山の中
服には汗なのか雨なのかわからないほどの水分が付着していた。
周りには一面の緑が広がっていて、個々の葉に水が滴る。
ホワイトノイズのように落ちる雨音を聞きながらよく踏まれている賑やかな道を尻目に、名前すらつかない道を雑多な葉や枝、茎をかき分けるようにして進む。
雨がやんだら休憩しよう。
そう思いながらぬかるんだ道や眼の前を阻む枝葉に注意して先へと進んでいく。
雨は止まなかった。
どれだけ歩いても天気は一向に良くならない。
力尽きてしまった。
歩くのをやめた。
少し休んでいこう。
ぐちゃぐちゃの地面に腰をつこうとするのと同時に心拍がおさまっていくのを感じる。
そこにあるのは安らかでおだやかな気持ちだけだ。
雨音さえも疲れを癒やす道具になり得た。
やがて雨がやんだ。
長時間の登山で疲れていたらしい、それに気がついたのはしばらく経ってからのことだった。
なにかに急き立てられるような気持ちで目を覚ます。
夜だ。
頭の上にはすでに星々が広がっていた。
耳を澄ますと、鈴虫の音色。何かが蠢いたのだろうか、草や葉のかすれる音も聞こえる。
すると不気味な音も聞こえてくる。何かが呻く音だ。
近くには虫や小動物だけでなく肉食獣もいるのだろうか。
そう考えるとすぐに恐怖した。
その晩、恐怖で二度とは眠れなかった。
朝がやってきた。
すでに一晩中の恐怖と今までの疲れで体が動かなくなっていた。
引き返そうにもはじめ来た道はわからなくなっていた。
登頂を目指そうにもいつ終わるかがわからない。飲み水や食料も十分ではなかった。肉食獣が途中で襲ってくるかもしれない。足をすべらせて死んでしまうかもしれない。もう体は動かないのではないか。
不安要素だけが頭をよぎる。滝のように頭に流れるネガティブな情報に圧倒された。
諦めようと思った。
途中楽観的な考えも浮かんだ。ネガティブな気持ちとは打って変わって頑張ろうとも思った。
思考しているうちにいくつもの時間が過ぎた。
なけなしの飲み水と食料は尽きてしまった。
もう時間がない。
その言葉が霧の中に消えていく。
その後、どこを目指したのか、どこにたどり着いたのかを知るものは誰もいない。
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