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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第一章 第一世界エデン
14/103

14:蠢く存在

「……うっ……、ハァ……ハァ……ハァ……」


 苦しそうな呼吸の音と共に智宏は我に帰った。どうやらここは森の中らしく、目の前には背の高い木が視界いっぱいに広がっているし、尻もちをつくような姿勢の智宏の手には森の湿った土や葉っぱの感触がある。

 混乱した頭でどうにか状況を整理する。記憶をたどり、どうにか思い出せたのは、村を飛び出して絶壁の細道を後ろ向きに抱えられたまま駆け降りたことまでだった。思いだすだけでゾッとする、安全装置のないジェットコースターのような記憶だったのでそこから先は気絶していたのかもしれない。


「……ハァ、……ハァ、……っ、ゴホッ、ゴホッ、ウッ……」


 漠然とした思考が、隣で咳きこむ声によって完全に現実に引き戻される。苦しそうな少女を見て智宏は慌ててその背中をさすった。正直に言えば他にどうしていいのか分からないほど混乱していた。


『……ありが、とう』


「え? あ、ああ」


 流石にこの状態では話すことが難しかったのだろう。ミシオは言葉ではなく通念能力(テレパシー)、おそらくは【伝心】と呼ばれる力によって意思を伝えてきた。それ自体に他意はないのだろうが、智宏には世界の違いを思い知らされたように感じられる。


「……大丈夫か? ずいぶん苦しそうだけど……」


『うん。少し息切れした、だけ』


 確かに息切れのようだが、智宏にはそれだけには思えなかった。先ほどミシオの体を覆っていた黒い煙のような魔力がそう感じさせるのかもしれない。


「……あの煙みたいなのはなんだ? あれものそっちの世界の超能力なのか?」


『能力……、ではない、たぶん。能力は基本的に、一人一系統のものしか使えないから』


「じゃあ、あれは……?」


『わかんない』


「わからないって……」


『あそこから逃げて森に出るとき、偶然気が付いたから』


 その言葉に智宏は反射的にミシオの背から手を離した。今ミシオは確かに『あそこから逃げて』と言ったのだ。『あそこ』というのがどこのどのような場所かは推測するしかないが、ミシオが警戒していた相手であることは明らかだ。それはつまり、


(こんな娘にあんな服(・・・・)を着せていた場所……!!)


 今も村に干してある拘束衣を思い出して智宏は唾を飲み込む。自分の予想が当たっていたことを喜ぶ気にはとてもなれない。間違いなくいま直面しているのは智宏の人生の中でもかつてない最大級の悪意、その足跡だ。その事実が智宏の思考をさらに混乱させる。


「少し……、落ち着いた。……そろそろ、行こ」


「行こうって……」


 ミシオは言いながら立ち上がりはしたが、まだ明らかにふらついている。それにどこに行こうというのか。とても他に行く場所があるようには思えない。


(いや、違う……!!)


 行くあてなど本当にないのだ。何か考えがある訳でもなければ、打開策がある訳でもない。ただひたすら逃げないと安心できない。もっと言えば一つのところに止まることが怖いのかもしれない。ただ恐怖に駆られて動こうとしている。それも間違いなく危険な森を。


(……追い詰め、られている)


 考えてみれば当たり前の話だ。智宏より一つ年下の少女が危険な異世界で明らかに非人道的な何か(・・)をされていたのだから。むしろ良くここまで平静を装えたと感心するべきかもしれない。


「待てよ! こんな森を行くあてもなくさまようなんてそれこそ自殺行為だぞ」


 慌ててミシオの腕を掴み、森の奥へと進む少女を引きとめる。だがそうしてみて初めて目の前の少女が小さく震えているのがわかった。


「……でも、あの村は……、あの村にはあの人が……」


「あの人って……、レンドのことか? レンドと何かあったのか?」


 混乱した頭で、少女が警戒していた唯一の心あたりであるレンドの名前を出す。案の定ミシオは小さくうなずいた。


「さっき……、あの人と話したの。……そのときちょうど……その、握手する機会があって、……だから」


「心を読んだのか?」


やはりミシオの中でのレンドに対する疑いは払拭できていなかったらしい。またもミシオは小さくうなずいた。


「あいつ何を考えてたんだ? 内容によってはただの――」


『――本国に報告しなければ(・・・・・・・・・・)


「……え? ……本、国?」


 【伝心】によって伝えられたレンドのセリフ。智宏には最初、それが何を意味するのか分からなかった。

 ここはレンドにとっても異世界だ。それなのにレンドの本国に報告するというのはどういうことなのか。


「なんだ……、それ……、どういう意味だよ……?」


 吐き出した言葉とは裏腹に、智宏の頭が言葉の意味を理解し始める。もし本当にそんなことを考えていたとしたらそれが何を意味するのかも。

 思わず掴んでいたミシオの腕を離す。もし異世界に報告という名の連絡ができるのならなぜそれを教えなかったのか? 連絡ができるのなら行き来もできるのではないか? いや、そもそも、


 レンドは異世界に帰る方法を知っていて、それを意図的に隠しているのではないか?


「……まさか」


 智宏の中に次々に疑念が浮かんでくる。しかもそればかりで一向に答えの方は出て来ない。確かだと思っていたものが崩れ去ったような、地面だと思っていたものがいきなり水面に変わり、何もない海に投げ出されたような感覚。


「待て、待ってくれ。それにしたってレンドを疑うのは性急すぎる。何かの勘違いって可能性もあるんだぞ」


「……そう、かもしれない」


「だったら――」


「でも、だめなの!!」


 ここに来て、初めてミシオが叫ぶ。声を震わせ、抑えられない言葉を吐き出すように。


「ダメ、なの……!! 勘違いかもしれないのは、分かってる。でも、そうじゃないかもしれない!!」


「そうじゃないかもって……!!」


「どうしてもそう思っちゃう……!! 信じたいって思ってるのに……、疑いたくないって思ってるのに……、どうしてもあの白衣の人たちのことが頭から離れない。もしかしたら親切にするふりをしてあの魔方陣の部屋に連れて行こうとしてるんじゃないかって!!」


「……なん、だって……?」


 ミシオの発した白衣と魔方陣という言葉に、智宏の心臓が跳ね上がる。

 思い出されるのは、今朝方目覚める直前まで見ていた夢。夢にしては生々しい感情を伴ったその悪夢の内容は、いまミシオが言っていることと明らかに合致している。

 白衣の男たち、魔方陣のある部屋、そしてミシオが来ていた拘束衣と先ほど使った黒い霧のような魔力。


(まさか……!! あの夢は……!!)


 ことここに到り、ようやく智宏は朝の夢の正体を理解する。目の前の少女にはあるのだ。自身が見ていることや感情を他人に見せることのできる能力が。


(あれが、敵か……?)


 結論はあまりにも簡単だった。むしろ今までどうして気がつかなかったのか不思議なほどに。


(あいつ等がこの娘の敵なのか……!?)


 気付けば掌が冷や汗でびっしょりと濡れている。周りの音がやけに大きく聞こえてくる。その中には自分の心臓の物らしき鼓動も交じっている。

 頭はほとんど真っ白になっているというのに、ただ漠然とした危機感だけが大きくなっている。


 そしてだからかもしれない。それ(・・)が危険なものだと認識できたのは。


「え?」


 唐突に後ろから発せられた魔力を操作する感覚に、智宏は思わず後ろを振り向く。すると森の向こうに魔方陣らしき光が見えた。


「なんだ? ……っ!」


 次の瞬間、智宏はミシオに覆いかぶさるように地面に倒れこみ、同時に自分の判断が当たっていたことを知った。なぜなら直前まで二人がいた位置を野球ボール大の火の玉が通り過ぎ、背後にあった木にあたって猛烈な破裂音を立てて爆発したからだ。


(――なっ!! 今の!?)


 攻撃魔術という言葉が頭をよぎる。それと同時に反射的に倒れていなければ二人の頭が吹き飛んでいたかもしれないと知ってゾッとする。

 そしてそれで終わるはずもなかった。魔術が放たれた方向から二人の男が歩いてくる。


「あれ? はずしちまったかぁ?」


「おい、アルダス。今の、他の術式だったら確実に殺せていたんじゃないか?なぜあんなチンピラが使うような初級術を使った?」


「……相変わらずうるせえなウンベルト。いいじゃねぇかたまには遊んでも。こちとら、こんな未開世界まで来させられて、ヤバげな森を探しまわってでうんざりしてるんだ。お前がそう言うと思って当たれば死ぬように撃ってやったんだから、それでいいにしやがれ」


「……ならせめて取り逃がすなよ。せっかく諦めかけていたところを村から出て来てくれたんだ。ここで取り逃がしたらいい笑いものだ」


 そんな会話をしながら二人の男が森から現われる。一人はアルダスと呼ばれた金髪を刈り込み、にやにやと笑う若い男。もう一人はウンベルトと呼ばれた黒い髪をドレットヘアにセットした大柄な男。そして何より重要なのは二人とも耳が長く、尖っていたことだ。


「んじゃぁ、相方のお赦しも出たことだし、二人とも、せいぜい楽しませてくれや。一人はどうやら同じオズ出身のようだし、そのよしみで足搔くのくらいは許してやるぜ?」


 何も分からなかった。目の前の二人がなんであるかも、レンド達の意図も、それ以外のすべても。頭の中で浮かぶのは疑問符ばかりで、確かなことは何一つない。

 だがそんな中でも智宏は一瞬で一つの判断を下した。


(とにかく、今は!!)


 智宏は飛び起きると同時にミシオの体を抱えて逃げだしたのだ。


「へぇ……、意外に早いじゃん」


 後ろからバカにしたような、感心したような声が聞こえてくるのを全力で無視する。

 ミシオの体制をいわゆるお姫様だっこの姿勢に抱き直して安定させると、逃げながら必死に頭を回転させた。


(考えろ、思考をやめるな。疑問の答えを教えてもらおうとするからだめなんだ!!)


 昨日と同じ逃走。ただし昨日と違い、半ば開き直りに近い思考能力が残っていた。あるいは昨日の反省がギリギリのところで生きてきたのかもしれない。


(思考を続けろ、自分の頭で考えろ! 今すべきことはなんだ? 何より――!)


 智宏は自分の腕の中の少女を見る。抱えられた少女は智宏を驚愕したような表情で見つめていた。


(今守りたいのはなんだ!!)


 その瞬間、智宏のなかで何かが吹っ切れた。体と思考が全力で逃げるために働き始める。


(相手は攻撃魔術を使える魔術師が二人。戦うという選択肢はありえない!)


 背後で魔力を操作する気配を感じる。恐らくは先ほどの魔術だろう。恐怖で悲鳴を上げそうになるのをこらえて必死に思考する。

 直後、思いつきに近いアイデアで、逃走する自分と追う魔術師の間に木をはさむように斜め前に飛び込んだ。

 直後に爆発。だがそれは間の木にぶつかり、智宏達に危害を及ぼすことはなかった。


(うっ、くそ! びびるなちくしょう! ここなら、森の中なら木を盾にできる。冷静でいさえすれば!!)


 無理やり自分たちにとって有利な条件を思考する。さっきまで智宏達がいた場所は森が若干開けて遮蔽物に乏しかった。だが遮蔽物の多い森の中なら相手の術式操作の気配を読んで隠れることができる。


『右!』


「っ!」


 頭の中に突然響いた声と、浮かんだ魔術師の映像に反応し、とっさに右に跳ぶ。すると、直前まで智宏達がいた場所を炎弾が通り過ぎた。


(あの魔術、一度術式を展開したら魔力を込めるだけで連続で撃てるのか!? いや、でも!)


 自分の策があっさりと崩れたことに動揺しかけるがすぐに思い直す。

 見ると、腕の中に抱えているミシオが背後をじっと見つめていた。どうやら先ほどの声と映像は背後を見ていたミシオが通念能力(テレパシー)で危機を察知して知らせて来たものらしい。昨日の話から察すると【伝心】と【感覚投影】だろう。同時に内心の激しい動揺が伝わってくるが、おかげで予定とは違うが対処はできている。


「いいじゃねぇか! 予想以上の獲物だ!! なかなか面白いぜ!!」


「予想以上ならそろそろ仕留めろ。逃げきられたらシャレにならんぞ」


 そこでさらに智宏は活路を見出した。それは相手がこちらを舐めきっているということだ。

だからこそこうしてこちらの逃走を許し、魔術も一種類しか使っていない。これは油断と言ってもいい。

しかもその油断はアルダスと呼ばれる男のものだけではない。もう一人のウンベルトと呼ばれる男も、アルダスを諫めてはいるものの本気で逃げられる可能性を考えていると言うより、油断しがちなアルダス自身に不安を抱いている節がある。

ならば、その油断は付け入る隙だ。


「うお!!」


 背後から何かに驚く声が聞こえると共に、ミシオから背後の映像が送られて来る。どうやら魔術に驚いて一メートル近い巨大なトカゲが飛び出したらしく、二人ともそちらに気を取られている。こんな森だ、今まで生物に合わなかった方がおかしい。


(相手が油断しているなら、その油断を引き伸ばし!)


 足に魔力を集める。最悪すぐに解けても構わない。


(チャンスがあればその油断を上回る力で、)


 腕の中のミシオがこちらにしがみつく。こちらがすることを読んだのだろう。


(ぶっちぎる!!)


 加減無し、気功術使用の全速力で疾走する。途端に智宏が生身では体験したことがない速度を叩き出した。


「なっ!!」


「速い!!」


 背後で驚く男たちの声を置き去りにして森の中を疾走する。案の定、気功術はすぐに解けてしまったが、それでも智宏の身体能力ではあり得ない速さだった。


(やっぱり! 思った通り身体能力が上がってる!)


 昨日走ったときは混乱していて気がつかなかったが、村で予想していたよりもその違いは劇的だ。今の智宏ならオリンピックを狙える。


『トモヒロ! さっきの気功術、サポートするからもう一度やって!』


「え!?」


 反射的に疑問の声を挙げると、それに答えるように智宏の中に魔力を操るイメージが流れ込んで来る。自分が二つのことを同時に考えているように錯覚するがすぐにそうでないことは分かった。どうやらミシオが気功術のイメージをして【伝心】でこちらに伝えているらしい。


(っ! そうか!!)


 ミシオの意図を察して、智宏はそれを実行に移す。ミシオから送られてきた気功術使用のイメージを自分の中でまねする形で気功術を使用する。

確かに気功術は一から自分でやると動きと両立できない。だが一からではなく他人のまねをすることで手抜きをするなら負担は少ないのだ。

 次の瞬間、打ち出された炎弾を、さらなる加速によって着弾地点を置き去りにして回避し、背後からの爆風も利用してさらに加速する。続く四発目の炎弾は木を盾にして、五発目を前方に飛び込むように回避し、ミシオのサポートによる気功術で全身を強化することで崩れた体制を走りながら元に戻す。


「っ! アルダス、遊びは終わりだ! 【銃炎弾(ファイア・バレット)】じゃ当たらん。【火炎鳥襲撃(ファイヤーバードストライク)】を使え、もたもたしてると本当に取り逃がすぞ!!」


「くそったれ!!」


『トモヒロ! 魔方陣が変わった! 何か来る!!』


『くそっ!! やっぱりこのまま逃がしてくれないか。引き続き気功術のサポート頼む。気を抜くと解けそうだ!!』


 智宏とて逃げることが最善と考えてはいたものの、逃げてからどうするかについてまでは考え切れていない。このままスピードに任せて振り切るか、どこかに隠れてやり過ごすかが妥当だろうが、どちらも実現するにはもっと相手と距離を開けなければいけない。どういう訳か上昇している智宏の身体能力や、予想外にうまく気功術を使えていること、そして何より感覚的なものまで伝えられるミシオのテレパシーは確かに計算以上だったが、結局のところこの判断は苦肉の策でしかないのだ。


(あいつ等もさすがに本気になっている。何とか振り切らないと!!)


 厄介なことに普段から走ることに慣れているのか、相手の足が予想以上に速い。加えてこちらは相手の魔術からも逃れなければならない。いくら足が速くなっても、あの炎弾から逃げ切れるわけではない。後ろで爆発していた二発にしても、相手の予想した着弾地点からスピードで上回って逃れただけで、炎弾より早く走っているわけではないのだ。


(どっちにしろこのままじゃジリ貧だ。どうする!?)


『っ!! トモヒロ!! 来た! 火の鳥が四羽!! 木をよけながらこっちに向かってくる!!』


「くそっ!!」


 背後で行われていた魔力を操作する気配と、その後テレパシーで送られてきた魔術の発動を告げる言葉と映像に智宏の焦りは加速する。

 映像では真ん中に四つの穴が空いたような魔方陣から、四羽の赤い鳥が飛び出して来て四方向に分かれてこちらに向かってきている。その動きは明らかに今までと違い、スピードこそ若干遅いが、厄介なことに遮蔽物をよけながら飛んできている。


『あのアルダスって男が軌道を操作してるのか!?』


『トモヒロ! こっちの言う通りに走って!!』


『わかった!!』


 ミシオの言葉に智宏はそう応じると、引き続き前だけを見て走る。正直に言えば緊張状態で走り続けているため、息が乱れ、油断していると地面の凹凸に足を取られそうになり始めている。炎鳥を見切って回避するための判断を下す余裕はもうなかった。


(できるだけ遮蔽物の密度の濃い場所を選んで、あとはミシオに任せるしかない)


『左!!』


「っああ!!」


 指示に従い思いきり左に方向転換すると、背後から迫っていた炎鳥がさっきまで走っていたコースを通って地面に激突した。だが、二人にとって予想外だったのはその威力だ。その威力は先ほどの炎弾が遊ぶためのものだったことを表すように強い爆発を引き起こし、二人をまとめて吹き飛ばしたことだ。


「うっ!!」


「あぁっ!」


 吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、その痛みに呻く。


(まずい!)


 考え方によっては至近距離で爆発してこの程度で済んだことを喜ぶべきかもしれないが、そんな余裕はない。最初の一発で動きを止められたという事実に危険を感じて無理やり体制を起こすが、背後には既に二羽目の炎鳥が迫り、そして別方向にも三羽目と四羽目がそれぞれ控えている。さらにその向こうにはウンベルトも迫ってきている。術式の操作に意識を割いているアルダスを置いて、距離を詰めて来ていたらしい。

 それでも再度逃亡を図ろうと近く飛ばされたミシオに駆け寄ると、ミシオ身を起してアルダスのいる方向をにらみつけた。

 直後、背後で再び何かに驚く声がして、二羽目の炎鳥が軌道を変え、木にあたって爆発する。その爆風は迫っていた三羽目にも影響し、三羽目も爆発。


「何をしているアルダス!!」


「今、なにか視界が――」


「構うな、通念能力(テレパシー)によるかく乱だ!!」


 どうやらミシオが通念能力(テレパシー)で相手に何かしたらしい。様子からすると【感覚投影】で自分の見ている視界を相手に送りつけたのかもしれない。普段ならそんなこともできるのかと感心するところだが、今そんな余裕はない。


「四発目は外すな!!」


「くそ!!」


 智宏は最後の悪あがきとばかりに、目前まで迫っていた炎鳥の回避を諦め、足元にあった石ころを拾って投げつけ、ミシオを抱き寄せる。危険なかけだが、直撃するよりはましだ。


「ぐっ!!」


「あぁ!!」


 再び爆発。どうやら予想どおりこの炎鳥は何かにぶつかると爆発するものだったらしく、直撃は避けることができた。だが至近距離で発生した爆風によって二人とも軽々と吹き飛ばされる。


「ぐっ!!」


 ミシオを抱えたまま地面に叩きつけられ、それでもミシオを抱きしめたまま無理やり立ち上がり、気付いた。


「遮蔽物が……!」


 どうやら再び森の中で開けた場所に出てしまったらしい。周りに樹木が無く、身を隠せる場所まで十メートル以上ある。


「どうやら追いかけっこは終わりのようだな」


 声に驚き振り向くと、そこに拳を振りかぶったウンベルトがいた。その拳は肘まで魔力で覆われて輝いている。


「がっ……!」


 何とかかわそうと身を捩るが効果はなく、鉄のような、否、鉄そのものの拳でこめかみを殴られ、智宏の体が宙に浮く。腕からミシオの感覚が失われ、代わりに地面に叩きつけられる痛みが襲ってきた。


「トモヒ――ぐっ!!」


「手間を取らせるな」


 言葉とともにミシオの腹にも拳が叩き込まれ、ミシオは体をくの字に曲げて倒れた。


(……ミ……シオ!)


 殴られた影響か、体がまともに動かない。どうやら脳震盪を起こしているらしい。


(く、そ。考……えろ、も、っと、守り……たいなら!!)


 薄れゆく意識のなかで、智宏は必死に自分を叱咤する。だが、それをあざ笑うように智宏の思考能力はどんどん薄れていく。そのことに智宏は深い絶望と怒りを覚えた。


(……ちくしょう!!)


 薄れゆく意識のなかで一つのものを渇望する。この状況に光を見出すための『それ』。今の智宏は心の底から『それ』が欲しいと願っていた。


 そしてそれに呼応するように智宏のなかで何かが蠢いた。


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