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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
3章:禁書の欠片

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6話

 テオとフード男、二人は人々や馬車の行き交う大通りを、不自然にならない程度に地面に視線を注ぎながら移動していた。二人の視線の先には先ほど逃げた男の遺した痕跡――フード男の魔術により浮かび上がった淡い光が点々と続いている。事前に触れて印をつけた相手の足跡を辿る魔術だ。

 どうしてこのような状況になったのか、大通りから人のいない小路に入ったところで、テオは苛立ち混じりにフード男に悪態をついた。


「おい、ついさっき言ったことも忘れたのか」

「そうだね。この位置関係なら見失う心配もなさそうだし、そろそろ話そうか」


 フード男はテオを尾行していた男を逃がしたが、その後二人でその男を追跡することを提案してきた。その理由は後で話すと言われ、先ほどの男を逃がすか怪しいフード男と協力するか天秤にかけ、ひとまず後者を選んだのだった。

 今後も協力できるかはフード男の話次第だ。警戒を解かないまま逃げた男を睨みつけ、テオは耳を傾けた。


「僕もあの男を追っていたんだ。そうしたら君とあの男が接触したんで様子を伺っていたんだけど」

「なら邪魔せずに黙って見てろよ」

「それがそうもいかないんだよ。あのままなら、あいつは拠点に戻るはずだったからね。僕はそこを突き止めたいんだ」


 拠点?

 そもそもあの男が何者なにかすら知らないテオにはピンとこない話だ。


「あいつが何者か知ってるのか?」

「確証はないんだけどね。おそらくは拝の金鎖の構成員……金になればなんでもやる連中だよ」


 拝の金鎖。この国全体で、場合によっては周辺国まで幅広く活動拠点を持つ組織だ。表向きは商人の互助会を名乗っているが、実際は密猟や密売、人身売買など違法なことでもなんでもやるろくでもない連中。時と場合によって名前を変えて動いたりもするのも質が悪い。

 新米の商人が騙されて協力させられ、気付いたら抜けられなくなっていたなんて話も珍しくない。


「なんでそんな連中がアイツのことを」

「アイツって?」


 つい口から出てしまった。アシェルのことまでこいつに話す必要はない。

 テオは誤魔化すように首を竦め、逃げた男を指さした。


「この先は運河だな。倉庫や工場も多い、いかにもやつらの拠点がありそうだ」

「そうだね。そろそろ移動しようか」


 痕跡を辿りながら先導するフード男。テオは後ろをついていきながら、いくつか探りを入れることにする。目的が一致しているのは確かなようだが、かといってこいつが信用できると決まったわけではない。敵の敵は味方……とは限らないのだから。

 そもそも、テオの拳をあっさりとかわしてみせたところからして只者ではない。妙に場慣れしてる感じもするし、簡単に気を許すわけにはいかない。見た目も怪しいし。


「それで、重要なことを教えてもらってないぞ」

「なんだい?」

「あんたがあいつを追っている理由だよ。あと、あんたが何者なのかも」


 フード男は塀に身を隠してその先を伺う。テオに手招きし、追い付いてくるのを待ってから小声で囁いく。


「見てごらん」


 言われてテオも先を伺う。先ほどの男がいた。運河沿いの空き地でベンチに座り、どうやら周囲を警戒しているようだ。二人は気付かれないよう顔を引っ込めた。


「僕は禁書の欠片を探してるんだ。その過程で拝の金鎖とやり合うことになって、あいつらも探しているなら何か情報を得られないかと思ってね」

「禁書の欠片を探してる?」

「ああ。盗み聞いた話によれば、誰かに依頼されてるようだね」


 金になればなんでもやる連中が探しているということは、禁書の欠片は金になるということだ。欲しがっているやつに売りつけるということだろうか。

 では、そんな連中がテオを尾行してきた理由は?


 アシェルと戦った傭兵崩れたちの背後にも拝の金鎖がいたか、あるいはその傭兵崩れに依頼したのが、拝の金鎖に禁書の欠片探しを依頼したのと同じやつ、といったところだろうか。


 宮廷魔術師の使い魔をどうこうして金になるとも思えない。そうなると後者の可能性が高いか。

 しかし、今のところ宮廷魔術師と禁書の関連はわからない。禁書の管理はシェラトゥ教団だったはずだ。領主の部下である宮廷魔術師は関係ない。


 それもあの男を追っていけばわかるかもしれない。

 再び男の様子を伺うと、ちょうど運河沿いの階段を下りていくところだった。あの先はたしか、係船場くらいしかなかったはずだ。

 階段を下りて姿を消した男を追って、テオは運河へ近づく。フード男はその背後から視線を注ぎ、やや遅れて後に続いた。


「テオ・グレイフォード……ね」


 フード男は口元に薄い笑みを浮かべ、テオには聞こえない小さな声で一人呟いた。

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