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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
2章:禁書庫の夜

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24話

「エルネス先生から言われたんです。私のことが嫌いだって」

「あいつがそんなことを?」


 リーヴェン先生は少し考え、それから私の瞳をじっと見つめる。思い当たることがあるけど、話すかどうか考えていることがわかったから、私は黙って待つことにした。


「まぁ、あいつから言い出したならいいか」


 先生は椅子に座ったまま、どこか遠くに目を向けながら言葉を紡ぐ。


「あいつは生まれつき魔力量が少ないんだ」

「魔力量が?」


 言われて、エルネス先生と戦った時のことを思いだす。そういえば、派手は魔術はあまり使わなかった……かもしれない。てっきり手加減をしているからかと思っていたけど、それだけが理由じゃなかったのか。


「学生の、お前たちくらいの年齢の頃だ。魔力量が少ないやつは魔術師になれないって風潮が今より強くてな。あいつは元々、魔術で名を馳せた家の次男だったんだが……そのせいで家でも肩身が狭かったようだな」


 魔力量は魂の器の大きさで決まる、と教わった。それは生まれつき決まっていて、変わることはない。

 だから、魔力量が少ない人は、一生そのまま生きていかなければならない。先生は今よりもって言い方をしたけど、今だって魔力量が少ないことがわかった上で魔術師を目指す人は少ない。


「魔力量が少なくても、あいつはそれ以外を磨き続けて優秀な成績を収めてきた。今のあいつの戦い方も、使用する魔術も、消費を可能な限り少なくする工夫の果てに編み出したものだ」


 私は生まれつき魔力量が多い。だからこの学校に推薦してもらった時も不安はなかった。

 エルネス先生は魔力量が少ないことがわかっていても入学した。魔術師に向かないと周囲から否定され続けても、エルネス先生は諦めなかった。


 私はどうだろうか。


「……お前の場合は、確かに基礎魔術の併用ができていないという問題はあるが、それ以外は概ね優秀な成績だ。にも関わらず、その一点だけを評価して自分の可能性を狭めている。もちろん、怠けているわけではないし、やるべきことはきちんとやっていると思うがな。

 ただ、エルネスからすれば、もっと自信を持ってほしいんだろう。本当に嫌っているわけじゃないさ。言ってしまえば、ただの僻みだ」


『君には才能があるんだから、もっと自信を持ちなよ』


 エルネス先生の最後の言葉を思い出す。あの言葉をどんな気持ちで口にしたのか、ほんの少しだけだけど、わかったような気がした。


 * * *


 寮と学校を往復する日々を過ごすミレナたちにとって、校門とは学校の敷地内において比較的馴染みのない場所だった。

 先に待つアーシャの姿を見つけ、手を振って見せる。アーシャも控えめに手を振り返し、ミレナがそこに駆け寄る。二人は距離を詰め、数年来に会う友人のように手を取り合う。


「アーシャ、出発に間に合って良かった」

「ミレナも元気そうで安心しました」


 ミレナの視線が、アーシャの脇に置かれた荷物に注がれる。アーシャは曖昧に笑い、荷物に手を添えた。


「リーヴェン先生が働き口を紹介してくれたって」

「うん」

「アーシャ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。先生の話では、ルシスにも優しい人だって」

「そうじゃなくて」


 エルネス先生のこと。そう続けることは出来なかったけど、アーシャはミレナの意図を汲み取ったらしい。表情が陰り、一度顔を伏せてから空を仰ぎ見た。


「エルネス先生のことも聞いた。今は牢にいて、今後についてはまだわからないって」


 教団はこの件を公にしていないらしい。私たちも、他言しないようにと言い含められている。

 禁書庫に無断で立ち入ったとはいえ、表向き何もしていない人間を勝手に裁くわけにもいかない。事件をどうするか、エルネス先生をどうするか、教団内で話し合いが行われているとリーヴェン先生は言っていた。


「大丈夫だよ、リーヴェン先生も処罰が軽くなるように動いてくれるって言ってたし」

「うん」


 二人の間に一際強い風が吹き抜ける。風は都市の下層へと向かい、視線を崖下に見える街並みへと向けさせる。

 沈黙を破り、先に口を開いたのはアーシャだった。


「じゃあ、またね。ミレナ」


 新しい生活が待つ街から、ミレナへと視線を戻すと、ミレナがアーシャの背に腕を回し、きつく抱きしめるのはほとんど同時だった。


「ありがとう、アーシャ」


 どうか神様。私の友人の未来に、幸がありますように。

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