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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
2章:禁書庫の夜

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26話

「先輩、なんでこんな大事な役目を、俺たちなんかがやらされるんですか?」

「黙って足を動かせ」


 内心で悪態をついていた。重要な役目を任された?

 どう考えてもそうじゃない。いざとなれば使い捨てにして問題ない人間として選ばれただけだ。いや、既に使い捨てにされることが決まっているかもしれない。


「けど、何考えてんでしょうね。再封印の前に禁書を取ってこいなんて」

「おい」


 意識して重い声を出す。肩を強く掴み、顔を互いの足元が見えないくらい近づけ、親切な忠告をしてやる。


「お前も俺も、口が堅いから選ばれた神の信徒だ。ここで俺たちが見るものは、いつの間にか紛失していた禁書だ。そうだな?」

「わ、わかってますって。そんなに脅さないでくださいよ」

「わかってない。もしもお前がこのことを軽々しく口外する不信心者だと判断されれば」


 目の前の男は目を見開き、生唾を飲み込んで喉を鳴らした。


「わかったら口を閉じて足を動かせ」


 あまり考えたくはないことだが、既に手遅れの可能性だってある。

 シルヴァ・エルネスが失敗したことは上層部の想定内だったのか。それとも俺たちのようなやつを使うのは、保険か彼の失敗を受けての代替案だったのだろうか。

 使い捨てにできるいらない人間を禁書が失われた目撃者に仕立て上げ……あとで。


 禁書の納められた部屋が近づく。一歩床を踏みしめるたびに脚の力は抜け、息が苦しくなっていく。どうすべきなのか、未だに考えがまとまらない。

 いっそのこと、禁書を持って逃げるべきか。

 それとも、穏健派に泣きつくべきか。

 指示通りに、黙って事を済ませるべきか。


 灰色の通路を進んだ先、巨大な黒い扉の前に立つ。二人で冷や汗の浮かんだ顔を見合わせ、両手で押してゆっくりと扉を開いた。


 部屋の中の光景を見て、思わず力が抜ける。崩れそうになる脚をなんとか奮い立たせ、ふらつく足取りで禁書が置かれているはずの祭壇へと歩み寄った。


「先輩」

「ああ」


 禁書はどこだ?


 * * *


「あれで良かったのか、ご主人」


 上層の煌びやかな街並みを見下ろしながら、主人がオレの背を撫でる。誇らしさと、恐ろしさに同時に支配されるこの感覚には未だに慣れない。


「あなたのおかげで教団の企みを阻止できたわ。ありがとうね、フェル」


 禁書庫が暴かれた後、中で戦う人間たちを観察し、そこで見たものを主人に報告した。

 禁書の強奪を防ぐため、下で見回りをしていた男を呼んだりもした。あいつ、禁書庫が破られたのに気付かずに帰りかけてたからな。世話が焼ける。


「しかし、その禁書とやらはどうするんだ。なくなったら教団が黙ってないだろ。バレたらもっと立場が悪くなるぞ」


 主人のような角のある人間をルシスといい、他の人間どもから評判が悪いことは知っている。オレからすれば角の有無なんぞで区別をつけるなど理解できない感覚だ。人間は人間だろう。

 しかし、現に主人は領主に仕える宮廷魔術師であるにも関わらず、ほとんど権力を与えられていない。


「これをやつらに渡すわけにはいかないわ。かといって、無くなったとなれば全力で探して、そう遠くないうちに見つけ出すでしょう」


 うちの主人も凄腕だが、教団のやつらだって負けてはいないだろう。禁書はただの本じゃない。本気になって探されれば、隠し続けるのは難しい。そもそも、あの状況から禁書だけを奪い去るなんて芸当ができる人間が、既に限られているのだ。


「だから、探したければ探させてあげればいいのよ」


 主人の言葉に、首を傾げる。


「すぐにわかるわ。まずは掃除の前の下準備……ね」


 主人の愉悦に歪んだ顔が月明りに晒され、暗い部屋の中で浮かび上がる。

 フェルは一度身震いした。主人の敵に回りたがるなんて、人間は本当に愚かなやつばかりだ。

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