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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
3章:禁書の欠片

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4話

 禁書の欠片。

 最近になって急に出回るようになった言葉だ。それがなんなのかはわからないが、ただこの都市に禁書の欠片がばら撒かれたとだけ噂されている。噂の出どころも、誰が何の目的で広めているのかもわからない。

 だが、店長の言っていたシェラトゥ教団で禁書が紛失したという時期とは一致する。

 誰かの意図が働いているのは間違いない。では、誰が?


 アシェルやミレナも巻き込まれているのか。危険があるのか。今のところ、テオの関心はそこにある。


 それを確かめるため、テオが最初に足を向けたのは上層の土台となっている台地の下、下層から通じる洞窟の中にある牢獄だった。洞窟自体はいくつかあり、これはそのうちの一つ。岩肌をくり抜いて作られた牢獄は、昔は採石場だったと聞いている。

 用があるのはアシェルと戦ったという傭兵崩れのチンピラの一人。面会の手続きは店長がやってくれているはずなので、行って会って話を聞くだけだ。禁書の欠片やシェラトゥ教団の事情にも興味はあるが、そちらについてはまだ取っ掛かりが掴めていない。


 洞窟に入ると、湿った冷たい風が肌を撫でる。今日は日差しが強かったから心地いい。壁際に並べられた篝火が熱いのは鬱陶しかったが、この洞窟の空気は嫌いじゃない。幼い頃、アシェルと一緒に作った秘密基地を思い出す。


 牢獄が見えてくると、入口の詰所で待機している衛兵と目が合う。衛兵はこちらに怪訝そうな視線を投げかけ、テオが真っ直ぐ近づいてくるとわかると緩慢な動作で立ち上がった。


「何の用だ」

「面会の予定があるはずだ。テオ・グレイフォード」


 端的に要件と名前を伝える。衛兵は詰所に置かれていた書類をめくり、小さく鼻を鳴らした。


「面会室は中に入って右奥の扉だ。面倒は起こすなよ」


 衛兵の態度に内心で舌打ちし、言われた通りに扉を目指す。中に入ると、簡素な机に椅子が並べられただけの部屋が出迎えた。ここで待っていればいいのだろう。テオは手近な椅子に腰かけ、テーブルに肘をついて衛兵が戻るのを待つ。


 やがて、衛兵は一人の男を伴って戻ってきた。手枷をはめられ、ボロ布をまとったその男は、怯えた様子でテオを見て、次に衛兵の顔色を伺う。

 怯えすぎじゃないか?

 テオは内心で疑問を抱いたものの、囚人が怯える理由など察しようもない。ひとまず気にしないことに決めた。


「時間は十分だ。外にいるから、何かあれば呼べ」

「短すぎるだろ」


 衛兵が眉を吊り上げ、テオを見下ろす。


「文句があるのか?」

「せめてニ十分」

「……ダメだ」


 今度こそ、テオは目の前で舌打ちしてみせた。衛兵は意に介した様子なく「あと九分だな」と言って部屋を出て行く。その背中に喧嘩を売る時に使うような仕草を向け、椅子に座り直して囚人と向き合う。


 細身の頼りない男だった。店長は傭兵崩れだと言っていたが、とてもそうは見えない。怯えた様子でせわしなく視線を彷徨わせ、テオと目を合わせようとしない。

 どこから切り出すべきか、そう時間はないから急がなければならない。テオが思案していると、先に男が口を開いた。


「お、俺を始末しに来たのか?」


 つい、正直に首を傾げてしまう。


「何の話だ。俺はただ話を聞きに来ただけだ」

「違うのか。あいつが死んだって聞いて……でも、自殺なんてありえない。きっと消されたんだと思って」

「消されたって、誰にだ」


 男は口を紡ぐ。まずいことを口走ったと思っているのだろう。しかし、時間がないから話してもらわなくてはならない。テオはテーブルに腕を強めに置き、身を乗り出して顔を近づけた。

 男は俯いて黙りこみ、身体が小刻みに震えだす。視線だけが落ち着かない様子で部屋中を彷徨い、テオは相手の頭を掴んで無理やりに視線を合わせた。


「誰にだ」


 それで男は折れた。ぽつりぽつりと、言葉を選ぶように話し出す。


「わ、わからないんだ。俺たちは、ただ頼まれただけで」

「猫の誘拐のことか?」

「そうだ。儲け話だって言って……あいつが誰かから頼まれたって。あいつは街を出る前に最後に儲けるつもりで、俺たちはそのおこぼれに」


 誰かから頼まれた?

 猫の誘拐を頼む理由……。この男の話だと頼んだやつが身代金を求めているってわけでもないようだ。が、一応確認しておくべきか。


「頼んだやつは分け前を貰う予定だったのか?」


 男は小さく首を振る。ということは、頼んだやつには金以外の意図があったはずだ。

 その貴族に恨み?

 それとも、猫を救出するために動いた人間――いや、猫か。ただの猫じゃなくて、宮廷魔術師の使い魔。


 しかし、それにしては変だ。宮廷魔術師の使い魔を狙って、罠のつもりで猫を誘拐させる。その後、こいつらはその使い魔にあっさりやられている。

 威力偵察?

 それとも、隙を伺って手を出すつもりだったが、何らかの理由から中断した。


 現場にいた予定外の存在。

 テオは弟の顔を思い浮かべる。


 一度首を振って考えを振り払う。判断するには情報不足だ。禁書との関りも、今のところよくわからない。杞憂であればそれが一番だが、質の悪いことに店長の嫌な想像は大体当たる。


 男が怯えている理由もわかった。正体も目的もハッキリしない依頼人。不審死を遂げた仲間。口封じを考えているのだろう。

 どちらにせよ、アシェルが巻き込まれた事件というのは単なる金目当ての猫誘拐事件というわけではなさそうだ。本人は呑気そうな様子だったが。


 他にもいくつか話を振ってみるが、有益そうな情報は出てこない。やがて衛兵が戻ってきて、短く「時間だ」とだけ告げ、男を引っ張って出て行ってしまう。テオは溜息をつき、牢獄を後にした。

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