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神綴る封印書庫 ―禁書の欠片と孤児たちの事件録―  作者: 文月沙華
2章:禁書庫の夜

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20話

 見習いが二人揃ったところで、こちらの圧倒的不利は変わらない。

 しかし、とミレナは思う。リーヴェン先生は授業の中で、魔力量と手数の重要性について説明していた。


 魔術師は魔力が尽きれば戦えなくなる。一対多で戦うことになった場合、もっとも問題になるのがそこだ。お互いに同量の魔力を消耗しながら戦えば、当然人数が少ない方が先に息切れする。

 魔力量には個人差もあるから人数差が絶対というわけではないけれど、エルネス先生の魔力量はどうなんだろう。


 手数については単純な話だ。一人の攻撃で破るのが難しい〈盾〉でも二人なら簡単に破れる。リーヴェン先生も、授業中に私たちがやった試合と同じルールで戦えば、人数不利なら生徒相手でも勝ち目はないと言っていた。

 リーヴェン先生が負けるところなんて想像できないから、本当かどうかは……微妙なところだけど。


 あの三つの杭をワイヤーで繋いでいる武器。手元には一本しかないように見える。つまり、杭を同時に二つまでしか飛ばすことができない。ミレナたち二人を制圧する上で、これは大きな枷になるはずだ。


「アーシャ、さっきの拘束を解除した魔術、あと何回使える?」

「あと……二回。他の魔術もあるから一回しか使えないかも」


 アーシャはエルネスを警戒しながら小声で答える。

 拘束は受けた時点でこちらの負けだと思ってよさそうだ。杭は確実に防がなければならない。


 わざわざ壁に刺してから使ったことを考えると、どこかに刺してからでないと使えないはずだ。そうでなければ最初に〈盾〉に突き刺した時点で、盾を破壊せずに拘束していればよかったのだから。

 そこさえ警戒していれば、拘束は防げる……はず。


 エルネスの杭をアーシャの〈盾〉が受ける。すぐに砕け散り、すかさずミレナが交代して〈盾〉を展開する。

 エルネスは一度杭を引き戻し、再び投げて〈盾〉に突き刺す。そのまま砕かれるのも同じだけど。


 ……?

 どうして右手に持った杭しか使わないんだろう。


 考えて、思い当たることがあった。そういえば、ミレナを拘束した時には左の杭を飛ばしていた。

 杭によって使える魔術が決まっているのかもしれない。そうであれば、右の杭は身体にさえ刺さらなければ無視してもいいことになる。


 アーシャが放った〈魔力の矢〉をワイヤーで弾きつつ、右の杭を引き戻して再び構え直す。

 仕掛けるとしたら次だ。


「アーシャ、次の杭を防いだらまた〈魔力の矢〉で牽制お願い」


 ミレナの小声の指示に、アーシャは小さく頷いた。


 狙い通り、エルネスは右の杭を飛ばす。〈盾〉に突き刺さると同時にアーシャの〈魔力の矢〉が飛び、それを防ぐまでが同じ流れ。

 先に準備しておいた上級魔術――〈ヴァルディアの遺槍〉を握りしめ、先生に目掛けて一直線に投擲する。


 この魔術は孤児院の院長に教わって習得した、ミレナが使える唯一の上級魔術。

 魔力で生成した、発光する槍状の武器を使って相手を攻撃するというシンプルなもの。投擲した場合、槍は使用者の腕力を問わず高速で飛び、〈盾〉程度の初級防御魔術であれば容易に貫通する破壊力を有する。


 エルネスのワイヤーが〈魔力の矢〉を防げたとして、これを防ぐことはきっと出来ないだろう。そういう希望的観測で投げたものだった。これが通らなければ、もう勝つ手段はないかもしれない。


 エルネスは槍を構えたミレナを見て一瞬目を見開いたものの、投げる頃には〈盾〉とは別の防御魔術を展開していた。エルネスの正面に生成された蜂の巣を思わせる橙色の防壁。

 白い槍がミレナの手から離れる。同時に閃光と甲高い音が部屋を包み、閃光が晴れると、防壁に突き刺さった槍が目に入った。エルネスの防御も砕け散るものの、槍もそのまま霧散する。


「これは驚いた。上級魔術を扱えるとは聞いていたけど、まさか遺槍とはね。高い適正と魔力を要求される、見た目に反して複雑な術式の魔術だ」


 言いながら、槍を投げたばかりで防御に移れないこちらに目掛けて二本の杭を同時に飛ばしてきた。アーシャの〈盾〉の再展開も間に合わず、灰色のカーテンのような壁が杭を防ぐ。

 以前、授業中にミレナを守ってくれたのと同じ、アーシャの精霊が使う防御壁。


 エルネスは無言で杭を引き戻す。精霊の防御壁は破られていない。〈盾〉とは違って精霊の防御は破れないのだろうか。


「私の精霊の魔力は長く保たない。先生も、そのことはわかってる」


 アーシャが短く説明してくれる。


 エルネスは数歩下がり、背後の壁に手を触れると、そこに魔法陣が描かれる。

 そのまま脇に避けると同時に、先ほどの魔法陣から人一人を覆えそうなほど巨大な石柱が伸び、アーシャの精霊の防御壁を砕いた。

 派手な音と共に砕けた防御壁の欠片が二人に降り注ぎ消滅する。同時に、石柱が空間を埋めたことによる風圧がミレナの髪を引っ張り思わず目を閉じた。


 慌てて〈盾〉を展開するアーシャだったが、それも杭で即座に破壊される。交代して〈盾〉役を代わろうとしたミレナ目掛けて、衝撃音と共にアーシャが倒れてきた。


〈魔力の矢〉だ。どうして思い当たらなかったのだろう。必ずしも杭にこだわる必要なんてないんだ。投げ直さなくても、破ると同時に別の魔術で攻撃することだってできる。

 倒れてきたアーシャを受け止めるが、支えきれず二人とも床に崩れ落ちた。


「アーシャ!」

「……だ、大丈夫。まだいけるよ」


 腕の中でぐったりとしているアーシャ。膝が震えて、立ち上がれないのが見てわかる。

 先生の〈魔力の矢〉が容赦なく降り注ぎ、ミレナの〈盾〉がそれらを受け止める。耐えきれなくなった〈盾〉が割れると同時に、再び灰色のカーテンが二人を包み込んだ。


 二人を見て、エルネスは肩を竦める。


「わかっただろう。いくらなんでも、見習い二人で僕に勝つなんてできないよ。そろそろ諦めなさい」


 精霊の防御壁は、先ほどの石柱で砕ける。ミレナの上級魔術も防ぐ手段がある。


 先生の言う通り、私たちでは勝てない……。

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