおしまいだぁ!! 俺をこんな目にあわせた報いを受けろぉ!!」
笑い続けるアルダスにその場の全員が不気味なものを感じていると、アルダスのすぐそばでウンベルトが身を起こした。
「……アル、ダス」
だが、こちらの表情にはアルダスとは別のものが浮かんでいる。それはまぎれもなく恐怖の表情だった。
「おい、アルダス……。今のはどういうことだ?」
「どういうことって決まってんじゃねえかぁ! 助けを呼んだんだよぉ。こんなところでとっ捕まるなんてまっぴら――」
「――バカか貴様ぁあああ!!」
恐ろしい形相で叫ぶウンベルトの声にアルダスも絶句する。周りで警戒を始めていた村の戦士たちが一斉に振り返るほどの声だった。
「あいつが! あいつが俺たちのことに構いながら戦えるとでも思っているのか!! 命が持たないと言ったのはお前だろうがぁあああ!!」
裏返った声で喚き散らし、ウンベルトは怪我をし、拘束された体にも構わずもがき始める。周りの戦士二人が取り押さえにかかると、今度は恐ろしい形相で叫び始めた。
「逃げろぉ!! 俺を連れて行ってくれぇ!! あいつが来たら殺される!! 何でも話す! だからここから――!!」
「何か来るぞぉ!!」
ウンベルトの恐怖に応えるように、村の戦士の一人が声を上げる。その声に反応し、その場にいた全員がその戦士の指さす方を見た。
その先にあったのは空だった。ただし空自体は重要ではない。重要なのはその空に黒い影がぽつりと存在していたことだ。
「……なんだ、あれは?」
智宏の目からでもそれが何かは分からなかった。細長い形をしたシルエットを【集積演算】で記憶にあるものと比べてみるが同じ形状のものは見つからない。
(……ん? なんだ? あの影、だんだん大きく――!!)
影を見ていた智宏がその事実に気が付く。加速した思考はすぐに起きるであろう事態を導き出し、それを防ぐために呼びかける言葉を選んだ。
「っ! レンドォ!! すぐに全員を退避させろ!! あれは――」
叫びきる前にその場にいた人間の半分以上が気が付いた。影の正体はワニに似たこの世界の爬虫類。ただしその体は智宏の知るワニとは比較にならないほど――
「――大きい!!」
その巨体を認識し、周りにいた誰かが叫ぶ。
そして次の瞬間、体長およそ十メートル以上。巨大な顎と牙を持つ巨大生物が、智宏達のいた場所を直撃した。
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